39.勉強と事情
ネタの歳末セールなんていりません!(筆者、心の叫び)
39.勉強会と事情
疲れた。精神的に凄く疲れた。綾先輩、下の名前で呼んでくれと言われたので構うのが面倒になったのでそうした。綾先輩の要望を叶える為に野菜炒めを作ったら三組の人達が群がって来た。遠慮と言う言葉はどうやらあのクラスにはなかったようだ。それを捌きつつ片付けていたら昼休みが終わった。もうあのクラスと関わりたくないと本気で思ったぞ。
「疲れているなら今日は止めようか?」
「いえ、時間が限られていますから休んでいる暇はありません」
現在は図書室で霧ヶ峰さんと一緒にテスト対策を行っている最中。時間が足りないのは事実なんだよな。テストまであと二週間。五教科のテストだから一教科辺り三日も掛けられるだけの時間がない。一日たりとも無駄には出来ないのだ。
「三年三組があれほど厄介だとは思いませんでした」
「特殊なクラスってことは聞いているわね。どうしてそんな所に霜月家の人がいるのか不思議だけど」
あの人が根本的な原因だからだよ。ただ本人がクラスの人達に口止めしている為に情報の流出はしていないらしい。何をどうしたら完全な流出防止が出来るのやら。
「霧ヶ峰さんから見て、霜月綾先輩はどう思いますか?」
「物静かな人で常に人から一歩引いて物事を見ていると思うわよ。これは全校生徒の総意じゃないかしら」
うん、それは俺も思っていた。それが擬態だったなんて。今からあの人の擬態を見たら絶対に胡散臭く見えるな。
「あら、琴音さん。テスト勉強中ですか?」
「ひっ!?」
もっとも聞きたくない声を真後ろから掛けられて反射的に悲鳴が漏れてしまった。何でいるんだよ!?来た時は受付にいなかったじゃないか。もしかして整理に出ていたのか。
「霧ヶ峰さんも御機嫌よう。勉強は捗っていますか?」
うわぁ、見事な擬態だな。柔らかい微笑みと相手を安心させるような声音。だけど真実を知っていると全てが胡散臭く思える。実際にその声音で扇動させていると思うと警戒してしまうな。
「は、はい。如月さんから見て貰いながら進めていますから」
実際にはまだ教えていないんだけど。聞いてこないからこちらから声を掛けられない。これも改善しないといけないな。
「琴音さん」
綾先輩が霧ヶ峰さんから見えない位置で下を見るように手で合図している。先程からスマホが震えているのだが、一体何を送って来たんだよ。
『胡散臭いと思っているでしょ』
人の心を読むなよ!机の下に隠すように確認するとそんなメールが送られてきていた。どうやってメール送って来たんだよと思ったら死角でスマホを弄っている。よく液晶見ないで正確に打てるな。いらない才能満載の人だよ。
「でも琴音さんと霧ヶ峰さんが親しいとは思いもしませんでした」
「色々とありましたので」
あれだけ大っぴらにやらかしているのだから俺と霧ヶ峰さんの関係が悪いのは周知の事実となっている。勉強している此処もあまり他の人達から見えない場所を選んだ。関係の悪い二人が一緒に勉強しているのを見られたら変に思われるからな。
「あっ、邪魔をしてしまいましたね。それでは失礼します」
『後で詳細よろ』
「霜月先輩も委員会のお仕事頑張って下さい」
『嫌です』
しつこく連絡先を教えろと迫られたので教えてしまったが、今だと後悔している。表の会話と裏のメールで整合性が取れていないのは仕様だな。
『いいよ、薫に聞くから。それじゃまた明日ね~』
木下先輩逃げてくれ!そして嵐が去っていった。といっても図書委員だからまだ中にはいるだろうが、言った以上接触はして来ないだろう。
「疲れる……」
「霜月先輩と知り合いだったの?」
「会話が成立したのは今日が初めてです」
いや、成立なんてしていなかったな。ただ俺が振り回されていただけだった。もう蹂躙されていたよな、精神的に。だからあの人の相手は疲れるんだよ。
「参考までに聞くけど、如月さんは他の十二本家何人と知り合いなの?」
「葉月、霜月、文月ですね。卯月とは一悶着ありましたし、長月には嫌われています」
流石に皐月とも付き合いがあるとは言えないよな。でも整理してみると半数と何かしらの接触していることになるんだな。よくもまぁ半年も経たずに色々とあったよ。
「私は、何という人に喧嘩を売ったの……」
