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64.腕時計の謎

明けましておめでとうございます。


結局、俺が何を着るのか決まらないままその日は終わった。むしろ決まらないで良かった。この人達が決めてしまえば大体ごり押しで通ってしまいそうなのが怖いんだよ。


「店長に相談したいことがあるのですが」


取り敢えず学園祭の事を店長に話しておかないと。もし駄目だった場合は他の案を考えないといけないからな。最悪、コーヒーメーカーでもいいかと思っているから。


「バイト代の事か?」


「何で私が相談することがいつもバイト代だと思うんですか?」


「そんなもんだろ」


そんなものだろうか。いや、確かに増えるのであればありがたいが、今の額に不満はない。あくまで生活費の足しにしているだけだから。


「違うとなれば何だ?」


「学園祭で喫茶店をやることになったんです。それで道具を貸して貰えないとか思って」


「サイフォンとかか? 予備があるからそれならいいが、使えるのか?」


「そこら辺は要練習ですね」


俺がやる訳ではないからクラスメイト達の頑張りに期待しよう。今の時代、ネットで何でも調べられるからな。試飲はあまりしたくないけど。劇的に苦いか酸味が強いかのどちらかだと思うから。


「それで琴音は何を着るんだ?」


「何で店長もそこに期待するんですか……」


俺が何を着ようがいいじゃないか。


「いつも同じ格好ばかり見ていればそう思うだろ。だからバイト代増やすかと聞いているんだぞ」


あれか、金が無くて服が買えないと思われているのだろうか。幾らなんでもそれはない。衣食住に関しては何の問題もなく生活できているんだから。


「生活に関しては大丈夫ですから心配ご無用です。単純に買っていないだけです」


「お前、今時の高校生とずれているよな」


「何を今更」


精神年齢では二十歳超えているんだからそりゃずれもするわ。お洒落に関しても感覚の違いがある。そもそも男性と女性の違いでどういうのを買っていいのか分からないというのが本音。


「いらっしゃいませ」


「久しぶりね。寄らせてもらったわ」


「私も一緒よ」


義母二人が現れた。うん、一瞬フリーズしてしまったが特に問題はないか。元々来る予定にしていたのは知っていたから。ただ二人一緒に来るとは思わなかった。


「何だ、琴音の知り合いか?」


「それもありますが、沙織さんの知り合いでもありますよ」


「あいつの? 言っちゃなんだがあいつの交友関係狭いから大体俺も知っている筈なんだが」


「悪かったわね。交友関係が狭くて」


何かを感じ取ったのかタイミングよく沙織さんが店内に顔を出してきたよ。丁度良かったかな。学園祭で出すもので相談したいこともあったから。


「久しぶりね、沙織さん。元気そうで何よりよ」


「えっ、小夜子さんですよね。凄い久しぶりなんですけど」


「取り敢えず先に注文お願いしていいですか? 積もる話はその後で」


話し出すと止まらないような気がするから仕事優先で。そうしたら全員から何とも言えないような表情をされた。何か飲みながらの方がいいじゃないか。


「相変らずマイペースね」


「それこそ何を今更ですよ、初音さん」


大体俺がこんな性格になったのは近藤家の影響でもあるんだぞ。濃い面子と一緒に居たのもあるが、近藤家と一緒に生活していたら遠慮なんぞしていられないからな。


「あっ、琴音。今回は私の奢りにしておいて。昔、お世話になった人だから」


「了解です、沙織さん」


どういった事情があるのかは知らないけど、そういうことなら伝票には何も書かないでおくよ。初音さんの分も込みでいいんだよな。もう遅いけど。


「それにしても琴音の交友関係は全く分からないな」


「私にも色々とあるんですよ、店長」


人生を一人分多く歩んでいるからな。その分だけ広くなっているだけだ。それに琴音の交友関係なんて少ないぞ。知り合いが増えたのも俺と変わってからだし。


「そうそう、沙織さんに確認したいことがあったのよ。あの腕時計、琴ちゃんにあげても良かったの?」


「こ、琴ちゃん」


沙織さんが驚いているな。俺の事を愛称で呼ぶのなんて勇実位だったからな。それに勇実が来ている時に沙織さんは店内に入って来なかったはずだし。


「腕時計についてはいいんです。私が持っていた所で使いませんから」


「一応は遺品になりますけど」


「思い出も何もないですから。事情は知っていますよね」


置いてけぼりの俺と師匠。取り敢えず最近の近況なんかを話している。といってもあれから左程時間も経っていないから話す内容なんてそれほどないんだけどな。


「琴ちゃんがちょこっと気になっていたわよ」


「高級品であることは知っていましたから」


主に学園長へ修理をして貰った時に知ったんだけどな。詳しい金額は聞くの怖くて知らないけど。何で喫茶店の調理場担当なのにこんな高級品を持っているのかは気にはなっているよ。


