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67.学園祭満喫


やっと休憩時間になって良く分からない恥ずかしい恰好から解放された。何か客受けは良かったけど、ジロジロと見られているようで落ち着かなかったんだよ、クラスメイト達はよく平気でいられるな。


「今も何か見られているような気がするけど」


私服に着替え直したはずなのに見られているような気がする。髪も結んでいつも通りの恰好のはずなんだけど。あまり気にしない方向で行こう。折角の学園祭だからな。


「すみません。香織さんはいらっしゃいますか?」


休憩のお誘いの為に香織のクラスにやってきたけど、定番のお化け屋敷か。教室じゃ狭いだろうと思ったけど、他のクラスと合同で広い場所を押さえられたようだな。外から見ても雰囲気あるな。


「えっと、ご家族の方ですか?」


「友人です」


何で家族扱いされねばならないのか。香織のクラスとは接点がなかったとはいえ、俺の情報は伝わっている筈なのに。何がいけないのだろうと考えていたら香織が出てきた。普通の恰好で。


「何だ、琴音じゃない。年上の友人と言われて誰だろうと思ったわよ」


「最初は家族ですかと聞かれましたよ」


「あぁ、私服姿はあまり広まっていないから仕方ないか。大人っぽく見えるから」


そんなものかな。確かに制服よりも私服の方が年齢が高く見えるかもしれないが、ここまで誤認されるようなものだろうか。それとも不特定多数の人が多いのが原因かもしれない。


「それにしてもお化け屋敷ですか」


「一クラスでやるには規模大きくなっちゃったから。その分、クオリティは上がっているわよ」


「香織さんは化けないのですか?」


「くじ引きで役割を決めたから。私は雑用担当を引いたわ」


人数が多ければ仕方ないか。それでもやる気がないとここまでのことは出来ないだろう。偶に中から悲鳴が聞こえてくるという事は本当に怖いのだろう。


「琴音も入ってみる?」


「一人で?」


「私も一緒に入るわよ。中身を知っている私は怖くはないけど、怖いの?」


これはあれか、煽られているのだろうな。ニヤニヤと笑いつつ手を引っ張ってくる辺り、何を考えているのか分かるな。琴音自身が恥ずかしがり屋なのは周知の事実だが、怖がりなのかは別だ。


「入ってもいいですよ」


ということで香織を伴ってお化け屋敷に突入したのはいいのだが、これは学園祭の規模じゃないだろう。照明は極限まで落としているのに、通路はちゃんと分かる。何処から何が出てくるのかが分かり難いのも不安を煽るな。


「これは中々に雰囲気がありますね」


「自信はあるわよ」


ただし割と普通にスタスタと歩いている俺と香織である。小道具程度ではビクともしない俺に、何が出てくるのか分かっている香織の所為で少しばかり雰囲気が壊れかけているな。


「怖がると思ったのに」


「少しは怖がっていますよ。いきなり飛び出してきたりしたら驚くじゃないですか」


「それは怖がるとは言わない」


化けている人が唐突に横から現れたり、作り物だと思っていたのが実は人だったりと色々と手が込んでいる演出が続いていく。頑張っているなぁ。


「あっ、お疲れ様です」


「止めてあげて。それが一番心に来るから」


怖がらせようと出てきたお化けに平然と労ったら香織に止められた。分かっていてやっているのだが。逆にこういったことをするのもお約束ではないのかな。


「うん、楽しかった」


「そうね、琴音は楽しかっただろうね。皆はプライドがズタボロだけど」


その分、気合が入ったんだろうな。次に入った人達の悲鳴が後を絶たないのだが。うむうむ、お化け屋敷はやっぱりこうでなくちゃ。


「半年以上付き合っているけど、いまいち琴音のことが掴みかねるわ」


「全部を理解できる人なんていないと思いますよ。隠していることの一つや二つぐらい誰にでもありますから」


「うーん、確かにそうだけどさ」


言えないことなんて誰でも抱えている。俺の場合は誰も信じない可能性が高いものも含まれている。養母とかは何故か信じてしまったのだが。それでも今の母親に言う気はない。


「次は何処に行く?」


「小鳥の様子でも見に行ってみましょう。顔は出しておかないといけませんから」


終わってから何で来なかったのかと言われても困るからな。小鳥たちは屋台の方でクレープの販売をしていると聞いているから、混んでいる場所に足を踏み入れないといけない。


「しかし盛況ですね。これだけの人達が集まってくるとは思いませんでした」


「例年こんなものよ。休日を利用しているから親御さんも多いんじゃない」


息子や娘の意外な姿を確認できる日でもあるからか。俺だった時の学園祭も似たようなものだったな。ただしいつもの面子は馬鹿やっていたのを覚えている。


「あの人達に今日の事は伝えているの?」


「伝えているわけないじゃないですか。絶対にやってくるの分かっていますよ」


仮にも有名人が来たら色々とパニックが起こるのは分かるし、あいつ等の行動力ならゲリラライブでも開きかねない。そうなると学園祭がというより奴らの方が主役になってしまう。