滅茶苦茶後悔しているな。気持ちは分かるよ。十二本家数人とでも親しいのであれば、自分がどれだけ愚かなことをしたかを理解したのだろう。だけどそれを俺が利用するつもりはない。逆に他の人達が報復するようなことも許さない。
「どうでもいいことじゃないですか」
「ど、どうでもいいって。それを利用しようとは思わないの!」
「図書室では静かに」
折角、あまり人目に付かない場所を選んだのだから。
「私が関係を利用したら、あの人達は私の事を切り捨てますよ。それどころか逆に利用されると思います」
皐月なんて共倒れも良い所だ。文月は多分やろうと思えばできるが、小鳥を利用するのは良心が痛いな。葉月と霜月に関しては、あんな危険物利用するのが馬鹿だ。
「それよりだったら楽しく、良好な関係を築いたほうがいいじゃないですか。今だからこそと全力で楽しんでいる人達もいますけど」
会長がもっともな所だろうな。あの人は次期当主が確定している。だから柵のない今を全力で楽しんでいるのだろう。だけどそれに巻き込まれる俺達は堪ったものじゃない。
「ほら、手が止まっていますよ。それと悩む位でしたら聞いてください。本当に時間は足りないのですから」
「わ、分かったわよ」
悩んで理解するのはいい。だけどそれは時間がある場合だ。今回の場合は短期間で理解しないといけないから、まずはどうすれば答えに辿り着けるのかを優先しないと。もちろんその後のことも考えている。
「それにしても如月さんは変わり過ぎよ」
「よく言われます。あと琴音でいいですよ。さん付けも必要ありません」
年齢も同じなのだから気を遣われる謂れもない。もっと気楽な関係を築こうよ。別に俺が偉いという訳ではなく、先人が築いた如月家が偉いんだから。
「ならそうするけど。公の場だったら今まで通り呼ぶわよ」
「それは仕方ないですね。それでいいですよ」
俺がそういった公の場に出ることがあるとは思えないけどな。自分で出る出ないを決める前に、父が全部断るだろ。
「それじゃ琴音。ここなんだけど」
「そこは」
あとは普通の勉強会になったな。綾先輩がちょっかいを掛けてくることもなかったし。本当にあの人が関わってくると俺にとって惨状となるから勘弁して欲しい。
そして勉強会終了して部屋へ帰宅している最中にメールの着信に気づいた。
「木下先輩からか。何だ?」
『ごめんなさい。守れませんでした』
うん、知ってた。やっぱり綾先輩の攻勢を止めることなんて出来なかったか。項垂れつつ帰路を進む俺だった。
平日の勉強はずっと霧ヶ峰さんの相手をしていたが、休日に入って喫茶店にやってきたら予想通り香織が泣き付いてきた。全く、もうちょっと早く頼んでこないものかな。あと一週間位しかないというのに。
「今日知り合いが来るから一緒に勉強していて。私は暇を見ながら教えるから」
「感謝感謝。知り合いと言うことは宮古?」
「違う。色々な縁で知り合った人だ。だけど会っていきなり食って掛かるのは止めろよな」
「誰よ?それ」
疑問に思うのはもっともだが、それに答える時間はなくなったな。営業を開始したのだから俺は仕事を始めないと。サプライズとして選んだのだが、香織の反応を予測していなかった俺が悪かったな。さてどうなるか。
「いらっしゃいませ」
「……何をやっているの」
いつもの営業スマイルで出迎えたら凄い疑いの眼差しを向けられたな。
「見ての通りここで働いているのですが」
「いえ、そもそも如月のお嬢様が何で喫茶店で働いているのか理解できないんだけど」
「働かないと食っていけないのは何処でも一緒ですよ。席はあちらになります」
事前に店長へお願いして席を一つ確保している。香織も勉強会に参加するだろうと喋ったら快く承諾してくれたのだが。今までの成績が気になる所だな。
「答えになっていないわよ」
「誰にも言わないと約束してくれるのなら教えますが」
「喋らないわよ。借りもあることだし」
本音で言えば喋った所で俺は全く気にしないんだけど。別に今時の女子高生が一人暮らししているのなんて珍しくもない。厄介な輩が近づいてくる可能性があるという危険性はあるな。特に名前が売れていると。
「一人暮らししているので金欠です。働いて稼がないと生活苦なのですよ」
「は?」
席に着きながらポカーンと口を開けている姿は非常に間抜け顔だな。これが当たり前の反応なんだけど。社交界にまで出ていたお嬢様がアルバイトをしないと生活できないとか考えられないよな。そうなっているのが俺なんだけど。
