45.過去は唐突に-後編-
親戚が泊まっていたので書けませんでした。
こういう時、共用は不便です。
45.過去は唐突に-後編-
おかしい、休憩時間のはずなのに全くと言っていいほど気が休まらない。原因は分かっている。こいつらの相手をしているからだ。
「何だ~、そういう話し方も出来るんじゃない。イケずだなぁ、琴ちゃんは」
「誰の所為でこうなったと思っている。あと、琴ちゃん言うな」
出会って数分で愛称を付けるとかどれだけ勇実は琴音の事を気に入ったんだよ。中身が俺だと気付いている筈はないが、同一視している可能性はあるな。
「いいじゃん、いいじゃん」
「さっさと会計済ませて帰れ。休憩時間中だって最初に言ったよな」
敬語を使うのも面倒臭くなった。どうせ再度使ってもまた催促されるのが目に見えるからな。だからもう客として扱わん。
「店長さん、珈琲四つお願い!」
「人の話を聞けよ……」
去る気が全くないということは分かった。そして店長も準備を進めるあたり、こいつらがいることを許可するのだろう。多分、対価はサイン色紙かな。
「やべぇ、性別と容姿以外瓜二つじゃないか」
「普通、客に対して帰れとか言わないよな」
はいはい、そうですね。中身が一緒だから言う内容も前の俺と一緒だよな。別に隠すつもりもない。だけど明確に総司であるとは明言しない。したところで信じて貰えるとは思っていない。いや、こいつ等なら信じそうだな。
「で、何で帰らない? 会議の途中なんだろ」
「時間にまだ余裕はあるからね。あとは昼食の恨み」
何処から来たのかは分からないが、戻るのにそこまで時間は掛からない場所なのだろう。だけど昼食の恨みって、マネージャーだって知らなかったんじゃないか。
「マネージャーは趣味嗜好の把握出来ていないのか?」
「前から付いていた人と代わったばかりだから。私達のことまだ完璧に把握していないのよ」
「何で代わった?」
「お前らに付き合うのは疲れる。マジで勘弁してくれと言われたね」
笑いながら言うなよ。どれだけの迷惑を掛けたら愛想尽かされるんだよ。そして新しく担当になった方。ご愁傷様です。
「あんまりだよねぇ」
「いや、納得だ。はい、珈琲。あとこれにサイン宜しく」
色紙を二枚ほど渡しておく。一枚が香織用で、もう一枚が店内用だろう。
「よっしゃー、琴ちゃんの為に気合入れて書くよ」
「普通に書け」
お前が変な気を回すと面倒臭い事態に繋がるから止めてほしい。
「折角だからメンバー全員で書こうか」
一人が書いたら次の人へと回していく。サインを書いている様子を見ていると本当にこいつ等は有名人なんだなと思うのだが。如何せん性格に難があるからな。
「ほいさっさー。これで完成だね。大事にしてよね」
「伝えておく。店長、何処かその辺に飾る程度でいいですよね?」
「扱い雑!?」
額縁に入れるほどの価値があると思っているのか。香織がどのように保管するかは分からないけど。一応、メールで知らせておくか。
「ねぇ、琴ちゃん。ちょっと確認だけどてっちゃんに行ったことってある?」
「知人に連れられて行ったけど」
琴ちゃん呼びは治りそうになさそうだな。それにやはりと言うべきかてっちゃんの店長から何かしらの話は聞いているな。俺に似ている奴がやって来たとか何とか。
「やっぱり琴ちゃんだったか。まぁこんなに似ている人が沢山いても変だよね」
「その総司と言う人の性別は男性だよな?」
「そうだよ。女性で総ちゃんに似ているというもの変だけどさ。外見以外がそっくりなんだよね」
「私は喜べばいいのかな? それとも悲しめばいいのかな?」
「「「喜べ」」」
「言うと思ったよ!」
普通なら絶対に喜べない。男性らしい女性って一体何なんだよ。それとも前の俺が女性らしいと言いたいのだろうか。それはそれで怒るぞ。
「琴ちゃんって何歳?」
「十七歳」
「別にサバ読まなくていいよ。変に思ったりしないから」
「本当に十七歳だから」
「「「嘘だ!?」」」
お前ら本当に失礼だな! そんなに年取っているように見えるのかよ。その前に居酒屋に行っていたことに突っ込めよ。
「一さん、あんたも突っ込めよ。私一人じゃ無理だから」
「いや、楽だなと思って」
お前が楽してんじゃねーよ! 部外者の俺に全部押し付けるな。確かに俺がいなくなってからお前一人で突っ込み役していたのは分かる。だからって初対面の人にその役を渡すな。
「最近の女子高生って大人びているんだね」
「琴音ちゃんが特殊なんじゃないか?」
よし、新八。裏に回れ。ボコってやるから。お前らで大概のことに耐性が出来て、あまり動じないんだよ。それが反って年齢上に見られている原因でもあるんだからな。
「女性に嫌われそうだな、新八さん」
「あっ、やっぱり分かる?」
