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60.二学期始動

イベント盛り沢山の夏休みが終わって始業式。久しぶりの学園に顔を出してみると自分の現状がありありと分かるな。挨拶してくれる人は増えているけど、まだ顔を見ただけで嫌な表情をする人もいる。


「道のりは長いなぁ」


夏休みの間、あまりそういった関係の人達と出会う事もなかったから忘れかけていた。自分が嫌われ者の存在であったことを。取り敢えずさっさと教室に入るか。


「おはようございます」


「おっひさ~」


「久しぶりー。バイト姿見たよ!」


本当にこのクラスは寛容に受け入れてくれるよな。それと売上貢献ありがとうございます。流石に学園中に広まっただろうな。俺がバイトしていることが。


「日焼けしている方が多いですね」


「そりゃ夏だからね。おはよさん」


「晴海さんもおはようございます」


「うーむ、やっぱり違和感があるね。学園だとそっち?」


夏休みの間は口調に関して気にしていなかったから俺も違和感がある。でも不思議と学園に来ると使い分けが普通に出来るんだよな。殆ど癖になりつつあるか。


「誰かに聞かれでもしたら面倒なのでこちらです」


「相変らずのしがらみの多さで。うちのクラスなら別に問題ないと思うけど」


「何処かの誰かさんみたいな真似は私には無理です」


完璧な情報規制に洗脳と見間違うような統制。あんなの真似できる人の方が少ないだろう。今日は出会いたくはないな。面倒臭さでいえばダントツ一番だから。


「誰の事を言っているのかサッパリ分からないんだけど」


「知らないことが大事なこともありますよ」


あの人の本性を偶然にでも見てしまったら末恐ろしい。色々と巻き込まれるだろうからな。何で俺に対して本性を見せたのかは分からないけど。


「まぁいいや。それより学園祭は何がやりたい?」


「気が早くないですか? その前に中間テストとかあるのに」


「テストなんて知りません」


あとで自分の首絞めるぞ。テストの成績次第じゃ部活動にも響いてくるだろうに。そう言えば宮古や香織には勉強を教えているが晴海の成績は知らないな。


「いつもテストは大丈夫なんですか?」


「一夜漬けとかで何とか平均点位は取っているから大丈夫。親からも特に言われることもないからね」


ならいいか。ここで俺が勉強会に誘った所で迷惑に感じられるかもしれない。それに晴海なら困ったら普通に頼んできそうだし。


「ところで学園祭ってクラスでの企画なんですか?」


「去年もやったのに何で知らないのよ」


「自主欠席していたので」


「そういや、去年の琴音はそんなだったね。忘れてた」


イベント? そんなの参加する意味が分からないとばかりに全てサボっていたからな。お陰様で内容の把握を二年生から始めないといけないという新入生状態。


「やるかやらないかもクラス毎で決めていい。やるにしても企画を生徒会に提出して予算が降りるかどうかによって決まるのよ」


「やる気次第という訳ですか」


というか俺はまた生徒会の仕事に駆り出されそうなんだが。面白そうな企画なら会長自身が許可を出すだろうが、予算配分は俺も協力しないといけない分野だな。


「うちのクラスは喫茶店をやる予定かな」


「定番ですね。でも他のクラスも多そうなんですが」


定番過ぎて乱立するような状態は会長としても好ましくないだろう。今までにやったことのないようなものなら率先して協力してくれるとは思うけど。


「屋台とかでもいいと思いますが」


「結構乱立するよ。というか去年は学園にすら来てなかったのね」


盛大に呆れられたが本当の事なので何も言えない。どうして琴音がそこまでイベントに関わらないのか理解できないし、記憶を引っ繰り返しても分からない。


「お前ら久しぶりなのは分かるが、ホームルーム始めるぞ」


