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66.学園祭開催


学園祭の日。他の学校なら数日使って開催されるが、この学園は珍しく当日のみの開催。予算が掛かり過ぎるというのが理由になるのだが、それは当たり前である。生徒だけでなく、外部からも店を出す所があるからだ。


「朝から酷い目に遭いました」


「私達は全員大爆笑だったけどね」


晴海を含めてクラスメイト全員が爆笑していたのは知っている。原因が俺にあるのも。どうせ汚れるだろうからと私服で来たのが間違いだった。


「まさか守衛さんに止められるなんて」


私服姿で登場した俺を生徒達は物珍しく見ていたが、まさか守衛が俺の事を学生だと思わずに学生証の提示を求められたんだよ。


『外部からの出店者は裏口からお願いします』


何で何回も校門を潜っている俺が外部者だと思ったんだよと突っ込みたかったが、何とか踏み止まった。あそこで突っ込んでいたら色々とイメージが崩れると思ったんだよ。


「琴音は私服だとちょっと学生に見えないからね」


「ちょっとで呼び止められるものですか、宮古さん」


あの守衛の人に挨拶とかもしていたというのに。理不尽である。


「もういいです、朝の件は忘れましょう。下準備をしないといけませんから」


持ってきたエプロンを身に着けて下準備を始める。焼ける状態まで作っておかないと最初に来たお客さんに出すまで時間が掛かってしまうからな。


「切り替えが早いね。晴海、準備の方はいい?」


「宮古もノリノリね。頼んでいたものは準備が出来ているから。あとは獲物を確保するだけよ」


何か後ろの方で不穏な会話がされているような気がするんだが。振り返って確かめようとしたらクラスメイトに呼び止められたのでそっちに向かった。後で盛大に後悔することになったとだけ言っておこう。


『これより学園祭を開催するよ。皆、大いに楽しもうじゃないか』


準備が終わった頃に放送で会長の声が学園中に響いた。今回は生徒会での出し物が無しというある意味で予想外の結果で終わって助かった。大体生徒会役員達もクラスの出し物があるから他のなんてやっている余裕はないんだよ。


「それで何で私は周りを囲まれているんでしょうか」


「衣替えのお時間ですよ、琴音ちゃん」


「晴海がキモイ」


「キモイ言うな。者共掛かれー」


クラスメイトの女子に空いている教室に連れ込まれ、剥かれ、別の衣装を強引に着せられた。囲まれた時点で諦めていたよ、俺は。そして着せられたのは意外なものだった。


「ウェイトレスですか。何かスカートが短いような気がするんですけど」


何処かのファミレスの制服だろうか。ヒラヒラしていて可愛らしい感じだけど、俺には似合わないと思う。あと、何人かの女子が衣裳片手に立っているのが凄く気になる。


「まさかと思いますが、他の衣装も私が着るのですか?」


「そだよ。大丈夫。そんなに露出が多いものじゃないから」


それだけが救いか。これだけの数に囲まれたら幾ら俺でも脱出することなんて出来ないからな。ただ腕に隠されていて他の衣装が一体どういうものなのかが把握できないのが怖い。


「頑張って働くよぉー!」


「「「おぉー!!」」」


「ぉー」


晴海の言葉にクラスメイト達が気合の入った声を上げる中、俺だけは一気にテンションが下がっている。まさかお店ですら着なかった恰好を学園ですることになるとは。


トボトボと模様替えした教室に戻ってくると男共がグッジョブしやがった。睨みつけるとそそくさと作業に戻るのはお約束かよ。


「ほら、琴音。いつまでも落ち込んでいないで元気出しなさいよ」


「この格好でどうやってやる気を出せばいいのか分かりません」


「そんな陰気臭い顔をしていたらお客さんに失礼じゃない」


そんな顔にしたのは晴海やクラスメイト達であることは分かっているはずなんだが。俺のやる気は何処に消えたのかな。


「ほら、お客が来たからさ」


「いらっしゃいませ」


「うっわ、切り替え早。流石は現役だよ」


営業スマイルは何をするにも必須だからな。ただ俺の姿を見て、固まっている相手は何なんだろう。一番最初のお客さんだから、中に誰も居ないことに緊張しているのかな。


「というか誰ですか。私の髪を解いたのは?」


「新鮮さを求めてみたのよ。こっちの姿もあまり見かけたことないじゃない」


確かに学園内で髪を解いた状態は水泳の後くらいだった。見せたことあるのも限られた人達だけだから珍しいけど。お客さんが驚くことかね。


「お客様。お席までご案内致します」


「は、はい!」


いや、何で客の方が緊張しているんだよ。あぁ、俺が琴音だという事に気付いておっかなびっくりといった所か。それなら納得は出来るな。まさか琴音が接客をするとは思っていなかったんだろう。


「イメージアップに繋がるかな」


「いや、そもそも琴音だって事に気付かないと思うわよ。それか後で思い出して気付くとか」


晴海の突っ込みが痛い。知り合いだって一瞬キョトンとしそうだからな、今の俺の恰好を見たら。とか思っていたらスマホの撮影音が聞こえてきたんだが。


「当店での許可のない撮影はご遠慮ください」


そこにいたのは腹を抱えて笑いながらスマホをこっちに向けている香織だった。そんなにおかしいのかよ、お前は。いや、俺も知り合いがこんな格好をしていたら笑うか。似合ってないからな。


「父さんと母さんに送っておくね」


「止めてください」


拡散させるのは止めてくれ。店長達は店の仕事があるから今回来ることは出来ない。今日位は臨時店休にしてもいいと思うのだが。というか香織は自分のクラスの出し物はいいのかよ。


