48.花火大会-前編-
また長くなったので前後編に分けました。
相変らず変な所で切っていますがご容赦ください。
48.花火大会-前編-
漸く始まった花火大会。会場から離れている為にアナウンスとかは聞こえて来ないな。でも花火が打ち上がったのが見えたから分かった。これで飲酒組が大人しくなるだろう。
「やっぱり高さが足りませんね」
「それは仕方ないと思いますよ。人混みに悩まされず、食事を取りながら見れるだけで十分です」
そう言って貰えると助かるな。打ち上げ系なら十分に見えるが、それ以外だとチョコッとしか見えない。多分屋上なら見れるだろうが、そうなると別の問題があるんだよ。
「部外者お断りだからね、屋上は」
茜さんの言う通り、屋上は住人以外は立ち入り禁止になっている。問題点が色々とあるのだと。第一に騒音。住人の友人知人を呼んでドンチャン騒ぎをした馬鹿がいたらしい。第二に安全面。花火に夢中になり過ぎて子供から目を離して危ない目に遭ったこともあったと。その為に自己責任となるべく屋上で見ないことが言われている。
「管理人さんが言っていることも分かるからね。屋上からの転落死とか洒落抜きに外聞が悪すぎるから」
「ですね。入居者の減少は死活問題でしょうから」
俺と茜さんで喋っているが佐伯先生が大人しいな。視線を向けると花火を肴に静かにお酒を飲んでいる。この姿だけを見れば大人の女性で素敵と思うのだが、脇に積まれている空き缶が全てを台無しにしている。
「仕方ない。部屋から追加持ってこようかな」
俺の部屋にあるストックはほぼ消えたからな。冷えているとなると茜さんの部屋にある分を持って来ないといけないだろう。恐らくあと一時間したら冷えるだろうが、絶対に我慢できないだろう。
「私も手伝いましょうか?」
「そうしてくれると助かるね。流石、私の嫁! 気が利くわね」
もう嫁発言については一切気にしないことにした。どうせ言った所で変わらないだろうし、強く否定すると泣く可能性もあるからな。ここら辺は勇実で慣れている。
「それに持ってくると言っても結構な量ですよね?」
「相手が相手だからね。質より量と言えればいいんだけど、質まで要求して来るから性質が悪い」
それは確かに。そして一番金の掛かる人とも言える。学園長が交際を始めたら財布扱いされなければいいのだが。
「こうやって茜さんの部屋に入るのは初めてですね」
間取りとかはやっぱり同じだな。違っていたらある意味で凄いと感心するが。それに意外と片付いている。多分、旦那さんがやってくれているのだろう。イメージ的に茜さんが家事を出来るとはどうしても思えないんだよ。
「失礼な事、考えているでしょう」
「いえ、全く。これぽっちも考えていませんよ」
相変らず勘が鋭いことで。しかしお酒専用の冷蔵庫があるというのは驚きだな。旦那さんの職業的にあり得なくはないと思うけど。うむ、全く憧れないな。電気代が掛かる。
「実はこれ以外にももう一台あるのよ。ある意味で金庫なの」
「金庫?」
「価値の高いものを入れているの。静君の貰いものなんだけど。ちょーと飲むのが気が引けるんだよね」
幾らのお酒なんだろう。興味はあるし、物凄く飲んでみたい。成人したら記念に飲ませてくれないかな。ノリで許可を出してくれると思うしな。その時の面子はかなり不安に思える。
「今回出すんですか?」
「出すわけないでしょ。ガバガバ飲むでしょ、静流は」
味わって飲むイメージが全然しないな。本当に質も望んでいるのか分からないほどに飲むからな。
「ほい、この袋に入れていこうか」
渡された袋にドシドシと缶や瓶が詰められていく。一時間でどれだけ飲むんだよ。今日持ってきたお酒は処理できるのだろうか。
……愚問か。全く問題ないだろう。
