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50.理解者達

祝50話!

狙ってはいませんでしたが海水浴編です。

50.理解者達



現在、ワンボックスカーで移動中。別に誘拐されているわけではない。以前から予定されていた海水浴に連行されているだけ。気が進まないから連行なんだよ。


「それにしてもいいんでしょうか」


運転しているのは皆川さんの父親。ご両親揃って保護者枠で参加。やっぱり女子のみでの海水浴は心配だったのだろう。参加者は香織、相羽さん、皆川さん、そして私。いつもの面子である。


「流石にパラソルとか諸々を運ぶとなると電車じゃ厳しいからさ。それ話したらいいってさ」


大荷物持って電車移動は流石に厳しいな。特に終わった後の移動が一番堪える。それを考えればご両親のご厚意に甘えるべきなんだろう。しかし皆川さんを名字で呼ぶと両親と被るな。


「晴海さん」


「何よ、唐突に」


「呼んでみただけです」


「琴音位よね。私の事を名前で呼んでなかったの」


「それもそうですね」


何となくだったけどな。晴海さんもいつの間にか俺の事を名前で呼ぶようになっているし。そう言えばご両親は俺の事を知っているのだろうか。仕事で十二本家と絡みがあれば何かありそうなんだけど。


「それにしても荷物まで準備していて来るのを渋るとか往生際が悪いわよね」


「私が行かなかったらずっと玄関でうんうん唸っていたでしょ」


香織が来るまで確かに玄関にいたな。あとはいつも通り引き摺られるように車に押し込まれた。その時にはすでに相羽さんは寝ていた。前日寝れなかったのだろうか。


「それにしても」


出発してからずっと気になっていたことがあるんだよな。車の中ではなく、外についてだけど。まさかね。


「後ろのマイクロバスも目的地一緒かな。ずっと付いてきているし」


香織が突っ込んでしまった。ボディガードの人達にも今日の予定は伝えている。そしてそれらしい行動をしているのが後ろのバスなんだよな。何でだよとツッコミたい。ちょっと聞いてみるか。


「もしかして後ろにいる?」


恭介さんにメールを送ってみる。さて何と返って来るかな。


『そうだが。どうかしたか?』


「何でバス?」


『声を掛けたら暇にしていた奴らが付いてきた。総勢十一名だ』


「その人数は何なんだよ!?」


人数が多過ぎるだろ。幾ら海に行くといっても護衛の数が倍になる程度だと思っていた。何で二桁の人数が必要になるんだよ。


『着いてから事情を説明する。これは俺も予想外だったからな』


恭介さんでも予想外となると晶さんはどんな反応したのだろう。怒ったか、呆れたか。それとも暴れたか。あの人の行動も良く分からないからな。


「誰とメールしているの?」


スマホを覗き込むのを止めてくれないかな、香織よ。別に誰だっていいだろうに。


「知り合い。ちょっと聞きたいことがあったから」


「男?」


「そうだな。別に親しい人というわけでもないから」


「ふ~ん」


疑ってらっしゃる。護衛対象と護衛する人といった以外に接点も何もないからな。あの二人以外の護衛の人達の連絡先は知らないから、何かあれば恭介さんと晶さんに連絡を取ることになる。


「後どの位で着きそうですか?」


「ざっと一時間といった所かな」


話題を逸らすためにおじさんに話を振ってみたがあっという間に話題が途切れてしまった。さてどうしたものか。


「しっかし、琴音がバイトしている姿を初めて見たけど慣れていたねぇ」


晴海さんが乗ってくれた。ちなみに夏休みの間で結構な学生が喫茶店を訪れていた。更に口コミで俺が働いていることも拡散した。何で夏休み前に情報が洩れなかったのか本当に疑問だ。


