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36.もう一つの舞台-前編-

今回、長くなりすぎたので前後編で分けました。

後編も同時に投稿しますが、変な所で切ってしまって申し訳ありません。

切る場所が判断付かなかったので。

36.もう一つの舞台-前編-



今日は食事会の調理を行う日。ホームルーム終了後に一旦生徒会室に集まるように言われたので、顔を出すと全く予想していなかった人物がそこにいた。


「どういうことですか、会長」


「学園長が連れてきたんだよ」


生徒会室で黙って立っている人物。それは球技大会でも俺の邪魔をしてきたあの子。名前は知らない。知っているのは学年と一組の人であることだけ。その人物が何故生徒会室にいるのか全然分からない。


「どうかしたのですか、琴音さん」


「いえ、私にも何が何やら」


遅れてやって来た木下先輩も俺へ尋ねてきた後に彼女を見つけて、怪訝そうな顔をして会長を見る。うん、何かをするとしたら絶対に会長だと思うよな。


「今回の件は僕も知らないことだよ」


「そうですか。それは失礼しました」


困ったように笑う会長だが、日頃の行いが悪い所為だから諦めろよ。それにしても何で学園長は彼女を連れてきたのか全然分からんな。


「私は学園長から生徒会の活動内容を見るように言われただけです」


ふむ、それなら納得はできるかな。彼女が俺の事を恨んでいるのは自分が俺よりも優秀であると思っていると聞いているから。だから俺の働いている姿を見せれば彼女も考えを変えるのではないのかと思ったのだろう。だが問題がある。


「何でよりによって今日にしたのでしょう」


木下先輩の言いたいことは俺にも分かる。今日は生徒会の仕事はない。俺と木下先輩がやるのは明日の食事会の下準備をするためだ。普通の仕事とはいえない。


「間が悪いよねぇ」


笑っている場合じゃないぞ、会長。期末テストも近づいてて生徒会自体の活動も自粛している最中なんだ。そうなると彼女は毎日生徒会室に来ることになるんだぞ。空気が重い。


「それじゃ自己紹介をどうぞ!」


相変らずテンション高いな、会長。そんな様子に彼女も若干引いているぞ。


「二年一組の霧ヶ峰切羽です。宜しくお願いします、葉月会長、木下副会長」


俺のことは無視ですか、そうですか。こちらに全然視線を合わそうとしない辺り徹底しているな。それにしても霧ヶ峰ね。何か琴音の記憶にあるんだよな。何処かの会社の名前だな。ということはこの子も良い所のお嬢様かな。面識ないからサッパリ分からんが。


「それで本日はどのような活動を行うのですか?僭越ながら私もお手伝いをします」


「料理です」


「は?」


「ですから料理と言ったのです」


何か木下先輩の声が固いな。何か気に障るようなことでもあっただろうか。俺はいつものことなので全く気になることは無い。だから黙っている。


「会長、材料の方は大丈夫なのですよね?」


「家庭科室に運び終わっているはずだから大丈夫。じゃあ早速行こうじゃないか」


事態の進行に追いつけず置いてけぼりの彼女を盛大にスルーしながら会長と木下先輩は生徒会室を出る。ハッキリ言ってこの程度で思考停止していたら生徒会でやっていけないぞ。ここでやっていくにはノリがいいか、そしてすぐに対応できるかどうかが求められているのだから。


「行きますよ」


「言われなくても分かっている!」


俺には噛みついてくるな。ここまで敵対心剥き出しにされる謂れもないというのに。


「これはまた豪勢ですね」


家庭科室に着いて俺の第一声がこれである。テーブルを占拠する食材の山を見れば誰でもこんなことを思うだろう。というかこの肉は何だ。明らかに一般的に売られているのとは一線を画しているぞ。


「僕が集めた最高級食材の数々さ」


いや、会長が集めたんじゃなくて家の誰かが集めたんだろうが。それにしても最高級品ね。


「学園の予算でよく買えましたね」


「ポケットマネーだよ。名目は寄付と言った所かな。流石に予算でこれは通らないからね」


だろうな。これだけの食材を集めるとなるとどれだけの金額が飛ぶのか全然分からん。流石は葉月家と言った所か。


「ちょっと味見をしてみましょう。琴音さん。フライパンを温めてください。私も準備します」


「分かりました」


多分木下先輩と俺が考えている懸念事項は同じだろうな。エプロンを装着して言われたとおりにフライパンをコンロの上に置いて火をつける。温まった所で木下先輩と交代して様子を見る。