会話していて近藤先生が入って来たことに気づかなかった。他にも気付いていない連中がいたが全員がそそくさと自分の席に着席していく。


「話題に上がっている学園祭については後で時間を設ける。ただしその前のテストを忘れるなよ。赤点なんて取ったら補習有りなんだからな」


学園祭に参加できないという訳ではないが、準備期間に参加できないことになり兼ねない。準備中もイベントみたいなものだからな。


「今日の予定は始業式のみ。課題の提出はその教科がある日に提出だから、まだ終わっていない奴らはそれまでにやっておけよ」


まさかいないだろうと辺りを見渡してみると、数人の表情が暗い。どうやら本当に終わっていない人がいるようだ。自業自得だけど。


「それじゃ全員講堂に移動しろ。終わったらちゃんと教室に戻って来いよ」


昔だとそのままバックレたこともあったな。戻ってきても特に連絡事項すらなく、解散だけだから。やる意味がないと思って、いつもの連中と帰ったんだったよな。後日、教師に叱られ、二人の母に折檻された。


「それじゃ行こっか」


晴海と宮古が近づいてきたが率先して出て行こうとは思わない。最初の始業式と同じだ。一番後ろで目立たないように出て行こうと思っているのだが、何かクラスの連中の視線がおかしい。


「何で全員行こうとしないのですか?」


「だって琴音が立ちもしないからだよ」


全員出るまで座っているつもりだったからな。宮古だって最初の頃を知っているだろうに。まさかと思うが俺の事を待っているのか?


「もしかして私が立たないと出ないつもりですか?」


尋ねてみると全員が頷いていた。確かに打ち解けたと思ったが、ここまでのことになっているとは思わないだろ普通は。


「何でしょうか、この一学期との違いは」


「私達からしたら去年の琴音は何だったんだろうと思っているわよ」


晴海の発言に全員が頷いている。あぁ、確かにそんなだったな。来た当初なんて腫物どころの扱いじゃなかったから。俺としてはいつも通りの行動をしていただけなんだが。


「先頭では歩かないですからね」


色々と面倒そうだし。別に俺がこのクラスを率いている訳ではない。率先して行動する筆頭はどちらかというと晴海ではないだろうか。


「それじゃ全員出発~」


本当に俺が立つまで誰も教室から出ていなかったのか。ワラワラと出ていく中に混ざるように俺も教室を出ることで比較的目立つこともなかった。


「それでも座る場所は変わらないんだね」


「後ろの席が丁度いいんです。大体座る場所で何かが変わる訳でもないんですから」


最初の始業式と同じ場所に座る俺と宮古。違うのはその隣に晴海がいること位か。あの時って晴海との接点がなかったから何処にいたのかも分からなかったな。


「何か私達のクラスって後ろの方だけど、その中でも目立たない位置に陣取っていたのね」


「別に私が占領している訳ではないんですけど」


「今だとこれだけど、あの時なんて琴音の周辺二席位は誰も居なかったよね」


「おかげで逆に目立っていましたけどね」


当時を思い出すと目立たないように行動しても孤立していて逆に目立ちまくっていたんだよな。かといって変な行動なんて出来るはずもなく、現状維持を目標にしていたんだったか。


「ある意味で凄いと思っていたよ。まぁ去年のことを考えると当たり前だと思うけど」


「耳に痛い話です」


相槌を打っておくけど俺にとっては他人の話でもある。何せ俺自身が何かをした話ではない。だけどその責任は自分で持たないといけない矛盾を抱えている。今ですら周囲からの視線を感じる位だからな。


「そろそろ始まりますね」


始業式が始まったといっても、やることは何も変わらない。学園長からの挨拶から始まり、二学期の予定、生徒会長の訓示と続くだけ。本当にこうやってみると生徒会長はやり手の人物だと思えるんだけど。現実は違うか。


