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68.学園祭からの一転


休憩を終えて、香織と別れると我がクラスに戻って来た。何か知らないけどそれなりに繁盛しているみたいで、皆忙しそうだな。昼で軽食も作っていないここは空くと思ったのだが。


「あれ? 晴海さんは休憩まだだったんですか?」


「これだけ混んでくると流石にね。琴音とバトンタッチで行くわ」


「了解です。それじゃ着替えてきます」


「次は違う衣装だからねぇ~」


すでに諦めの境地である。どうせ抵抗しても無駄なのだから堂々としていよう。そちらの方が無駄に弄られない気もするし。それにそこまで露骨なものは用意していないだろう。多分。


「不思議の国のアリスと本格侍女服のどっちがいい?」


待っていたのは宮古だった。広げて見せた貰った衣装はどちらも露出がほぼないもの。ただ両方とも物申したいことはある。


「まず一つ。アリスの方は明らかにサイズが合いませんよね。それに絶対に似合いませんよ」


「これはちょっとミスしたね。演劇部から借りた物だからサイズの事を考えていなかったんだよ。似合わないかどうかは着てみないと分からないけどさ」


「無難に侍女服にしておきます。それとその侍女服は私の実家から持ってきましたか?」


「これに関しては会長が用意したものだから私もサッパリ」


見慣れ過ぎた物だからさ。もしかしたら会長の実家でもこれを着ている人がいるのかもしれない。オーダーメイドで作っている家もありそうだけど。


「でも正直助かりました。そこまで露出が多いものじゃなくて」


「私達だって安全は取るよ。だって琴音だったら自分だけじゃなく私達にも着てみろとかいうでしょ?」


「言いますよ。私だけが羞恥に悶えるとか最悪じゃないですか」


着替えながら会話しているが、俺だったら絶対に他も巻き込む。一番最初の獲物は晴海の予定だったけど。会長の事だから選択肢としては入れていた筈。クラスメイト達も自分が着るのを想像して断固阻止したのだろう。


「ちなみに一番ヤバかったのはどれ位酷かったですか?」


「胸の谷間が見えて、何でこれで中が見えないのか不思議なほど切り詰めた丈のスカートのメイド服」


「持ってきた人を殴っても問題ないですね」


持ってきたのが会長だったから冗談で済まされたのだろう。俺と木下先輩なら折檻していたのは間違いない。本当にあの人は懲りないな。


「着替え完了。それでは晴海さんと交代してきます」


「私も入るよ~」


お仕事開始と意気込んで扉を開けると近藤先生とバッタリ出くわした。というよりも扉の前で待っていた様子かな。中にいる人に用事でもあるのだろうか。


「丁度良かった。如月。学園長が呼んでいるぞ」


「いいように使われていますね」


「誰の所為だ。誰の」


俺の所為ですね。飲み会での一件以降、それなりに親しくなった様子は見受けられるし、何気に学園長の恋愛模様に気付いている様子もある。学園長も近藤先生に相談してもいいのにさ。


「用件とか聞いていますか?」


「何にも。ただ珍しく沈んでいたからな。何か厄介な事でもあったんじゃないか?」


「それに私が呼ばれるのは何ででしょう」


「頼りにされているという事だろ。すまん、今の発言はなしで頼む」


学園長が生徒を頼りにしているのはどうなんだろうね。学園内の事であれば納得するけど、あの人だと殆どが学園外のことで俺の事を頼っている節があるからな。それに近藤先生も気付いたのだろう。


「宮古さん。すみませんが外せない用事が出来ました」


「いいよ。晴海の交代は私はやっておくから」


「すみませんが、宜しくお願いします」


流石に学園長から呼ばれたのを無視も出来ないからな。さっさと用事を片付けて戻ってくるとしますか。侍女服で歩くことになるが今なら大丈夫だろう。学園祭で皆コスプレしているみたいなものだからな。


「それでもお化け屋敷の入り口から普通に出てくるのはないだろ」


落ち武者風のが休憩だからと出てきたけど、受付の人ですら椅子から転げ落ちたぞ。化粧に気合を入れ過ぎていて普通に怖いんだよ。心の準備なしだと流石に恐怖感が沸き上がってくる。


「私も見られているけど」


俺の他にも侍女服で歩き回っている人はいるはずなんだけどな。コスプレ感が強くて、俺の方が変だと思われているのだろうか。こっちの方が正統派なのに。


「失礼します」


「来てくれたか。……何故そんな恰好をしているのだ」


「罠に嵌りました。気にしない方向でお願いします」


「そ、そうか」


私服で来いと言っていたくせにコスプレさせるとか罠以外にないだろ。俺としてはそのまま私服で接客すると思っていたのに。そのままいつもの定位置に着席して学園長を確認してみると確かに何か沈んでいらっしゃる。


「それで用件は? 静流さんと一緒に学園祭を回り」


「すまなかった!」


「はい?」


俺の言葉を途中で遮っていきなり謝ってくるなんて本当に何があったんだよ。こっちはまた恋愛事だと思ったんだけど、どうやら外れのようだな。


「あの、事情を説明して貰っていいですか? それと頭を上げて貰って構いませんから」


ほぼ直角に身体を曲げての謝罪でどの程度不味い事態なのかは分かったけど、他の人に見られたら俺も学園長も大変だ。まずは事情を聞いて対策を立てないと。俺に関係していることなんだろうか。


「君宛に我が家からパーティーの招待状が送られた」


「は? ……はぁぁ!?」


あまりの事に一瞬思考が止まったぞ。そもそも何で俺宛に招待状が届けられるんだよ。普通なら家宛に送られるものだろ。参加するかどうかは自由であり、家主が誰を出席させるか決めるはずだ。


