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62.自宅での雑談


バイトも学園生活も概ね順調。一学期とは比べ物にならないだけ評判の方も上がってきているようだし。まぁあの頃は底辺を突き破っていたようなものだけどな。


「そう言えば次期生徒会長の立候補届が始まったけど」


「また藪から棒だな」


現在、自室でいつものメンバーで勉強会中。今回は初めて霧ヶ峰さんを招いたが特に驚かれることもなかった。やっぱり金持ちの価値観は違うのかね。茶菓子やら飲み物は市販品だけど。


「その話を出したってことは香織は興味があるのか?」


「多少はね。今の会長が面白おかしい人だったから次はどうなるだろうと」


「確かにおかしい人だな。被害者は主に木下先輩と私だけど」


「今の生徒会はいつもあんなことをやっているの?」


「いや、あれは例外」


霧ヶ峰さんが生徒会を見学しに来た時って俺と木下先輩が昼食を作るとかの時だったな。あんなことを毎回やっていたらこっちの身が持たないつーの。


「多分というか確実に次回の生徒会は今と違って面白くはならないと思うぞ」


有力候補というより、届け出が出たのは一人だけ。このままだと演説討論会とか訳の分からないイベントもなく当選しそうだ。前回の討論会は今の会長のおかげで大うけだったそうだけど。


「同じ十二本家として琴音は次期生徒会に興味はないの?」


「ない」


ならどうして生徒会に所属していると心の中で突っ込まれているだろう。だってあれは成り行き上仕方ないことだから。俺だって好きで生徒会に所属したんじゃないぞ。今だとそれなりに楽しんではいるけどさ。


「今の生徒会が終わるのは残念だけど。次の生徒会に何を期待すればいいのか分からないからさ」


「えっと、長月さんはそんなに酷いの?」


何を言う、霧ヶ峰さん。今の会長と比べたら雲泥の差であることは一目瞭然じゃないか。比べるのも失礼かな。確かに人格的には長月の方がまともかもしれないが、能力的なものはどうだろうか。何だかんだと今の会長は優秀だからね。


「うーん、面白みはないかな。真面目一辺倒だから今年みたいなイベントはやらないと思う」


あとは思い込みが激しいのが問題だな。未だに俺のことを去年の琴音と同じに見ているから。問題点は他にもあるけど今言う事ではないか。


「琴音って長月の人と付き合いあったっけ?」


「去年色々とね」


香織の疑問はご尤も。家同士の付き合いは全くなく、個人的な接触は学園の中でのみ。それも問題行動を起こしていた琴音として。だから固定観念が刷り込まれているんだけど。


「だから私が今回の生徒会に選ばれることは万が一にもあり得ない」


「そこに私が代わりに入れれば」


「うん。でも入ってからが大変だと思う」


「どうして?」


「この調子だと勉強会にならないから一回休憩にしよう」


話してばっかりだと勉強に集中しているとは言えない。これが勉強している中身の話なら別だけど。全く関係ない話だから。全員の手が止まっているのがその証拠。


「それで何が大変なの? 私達としてはそもそも生徒会が何をしているのかさえ分からないんだけど」


香織たち一般生徒が生徒会の中身を知らなくて当然だ。俺だって入ってから初めてどんな活動をしているのか知ったんだから。


「基本的に事務方。私が入った時は決算書の作成とか予算書の構成とかやっていた。あれが意外と大変でさ」


「今の生徒会でも?」


「霧ヶ峰さんも経験してみれば分かる。絶対的に人手が足りないと思うからさ」


「えっ……」


あれま、絶句してる。確かに今の生徒会の人材は優秀な人達が集まっている。それでも人手が足りないと言われたら、あまり信じられないだろう。


「私が生徒会に入った経緯も腹痛で二人ほど休んで仕事が進まないからその時だけのお手伝いさんの予定だったの」


「それで手伝ったら気に入れられたと」


「何の因果かそうなった。正式加入するまでは色々な所に被害が行ったのはご存知の通り」


会長があの手この手でやらかしまくったからな。当時を思い出したのか宮古が笑っている。今だと笑い話で済ませられるけど、当時は頭を悩ませていたんだぞ。どうやって生徒会に入らないで済むかと。