「遺産相続で貰ったのよ。それ以外にも何点かね。あとは結構な金額だったから喫茶店のローンに回したわ」


「沙織さんって何者なんですか?」


「どっかの富豪の隠し子よ。認知されていたから隠し子というのかは分からないけど」


「それって遺産相続に加われるんですか?」


「遺言書に私の名前まで載っていたんだから仕方なかったんでしょ。他の兄弟連中なんて必死だったわよ」


「実際取り分で大いに揉めましたね。遺言書があって良かったと思ったわ」


大きな溜息を吐く辺り、相当に義母さんは苦労したんだろうな。それを見て苦笑いをしている沙織さんは何かを思い出したのだろう。しかし富豪の隠し子ねぇ。


「となると沙織さんもいいとこのお嬢様になるんですか?」


「ないない。母さんから聞いたんだけど養育費は貰っていただけ。あとは干渉されなかったらしい」


ふーん、うちと似たようなものかな。俺の場合はそもそも父親が誰だったのかすら分からない状態だったけど。婆は母親とも呼べないような人物だからな。


「俺もその時まで知らなかったな。いきなりローンの返済について目途が立ったと言われた時は度肝抜かれたぞ」


「沙織さんのお母さんは今何を?」


「田舎でのほほーんと暮らしているわよ。あまりこっちに来る気もないみたいだから好きにやらせているわ」


何というか自由な人だな。こっちに来たくないのは別の理由もありそうだけど。でも沙織さん自身が母親に会いに行くとかはしているかも。全く接点が無くなっているとも思えない。


「小夜子さんにはあの時本当にお世話になったの。あんなどうでもいい連中の相続に本気で巻き込まれていたらと思うとゾッとするわ」


大金が動くような相続なら血眼になっても不思議じゃないけどな。でも今まで知らなかった隠し子がいきなり現れて相続に参加してきたら、そりゃ焦るか。


「庇うという訳ではなかったけど、相続に興味ない人がいつまでも巻き込まれているのは不憫だと思って」


そこら辺の余裕があるという事は俺が死ぬ前の出来事だったのか。死んだ後だったら気を遣わずに黙々と仕事を進めるだけだっただろう。


「でもそんなものを初対面のバイト候補にポンと渡す沙織さんも凄いですね」


「えっ、そんな展開だったの?」


これには流石の義母さんも驚いているな。言ってみれば赤の他人に高級腕時計を無償で渡しているようなものだから。信頼できると分かった後ならまだ分かるけど。


「流石にあれを見せられた後だとね。同い年の娘を抱えている身としては思う所もあるわよ」


「あれって?」


「これこれ」


他のお客さんに見えないように腕時計を外して傷跡を見せる。しかし本当に薄くもならないな。もう半年以上経つというのに。


「あだっ!?」


何故か義母さんではなく、隣にいた師匠に問答無用で頭を叩かれた。俺の事情は話していた筈なのに何で叩かれたんだよ。そう言えばこの傷に関しては見せてなかったか。


「前! 前だから!」


「誰かを怖がっている琴音って初めて見るな」


そうですね、誰に対しても物怖じしないのが俺だったけど師匠だけは別だ。俺だってこの人に対してはトラウマを抱えているんだから。どうしたって恐怖感は出てくる。


「というか琴音があっさりとそれを見せたことも驚きね。そんなに親しい人達なの?」


「勇実の母親とその隣家の人。夏休みに勇実に連れられて家に泊めさせられたから、それで親しくなったかな」


勇実にこの傷跡は見せていないけどな。何を言われるか分かったものじゃない。あとは単純に心配させない為であるけど、それは絶対に本人に言うつもりはない。


「あの賑やかな嬢ちゃんの母親か。見ている分には楽しそうだが、親としては大変そうだな」


「大変なんてものじゃないわよ。苦労の連発だったから教育に力が入ったわね」


あれが教育になるのだろうか。いや、確かに再犯防止としては正しいかもしれないがおかげで俺も勇実も恐怖感を刷り込まれたぞ。それでも懲りずにやるのが勇実なんだが。


「何か琴音の顔色が青ざめているんだが」


「さぁ? どうしてかしらね」


意味ありげに微笑まないでほしい。色々と思い出して恐怖感が再燃しているんだから。精神的ダメージの方は義母さんの方が上だけどな。


「そ、そうですそうです。沙織さんに相談したいことがあったんです」


「逃げたわね」


「そうね、逃げたね」


師匠と義母さんの発言については知らない振りをしておこう。いきなり話を振られた沙織さんはキョトンとしているが、話を変えないと不味い方向に行きそうなんだよ。


「実は学園祭で喫茶店をやるにあたってお菓子を出すことに決まったんですが」


「レシピでも手伝ってほしいの?」


「話が早くて助かります」


こういうのは素人で考えるよりもプロの意見も取り入れた方がいいものが出来るだろう。学園祭での出し物だとしても手は抜かないぞ。やるなら全力を出すさ。


「琴音の事だから簡単にできるもので、かつアレンジして美味しくとか考えているんでしょ?」


「その通りです」


低コストで美味しく。一番いいことじゃないか。まぁレシピが完成しても、その通りに作れるかどうかは分からないけどな。これも要練習だな。


「それじゃ私達はもう少しゆっくりしてから帰ろうか」


「そうね。琴音が勤めているだけはあるわね。中々の絶品ね」


ご満足して頂けたようで何よりだよ。不満を言われるより全然ありがたいお言葉だよ。ただなぁ、常連になったとしたら母さんと出会う可能性もあるな。そうなったらどうなることやら。


「じゃあ実際に作ってみようか」


「お願いします」


さて学園祭に向けて下準備していきますか。

間に合った第二弾。

いやはや頑張れば何とかなりますね。

結局腕時計の話は本編に加えることにしました。無理な設定であるのは自覚あります。

元から考えていた設定ではあるんですけどね。

それでは本年もどうか宜しくお願い致します。

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