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59.過去からの帰宅

近藤宅に戻って、庭先に出るとスパーンとハリセンを一閃。いい音と共に新八の頭が傾げる。ハリセンの一撃で首が真横にいくほどの威力は出さないさ。


「いきなり一閃するとは何事だよ。俺が何をしたというんだ!」


「五月蠅くしていると思ったから」


「以前に騒いで隣の親父に怒鳴られたのは覚えているんだよ。今回は自重している。だから謝れ!」


「断る!」


ハリセンで殴って今までこいつ等に頭を下げたことなど一度もない。確かに今回は理由もなく殴った。なら理由なんて後付けでいいんだよ。


「エロイことを考えていそうだったから煩悩を払ったんだよ」


「お、俺がエロイことを考えている訳がないだろ」


そこで詰まる辺り怪しいんだよ。大方さっきの俺の服装でも考えていたのだろう。もしくはあの服装で俺が四つん這いになる妄想か。だから嫌だったんだよ。


「でも今の琴ちゃんの恰好も結構扇情的だよ。袖はぶかぶかだけど、胸元がきつそうなんだもん」


仕方ないだろ、男物のパジャマを着ているんだから。以前の俺だって太くはなかったが、それよりも琴音は細い。その所為で長さはいいとしても太さが全然足りない。胸に関しては何も言えないな。


「これはこれでいいな」


「はい、アウト」


ハリセンをもう一発叩き込んでおく。再度スパーンといい音が鳴っているがこっちの方が近所迷惑かもしれないな。というか三発目を叩き込んだ辺りでハリセンも怪しくなってきた。そろそろ折れるな。


「煩悩を考えているのは俺だけじゃないはずだ! あっちのムッツリはどうなるんだよ!」


「表情に出ていないからセーフで」


歳三も確実に煩悩まみれになっているだろうが、目を瞑って静かなものだ。その頭の中で一体どんな妄想が展開されているのかは想像したくもないな。


「新八さんは表情に出過ぎているからな。そんなんじゃモテないぞ」


「あぁ、それは分かります。ファンレターにも偶にそういう感想が混ざっていますね」


「嘘だろ……」


まさかのマネージャーさんからの追い打ちである。何だかんだでこいつ等との付き合いもそれなりになるんだ。毒を吐くときは盛大にやった方がいい。


「それにしても琴音さんは皆さんと親しいのですね。いつ頃からの知り合いなのですか?」


「一か月経ったか?」


「まだじゃない?」


俺の質問に勇実が答えてマネージャーさんが唖然としている。確か再会したのは七月終わりだからまだ半月位しか経っていないのか。以前の感覚で結構経っていると思った。


「昔からの親友のように見えますよ」


「知り合いにそっくりらしいからな。それと名前を聞いてもいい?」


こいつ等とのやり取りで口調が素のままだがいいだろう。どうせこいつら関連で付き合う事になるのだから、こっちの琴音に慣れて貰った方が早そうだ。


「椎名唯です。皆さんからは唯と呼ばれています」


「いつもご苦労様です」


「本当に苦労しているんですよ!」


絶叫するほどか。そして全員が顔を逸らしやがった。お前らは本当に、前と変わらないな!


「分かる、分かるよ。こんな問題児たちを抱えてさぞや困ったことでしょう」


「そうなんですよ! 本当に皆さんは私の忠告を聞いてくれないし、気付いたら消えている時があるし、もう滅茶苦茶なんですよ!」


凄い愚痴だな。じぃーと視線を送っても逸らしたまま。お前らはいつまでその状態になっているつもりだよ。偶には正面から唯さんの説教を受けろ。


「琴音さん! お願いがあります!」


「は、はい。何でしょうか?」


「どうしたらこの人達を管理できますか?」


「殴れ」


「え」


おっと、素で返してしまったが言葉が足りなかったな。何も無意味に殴れとかそういう訳ではない。それに手で殴るのは色々と不味い。


「言葉が足りなかった。どうせこの人達は言葉で幾ら言っても聞き入れないからハリセンとか、ポスターを丸めたもので殴るのが効果的なんだ」


「それだけですか?」


「すでに条件反射的に黙るように誰かに教育されているようだから」


此処に来て新八を一閃したが、その時だって最初は反射的に黙して理由を考えて、その後で文句を放ってきたのだ。ちなみに教育したのは俺と師匠だけど。


「総司はまだ良かった。あれは怪我をしないようなもので殴るからな。問題は初音さんだ。怪我しないのが不思議なもので殴られるからな」


一の言う通り。フライパンとか、木の棒とか様々だったな。どんな力加減でやっているのか俺ですら分からないが、誰一人として流血したり、痣になることもなかった。ただ悶絶レベルで痛い。