「看板娘の座は琴音に譲ったよ」


「譲る前に働いていないだろ、香織は」


問題を起こすような馬鹿な学生は出てきていない。出てきても護衛の人に叩き出してもらう予定なので全く問題はない。


「ねぇ、琴音」


「何ですか? 晴海さん」


「いい加減、私達も香織と同じように接してくれないかな」


「言葉遣いの事ですか?」


「そうそう。もう名前で呼び合っているし、こういうイベントにも参加するような仲じゃん。そろそろ進展しても良さそうなんだけど」


それもそうだな。人の見極め自体も終わっているし。一応は自分自身の立場も考えている。会長も言っていた通り、付き合う人物は選ばないといけない。勝手に名前を使われても困るからな。


「分かった。でも学園では口調戻すから、よろしく」


「何というか本当に面倒な立場だよな。自己を出せないというか」


「イメージの問題だからな。お嬢様がこんな口調だったら違和感しかないだろ」


「違いない」


晴海と笑い合っていたら唐突に車が揺れた。ハンドル操作でも間違えたかな。危ないなぁ。


「すまん。ちょっと確認なんだが、琴音さんの苗字は何なのかな?」


おじさん、やっぱり俺の事知らなかったのか。晴海に視線を送るも逸らされた。別に隠すようなことでもないだろうに。


「如月ですよ。フルネームで如月琴音です」


「まさかとは思うのだが、十二本家の方ではないですよね?」


ミラーに写るおじさんの顔は盛大に引き攣っているな。それに中途半端な敬語になっているし。


「その通りです。あぁ、別に気にしなくていいですよ。実家とは離れていますので」


子供よりも大人の方がこういった立場に敏感なんだよな。社会的な立場のことを考えているのだから必然だけど。将来を考えたら職に関連してしまうからな。


「琴音もこう言っているんだから気にする必要はないよ、父さん」


「いや、だがな」


「よく考えてください。迎えに来た場所は何処ですか? それにおじさんが考えているような立場だったら、こういったイベントにこういう形で参加するのは許されないはずですよね?」


迎えに来た場所はアパートの前。そしておじさんが運転する車に乗ることも普通ならない。専用の車両を実家が用意するのが防犯上正しい選択なのだから。


「無礼講だと考えてください。気を遣う必要なんて微塵もありませんから」


こっちが気疲れしてしまう。あと事故には気を付けてくれ。流石にそれは庇いきれない。だから変に緊張されても困るんだよ。


「そ、そうか。乗せているのは晴海の友達。友達なんだよな」


何か自分に言い聞かせているな。それに起きている三人は苦笑してしまう。奥さんと宮古は爆睡中。


「それにしても海に行くのは初めてだな」


琴音としては初めてであり、俺としては数年ぶりだな。仕事していた時なんて予定が合わずに全く行くことが出来なかった。泳げない俺は荷物番とかだったけど。


「琴音の活動範囲って狭そうだよね」


「むしろあの街から出たことがない」


一番俺の行動を知っている香織の発言に返したら、周りが驚いていた。でも本当なんだよな。金持ちなら海外に旅行に行くなんて当たり前だと思われているが、琴音はしたことすらない。そもそも当時は英語すら話せなかったんだから。知識が足りなかったことを忘れていないだろうか。


「その割には色々と詳しくない?」


前の知識があるからな。県外にだって旅行したことがあるのだからそれなりに地理も把握している。三年前のものだから今と若干の違いはある程度か。


「知り合いに詳しいのがいるからな」


「イグジストの人達?」


「そんな所だ」


こういう時は便利な存在である。カモフラージュにバッチリ。そもそもあいつ等と行動していたから外に詳しくなったとも言える。県外でも馬鹿な事をやっていたからな。無計画な車の旅とか。もっとまともな旅行はなかったのかと今なら思うな。


