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32.敗北と争奪戦

没からの復活となりました。

そして訃報です。愛用のヘッドフォンが逝きました。

耳当てのないヘッドフォンは流石に装着できませんでした。

32.敗北と争奪戦



完全敗北した。

まさか嫌がるだろうと思った女装を嬉々として会長がやるとは思わなかった。予想では嫌がりながらも周りから推し進められて渋々やると思ったのに。何で面白がるんだよ。


「出来上がったのがこれですか」


そして今日は出来上がった写真集を確認している最中。写真部からカメラを没収して情報漏洩を防いだのは流石だと思ったが、その間の写真部の活動はどうするのやら。全く逆らう様子が無かったから何かしらの対策位あったのだろう。


「女子の右と左の差が激しい」


会計の佐伯さんが言う通り、右は三人並んだ写真。左がシチュエーションによる写真。表情の落差が激しいな、主に俺なんだが。右は無表情、左は表情豊かとかどれだけモチベーションに違いがあるんだよと言いたい。


「それに引き換え、男子の方は差がありませんね」


三人揃った写真は無難な笑顔。シチュエーションの方は完璧。ちなみに女装させたのは会長一人だけ。他の2人には特に恨みがないからな。それに庶務の山田さんの女装は見たいとは思わない。絶対に似合わないの分かり切っている。


「賞品にするとしたら何部位刷るのですか?」


「クラスの人数分だね。あとは僕達の記念用に刷った位かな」


「まぁ私としては内容にOK出します。木下先輩はどうですか?」


「私も構いませんね。最終日のあれを撮影していたらNOと言いますが」


載っているものの露出度は控えめだから別に誰かに見られても問題はないだろう。最終日の水着写真が載っていたら絶対に許可を出す気はない。俺は自分の裸体を他人に晒す趣味はない。


「これで賞品一個追加できるね。もう一個位追加したいけど」


「やりすぎじゃないですか?食券にこれとすでにふたつあるのですから十分では?」


「やり過ぎな位が丁度いいと思うんだよね」


会長の暴走が止まらないな。絶対に過度だと思うぞ。過去最多の賞品を作ってどうするのやら。しかもそれを受け取れるのは総合優勝したクラスのみなんだから。確かに球技大会のやる気は上がるだろうけど。


「候補に挙がっている生徒会主催食事会をやるんですか?」


ホワイトボードには写真集の他にも候補が書かれている。写真集の下に書かれているのが食事会だから優先度は高そうだな。だけど誰が料理を作るんだよ。


「上級生は本気で取りに来るであろうことが分かる賞品だからね。もちろん作るのは生徒会一同だよ」


「一同と言っていますが作るのはほぼ私なんですよね」


意外ではないが木下先輩がこれの主役か。会計、庶務、書記が料理できるイメージが浮かばないのだから必然的になるが、何故木下先輩が作るとなると上級生が本気を出すのだろう。


「薫の料理は本当に美味しいからね。調理実習で作ったものは争奪戦が起きるんだよ」


「そこまでですか」


「趣味でやっているだけです。琴音さんも料理は出来ますよね?」


「はい。自炊していますから。他の方々は?」


尋ねると全員が首を振っている。これは想定内の事だが、そうなると料理を作るのは木下先輩と俺の二人で作らないといけないことになる。流石に一クラス分の料理を作るなんて労力は掛けたくないぞ。


「食材の調達とかどうするのですか?それに調理する時間だってかなり掛かりますよ」


「そうだね。だから人数を制限するよ。生徒会と同じで六人にしようかな」


「会長。それだとクラスで揉めるのでは?」


「でも全員分の準備なんて出来そうにないじゃないか。ならクラスで活躍した人を選出してもらうとかは」


「それだと後々の禍根になる可能性があります」


会長と木下先輩の話を聞きながら、これに対する明確な回答が無いことを察する。全員が納得できる解決策が出てくることは無い。全員分の賞品があるのならば平等であるが、貰えないのであれば不満が生まれるのは当然だ。だったら賞品なんて用意しない方がまだいい。