「俺達が唯一逆らえない人物だ」


「お褒め頂き、光栄だわ。一ちゃん。お礼に私から一撃貰いたい?」


「謹んでご遠慮させて頂きます!」


一ですらこの様だからな。新八なんて震え始めたぞ。こいつが一番師匠にやられた回数が多いからな。トラウマに成り掛けている。


「本当に皆さんの事をご存じなのですね」


「聞いたから。あっちの人に」


示す先にいるのは義母さん。そう言わないと変に思われるからな。付き合い半月で何でそこまで詳しいのかと。言えないことの面倒臭さだな。


「分かりました。私も実践してみます」


「「「「止めて!」」」」


メンバー全員の心の叫びである。だったらお前ら全員ちょっとは自重しろよ。


「唯ちゃんは、唯ちゃんだけはそのままでいて!」


勇実までこの反応なんだから全員がトラウマでも持っているのかよ。俺が生きていた時はここまでの反応はなかったはずなのに。それとも吹っ切れさせるために師匠が何かしたのだろうか。


「お前だけは俺達の脅威にならないでくれ」


一よ、師匠が身近にいるの忘れていないか。それにそれだと俺までお前たちの脅威になるのではないだろうか。率先して突っ込み入れるようにしているのお前らだからな。


「だったらお前ら、あまり唯さんに迷惑を掛けるなよ」


「自重します」


代表で勇実が宣言したな。一番暴走する確率が高い奴が言ったのだから、これで唯さんの負担は少しだけ減るだろう。いつまでかは分からないが。


「そう言えばお前ら、いつまでいるの?」


「酷いな、おい」


新八の突っ込みもなんのその。時刻はすでに夜の十時を回りそうなんだよ。これ以上、外で騒いでいたらそれこそ隣の親父がすっ飛んできそうなんだが。


「琴ちゃんは明日どうするの?」


「帰る。食材を揃えて晩御飯に備えないといけない。隣人夫妻がやってくる予定だから」


二人とも帰郷していて今日はいないのだが、明日帰って来て俺の部屋で飯を食う予定にしている。むしろ俺が今部屋にいないのも知らないだろう。


「本当にお嬢様とは思えない生活しているよな、琴音は」


あっ、その発言は不味いぞ一。唯さんは俺の苗字を知っていない。つまりいつものパターンになる可能性が高いんだよ。というか確実にそうなる。


「えっ、あの。琴音さんってそういった家の方なのですか?」


「何を隠そう、あの如月家のご令嬢だ!」


何で新八が偉そうに暴露しているんだよ。そしてそれを聞いた唯さんは固まった。固まる前に色々と疑問は出てくると思うんだけど。何で一般家庭にそんな人物がいるのかと。


「説明が面倒臭い」


「いつものことだと思って諦めたらいいよ」


勇実の言う通り、半分以上諦めているさ。もう宿命であると。そして騒がしい夜は日付が変わるまで続き、案の定隣の親父が文句を言いに来た。



「義母さん、起きてくれ」


次の日、勇実の家にではなく総司としての自宅で一泊した。もちろん部屋は生前の俺の場所。酒に酔った義母さんに一緒に寝るかと言われたが丁重に断った。元の年齢からしたら恥ずかしいだろ。


「あと五分」


「そう言ってまともに起きた試しがないだろ。師匠を待たす訳にはいかないんだよ」


朝食の準備をしようにも自宅の冷蔵庫は水以外すっからかん。こんな朝早くに買い出しに行けるような場所は周囲にないんだよ。だから朝食も近藤家に厄介にならないといけない。


「義母さんだって怒られるぞ」


「うぅ~、それは困る」


漸く起きたか。こんなやり取りも懐かしいな。ほぼ毎日やっていた光景だから。まぁその時は俺が朝食を作っていたから更に義母さんが起きなかったんだよな。


「さっさと顔を洗う」


「は~い」


全く、これじゃどっちが保護者なのか全く分からないな。伍島さんと瑞樹さんはリビングに布団を敷いて、そこに居て貰った。流石に二人ともが同時に寝ることは職務上駄目だったみたいだけど、それでも感謝はされたな。


「お二人とも、お早うございます。昨夜は大変でしたね」


「凄い賑やかだったわね。琴音ちゃんの意外な一面が見れて面白かったわ」


あんたの暴走も大概だったけどな。優雅に珈琲を飲んでいる姿からは想像もつかない惨状だったよ。そして隣の伍島さんはかなりお疲れのご様子で。多分、貴方が一番の被害者だと思う。真面目な性格が災いしてな。


「さて私達は交代するけど、晶達は大丈夫かしら」


「部長の事は知らせていないから、盛大に焦ってほしいものだ」


部下を売るなよ。せめて情報位は渡すだろ。同じ思いをさせたいのは分かるけどさ。仕事なんだから公私混同するなといいたい。原因はおじさんの所為なんだけど。


「琴ちゃん、準備できたわ」


「出来てないから!」


そんなボサボサ頭で外に出ようとするなよ! 何で家にいるとこんなにズボラなんだよ。仕事の時はキリッとしているのに。ドライヤーと櫛を片手に義母さんの髪を整えていく。


「何か親子みたいに見えるわね」


「関係が逆転しているようにも見えるな」


本当の親子だけどな。血の繋がりは無いけど。大体血の繋がりなんて関係ないと思っている。それだけが親子の関係を決めるものじゃないから。


「よし、これでいいだろ。それじゃ行くか」


「私達も家の前まで一緒に行くわ。そこからは交代するわね」


「分かりました。お疲れ様です」


隣の家だから歩いて一分も掛からずに着くんだけどな。そこはやっぱり仕事なんだろう。まぁその間に何かしらあるかもしれないと警戒するのも当然か。よく事件とかだと家を出る瞬間も危ないからな。