「は? 何でそこでその人達が出てくる訳?」


そう言えば香織以外に教えていなかったな。別に自慢するような奴らでもないから説明する必要性はないと思った。だけどやっぱり有名人なだけはあるか。


「知り合いと言うか友達だな」


「連絡取り合う位の仲だもんね。琴音が素を出しながらスマホに叫んでいる姿なんて最初は信じられなかったわ」


未だにバンドに誘ってくるからだよ。絶対に参加しないと言っているのに。あと喫茶店でライブを開こうとか何を考えて喋っているのか理解できん。スペース的に無理だろ。


「どうやって知り合ったのよ?」


「喫茶店に飯食いに来ただけだ。それで気に入られた」


「いや、もっとこう何かエピソードとかないの? 琴音がファンだったとか」


「私は特に興味はなかったな。昔の仲間に似ているからじゃないかな」


気に入られたのは多分そんな理由だろう。初対面だとは思わずに普通に突っ込みいれていたからな。むしろ我慢の限界を突破したとも言える。


その後も雑談に花を咲かせながら目的地へと車が走る。運転しているおじさんの汗の量が尋常じゃなかったのは察するしかない。帰りも宜しくお願いします。


「海だー!」


定番の言葉で車から降りた晴海に続いて俺も降りる。香織は未だに眠っている宮古を起こしている。あれだけ騒いでいたのに一切起きない辺り凄いな。


「やっぱり後ろのバスの人達も目的地一緒だったね」


俺の護衛だからな。ぞろぞろと降りてくる人達を見ていると見知った顔もある。夜担当の人達まで参加しているのかよ。仕事は大丈夫なのだろうか。


「あの人数の休暇申請なんて通るのか?」


「ん? どうかしたの?」


「何でもない」


まぁ後で事情は恭介さんに聞く予定だからいいか。その際に一発入れてもいいだろう。面倒臭い事態にならないといいけど。


「ん~、よく寝た」


「寝過ぎだから。昨日寝なかったのか?」


「おぉ、如月さんがフレンドリー。何かあったっけ?」


「別に何も。強いて言えば晴海にちょっとな」


いつだって切っ掛けなんて些細なものだから。


「じゃあ私も琴音と呼んでもいいよね?」


「今更だな。何だかんだで感謝しているんだぞ。一番最初に声を掛けてくれたんだから」


あの頃は一人になることを覚悟していた。琴音の嫌われ具合も把握していたからな。誰からも声を掛けて貰えず、それでも関係を改善することをしようとした。だってさ、一人での高校生活なんて退屈じゃないか。だから宮古にも、近藤先生にも感謝している。


「私は近藤先生に言われたからだったんだけどね」


「それでもだ。大体去年の私を知っていて了承するのも勇気のいる事だろ」


声を掛けた瞬間に罵倒する可能性だってあった。それをしないと近藤先生は確信していたから宮古に頼んだのだろう。たった二回の会話で俺を信頼してくれたのだから教師って凄いな。


「だって去年琴音の事で一番苦労したの多分、近藤先生だよ。担任という事で色々と事後処理していたらしいし」


それで処分されなかったのは学園長が手を回してくれていたからだろう。本当に近藤先生には迷惑を掛けた。今度キャシー先生に良い噂でも話しておこう。


「その近藤先生が琴音と接してくれって頼んできたんだよ。私でも何かあったんだと考える位はするよ」


「そうか」


最初の理解者は橘一家だけど、二番目は近藤先生だったんだな。本人に礼を言うのは夏休み後になるかな。その時の反応が楽しみだ。


「「「おぉー!」」」


おいこら、何で微笑んだだけで護衛連中が歓声上げてんだよ。こっちの連中が怪訝そうに見てるじゃないか。後で事情は説明する気ではあるけどよ。

そして全員が車を降りた所で晴海が声を上げた。


「思いっきり遊ぶよ!」


「「おぉー!!」」


「ぉー」


香織と宮古のテンションは上がっているが、俺のテンションは下がった。水着、着ないと駄目だよな。

水着回は次回に繰り越しになりました。

前回の前後編で50話目がこの話になったのは全くの偶然ですね。

狙ってあの長さは書けませんから。

それにしてもここまで長く続くとは筆者も思っていませんでした。

ひとえに読者様方のおかげであります。ありがとうございます。

これからもどうか宜しくお願い致します。

えっ、ネタですか? ストーブが逝きました。

寒い!

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