「琴音はこの後どうするの?」


「生徒会に顔を出して、バイトに向かいます」


始業式が終わって、教室に戻る途中で晴海と話しているが本当なら顔を出す必要なんてない。ただ後で苦情を言われるのが嫌なだけだ。今日は活動があるとも聞いていない。


「相変らず真面目な事で。私は部活だね。宮古は?」


「やることないから帰るだけだよ。他の皆も殆ど同じじゃないかな」


部活がある人達はそちらに、俺みたいな特殊な立場じゃない限りそのまま帰るか、寄り道しながら帰る人達が殆どだろうな。その寄り道に最近はうちの喫茶店が名を連ねるようになってきたけど。


「それじゃまた明日」


「またね~」


挨拶を済ませてさっさと生徒会室に向かう。学園長に挨拶なんていらないだろう。下手に会っている所を誰かに見られるとまた変な噂を流される可能性だってある。でも佐伯先生には会っておこう。


「失礼します」


「琴音とも久しぶりだね。夏休みでは一切会わなかったからさ」


「むしろ私と会っていたとなると社交界は大いに盛り上がるんじゃないでしょうか」


「僕の心労が大変なことになるから想像させるのも止めてくれないかな」


本気でげんなりしている辺り容易に想像できたんだろうね。会長は相変らずか。あとは木下先輩もいるし、小梢さんもいるか。会計と庶務がいないだけだな。


「テーブルから適当なお土産一箱持っていっていいから」


山積みにされている箱はお土産だったのかよ。また変な企画でもやるんじゃないかと疑ってしまった。しかし一箱とは太っ腹な事で。包装紙に書かれている文字からして海外でのお土産かな。


「夏休み恒例のことですね」


「いい加減この風習というか見栄の張り方は止めて貰いたいんだけどね」


事情を知っている俺も同じ意見だな。長期休暇で海外へ旅行に行くのは社交界でのステータスとなっている。昔は何処に行ったのかを自慢するに留まっていたが、今では何か国に行ったのか数を誇る事も追加されている。


「ちなみに何か国に行ったんですか?」


「三か国。それ以上は予定的に無理。バカンスとしては一か国で十分なんだけどね」


「まぁ最低限な方ですね。私も一か国で十分だと思っている方ですけど」


旅行が好きな人なら大丈夫だろうが、そこまで興味が無い人たちにとっては一種の拷問である。言語や文化が違うのだから環境に差が出る。それがストレスとなる。それよりだったら国内でゆっくりしたいと考えるのは当然である。


「ちなみに私は国外に出たことがありません」


「そういう風習や流行りに手を出しそうになさそうだからね、琴音は」


海外に出たことが無いのは俺も同じ。琴音ほど頭も良くなかったから英語を覚えるのも四苦八苦だった。そんな状態で海外に旅行に行く度胸なんてなく、仲間達とバカ騒ぎしていた方が気が楽なんだよ。


「何と言いますか、やはり二人がいる場所は私達と違いますね」


「木下先輩の意見に同意。私はPCがオンラインなら何処でも良かった」


一般的な生活をしている人達にとって海外旅行を、しかも複数の国に行くなど考えられないだろう。しかも見栄を張るだけの行為で。国内に金を落とせと言いたくなる。


「僕としては琴音が働いている喫茶店に行ってみたかったんだけど」


「来ればよかったじゃないですか。木下先輩も小梢さんも来ましたよ」


「小梢君も!?」


何でそこで驚く。確かにインドア派の筆頭で冷房完備の部屋から一切出て来なそうな印象はあるけどさ。木下先輩に誘われて渋々といった感じでやってきたよ。


「夏休み中ということもあり、混んでいましたね」


「噂を聞き付けた人達だと思うけどさ。琴音の恰好が普通過ぎてつまらなかった」


衣装にこだわる気は一切ない。誰がウェイトレスの恰好なんてするか。それだったらまだ執事の恰好する方が俺としては気持ち的にまだ余裕があると思う。


「ほら、さっきもいった関係性とかさ」


「関係ないと思いますよ。私の母、文月の両親、雫先輩と有名所が来ていますから注目度は上がっています」


ぶっちゃけ、そういう人達が来た所で俺も店長も対応は全然変わらないけどな。特別待遇などしないし、評判を上げようとも考えてはいない。


「彼女が行って、大丈夫だったのかい?」


「表の方だったので何の問題もありませんでした。私は常に緊張状態でしたけど」


流石に人の目が多い場所では猫を被った状態だったので何かしらやらかすこともなかった。メールではやっぱり格好について批判を受けたけど。今度衣装を持っていくとか言われたので全力でお断りしたよ。