「焼き上がったので少し塩コショウを振って完成です」


使われたのは豚肉。ただ焼いただけのシンプルなものだ。一口大に切られたそれをそれぞれに配って、いざ実食。


「ふわぁ」


「琴音さん、顔が蕩けていますよ」


美味過ぎる肉が悪いんです。そして廊下から何人もの人達が走り去る音が聞こえたな。見物に来ていたのは分かるが、何か急用でも出来たのだろうか。


「明日には琴音×薫の話でも出来るかな。これで薫も被害者入りだね。ようこそ、こちらの世界へ」


「どうしてどのような場所でもそういう話が出来るのか私には理解できません。それに会長は正反対の世界だと思いますよ」


何の事やら。でもこの肉を食って懸念事項は確定事項になったな。


「木下先輩。私にはこれを調理するのは無理です」


「それは私も同じです。流石に扱いきれませんね」


「問題でも起きた?」


会長の疑問に俺と木下先輩は頷く。正直この食材で美味しいものを作るのは無理だと判断できた。


「納得できるだけの美味しいものは出来ないと思います」


「どうしてですか?これだけの高級食材があればどう作っても美味しくなるのでは?現に今のだって美味しかったのですから」


霧ヶ峰さんの言っていることは分かる。確かに今の焼いた肉は美味しかった。だけどそれは工程がシンプルだったから。俺達がやろうとするのは更に食材を追加して料理を作り上げないといけないこと。


「食材に対して私達の調理技術が全く足りないのです。これだけの個性を主張する食材を一つの鍋に入れたら確かに色んな出汁が出るでしょう。ですが私達にはそれを調和させる腕がないのです」


レベルが足りない状態なんだよな。作ったら美味いかもしれない。でも混沌とした味になる可能性が高すぎる。木下先輩に無理なら俺にも無理なことだ。これは一般的な家庭で扱える食材じゃない。


「でも折角会長が集めてくださったのですから、最初から諦めるのは」


「では霧ヶ峰さんが作ってみますか?私と琴音さんはもう諦めていますので勝手にどうぞ」


何か霧ヶ峰さんに対する木下先輩の当たりがキツイな。でも全部の食材が使えないという訳ではない。でもごめんよ、豚肉。お前だけは本当に無理だ。


「わ、私はその。料理をしたことがないので」


それは何となく分かっていた。良い所のお嬢様なら当然だからな。俺や小鳥なんかが異端であるのは分かっている。


「でもどうしますか木下先輩。流石に今から材料を買いに行ったのなら時間が足りないと思いますよ」


「そうですね。困りましたね」


「ふっふっふ、こんなこともあろうかと!」


会長の不気味な笑い声に眉を顰めると、何処からともなく黒服の人達が家庭科室に入って来た。その手にはスーパーのレジ袋が握られている。


「頭痛くなってきた」


「大丈夫です、琴音さん。私も同じですから」


最初からこうしろよ!と声を大にして言いたい。食材の無駄遣いが半端ないぞ。どうするんだよ、使わない食材の数々を。持って帰っていいのなら喜んでお持ち帰りするけど。


「あっ、もう帰ってもいいよ」


会長の言葉に一礼して帰っていく黒服の人達。入ってきた時は物凄くシュールだったのに、帰る際の背中は哀愁が漂っているな。あの人達も苦労しているんだろうなぁ。


「扱いが雑ですね」


「いつもはちゃんと労っているよ。ただいつまでも此処に居たんじゃ邪魔だからね」


妙な威圧感も感じるからな。さてこれからどうするか。テーブルによって分かれているが、片方は高級品。もう片方はまだレジ袋に入れられている一般品。使い分けが大事だな。


「琴音さんはお米をお願いします。そちらは問題ないでしょうから。私はその間に全部の食材を味見します」


「分かりました」


何処のお米かは分からない高級米。お握りにする予定だから大丈夫だろう。俺の部屋で木下先輩と打ち合わせして献立は決めている。それにしても全部食べてチェックするとは木下先輩は妥協しないな。


「どうして貴女は料理が出来るの?」


お米を磨いでいたら珍しく霧ヶ峰さんから声を掛けられたが彼女は知っているはずだよな。琴音が名前を知っているということは社交界に出ている可能性が高いから。


「噂位は聞いているはずですよね」


「社交界での話なら聞いているわよ。でもあれが本当だと思う人なんていないでしょ」


それが居たんですよ。出た早々に行動を開始した人物がね。今じゃ学園にすらいなくなったけど。そういう人物ばかりだと思っていたのだが、そちらは少数派と言う事か。


「でも私の社交界での評判ですと全員信じると思っていたんですが」


「知っていたの?」


「自分の事ですからね」


社交界での琴音の評価なんて最底辺だからな。むしろ如月家自体が社交界での評価が低いんだ。何しろ興味ないことに関しては一切力を割かないから。その割に家の名前が強いから呼ばれるという矛盾。