「私は雑用担当だから結構時間余っているのよ。計画が上手くいっているのかの確認もね」


「香織さんも共犯者ですか」


意外と共犯者が多いな。確実に言えることだが会長も共犯だろう。下手したら木下先輩もか。あれだけ俺の恰好について議論していたんだから予想は付く。


「案を出しただけよ。実際に衣装を用意したのは何処の誰だろうね」


絶対に知っているだろ。その案を受けた人が。複数の衣装を用意するとか無駄な金を掛けるのは会長しかいない。しかも実費で。面白さを求めて金を使う人だからな。


「それでご注文は?」


「その前に席に案内しなさいよ」


「テイクアウトじゃなかったのですか?」


「根に持っているわね」


そりゃ持つぞ。逃げられない状況を作られて、更に晒しものにされているんだぞ。誰にこの恨みをぶつければいいんだよ。主に会長にだが。来たら何かしてやるか。


「琴音は自由時間どうするの?」


「引き篭もる」


こんな格好で外に出れるわけないだろ。休憩室となる空いている教室でジッとしてるだけだ。あとは誰かに頼んで何かを買ってきてもらうか。


「いや、外を回りなさいよ」


「こんな格好で?」


「流石に着替えさせてくれるでしょ」


周りを見渡すとサッと視線を逸らされたので、香織をジトォーと見つめてみる。流石に香織も気まずいと思ったのだろう。晴海に近寄ると何か耳打ちをしているな。


「許可は貰ったわよ」


「ナイスです」


そのまま逃走してしまおうか。今は仕事だと割り切って着ているが、実際は滅茶苦茶恥ずかしいんだぞ。しかも最低でもあと一回は着替える羽目になりそうだし。


「監視として私が同行するけどね」


「クラス違いますよ」


「あれで晴海は顔広いから。私のクラスに走って行ったわよ」


行動力あるなぁ。ちなみに接客担当の子達は全員俺と一緒の恰好をしている。そうじゃなかったら俺はボイコットも辞さない覚悟をしていた。最初からそのつもりだったみたいだから杞憂だったけど。


「恥ずかしがっている私が変なんでしょうか」


「琴音の場合はちょっと度を越しているかもね。でも今回は仕方ない。琴音にヒラヒラ系は似合わないから」


だから笑うなって。これで俺がゴスロリとかの服を着たらどうなるのだろう。大爆笑になるのか、それとも意外と似合うと言われるのかのどっちかだろうな。着たくはないけど。


「そもそもこれって何が元なんでしょう。最初はウェイトレスだと思ったのですが、何か違う気がします」


「機能性としてはないわね。お店で使っているというより、コスプレメインとしての服装じゃないかしら」


「いつの間にこのクラスはコスプレ喫茶になったんでしょう」


何も聞かされていなかったんだが。最初は制服にエプロンとか、汚れてもいい服装での活動をすると決まったはずなんだが。何処をどう間違ったらここに行きついたのやら。


「琴音がいるからじゃない?」


「私の所為とか、この不満を誰にぶつければいいんでしょう」


「元凶にじゃない」


だからその元凶は誰なのかって話だよ。


「その元凶は誰ですか?」


「会長」


あっさりと暴露しやがったな。それとも口止めされていなかったか。こっちの方が有力か。生徒会でやれないからってうちのクラスを弄るなよ。失敗した時の責任は取ってくれるのだろうか。


「あの人の悪ノリは学園中に蔓延するのですか」


「最後位は協力しようと思うじゃない。学園祭が終わったら会長の仕事も終わりなんだから」


そりゃそうだけどさ。だからって俺や木下先輩は会長の暴走を止めようと思うぞ。幾ら最後でも積極的に巻き込まれようとは思わない。だけど最終的に巻き込まれているんだよな。


「被害者に何か言うことないのですか?」


「なーんにもないわよ」


この野郎。香織も巻き込まれてみるといい。以前のイメージアップで付き合わされた比じゃない位に恥ずかしい目に合うから。コスプレ写真とか。


「それにしてもあまりお客さん来ませんね」


「最初はやっぱり手前から攻めるんじゃない? ここまで来るのはもうちょっと掛かりそうだと思うわよ」


去年もそんな感じだったのだろうか。校門を潜れば屋台が並び、遊び場もありで結構目移りしそうなほど出し物が並んでいるからな。校舎の中に辿り着くまでそれなりに時間は掛かるか。


「去年参加していなかったので、そこら辺の感覚が分かりませんね」


「それなのに今年は積極的よね。クラスの企画の殆ど取り仕切ったと聞いたんだけど」


「現役の経験者ですからね。喫茶店をやるのは最初から決まっていたみたいですから」


夏休みの間にでも話し合いをしていたのかもしれない。始業式からすでに声を掛けられていたからな。別のものをやるとしても協力は惜しまなかっただろう。


「それより香織は本当にクラスに戻らなくていいのですか? 此処に来て結構経ちますけど」


「そろそろ戻った方がいいかもね。休憩の時には声を掛けなさいよ」


窓の外を見てみると来場者の人達が校舎の中に入って来ているのが見えた。そろそろ忙しくなるかな。お客さんが立ち寄ればの話だけど。


「次の衣装替えはいつですか?」


「休憩の後だよ~」


クラスメイトから返って来た声にげんなりする。やっぱり他の衣装も着せる気満々だよ。深く考えないようにしよう。手元が狂いそうだから。

いつの間にコスプレ喫茶になったのか筆者にも分かりません。

衣装に関して詳しく書けない想像力の無さに辟易しています。

意外と難しいです。

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