「昼食丸々は無理ですが、豚汁など大量に作れる一品だけなら話は変わりますよ」


だから話に触れてみる。おかずを複数品用意するのは無理であるが、一回で大量に作れるものならば話は変わってくる。それなら作れる算段がつくからだ。流石にお代わり等の要求に応える余裕はないが。


「木下先輩。汁物とお握り位ならいけるのでは?」


「確かに朝から仕込みを行えば可能ですね。ですが、労力が掛かる割に私達にメリットがない話です。琴音さんはそれでもいいのですか?」


「メリットならあります。昼食代が浮くので」


凄い可哀そうな子を見るような目をされた。別にそこまでお金に困窮している訳ではないのだが切り詰められる部分はなるべく抑えようとしているだけなのに。朝から仕込みをするのであれば朝食も一緒に作れるかもしれないしさ。


「あの、今度お昼をご馳走しましょうか」


「大丈夫です。そこまで切迫していませんので」


だから折角の申し出も断ってしまう。ここで回答を間違えるとどれだけ貧乏なんだよと思われてしまうから。そりゃ奢ってもらえるのならば嬉々として飛びつきたいさ。だけど今後のことを考えると安易に飛びつかない方が良さそうだと思った。苦渋の決断である。


「複数品となるとやっぱり無理かな?」


「たった二人で四十人以上の昼食を作るとなると時間が圧倒的に足りません。豪勢なものを作ろうとすれば尚更です」


「木下先輩が言うように労力に見合うだけのメリットがありません。やるとしても大量生産できる一品物が限度です」


男らしく豚汁を作るのならば深く考える必要はない。味は保証しないが。大量生産の弊害として味が大雑把になり易いが、そこはこちらの腕の見せ所だろう。木下先輩の腕前も気になるしさ。


「ならその方向性で行こうか。危うく没にする所だったよ」


「むしろこれ以上増やさないでください。流石に負担が大きくなりすぎです」


全く持ってその通り。負担が一番大きいのが俺と木下先輩のみで、他の生徒会役員は何もしていない気がする。確かに写真撮影で協力はしていたかもしれないが、ほぼ裏切りだからな、あれは。


「話がまとまったのであれば私は帰ります。今日は予定がありますので」


「琴音さんに予定があるなんて珍しいですね」


何気にサラッと毒を吐くよな、木下先輩。確かにいつも予定がない日ばかりだから意外かもしれないが、それは言ってはいかんと思うぞ。心にグサリと来るから。


「今日は隣人の方と特別な晩御飯を予定しているので材料の購入とかありますから」


「そうなのですか。もし良ければ献立を聞いてもよろしいですか?」


「焼肉です」


生徒会室が何とも言えない雰囲気になってしまった。焼肉の何が悪いんだよ!毎日牛肉を食えるだけこちらの家庭事情は裕福じゃないんだ。偶の贅沢位で何で痛いだけの沈黙に包まれるんだよ。


「……あっ、生徒会役員分の写真集は出来ているから持って帰ってね。ちなみに生徒には見せないこと」


「分かりました。最初の間については特に聞きません」


突っついたら墓穴を掘りそうだから。それに精神的ダメージもな。贅沢と言ったら焼肉じゃないのかよ。一般家庭の人だっているはずなんだけどな。


「それでは私は失礼します。球技大会の打ち合わせがありましたら呼んでください」


「私から連絡します。追加の賞品については私達で打ち合わせをした方がよろしいですから」


「了解しました」


妥当な所でやっぱり豚汁だろうな。カレーでもいいのだが、スパイスから調合を始めるとキリがなくなるからやらないだろう。市販のルーだと面白みがないし。もしくは木下先輩が妥協しないかもしれない。


「そこら辺はやっぱり打ち合わせしないとどうにもならないか。まずは目先の事だな」


気持ち的に早足で行動したのかもしれない。予想以上に商店街へと早めに付いたからだ。順路的に最初は八百屋だな。冷蔵庫の中身をざっと思い出しながら必要なものは何かを確認していく。