「私は妖怪でしたね。下の双子が人形。母が能面。父は知りませんがそういう風に呼ばれているのは知っています」


「知っているなら何で文句を言わなかったのよ」


「興味が無かったので」


今の俺もこういった部分は如月家と同じなんだよな。ただし近親に親愛以上の感情は持っていないが。というか炊飯器の数を数えたくないな。四十人分となると結構な量を炊かないといけない。


「ならそんな人物に負けている私の気持ちは分かるの?」


「まぁそれなりに」


立場はないだろうな。今まで散々馬鹿にしていた人物に学業で負け、所属することに価値があるとされる生徒会にも入られる。そりゃ社交界で色々と言われるわ。でも言われているのは彼女一人だけじゃないだろ。学園にはまだ他にもそういった人物がいるはずなんだが。


「容姿でも、学業も、活躍でも負けた私の評価はだだ下がりよ」


容姿も入っているのかよ。別に霧ヶ峰さんが気にするほど容姿に差はないと思うんだけど。大体俺なんてスッピンなんだぞ。


「霧ヶ峰さんは綺麗な方だと思うんですが」


「お世辞はいいわよ」


「本心なんですけどね」


マジマジと見られたが先程から俺は一切霧ヶ峰さんの方を見ていない。今はお米を磨ぐことが優先事項だからな。やらんといつまで経っても終わらんし。


「何か毒気が抜かれるわね。以前の貴女なら噛みついてくると思ったのに全然そんなことないし」


「噛みついていいことなんて何もありませんから。無用なトラブルは御免です」


「去年まで率先してトラブルを起こしていたのに何を言っているのよ」


その通りなので何も言えないな。ただやはりというか霧ヶ峰さんが俺に嫌がらせをしてきたのはストレス発散に近いものがあると感じた。あちらの世界で噂が流れると中々厄介だからな。


「今の私は惨めなものよ。今まで馬鹿にしていた人物に負けているのだから」


「そこまで気にすることですか?」


「社交界での話でこういったのがあるのよ。如月琴音に負ける事だけは絶対にあり得ない。それは全ての意味でね」


色々と酷いな。社交界は言葉による戦場があるから怖い。そして一度でもそういった話が流れると止められないのも怖い。あることないこと全部流れるからな。


「今の私は如月琴音に負けた人物として社交界で注目されているわ」


「それもおかしい話ですよね。この学園には他にも社交界に出ている人がいるはずなのに」


「そういうものよ。私を攻撃する口実が出来ればいいと思っている人がいるだけの話だから。でも今回の件はあまりにも威力があり過ぎてね」


聞けばその話が流れ出してから主催者側から呼ばれることが激減したらしい。それに伴って会社の評判も落ちてきているというのだから怖い話だ。それに別のベクトルで琴音という存在の影響力が凄いな。


「何と言えばいいか。ごめんなさい」


「貴女に謝られても何も変わらないわ。このまま会社の業績が落ちればどうなるか」


そこまで深刻なのかよ。霧ヶ峰さんがそこまで知っているということは彼女の両親の顔が相当に追い詰められているという事なんだろう。と言っても俺に出来ることなんてなぁ。


「こういうことは先輩に聞いてみましょう。会長、何とかなりませんか?」


「琴音が社交界に戻ってくればいいと思うよ」


「却下で」


聞いた俺が馬鹿だった。


「今の琴音なら最低の三段評価を簡単に覆せるんだけどなぁ」


「あまりにも変わり過ぎて如月家の隠し子ではと話が出ると思いますが。そこの所はどうなのでしょうか、葉月会長」


「うん、あるね」


アッサリと認められると俺が困るんだが。だけど社交界に関して詳しいのは会長と霧ヶ峰さん位だからな。木下先輩はそういったのに出たことがないと聞いたし。


「でも会長。彼女の評価が落ちることと会社の業績が落ちることが連動することなんてあるんですか?」


「将来性を考えるとあり得るね。特に子供が一人しかいない場合は。ほら、継ぐ可能性がある子が評価どん底の人に負けていると聞いたらどう思う?」


「不安を感じますね」


「なら将来を見据えて他の会社に鞍替えするのも考えるのさ。それが社交界の怖い所」


なるほど。その評価どん底の琴音の家が無事なのは過去からの経験なのだろう。駄目だけど将来性とは関係ないと。それに琴音が如月家を継ぐ可能性は早々に無くなっていたからな。


「となると霧ヶ峰さんの会社は私の所為で崖っぷちですか?」


「そうなるね。流石は如月琴音だね」


全然嬉しくないな、そんな評価。


後編も読んで貰えるとありがたいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 霧ヶ峰www 昔の人なら記憶が有ると思う。 「きりが~みね~」
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