「私としては当時、何故会長が琴音にご執心なのか分からなかったわ。今なら理解することが出来たけど」


「それは霧ヶ峰さんだけじゃない。殆どの生徒が同じ考えだったと思うよ。同じクラスの私なんかは琴音が何をやらかしたのかワクワクしていたんだけど」


「おい」


どっちの意味でのやらかしなのかは敢えて問わない。元々トラブルメーカーだったのは俺自身も理解している。それが悪評なのかどうかは別としてな。


「昔みたいなことじゃないのは分かっていたからさ。いい意味で何かやったんだと思ったの。これはクラス皆の総意だと思っていいよ」


確かにあの頃はクラス内での俺の立ち位置は変わっていた。だからってその意見はないだろう。お前らは俺に何の期待をしているんだよ。娯楽専用の人物じゃないんだぞ。


「私の扱いが酷くないか?」


「去年よりはいいじゃない。よく考えてみなさい。去年と今とどっちがいい?」


「むぅ」


香織の言葉にぐうの音も出ない。それを言われたら反論できる余地なんてないさ。問題を起こさなくても去年と同じ扱いだったらボッチだったろうしさ。今が恵まれていることぐらい分かっている。


「あの、話は変わるけど。長月さんならどんな人選をするのかな?」


霧ヶ峰さんの言葉に俺も香織も、そして宮古も一瞬考えてみるが二人は早々に匙を投げた。それほど長月と接点がある訳でもないからな。俺は何となく想像できる。


「十二本家で固めると思うよ。あとは成績優秀な資産家とか。まぁ一般的な人達は入れないだろうね」


何より優先するであろうことが肩書。表面上のことしか見ないから本質を見抜けない。これで卯月がいたら大変なことになっていただろうな。それを考えると彼女が転校してくれて助かったと本気で思うよ。


「何というか、それで大丈夫なのかな」


「大丈夫じゃないだろうね。一応現在の生徒会が引き継ぎを行うけど、それでもどうなることやら」


宮古の心配は当然のことだろう。現場レベルで考えればある程度の経験者が欲しい。PCを扱えるからと言って、計算ソフトも当然の如く扱えるとは限らない。彼の人選で関数を扱える人はいるだろうか。


「霧ヶ峰さんはどの程度できる?」


「琴音さんから聞いて、ある程度の知識は調べているけど。実際に扱い切れるかどうかは自信がないわ」


そりゃそうだ。言ってしまえば付け焼刃の知識だからな。こればっかりは俺が教える暇はない。取り敢えず初心者でも分かる参考書でも読むよう勧めてはいる。


「まぁそれも今回のテストでも二十位以内に入らないと全部無駄なんだけどね」


「そうならないように今回もお願いしているんじゃない」


「でもそれでも確定じゃないことだけは分かって貰いたい。あくまで希望が持てる程度だから」


「わ、分かっているわよ」


長月の目に止まる可能性があるだけ。もし彼が注目している人物の順位が上がったりしたら、そちらを優先するだろう。でも勉強を頑張ることが悪いことではない。


「それでもこうやって成績が上がってきているんだから噂とかも沈静化してきているんじゃないの?」


「大分聞こえて来なくなったわ。別の話として如月と付き合いがあるというのが出てきた位」


「事実だから仕方ない」


別にそれがデメリットに繋がる訳でもない。むしろメリットの方にならないかな。十二本家と付き合いがあるということは。如月の悪評が広まっているのは経営の方ではなく、社交界のほうだから。


「もう頑張らなくていいんじゃない?」


「やれることは全部やった方がいい筈よ。私としてもその方がいいと思うわ」


中途半端にはやらないということか。いいことだ。中には無駄な努力という言葉もあるけど、これに関しては当てはらまない。


「ならいいんじゃないかな。さて、休憩も終わりにして続きをやりますか?」


「その前にちょっと確認しておきたいことがあるんだけど」


「何? 香織が生徒会に興味があるとは思わなかったけど」


「生徒会じゃないわよ。琴音に関して。何人振った?」


多分、俺は苦虫を噛み潰したような顔をしていることだろう。確かに予想通り下駄箱にラブレターとか古典的なものがあった。あとは直接呼び出されたりもしたな。


「そんなに知りたいのか?」


「知りたい。宮古は?」


「私も興味はあるかな。難しい顔をして手紙を読んでいるのを何回も見ているからね」


悩んでいる時もあれば、甘すぎる文章に胸やけを起こしかけていた時か。悩んでいたといっても、どうやって断ろうと考えていただけ。全部断るのは最初から決めていたことだから。


「私も興味あるかな。琴音さんに告白するような無謀な輩が一体どのような人なのか」


「霧ヶ峰さんまで。真面目な人もいたんだけどな。馬鹿もいたけど」


「主にその馬鹿の話が聞きたい。どうせ琴音の事だから真面目な人にはちゃんとした返事を返したんでしょ?」


「当たり前だろ。誠意を持って気持ちを伝えてきたんだから、それに対してちゃんと応えるのが礼儀ってものなんだから」


その位の考えはちゃんと持っている。一番不安なのがその際に俺が無意識に毒を吐いていなかったかということ。男から好きです付き合ってくださいと面と向かって言われるのは精神的に辛いんだよ。最初なんて本当に鳥肌が立った。