「すいません。人参、玉葱。あとカボチャとしいたけはありますか?」


時期的にカボチャは厳しいかもしれない。焼いたカボチャの甘みが美味しいんだけど、気付けば炭になっているんだよな。肉に集中し過ぎている弊害だろう。


「カボチャはないね。それにしても今回はいつもより買うのね」


「焼肉ですから」


「なるほど。キャベツはいいのかい?」


「まだ半玉ほど残っていますので大丈夫です」


テキパキと商品を袋に詰めてくれる奥さんはいい人だ。さり気なく果物を一個入れてくれるから。もちろん袋はエコバッグである。鞄に折り畳んで入れていれば邪魔にならない。


「いつもありがとうございます」


「常連さんでもあるし、あんたの笑顔には元気を貰っているからね」


「そんなことはないと思うんですが」


サービスしてくれるからいつも最後は笑顔で別れているだけなんだけどな。今日もそうだし。さて次は精肉店だ。いつのもお兄さんはいるだろうか。


「えっと、味付きカルビとロース。あとタンとこれとあれをお願いします」


「……」


相変らず客商売なのに全く喋らないお兄さんだ。ただこれで商売が成り立っているのだから来る人は誰も疑問に思っていないのだろう。もしくは昔から知っている人ばかりが来るのか。


「あれ?ウィンナーは頼んでいないのですが」


「……」


親指を立てたということはサービスなのだろう。本当にいつもいつも申し訳ない。協力して悪党を退治したのが切っ掛けとはいえ、来る度にサービスして大丈夫なのだろうか。俺が気にしても仕方ないか。


「いつもありがとうございます」


さてあとは鮮魚店だな。資金は茜さんから預かっているし、エビが食べたいとも言っていたからな。資金提供して貰っているのだから要望には応えないと。


「すみません。エビを5尾ほどお願いします」


「あいよ!今日は大荷物だな」


「焼肉をやる予定ですので色々と買っちゃいました」


「琴音ちゃんが散財なんて珍しいな。明日は雨か?」


「降ったらまた節制に戻ります。もしかしたらあまり来なくなるかもしれませんよ?」


「そりゃ困るな。ほら、サービスしておくからまた来てくれよ」


「いつもありがとうございます」


後で奥さんに怒られないと良いが。最初にサービスし過ぎて怒られている現場を見てしまって大変恐縮してしまったな。でも奥さんもサービスしてくれる時があるからよく分からん。


「さてこれで揃ったかな」


多分大丈夫だろう。あとは帰ってプレートの準備して、タレは他の料理で使っているから大丈夫だな。ビールも大丈夫だろう。これは俺が気にしても仕方ないし。さて帰りますか。


「うちに寄ってくれんかった……」


和菓子屋のお爺ちゃんが嘆いていたと聞いたのは後日だった。いや、流石に晩御飯食べる前に和菓子を食べたら不味いだろ。でも挨拶位しておいた方が良かった。



「今日はゲストを連れてきたよ!」


「また藪から棒ですね」


準備が整って後は茜さんがやってくるのを待つだけの状態だったのが、登場と同時にこのセリフだ。そもそもゲストって誰だよ。佐伯先生だったら勘弁だぞ。あの人が来たら収拾がつかなくなる。


「いつも妻が世話になっている」


まさかの旦那さんかよ!?今日は平日なのにお店の方が大丈夫なのだろうか。


「妻にお願いされてな。今日は臨時休業にしたんだよ」


「それはそれはご愁傷様です」


茜さんも強引な手を使ったものだ。確かに機会があったら紹介してくれるとは言っていたが、今回になるとは思わなかった。もしかして焼肉自体その予定だったのだろうか。いや、多分ノリでやったな。


「お名前を伺ってもいいですか?」


「静雄だ。妻から君のことは聞いているよ。如月琴音君」


さてどのように俺の事を伝えているのやら。旦那相手にまさか嫁であるとは言っていないとは思いたい。結婚している位だから茜さんが冗談で言っていないことも理解してそうだからな。


「まさか隣人が如月家の人だとは予想外だった。あそこは前から問題ある人がいるから正直最初は不安だったよ」


「失礼ですが旧姓を聞いてもいいですか?」


如月家の内情を知っている一般人がいるのはおかしい。そうなると旦那さんは十二本家の関係者に連なる人ということになる。どうしてそんな人が一般人と結婚しているのだろう。普通なら家族が反対するはずだよな。