「よし、戻ろう」
両手に袋持って戻るのだが、知らない人から見たら何処の買い出しの途中だと思われる量だな。それも結構な人数での宴会だと。すみません、たった二人で消費するんだよ。
「というか、もう冷蔵庫に入りませんよ」
「大丈夫よ。流石に全部は飲み切れないけど、冷えたの出して、こっちを追加にするから」
俺の冷蔵庫が酒に汚染されていく。毎回初めて来る人が疑ってくるので面倒なのだよ。
「意外と静かですね」
「花火の時は静流も大人しいから。終わった後は決まって宴会だけど」
戻ってきたのにお酒と騒がない辺り、意外なんだよな。何よりもお酒が優先だと思っていたが風情は大事にするのだろう。まぁ周囲の風情はないが。
「んっ?」
スマホが鳴っているのに気づいたのはお酒を冷蔵庫に入れている時だった。掛けてきたのは勇実か。何の用なのやら。
『やっほー、元気~?』
「変わらずだな。で、何の用だよ?」
『もっと会話を楽しもうよ。それで、今暇?』
「暇じゃない。花火を見ている」
『ちっ、先を越されていたか』
当日に誘う時点で間違っていると考えたのは俺だけじゃ無い筈。多分酒飲んで勢いに乗った連中が俺の事を誘おうとか言いだしたのだろう。大体何処で飲んでいるのかすら知らんのに。
「予定を言え、予定を」
『私に予定と言う二文字は無い!』
「社会人としてどうなんだよ、それは」
駄目だ、随分と酔っぱらってやがる。花火が始まってまだ一時間も立ってないよな。何時から飲み始めているんだよ。そしてその場に未成年を呼ぶんじゃねーよ。
「大体何処にいるんだよ?」
『花火会場真っただ中で宴会中。もちろん周りを巻き込んで』
「大迷惑だな!」
何をどうしたら周りから同意を貰って騒いでいるんだよ。馬鹿じゃねーのか。いや、元から馬鹿か。
『今から来れば花火の最後位は見れるかなと思ったんだけど』
「意味ねーから」
何で花火の最後だけ見に行かないといけないんだよ。予定が無くても行かないぞ。
「面子はいつものか?」
『プラス、マネージャーも誘っているよ。まだ琴ちゃんは会ったことないよね?」
「ないな」
苦労を背負っている人か。確かに一度は会っておきたいと思っている。主に精神的な疲労で体調は大丈夫なのかと心配の方で。
『お酒入るとマネージャーは性格変わるからさ。いやぁ、凄い楽しいよ』
大丈夫なのかよ、その人。ストレス解消で大騒ぎとかじゃないだろうな。仮に行ったとしても事後処理とか全部俺の担当になるじゃないか。絶対に行きたくない。
「少しはお前らも抑えろよ」
『年に一度の花火なんだから楽しまなきゃ損じゃない。来年は一緒に見に行こうよ』
「来年も私は未成年だから断る」
『えぇー。つまらないなぁ』
見終わってから居酒屋に行って飲み直すのがいつものパターンじゃないか。誰かに見られたらどうするんだよ。ただでさえお前らは有名人なんだから問題を起こすわけにはいかないだろうに。今も問題だらけだが。ストッパー不在なのが痛いな。
「成人してから誘え。未成年で酒飲みの席は色々と不味いだろ」
『世間の目が厳しいものね。やっぱり部屋飲みが一番だね』
いい笑顔でグッジョブしている姿が浮かんだ。多分間違いないと思う。周りは一体何をやっているのだろう。最近のスマホは周囲の音を拾わないから全然分からんな。
『琴ちゃんは何処にいるの?』
「部屋で花火見ながら飯食っている。あとは知り合いが飲んでいる」
『よし、来年の場所は琴ちゃんの部屋だ!』
「断る!」
『いけず~』
苦労を背負うのは俺なんだからな! お前ら四人が来たら誰が料理すると思っているんだ。俺は誰一人として料理についてお前らを信頼していない。一昨年の冬に行われた恐怖の闇鍋イベントは忘れられん。
『おっ、何か動きがあったから切るね~』