「えっ?あの噂、本当だったの?」
「別に絶縁状態じゃないですよ。母とは連絡取っていますし、妹弟との関係は良好ですから」
卯月が信じ込んでいた琴音が如月家から追い出されたという噂。やっぱり結構有名なんだな。それを信じる信じないは人それぞれだけど。
「注文はどうしますか?」
「じゃあ紅茶。でも琴音が働いていたら教えて貰うことは出来ないんじゃない?」
「何のために私がノートを貸しているのですか。それに暇を見て教えに来ますよ」
勉強会の後に家で復習する時に使うだろうとクラスメイトに見せたノートを渡している。それを参考に家で勉強するように言ってあるからな。俺がいなくてもある程度は大丈夫だろう。
「琴音、どういうことよ?」
「ん?」
呼ばれて振り返ると勉強道具一式を抱えた香織が険しい顔つきで立っていた。あぁ、こっちの反応も予想通りか。
「何でそいつが普通にそこにいるのよ」
「私が勉強を教えているから」
「だから何で琴音がそいつに勉強を教えないといけないのよ!」
「利害の一致という所かな。あと店内ではお静かに」
店長が睨んでいるぞ。だけど店長も香織から事情を説明されれば何と言ってくるか。ミスったな。喫茶店に呼ばない方が良かったかもしれない。だけどそうなると霧ヶ峰さんか香織のどちらか選んで勉強を教えないといけないんだよな。
「あんたもあんたよ。散々琴音に嫌がらせしておいて図々しく勉強を教えて貰うなんて何を考えているのよ」
「それは……」
「香織ストップ。取り敢えず頭冷やせ」
持っていたおしぼりを香織の額に押し当てる。直接やった所で冷えないだろうが気分の問題だ。まずは落ち着いてもらわないと話が進まない。
「霧ヶ峰さんとは和解したんだよ。勉強教えているのは彼女が成績上位に入らないと不味い状況に私が追い込まれるから」
「不味いってどれだけなのよ?」
「幽閉されるレベル」
「ごめん、私の理解が追い付かない。何で成績一つでそういう状況に置かれるのよ」
詳しく説明しないと駄目だな。
「店長、ちょっと時間下さい」
「開店直後だからいいぞ」
時間を貰ったので早速あらましを香織に説明する。綾先輩についてはカットだ。あの人の説明なんて俺に出来るはずがない。
「何というか琴音の事情って複雑だね」
「私としては普通に生活したいんだけどな。だけど家柄が付いてくるから」
「難儀なものだね。それじゃ霧ヶ峰さんに聞くけど、もう琴音にちょっかいを出す気はないんだよね?」
「むしろ色々と話を聞いて過去の自分を殴りたいです。あのままですと破滅に向かっていたから」
嫌がらせをする度にどれかの十二本家の好感度ダダ下がりだからな。今の状況が更に悪化するのは分かり切っている。その前に気付いて良かったなというところか。
「琴音が許したんなら私が言うことは無いかな。で、勉強だっけ」
「それが目的で来て貰ったんだからな。香織も一緒にやればいいだろ」
「ま、割り切るしかないよね。私も教わる立場だし」
「あの、先程から気になったんだけど。琴音の喋り方について」
「これが素。こっちの方が気楽なんだけどな。やっぱり対外的な問題があるから」
この喋り方で最初から接していたら本当に整形した別人と思われても不思議じゃないからな。でも今のクラスだと割と順応しそうだと思ってしまう。
「頭が混乱して来た」
「んー、私はもう慣れたけど。そんなに違うの?」
変わる前の琴音と接触していないからな、香織は。社交界でも琴音の姿を見ていた霧ヶ峰さんはかなり違和感を感じているんだろう。すいませんね、こんな中身で。
「ほら、勉強をしろ。時間ないんだから」
俺もいつまでも喋っている場合じゃないから。お客さんが入店してきているから、そっちの対応をしないと。取り敢えず仕事しながら様子を見ていないと。喧嘩したら目も当てられないから。
PSvitaを起動してアトリエをやろうとしました。
・コンテンツ利用にはメモリーカードが必要です。
あれ?抜いた覚えたないけど。取り敢えず抜き差しして再起動っと。
……全データはサンタさんに盗られたようです。
「ハッピーメリークリスマス」(幻聴)
全然ハッピーじゃないんですけどぉ!
前書きにも書きましたがネタはこれだけではありません。
ですが割愛します。流石に何個も書くのはあれですから。
そして、これは後書きとしていいのかなと真剣に悩んでいました。