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49.花火大会-後編-

49.花火大会-後編-


『琴音に関してはいないもの扱いだから誰も気にしていないけどね』


「なら安心しました。戻りたくありませんから」


『戻って来~い。私と楽しくお喋りしようよ。正直気を許せる人がいなくてさ』


「文月の小鳥なら大丈夫だと思いますけど」


『何故か父親が連れ回しているから近づくの躊躇うのよね。色々と警戒しているみたいだし』


小鳥も苦労しているんだな。だけどあそこは母親がしっかりしているから最悪なパターンにはならないだろう。真面目に力技でどうにかするから。


『そっちは楽しいのかな? 楽しいのなら妬むぞ、おい』


「楽しいですよ。ねぇ、木下先輩」


「綾、御免なさいね。後で話してあげます」


『ちくしょぉぉー!』


大変いい笑顔であった。そして魂の叫びが聞こえたような気がする。そもそもそんな大声を上げて大丈夫なのかよ。まだ会場にいるというのに。


「化けの皮剥がれていますけど大丈夫なんですか?」


『花火見える所とは正反対の場所で人もいないから大丈夫でしょ。見張りに妹を使っているし』


突っ込む気も起きなかった。妹を扱き使う姉か。苦労が見て取れるわ。それに姉の言葉遣いと大声でハラハラとしているのは間違いない。通りすがりの人でも聞いていたらアウトだからな。


『凄い邪魔したい。終わってから乗り込んでいい?』


「来ないでください。花火が終わったら木下先輩は帰りますよ」


『琴音の安眠妨害をしたいだけよ』


「おい」


素で突っ込んだわ。意味のない嫌がらせは止めて貰いたい。綾先輩が言うと冗談に聞こえないのも性質が悪い。


『冗談よ、冗談』


「区別が付かないので止めてください。それに今日は結構遅くまで起きていますよ」


酔っ払いの介護があるからな。あとは歯止めが聞かないだろうから、俺が途中で切り上げさせないといけない。下手したら朝まで飲んでいそうだから。その前に在庫が切れるけど。


『何で?』


「大人組が飲んでいるんですよ。だから私が一応見ておかないと」


『保護者逆転していない?』


それは自覚している。つまみの準備とかしないといけないから基本的に俺も付き合っている。愚痴やら思い出話やらで退屈はしない。


『私もそっちに混ざりたいわ~』


「そんなに苦痛ですか?」


聞くまでもないのは知っている。性格的にその場に合わない人だっているさ。


『愚問ね。言動一つにも気を遣わないといけない場所なんて居たくもないわ。さっさと妹に立場を譲りたい』


「綾先輩も家を出るつもりですか?」


『その予定。簡単に出来る事じゃないのはあにぃを見ていて分かるけど。私には無理だわ、この世界は』


静雄さんの行動力もそうだが、綾先輩も似ているという事か。簡単に捨てられるものじゃないからな。俺だって出来たらやりたいが、家族が許さないだろう。下手したら双子も敵に回るからな。琴音と離れたくないという理由で。


『その時は協力よろしくね』


「お断りしたいです」


『巻き込んでやるから覚悟してね』


「言い直さなくてもいいです!」


この人なら単独でもやれるというのに巻き込まれる意味が分からない。そんなにこっちとそっちの状況に嫉妬しているのかよ。


『おっ、学園長だ。学園長も逃げてきたのかな』


その言葉に俺は凍り付いた。今回のこと全く説明していないし、隠す気満々だったから。盲目的な恋をしている学園長ならこっちに乗り込んでくることを考えていたからなんだよな。それが露呈したら、真面目にヤバい。