「な、何でそんな事態に」


「私と静流君が付き合うことに決まったのだが、それが家族にバレた」


「あっ、おめでとうございます。ですがそれとこれと何の繋がりが」


社内恋愛だから壁は多いだろうが頑張ってほしい。じゃないと俺のこれまでの苦労が無駄になる。というか最近じゃ何の進展も聞いていなかったけど、上手くいっていたんだ。


「私がどうやって静流君と繋がりを得たのかを聞かれて、正直に答えてしまって」


「最初からですか」


俺が仲介したから繋がりを得たことになるんだよな。それが家族に伝わったと。でもそれだけで俺に招待状が来るのは不自然じゃないだろうか。あくまでも最初の仲介だったんだから。


「私の性格を家族は熟知している。それゆえに私が単独で女性と付き合えるとは思っていなかったようだ。ならば伝手が絶対にいると」


「でも協力者は私だけではないですよね?」


「バーの店主もその一人だ。実質、協力者は二人になるのだが」


鎌を掛けたら普通に答えてくれたけど、やっぱり茜さんの旦那さんも首を突っ込んでいたか。面白そうなのと売り上げに繋げるのが目的だったのだろうが。


「彼は呼べない。悪いのだが、彼の存在は異端児として扱われている」


「それはそうですけど。だからって何で私なんですか。私も異端児だと思うのですが」


家を飛び出した旦那さんと家から追い出された琴音の違いなんて些細な物だろ。あるとしたら家との繋がりがあるかどうかしかない。それを分かっていて招待状を送ったというのだろうか。


「君はまだ如月家の人間だからだ。それとこれからも私の協力者であってほしいという願いもあるのだろう」


「なら協力関係は止めましょう。それでスッパリ解決じゃないですか」


「それは私が困る。それに招待状はすでに送られているのだ。事態の解決には一切関係ない」


そうだった。まだ俺に連絡が来ていないという事は実家に到着していないだけで、その内に届くという事だろう。今更協力関係を止めた所でこの結果は変わらないか。


「今からでも止められないのですか?」


「無理だ。家族が乗り気である以上、私が出来ることは無い。むしろ悪化すると思うぞ」


パーティーの招待以上のことって何があるんだよ。実家に呼ばれるとかだろうか。そっちの方がまだいいような気がするけど、それが外に伝わると確かに今よりも不味い事態になるか。


「もう戻りたくはないと思っていたのですが」


「本当にすまない。家族は君の事を正しく理解していないようだからな」


「ちゃんと説明したんですか?」


「実家にも社交界にも興味はないと伝えたのだが。なら呼んでも問題ないと答えられてな」


人様の迷惑は一切考えていないようだ。興味はないけど、嫌がっているわけではないと考えられたのだろうか。実際は参加するのも嫌なのだが。


「我が道を何処までも進んでいくような家ですね」


「欠点でもあるのだがな」


それで何でこの人は肝心な所でヘタレるのか分からないな。取り敢えず、何を言った所で現状が解決することはない。それに皐月家からの招待状となると断ることも出来ないな。


「開催はいつですか?」


「大体一か月後位だ。本当は静流君も呼ぶかという話も出たのだがそちらは何とか抑えた」


「それで矢面に立たされたのは私ですか。いえ、静流さんを出すわけにはいかないので仕方ないですけど」


一般人、それも教師である静流さんを大御所が集まるパーティーに呼んでも困るだろ。俺は琴音としての知識があるからマナーについては熟知している、琴音がそれをしていたかはあれだが。


「断ることは」


「出来ないでしょうね。母が断ったとしても父が許しません。十二本家の影響力は学園長の方がご存知でしょう」


同じ十二本家である如月だが、信用という面で言えば皐月の方が上だからな。


「それにしても学園祭の時に言わなくても良かったのでは」


楽しい雰囲気に水を差された気分なのだが。いや、それよりも酷いな。こんな話を聞いてまた楽しめるかと言われれば無理だと言える。どうしても来月の事を考えてしまうから。


「早ければ早いほどいいと思ったのだが。私も気が動転していたということか」


「そう思ってくれるだけで助かります。嬉々として言って来たらぶん殴っていましたよ」


割と本気で。


「不快にさせる思いをさせて申し訳ない」


「もう謝罪は結構です。それよりも当日のフォローとかはお願いしますよ。別に誰かと話したいとは思っていませんが」


「それでは以前と変わらないのだが。いや、何かやらかさないだけ大人しくなったと思えるか」


「壁の染みにでもなっています」


お世辞とかいうのも面倒なんだよ。それだったら誰とも話さないで静かに佇んでいた方がマシだ。あとは時間が来るまでぼんやりしているだけだからな。


「君がそれでいいのならいいのだが。私の予想ではそうはならないだろう」


「何故ですか?」


「他の十二本家も招待されているのだぞ。君の所に集まってくるのが目に見えてくる」


その可能性は考えていなかった。だけど小鳥なんかは絶対に俺の傍に来るだろうな。だからといって近寄るなとも言えない。それだと以前の琴音と変わらない行動だし。会長と綾先輩に関しては俺の力じゃどうにもならん。


「注目は集めるだろうな」


「勘弁して欲しいです」


本当に憂鬱になってきた。

息抜きに他の方の作品をスマホで見ていたら腕が吊りました。

解せぬ。

屋根からの落雪で危なかったり、上を確認していたら躓いて転んだりと相変らずの毎日です。

雪にはお気を付けを。

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