勇実が同意してくれたが、新八がモテないのは事実なんだよ。毎回相手に告白するときに「俺の為にカレーを作ってくれ」とか訳分からん事ほざいているからな。
「既婚者何人なんだ?」
「歳三だけだね。私も新八もそういうのの影もないから」
「一さんは?」
というか歳三よ。お前はもっと会話に参加しろ。同時に喋る時だけ声を発するのはどうかと思うぞ。だからまともに見られるのだが、ノリがいいのは知っている。
「私から言わせれば新しいマネージャーとさっさと付き合えだね」
「リア充が」
「新八さん。醜い」
嫉妬する位ならもうちょっと言動に気を付けろよ。顔だって悪くないんだから、まともになれば比較的簡単に彼女出来るんじゃないか。
「お前らの所為で俺が頼られているんだよ。俺がどれだけ苦労していると思っているんだ」
「もうマネージャーさんにハリセンでも持たせたらどうだ?」
前はハリセンを使ってお前らの事をシバき倒していた俺がいうのだから説得力はある。口で言った所で止まらないのだから次に来るのは直接的な行動だろう。
「あれに総司と同じような役目を与えるのは酷だと思う」
「どれだけ酷いんだよ」
知っているけど。暴走するのを察して事前に潰しておかないといけないからかなり大変なんだよな。その役目を付き合い短い子に求めるのは確かに酷だ。
「もう琴音がこいつ等の管理をしてくれよ」
「断固拒否する。それに私はまだ学生なんだから就職はまだ先」
「なら就職先を斡旋するから来てくれ。かなり真面目に」
「だから何で初対面の人物にそういう話をするかな?」
「「「「親しみやすいから」」」」
多少嬉しく思ってしまった俺が恥ずかしい。というかこいつ等本当に変わっていないな。ただ誰にでもズケズケと物を言うのは直せ。トラブルの元だから。
「両親の許可が取れたら考えておく。まぁ無理だろうけど」
「くそ。これで一般人なら引っ張ってでも連れて行くというのに」
「それは誘拐になるからな」
やっぱり一も頭のネジが一本位抜けているな。有名になっている人物が誘拐なんてしたら一発でアウトだぞ。
「でも学生でアイドルって結構いるよね?」
「勇実さんも話を戻すな。両立させるのがどれだけ難しいか分かって言っているのか?」
「そりゃそういう人達を見ているから分かるけどさ。琴ちゃんなら普通にこなしそうだからさ」
「過度な期待は止めて貰いたい」
出来る訳がないだろ。芸能活動して、学園での生活してとなると生活リズム完璧に崩れそうだ。スケジュール管理だって大変なことになるし。日課なんて出来そうにもない。
「そもそも家柄で無理なんだよ。そこを解決できない限り参加するのは無理」
「なら私が直接親御さんに直談判しに行く!」
「来るな!」
問題の種を蒔こうとするな。
「冗談、冗談」
「勇実さんが言うと全く冗談に聞こえない」
「それは確かに」
一も同意するならこいつを止めろ。どう考えても今の状態はタガが外れたようなものだろ。何でこうなるまで放置した。
「思うんだけど、よくこれで活動出来ているな」
「いや、こうまで暴走しているのはかなり珍しいぞ。バンド組もうと言った時も大概だったがそれ位か」
変わった原因としてはやっぱり俺が死んだことかな。自惚れかもしれないが勇実にとって俺は生活の一部になっていたと思う。伊達に幼稚園から一緒じゃないからな。
「というかここまで喋っておいて何だが、総司について聞かないんだな」
「何となく察しているから」
それだけ親しい人物が一緒じゃないという時点で大凡の人は察することは出来るだろ。一緒に居れなくなった理由があるか、死んだか。
「だからって聞かないのも不自然に思えるんだが。本当に総司と付き合いは無いんだよな?」
「その人がどのような人か分からないけど、下手したら中学生と付き合いがあるというのはどうかと思うぞ」
「だな、補導ものだ」
「そんなの私が知ったらぶん殴って矯正しているよ」
お前に殴られるようになったら俺も終わりだったな。俺が突っ込んでいる方が断然多かったから。
「おっ、マネージャーから連絡来たな」
「あら~、休憩時間終わりかぁ」
俺の休憩時間も終わりそうなんだよな。しかし今から向かってこいつ等、会議に間に合うのか。
「もしもし」
『皆さん何処にいるんですか~。探す身にもなって下さいよ~』
何故にスピーカーにしているんだよ。あと、マネージャーさん泣き入っているぞ。お前ら行先位伝えておけよ。
「ごめんごめん、椎名ちゃん。これから戻るからさ」
『ちゃんと間に合うような場所にいるんですよね?』
「……」
おい、何で沈黙するんだよ。それに全員スマホから視線を外すなよ。絶対に間に合わないのが目に見えている。
『あの~、皆さん?』
「勇実に付いていったのが原因だな。悪いが遅刻する」
『えぇ~』
「いや、お前ら全員同罪だからな。ちゃんと謝っておけよ」
一の発言には俺も突っ込むわ。幾らなんでもマネージャーさんが可哀そう過ぎる。相変らず予定を考えないで動くな。