その言葉と共に本当に切りやがった。動きって何だよ。凄い気になる切り方しやがって。周囲で何かあったのか、それとも前の話にあった一とマネージャーの関係で何か進展でもあったのか。後で聞けば嬉々として話してくれるだろう。話聞くだけなら面白いからな。当事者はご愁傷さま。
「友達?」
「そんな所です」
茜さんに曖昧に返しておく。多分だが同い年位だと思っている筈。年上には敬語を使っているのに、勇実達には敬語で話す気が起きないんだよな。前からの付き合いの所為だろう。
「着実に気を遣わない友達を増やしているようで、お姉ちゃんは安心だよ」
嫁に加えて姉妹設定まで盛ってきたか。もう俺が茜さんの何なのか分からなくなってきたな。共通しているので家族といった所か。
「今だと立場も家柄も気にしていませんからね。まぁ前はそれ以前の話でしたけど」
家柄も釣り合っていて、性格も問題ない子もいた。ただそういったのとも距離を置いていたからな、琴音は。おかげでその子が何かしらの被害を被ることもなかった。彼女なりの優しさだろうか。もうちょっと言動がまともだったら良かったのだったが。あの子は元気なのだろうか。
「本当に前の琴音は悪い子だったの?」
「悪い子と言うか目的が一つしかなかっただけです。ただその目的が絶対に叶わないことだと理解しようとしなかった。それだけです」
父親大好きを本気で突き進んでいたからな。全く見向きもされなかったというのに。誰かが指摘しても絶対に聞く耳を持たなかったのも事実。要は自業自得だ。
「変われたならいいじゃない。今はその目的を遂行しようとは思っていないのでしょ?」
「無駄な努力はしない主義です」
絶対に報われないからな。むしろ上流階級に戻りたくない。庶民生活の方が気が楽だ。世間の目を気にして色々と擬態しないといけないのはかなり疲れる。
「琴音、鳴っているよ」
鳴っていますね、スマホが。何で花火が打ち上がっている最中に連絡入れてくるのやら。何となく妨害されているような気がしてきた。被害妄想だけど。
「何の用ですか、綾先輩」
『裏切者~』
声に力を感じるな。そんなに嫌なのかよ、その場所は。状況も込みで。
「別に裏切っていません。私はそこにいる資格がないだけです」
『分かっているけどさ。愚痴も言いたくなるわよ。全然花火が見れないし、楽しくない!』
「楽しむような場ではないですからね」
花火が見える場所は大体大人によって占拠されており、近づけば話しかけられる。花火に視線を向けると相手に失礼となるので全く見れない。あと気も休まらない。
『だから楽しく見ている邪魔をしようかと』
「性格歪んでますね」
『はっはっは、まともに見れると思うなよ!』
「切りますよ」
『ごめんなさい。もう少し私の愚痴を聞いてください。こういったことを喋れるの琴音位だからさ』
大変素直でよろしい。鬱憤溜まっているのがよく分かる。
「木下先輩でもいいじゃないですか。愚痴なんて幾らでも聞いてくれますよ」
『さらりと売ったわね。だけど私の現状を知っているのって琴音位じゃない。あとは私の本性を知っているのも』
知ろうとは全く思わなかったんだけどな。勝手に綾先輩が暴露しただけなのに。何で巻き込まれたのかさっぱり分からん。
「まぁそっちの状況は知っていますけど。私だったら絶対に参加したくないですね」
『断れないのが痛いのよねぇ。十二本家は基本的に全員出席扱いだから。仮病使って休みたくもなるけど』
「それはばれた後が大変ですから使えないんですよね。失礼どころの話じゃないですから」
本当に面倒臭い世界だよな。そう言えばそっちでの俺の扱いって今だとどうなっているんだろう。ちょっとは気になるな。
後編もどうか宜しくお願いします。