「霜月だ。疑問に思っているだろうから先に言っておくが、うちの家系は基本的に自由人だからな」


「自由過ぎませんか」


「歌手まで抱えているような家だぞ。原因が俺にあるのは否定はしないが」


おい、十二本家で歌手がいるなんて初耳だぞ。自由通り越しているような気がする。それにそんな家系でお家断絶にならないのが不思議だ。全員出奔しないのだろうか。


「そんな話はいいからさっさと食べようよ」


相変らず話をぶった切るマイペースぶりだな、茜さん。旦那さんと一緒に苦笑しながらプレートを囲むように座る。旦那さんが茜さんに引かれた理由は何となく分かるんだけど。だけどそれでも納得できない部分がある。


「エプロン付けたまま食べるの?」


「焼肉は色々と跳ねますからね。洗濯の手間を考えるとこれがベストです」


油とかタレがシャツに付いたら落とすのに時間が掛かる。もしかしたら染みが取れないかもしれない。そうなると外着が一着減ってしまう。


「茜はそういうこと全く考えないからな」


「どうせずぼらですよぉ」


「旦那さんもビールでいいですか?というかそれしかありませんけど」


俺は冷えたお茶を用意してコップに注ぐ。お茶は茜さんからの差し入れで貰ったものだ。俺個人としては水で何の問題もないのだが、雰囲気を損なうと言われてしまった。


「それじゃカンパーイ!」


「「乾杯」」


カツンと音を鳴らして晩御飯が始まる。肉を焼くのは主に俺だが、旦那さんも気を遣ってやってくれる。茜さんに関してはひたすら飲んで食っているだけ。


「違和感が凄いな。十二本家がこうやって焼肉を食っているのを見ると」


「人の事が言えますか?」


「俺は個人経営やっているだけで霜月家とは関係性を持っていないからな。偶に実家に呼ばれるだけだ」


「本当に自由過ぎますね。うちとは大違いです」


一般の庶民と結婚することを何てあの父が許すとは絶対に思えない。あくまでも家の為の道具として俺の事を扱うのが分かり切っている。母が反対したとしてもこれだけは変わらないだろう。それに引き換え霜月家は何だというのか。


「十二本家は何かしらの欠陥を抱えている場合が多いからな。うちの場合は自由奔放なのが欠陥ともいえる」


お家断絶の可能性が高いからな。それを言ってしまえば近親への深すぎる愛情を持っている如月家も断絶する可能性は高いとも言える。よく今まで持っているな、十二本家。


「むしろ十二本家とこれだけ関わりを持っている私も凄いよね」


「そういやそうだな。旦那も嫁も十二本家とか何か引き付けるものでもあるんじゃないか?」


「ちょっと茜さん。お肉食べ過ぎです。野菜も取ってください」


「今の俺の発言に突っ込まない辺り、茜に毒されているよな」


旦那にも俺の事を嫁と話しているのは大体想像できていたからな。それよりも焼きあがった肉を片っ端から食われている方が問題だ。俺にも食わせろ!


「いっぱいあるんだからいいじゃない。それに静君も失礼だね。私色に染め上げて何が悪いのよ」


「それが悪いんだよ。茜を紹介した時のうちの親の顔。唖然として固まっていただろ」


「明るさと人当たりの良さを強調しただけなんだけどね」


それを何の躊躇もなくやる茜さんは凄いよ。普通ならお淑やかさとかを前面に出さないといけない気がするんだが。社交界デビューを意識してさ。そこら辺も考えていなかったのだろう。


「俺が家を出ることで結婚を許されたんだよ」


「茜さんが社交界に出たら絶対に叩かれるでしょうね」


「そういうお堅いの私には無理よ」


知ってますよ。茜さんが旦那さんと話している間にお肉を確保確保。食わねば損損とな。


「ちょ、琴音も取り過ぎよ!」


「おい!俺の分も残しておけよ!」


やっぱり一人で飯を食うよりワイワイ騒ぎながら食べる飯の方が好きだな。途中から争奪戦になり始めたがそれも醍醐味だろう。というか野菜も食えよ!


耳に合うものを探したら高いですね。3万円前後は流石に手が出せません。

手が出せる値段の物を買ったら耳が痛いです。

左右逆に付けていましたから。内側にLRを書かれると分かり辛いです。

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