『何方かと一緒ですか? 騒ぎとか起こしていないですよね!?』
「お前ら、信用ないな」
「過去の積み重ねだね」
誇るなよ。反省しろよ。そして迷惑掛けた数々の人達に謝罪しろ。もちろん一番最初に謝罪するのは俺の墓石にだ。
「飯食って駄弁っているだけだから大丈夫だ」
『すみません。一さんの言葉でも信用できません』
「救いようがないな、お前ら」
「過去の積み重ねだね」
「それは聞いたからもういい」
相手するのが面倒臭くなってきた。話してないでさっさと向かった方がいいんじゃないか。
「お前ら、行けよ」
『誰だか知りませんが、ありがとうございます』
「苦労してそうですね。貴女も」
『先輩から押し付けられたのですが後悔しています。というか早く来てください!』
「はいはーい。今から向かうから時間稼ぎよろ」
『急ぐ気ないじゃないですか!』
本当に苦労してそうだな。あと時間稼ぎしても遅刻している時点で駄目だからな。
「それじゃ名残惜しいけど出よっか」
「さっさと仕事しに行け」
「あっ、最後に琴ちゃんのアドレス教えてよ」
「だから初対面の人に言う言葉じゃないよな」
もうちょっと警戒心とか持てよ。有名人なんだから不用意に連絡先の交換なんてするな。
「気に入ったんだからいいじゃない。ほらほら、教えてよ~」
「俺も俺も」
新八もかよ。それに他の連中も教えて欲しそうに見てる。別に教えることに不安はない。こいつ等が信用できる連中であることは分かっているからな。
「全員に送るの面倒だから書くか。登録したら絶対に破くか燃やせよ」
「なら俺が預かっておくか。他の面子だと普通に捨てるか、何処に仕舞ったか忘れそうだからな」
一ならいいか。他の連中だと言ったことを本当にしそうだからな。勇実だけは絶対にダメだ。持って帰って無くすなどいつものこと過ぎる。
「よっしゃ! 女子高生のアドレスゲット!」
「通報しておくか」
「ひでぇ」
相変らず新八の発言が問題だらけだ。というか本当にツッコミを俺に任せるなよ。あと歳三、喋ろ。
「ほら、マネージャーをこれ以上困らせるなよ」
「じゃあお仕事頑張ってきまーす」
家族に行ってきます言うように去って行った。何でこんなあっさりと再会したのか全然分からんな。それに休憩時間が丸々潰された。どっと疲れたぞ。
「何か意外だな」
「何がですか、店長」
「いや、普通他人と同一視されたら不快感とか感じないか?」
「私は全然気になりませんでしたね」
同一視云々と言うより中身が本人だからな。不快感も何も感じるはずがない。むしろあいつ等が変わらずに元気だった姿を見れて嬉しく思った位だ。ウザさも変わらなかったが。
「琴音がいいならいいけどな。それにしても琴音のスマホ、失くせないな」
「そう言えばそうですね」
最初は白紙同然だったというのに大分増えてきた。だけど登録されている人達が偉い人物だったり、有名人だったりと悪用されたら不味い人達も増えたな。
「取り敢えず香織に連絡しておくか」
何か急いで戻るとか送られてきたが、結局間に合わなかったな。でもまたあいつ等は来るだろう。それも休憩中を狙って。今度は店長に何を渡して居座るのだろう。
『もうちょっとだったのに』
返信が早いな。もうちょっとということは喫茶店の近くまで来ていたのだろう。どちらにせよ、来たとしてもすぐにあいつ等は帰っていただろう。一目は見れるかな。
あとは何事もなくバイトは終わった。というかあんなことが早々あってたまるか。あいつ等以外の再会となると次は家族になるからな。
『From:一より。今日は済まなかった。全員テンションがおかしかったから』
夜に一からメールが送られてきた。その後に続々と他の連中からも送られてきたが全員が謝罪の内容ばかり。やっぱり初対面の人に対して同一視したのは不味いと思ったのだろう。まぁ来るとは思っていたけどな。
悪い奴らじゃないのは知っている。だから俺も俺らしく返信しておこう。その方があいつ等もあまり気にしないだろう。
『だったら自重しろ。馬鹿野郎ども』
『『『『サーセン』』』』
まだ一緒に居るんだろうな。明日はライブだから結構打ち合わせが長引いているのだろうか。でも強引に誘われなくて良かった。バイトとして来ないかと言われても、あいつ等なら強引にステージに上げられそうだからな。
さて明日のライブについては香織から後で聞いておくか。何をやらかすやら。
親戚が泊まっていたのはお葬式の為です。
筆者の葬式ではなく、近所の親戚が亡くなったからですね。
そして投稿しようとコピペしようとしたら全選択してからキーを間違えて書いた内容真っ白。
筆者の頭の中も真っ白になりました。
焦っていたので変更を保存しますかでエンターキーを誤爆。救いようがありません。
期間が空いた理由はこんな所ですね。