「学園長には本性を知られているんですか?」


『知っているよ~。そうでもないと妹が走ってくるから』


通話が切れる様子はないか。だけど綾先輩にはこの場に誰がいるのかを告げていない。ただ俺と木下先輩と大人が花火を見ていると思っている筈。


『そう言えばそっちの面子って誰かな?』


突っ込んでほしくない所に話を振らないで欲しい! 近くに学園長がいるのならば絶対に告げられない。


「私と木下先輩ですよ。あとは綾先輩が知らない人達です」


『ふ~ん。本当かなぁ』


勘が良すぎるだろ!? 茜さんの事は知らないだろうが、佐伯先生のことは絶対に知っている。だからって何ですぐに嘘だと思うんだよ。


『その大人って誰かなぁ? 本当に私が知らない人なのかなぁ?』


獲物を定めたような表情が脳裏に浮かんだ。そっちの鬱憤をこっちで晴らさないで欲しい。大体佐伯先生が近くにいる状況で学園長に事情を話せるわけないだろ。


「あっ、ちょっと呼ばれたので切りますね」


全く呼ばれていないけどな。問答無用で通話を切っておく。再度掛かってきたら出る前に切ろう。そうすれば諦めてくれるだろう。諦めなかったら電源切ろう。


「綾が何か?」


「ピンポイントに聞かれたくないことを聞いてきますね」


あの勘の良さは一体何なんだろう。俺の言葉に木下先輩もうんうんと頷いているという事は過去にも何かしらあったのだろう。霜月家、半端ないな。


「メールか」


唐突に切ったためにこれ以上通話をする気はないと察してくれたのだろうか。それならありがたいんだが。


『話をしようか』


学園長からだった。そうだね、大人で酒飲みしていると聞けば、俺の交友関係で佐伯先生が該当する位すぐに分かるよな。そして学園長も周囲に聞かれたくないからメールにしたと。うん、最悪だ。


「話すことは何もありません」


『そこに佐伯君がいるのだな?』


いないと答えたいが裏を取られたら確実にばれる。もう観念するしかなさそうだ。どうせ夏休み中に学園へ行く用事はない。ならその間は詳しく聞かれることは無いだろう。問題の先送りとも言うが。


「いますが、それが何か?」


『何故私に一言も話さなかった?』


「話す必要がないと思ったので。それに現状は女子会です。男性の学園長が居たら不味いはず」


正論で返しておこう。この中に学園長だけを誘うのは色々と不味い。自分の立場を分かってほしい。そして、花火が見れねー!