「変な嫌がらせとかも特にないので安堵しています」


「いや、それだけの人達が通う場所に嫌がらせする馬鹿は流石にいないと思うよ」


そりゃそうだ。一家だけでもヤバいのに、最低でも三家は敵に回すことになる。会社として嫌がらせしたとしたら良くて倒産だろう。最悪な状態はあまり考えたくないな。


「遅くなりました」


夏休みの話なのか、関係ない話なのか分からなくなった時に丁度良く残りの二人も生徒会室にやってきた。これで全員集合だな。でも特にやることなんてないよな。


「それじゃ全員集まった所で僕から少しばかりお話しさせてもらうよ」


全員が思っただろう。一体今度はどんな無茶苦茶なことを言いだすのだろうかと。固唾を飲んで全員が会長に注目している中で、全員が逃げたいと思ったことだろう。


「僕達の活動も文化祭まで。それが終わると生徒会の人員は交代となる。つまりこの仲間で活動できるのも残り僅か。正直な所、僕は次期生徒会長有力候補に一切の期待をしていない」


それには同意である。他の人達も考えは同じなようで頷いているな。


「だけど僕達が口を挟めない。恐らくだけどこの中の誰も次期生徒会に所属することは無いだろう」


会長達三年生は自動的に外れる。小梢さんや俺も彼の候補には入っていないだろう。そうなると本当に次期生徒会は新体制となる。


「だからこそ僕達は僕達でやり遂げようじゃないか。盛大な文化祭を!」


「「「わぁー」」」


「あれ? ここは盛り上がる場面じゃないかな?」


全員が棒読みである上に、手を上げたりの行動すらしない。明らかにやる気が感じられないだろうが、会長の今までの行動を思い返すと何をやらかすのか想像も出来ない。


「私達はやるべきことをやるだけです。主に会長の無茶ぶりについても」


木下先輩が代表して説明しているけど、無茶ぶりについてもやる気ではあるようだ。どちらにせよ、やるしかない状況を作らされるんだからやることは変わらない。


「理解のある部下達を持って僕は幸せだよ」


「こんな上司は嫌だの筆頭だと自覚してください」


ある意味でいつも通りの光景だな。流石は俺が来る前までは一人で会長を抑え込んでいただけの事はある。それに嫌だと思いつつも、嫌われない会長もやっぱりカリスマはあるのだろう。


「でも安心してよ。まだ明確にこれをやるとは決めていないからさ」


「そもそも生徒会はクラスの出し物や、予算関係、外部への依頼など多岐に渡る仕事があるのですから当日に何かをする余裕はありませんよ」


あっ、修羅場の予感。全部を生徒会でやるとは思えないけど、結構拘束されそうな気はするな。最初に連れて来られた時以上の忙しさになりそうだ。


「大丈夫。スケジュールは僕がちゃんと組むから」


「はい、皆さん。解散しましょう」


「「「お疲れさまでした」」」


「えぇー」


ハッキリ言おう。逃げるが勝ちだ! 木下先輩の号令を聞き、全員が生徒会室を後にした。後に残ったのは会長と木下先輩だけ。あれは説教タイムだな。スケジュールを組むだけの余裕もないだろうに、何を考えているのやら。嫌な予感はするけど。

何故でしょう。太陽が昇っている時間全部を睡眠に使っても眠いです。

寝ぼけ目で部屋の中をムカデが走っていても気にしなくなりましたね。

顔面に降ってきた時は殺意に目覚めましたけど。

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