「おはようございます。何か手伝う事はありますか?」


「おはよう。それじゃ出来た物をテーブルに並べて頂戴」


相変らず朝から量が多いことで。原因は昨日と同じでおじさんの所為なんだけど。流石に朝食は取り合いにならない。あれは晩御飯限定の戦いだ。


「琴ちゃん、おっはよー」


「琴音さん。おはようございます」


結局、マネージャーの唯さんは近藤家に一泊した。あの後に酒も入って、男性宅に泊める訳にもいかなかったからな。それで師匠から許可も得たので勇実が泊めたのだ。


「本当に今日は帰るの?」


「いつまでもいる訳にはいかないだろ。あと、バイトもあるから」


今日は無いけどな。ただこのままズルズルと此処に居るのは不味いと思った。あまり過去にしがみ付いていると琴音であることを忘れてしまいそうだから。


「仕方ないか。それじゃ今度は一緒に遊びに行こうね」


「予定が合えばな」


「琴ちゃんの予定に合せるのは大丈夫だよ」


「あまり勝手な事を言われても困るんですけど」


スケジュール管理しているのは唯さんだからな。大丈夫、俺は理解しているから。貴女が一番あの面子で苦労していることは。


「はい、全員席に着いた。それじゃ、頂きます」


「「「頂きます」」」


師匠の言葉が絶対であるので全員が席に着くと朝食を食べ始める。最初は黙々と食べ始めたが食べ終わると同時にまた騒がしくなり始めた。特におじさんが席を立って何処かに行ったら外から悲鳴が聞こえたのだが。


「本当に勇実のおじさんはあぁいうのが好きだよな」


「相手が驚く姿を見るのが好きだからね」


だからといって気配を消して背後に立たないで欲しい。料理している時とかにやられると本気で手元が狂いそうなんだよ。実際にやられたら師匠の一撃がお見舞されたが。


「ねぇねぇ、お正月とかってうちに来れない?」


「気が早いな。まだ半年もあるというのに」


「だって先に抑えておかないと予定埋められそうじゃない」


前にもこんなことがあったな。どれだけ俺のスケジュールは簡単に埋まると思われているんだよ。確かに年がら年中予定なんてないけどさ。


「まぁありかな。丁度その時は逃避したいこともあるし」


主に琴音の祖父母からの逃避だ。巻き込まれるのは分かっているが、せめてもの安寧を求めたい。何で新年早々に厄介ごとに放り込まれないといけないのやら。


「よし、お母さんもそれでいいよね?」


「私は構わないわよ。そっちの方が面白そうだし」


義母さんと師匠にはすでにばれているから問題もないだろう。それにこの人達なら祖父母達の問題に付き合わせても大丈夫だと思う。何だかんだでそういうハプニングも楽しむ人たちだからな。


「それでは短い間でしたがお世話になりました」


朝食の片付けを終えて、一服してから一旦部屋に戻って荷造りをして帰る準備を整えて再度挨拶に近藤家を訪ねた。その際に晶さん達に会ったがげんなりしていたな。何があったんだよ。


「いつでもいらっしゃい。私達はいつでも歓迎するわよ」


師匠の言葉に嬉しく思うのだが、頻繁に来れる訳ではない。俺が居て迷惑になる部分が絶対に出てくるから自重は必要だ。でも巻き込むことに躊躇はないんだよな。矛盾しているけど。


「琴ちゃん、またね」


「今度は一緒に遊びに行こうね!」


「また何かありましたら、相談に乗って下さい」


「部下達を頼んだぞ」


何で全員して見送りに顔を出すのやら。でもこれで総司として思い残すことはないかな。家族全員の安否が確認できたし、事情を知る人も出来た。面倒なことも増えたけど。


「それでは行ってきます」


「「「「いってらっしゃい」」」」


全ての考えを先送りでいいかと思う。今だけは総司として家族の元を去ろう。部屋に戻ればまた、琴音としての生活が始まるのだから。

うーん、眠気で頭が回りません。

これを書いている時点で午前二時を回っていますからね。

気分転換で番外編を書いたおかげか執筆速度自体は上がったのですが、代償が時間なんですよね。

仕事が終わってから一話を仕上げると決まってこの時間ですから。

その所為か鍋焼きうどんを作って、運ぶ際に火傷しましたけど。

流石に袖では限界がありましたね。次回から気を付けます。

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