「イベントとしては有りだと思うんだけど」


「絶対に嫌です。ライブで私を引っ張りこむのが目に見えます」


「私としては見てみたいんだけど」


「断固拒否します」


だから呼ばなかったんだよ。歌唱力が分からない琴音を引っ張りこんで音痴だったらどうするんだよ。何よりそんな目立つ場所に立ちたくない。イメージアップどころか色々と崩壊しそうだから。


「そんなことを言っている間に見えてきましたが」


「何か揉めているわね」


小鳥の屋台が見えてきたのはいいのだが、男性と小鳥が揉めているのが分かる。喧嘩とかそういうのではなく、あくまで困っているのは小鳥の方だな。相手の方はいい年のおっさんだけど。


「家族が来るということはそうなりますか」


「知っている人?」


「知り合い程度です。ちょっと行って止めてきます」


あのままだと完全に営業妨害だ。何をしようとしているのか何となく察することが出来るだけに、そして相手できるのが俺位しか周囲にいないから行動に出る。


「はい、そこまで」


「ぐぇ!?」


何か変な声が出たけど、このまま首を絞めておこう。以前に見た小鳥の母親みたいに上手く出来ないから結構力技で押し通る。沈黙したからいいだろう。


「琴音さん、来てくれたんですね!」


「準備中に顔を出していましたから、やっぱり来ておかないと」


「いやいや、琴音に首を押さえられている人の顔色が危なくなってきているのに何を悠長に挨拶しているのよ」


いつものことだからだよ、香織。この程度じゃ意識さえ落とせないんだから慣れって恐ろしいよな。抵抗してこないのも反射的なものだと思うけど、純粋にお化け屋敷よりも恐ろしい。


「そろそろ離しますね。何となく予想できますけど、何をやっているのですか?」


「全部買い占めようとしたら止められただけだ」


やっぱり小鳥の父親は馬鹿だったか。まだ昼近いのに完売させてどうするんだよ。しかも一個人で。娘の為なら何だってすると豪語するだけのことはあるな。金の使い方が間違っている。


「父がご迷惑をお掛けしています」


クラスメイトに謝っている小鳥が可哀そうだな。父親の説得というか恐喝はこっちに任せて貰おう。この人がいるということはストッパーもどこかにいるということだから。


「あまり馬鹿な事をやっていると奥さんを呼びますよ」


「だが小鳥の為に売り上げへ貢献しないと」


「迷惑ですから」


「営業妨害だから何処かに行って!」


小鳥の言葉にショックを受けたのか膝から崩れ落ちたよ。取り敢えずこのままだと邪魔だから屋台の裏側に捨てておくか。


「何というか色々と信じられないものを見たわ」


「これも学園祭の風物詩です」


「絶対にありえない!」


うん、自分で言っていてあり得ないと思うな。娘の為に買い占めようとしたり、屋台の裏側に捨てられたりするのが日常だったら恐ろしくて外へ出歩けない。


「お勧め二つ下さい」


「精一杯作らせてもらいます!」


「平然と会話しているのも信じられないけど。十二本家ってこれが普通なの?」


「十二本家の家族を知っているのは小鳥の家位ですから何とも。でも多分ですけど、似たようなものかと」


問題が多い家ばっかりだと思うからな。霜月家が来た場合、どんな大惨事に見舞われるか想像もつかないけど。だからあの人の出し物へ近づこうとも思わない。


「琴音の所も?」


「以前の私を知っていますよね?」


「そうね。確かにおかしかったわね」


行動力という点では言えば凄いの一言だ。誰もやらないことを平然とやってみせるからな。周りの反応なんて度外視だ。自分の道を何処までも進んでいくのはある意味で尊敬する。


「お待たせしました。感謝を込めてトッピング増し増しです!」


何かラーメン屋みたいな言い方だったけど言葉通りに盛られているな。何処から食べればいいのかと悩んでいるとスプーンを渡してくれた。


「私は何もしていないんだけど」


「貰えるものは貰っておきましょう。小鳥、ありがとうございます」


「あとで琴音さんのお店にも顔を出します!」


笑顔で返しておこう。それにしても元気のいいことで。それが小鳥の良い所でもあるんだけど。裏側に捨てられている父親に対してはちょっときつめかな。


「この量ですと昼食は少な目でいいかな」


「結構お腹が膨れそうね。飲み物は欲しくなるけど」


甘いからな。それには俺も同意する。オリジナルドリンクを販売している所があるけど敢えてやめておこう。偶に咽ている人を見かけるから結構罠っぽい。


「皆、楽しそうですね」


「楽しまないと損だから。お祭りはやっぱり全員が楽しめるものじゃないとね」


「そうですね。その分、私は一年分損しています」


不参加だったことに誰も何も言わなかったのは家柄の関係も含まれているだろうが、琴音自身に誰も興味がなかったことも含まれているだろう。だから誰も誘わなかった。


「その分、今を楽しめばいいじゃない」


「それもそうですね。休憩時間も残り僅かですけど、もうちょっと見て回りましょうか」


「付き合うわよ」


去年の事を考えても仕方ない。どちらにせよ、過去は戻って来ないんだから。それに俺としての一年目を楽しめればそれでいいはず。さてと次は何処へ行こうかな。

相変らず健康診断の結果を見て気分が沈みます。

標準値を軒並み下回っているのでいつか死ぬのではと考えますからね。

血圧については諦めるしかありません。これが標準だと思い込みます。

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