『一言位あっても良かったと思うのだが。我々は協力体制を取っているのだから』


勝手に共犯者にされたこっちとしては承服しかねる。弱み握っているじゃないか、この野郎と。大体さっさと告白しろよ。そして爆ぜろ。


「私もやることがあるので返信は遅くなります」


せめて花火位はゆっくり見させろという気持ちを込めて返信しておく。これで相手に失礼はないだろう。今更失礼も何もないけど。むしろ仕事していろと言いたい。


『後で連絡する』


しなくて結構。これで問題は先送りになったはず。もしかしたら連絡が来ない可能性だって少しはあると思いたい。希望的観測だよなぁ。


「どっと疲れた」


「良く分かりませんが、お疲れ様です」


いや、全くと言っていいほど何も終わってないんだけど。取り敢えず花火を見ながら落ち着こう。というか、そうでもしないとやってられない。


「枝豆切れた~」


何も知らない佐伯先生に学園長の事をぶちまけたい。その後が怖くて出来ないけど。多少冷めた枝豆を報復として出しておこう。気にせず食うだろうし。


そして花火が終わってしまった。落ち着いて見るとは何だったのかと言う位、つまみの準備をしていたが。この人達がいると俺だけが働かされる。以前と変わらんな。


「来ないな」


花火が終わって暫く経つが学園長から連絡が来ない。もうこのまま来なくていいと思っていたが、無慈悲な着信が鳴る。


「ですよねー」


木下先輩はすでに帰り、大人組の飲み会も終盤に差し掛かっている。時間的にもうちょっとで深夜だからな。俺も片付けに精を出しているというのに。


「もしもし」


『やっと出てくれたか』


やっとも何も着信一回目なんだが。履歴を確認しても分かる通り、不在着信は無かったはず。この事から言えることは、酔っているな確実に。


「帰って下さい」


『釣れないことを言わないでくれ。夜はこれからだというのに』


俺はもう寝たいんだよ。精神的に色々と疲れているから。もうちょっとしたら大人組を黙らせるつもりでもいるのだ。有無を言わさず酒を取り上げれば解散の流れになるから。


「私に苦情を言うのは間違っていますからね」


『いや、今回の件については仕方ない。あの後に私も冷静に考えた結果だ』


だったら何故今連絡してきたとツッコミたい。


『そこで相談なのだが。どうやったら彼女の気を引けるだろうか』


恋愛相談は受け付けないって言わなかったか! 何で深夜に恋愛トークしないといけないんだよ。しかも俺がアドバイスを送る方とか絶対に間違っているだろ。


「貢げ」


テンションダダ下がりで口調が素に戻ってしまったが、俺は悪くないと思う。誰でもいいです、凄くお酒が飲みたいです。


『贈り物か。やはり花束が定番か』


「だから貴方の趣味嗜好で考えないでください。相手の事をもっと考えて物を決めてください」


花を貰って佐伯先生が喜ぶだろうか。貰った時は笑顔かもしれないが、その後の使い道で悩むのが目に見える。酒なら嬉々として貰って、その日に開けるだろう。


「大体あの後に誘ったんですか?」


聞き難かったので学園長にも佐伯先生にも聞いていないんだよ。だけどもういいや。相手の傷口に塩を塗るかもしれないが、突っ込んでやる。


『それを聞くのか。君は私にそれを聞くのか!』


「誘っていないんですね。分かりました」


学園長のボルテージが上がるほどに、俺のテンションは下がり続ける。すでに底辺を彷徨っているけど。


『立場さえ、立場さえ無ければ』


「部下を誘うようなものですからね。誰かに見られたら噂されそうですよね」


学園長という立場が邪魔しているという言い訳か。だが所詮言い訳だ。惚れているならその程度の障害を乗り越えて見せろよ。


『そこで何かいい案はないだろうか?』


「そこで私に振らないでください」


いい迷惑だ。前だって俺が企画したのに、何で次も俺が企画しないといけないんだよ。味でも占めたか。むしろあの場で次の機会を設けろよと言いたい。凄く言いたい。


「前の経験を活かして次は自分で何とかしてください」


『君は私を見捨てるのか』


「はい」


『……』


つい本音が出てしまった。何か項垂れている姿が容易に想像できるな。少しは反省しろ。そして砕けろ。さて、あとは何を片付けるんだったかな。瓶や缶は最後だな。


「おーい?」


反応がないので呼びかけてみたが、それでも反応がないな。心が折れたか、酔い潰れたのかどっちだろう。


『何か客から代わってくれと言われたんだが』


「……」


今度は俺が沈黙してしまった。心が折れたからって店員に代わるって何なんだよ。しかも凄く聞き覚えのある声だし。予想はしていたが、何で旦那さんの店なんだよ。


『もしもーし?』


「手渡したヘタレな人は何を考えているんでしょうね?」


『その声は琴音か? えっ、何でこれの相手が琴音なんだ?』


これ呼ばわりかよ。まぁ俺も下手に学園長とか声に出せないからいいけどさ。しかし旦那さんに俺は何を言えばいいんだ。


「色々と事情はありますが、知り合いだと納得してください」


『俺の勘が言っている。面白いことになりそうだから詳しく聞けと』


霜月家ー! お前らの勘は一体何なんだよ! 兄妹揃って厄介とか勘弁して貰いたい。妹さんもこれなのだろうか。少しでも希望を持たせてほしい。


『あっ、一応目の前の本人から許可取ったから』


「酔っぱらっている人の許可って信頼性ありませんよね?」


『大丈夫だ。妻にも話さないと誓おう。何となくだが話したら駄目な気がする』


危機回避能力もあるのかよ。万能すぎやしないだろうか。今更か。


「そうは言われても私から話せることはありません。詳しくは本人から聞いてください」


これで学園長が覚えてなかったら俺が原因になってしまう。退路は確実に確保しておかないと。こんなくだらないことで誰かに恨まれたくはないさ。


『ちっ、やっぱりそうくるか。簡単には喋ってくれないか』


「喋ったら色んな意味で大問題なので。それにしても本人は何をしているんですか?」


『寝た』


おい。丸投げして寝るなよ。そして自分のスマホをマスターに渡したままなのも問題だろうに。手渡したことも大問題だが。


『後で鎌掛けて聞いてみるかな。本人からならいいんだろ?』


「自己責任ですからね。ただし私をダシに使わないでくださいね」


『あいよー。それじゃ切るわ』


何と言うか不味い方向に転がっていないだろうか。俺がではなく学園長が。霜月家が協力者になったら絶対に面白い方向へと転がされると思う。綾先輩にばれたらそれこそ危ない。


「旦那さんなら大丈夫かな」


俺の勘だけど。守秘義務位守るだろうし。でも店の売り上げの為に協力するかもしれない。だけどそうなると旦那さんと佐伯先生が出会うことになるか。名乗らなければ大丈夫だと思うが。


「なるようにしかならないか」


全ては学園長次第。俺が関わるとしたら学園長が泣き付いてきた時だな。早々に起こりえそうで怖いんだけど。

さて、大人組を強制的に解散させますか。後の事は後で考えよう。

本編に過去ネタを匂わせてフラグを先に立たせれば大丈夫かと実験してみました。

結果はやっぱり無理でした。ネタの追撃は回避不能な模様です。

簡潔に言いましょう。

一挙放送の最終話だけ削除するとか鬼畜ですか! しかも録画した当日に!

母がやらかしました。理由を聞いてみた所。

「空き容量が足りなかったから一番上のを削除した」等と供述しております。

一番下の三か月前のウィンブルドンを消せと言いましたよ。

容量食っている原因はそれなのに。それを削除すれば映画二本は入るのに。

「連続ドラマの一挙放送で最終話だけ消されたら母ならどうする?」

「怒る」

それが今の私だぁ!と突っ込みました。母も天然系なので。

削除するなら全話削除してくれた方がまだ諦めつくのに。うぅ……

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