「じゃあ馬鹿な例を一つ。家柄を自慢してきて自分と付き合う事のメリットを主張して来るアホ」


「琴音さんというより如月家との縁を繋ぎたいと考えている人ね。返事は?」


「私にメリットがない。又はメリットとして成り立たない」


「当然の答えね」


霧ヶ峰さんの言う通りこの答えしかないんだよ。相手にとっては多大なるメリットがあるけど、俺にとってはメリットがない。大体まだ学生なんだから両親の仕事を自慢されても困る。結局本人は何もしていないんだから。


「私はアホの子だと思われているのか?」


「懐柔し易いと思われているかもしれないわね。去年は近づくのも危なかった印象だったから、今なら大丈夫だと思ったんじゃないかしら」


去年辺りの琴音なら近づいただけで噛みつくような狂犬だったからな。だけどその頃とは違い今の俺は相手に噛みつくようなことはしない。だから告白とかいう訳の分からないイベントが発生しているんだけど。


「それでもう一方の馬鹿はどうなったの?」


「やっぱり香織が気になるのはそっちか」


「一番面白そうじゃない」


全く面白い話じゃないんだけどな。相手の話を聞いて、俺が断りの台詞を話して終わりなんだから。あとは何を言われようが振り返らずに去るだけ。


「何人か自分の容姿について自慢してきた奴がいたな。あとは今まで何人とどんな女性と付き合ってきたのか自慢していた奴もいたな」


「あっ、やっぱり正真正銘の馬鹿もやってきていたのね」


「護衛役の山田さんが影で見守ってくれていたから会ったけどな。そうでもなければストップが掛かっていた」


以前に言われたがどうやら俺は過保護に扱われているようだ。そしてどこから俺の行動が筒抜けになっているのか。行こうとした時には山田さんが護衛として来ていたからな。


「で、どうやって振ったの? うん?」


「笑顔で鏡見て出直してこい、と言った。もちろんこっちの口調で」


「「「うっわ」」」


何だかんだとイラついていたからな。お前の恋愛経験なんて知るかと。俺の台詞を聞いた相手は暫くの間、呆然としているからその間に撤退している。それに付き合っている相手がいるのに俺と付き合うとか、明らかに変な噂が出回るじゃないか。


「顔が良くても性根捻じ曲がっていたら意味がない。大体告白する場面で他の女を連れてくるのはどうなんだよ」


「「「最低」」」


告白場所に行ったら両隣に女性を連れ添った馬鹿がいたんだよ。流石に相手じゃないだろうと思ったら、呼び出した本人だった時の驚きは凄かったな。こんな馬鹿もいたのかと。隠れていた山田さんも憤慨していた。


「ただ私が言った言葉の意味を理解できなかったのか追ってくる馬鹿も居たんだよ。まぁ山田さんが対処してくれたみたいだけど」


「何か生徒会を琴音さんが牛耳っているという噂が信憑性を増しそうな出来事なんだけど」


だよねぇ。それについては否定出来ない。別の方面から見れば俺が山田さんを従えているように見えてしまうから。ただしこの原因を作ったのは目の前の霧ヶ峰さんの所為でもあるんだけど。自覚はあるかな。


「分かっているわよ。私だって反省しているんだから」


ジッと見たら素直に認めてくれた。一応学園内では晶さん達も表立って活動できない。依頼者からの要請があり、学園側からの許可を貰って初めて動けるから、動き出しが遅い。


「まぁ暫くは沈静化するとは思うけど」


「沈静化するの早くない? まだ二学期が始まって一週間程度なんだけど」


「香織考えてみろ。振った数が二桁を余裕で突破しているんだぞ。流石にこれ以上は来ないだろ」


一日に何人ブッキングしたのか分からない。同じ場所に五人いた時は何の冗談かと思ったぞ。全員真面目な方だったから特に諍いも起きなかったけど。


「撃沈数三桁を期待しているんだけど」


「それは本気じゃない連中の数も含まれるだろ。あとは落とせない私を誰が落とせるかの勝負になるか」


賭け事の対象にでもされそうなんだよな。大体俺は誰とも付き合う気はないと告白してきた連中全員に話している。もちろん真面目な連中にだけ。馬鹿な連中には何を言っても無駄だ。


「はい、この話は終わり。勉強に戻るぞ」


「「「はーい」」」


いやに引き際がいいな。結構引っ張ってくると思ったんだが。それともそろそろ本腰を入れないといけないと思ったのか。引っ張られるよりはいいか。


「それじゃ頑張りますか」


ほぼ三人に教えて終わるだろうけどさ。





暫く前に半分書いて、繋がるように途中から書いたのですが大丈夫かな。

そして今回もほぼ雑談で終わってしまいました。

つ、次からは学園祭編に入ろうと思います。

あと腕時計の話は閑話にします。視点を琴音から変更しようと思っていますから。

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