31.撮影会開始
遅くなった理由ですが、お風呂の設定温度を間違いました。
湯気が出ているので気付かず入浴。あとは察してください……
31.撮影会開始
あれから撮影会へのスケジュールを組んだりと球技大会の話は何処行った状態で仕事をしていた。何でそこまで一生懸命に連絡を取り合っているのか全然分からん。内容はよく聞こえなかったが、嫌な予感しかしない。
そして撮影会当日を迎えた。
「じゃあ今日は宜しくね」
「任せておけ。衣装はばっちり準備してある」
会長と演劇部部長の会話から始まり、まずは女性陣が衣裳部屋に連れ込まれた。俺は黙って見送っているだけ。いや、ここまで来て往生際が悪いのは分かっているがやりたくないんだよ。
「はいはい、覚悟を決めようね」
会長に背中を押されながら強引に部屋に押し込まれて、中の衣装の多さに絶句した。これはすでに部活動としての多さを超えている気がする。どこの劇団だよ。
「凄いですね」
「積もり積もったものがこの量です。歴史はありますからね」
そう言えばこの学園ってかなり昔からあるんだよな。創立当初から演劇部があって、大事に物を使っていれば残っていくだろう。だがこれは幾らなんでも残し過ぎだろ。
「最初はこれに着替えてください」
出されたのはドレス、軍服、侍女服の三つ。その前に姫が着るようなドレスは分かるんだが、別にあるドレスアーマーなんて何の劇で使うんだよ。明らかに異世界物じゃないと劇として成り立たないぞ。そんな劇なんてあったか?
「じゃあ私はこれで」
俺が選んだのは軍服。一番露出が少ないというか肌なんて全然見えないからな。ドレスといってもスカートだからな。侍女服も何だかんだと女物だが、軍服はどちらでも着れる。だからあまり抵抗がない。
「木下先輩はこっちで。私はこちらの侍女服で」
「構いませんが。普通は先輩に譲るものでは?」
譲っていたら一番酷い物を選ばれそうじゃないか。お姫様役なんて俺のキャラじゃないしな。さっさと着替えて戻るか。着方は部員の人に聞けば何とかなるだろ。一人だと絶対に着れないからな。ドレスは琴音の記憶で分かるがそれでも無理だ。
「おぉ、男装も似合っているね。それにお姫様も綺麗だよ」
会長、俺と木下先輩を褒めるんだったら小梢さんのことも褒めてあげろよ。いや、単純に侍女服を見慣れているのか。会長にも専用の人がいるだろうしな。俺に付いている美咲みたいに。ただこの格好で問題もある。
「胸がキツイですね」
あっ、一人崩れ落ちた。男性が着ている物だと思ったら、女性専用の衣装だったようだ。悪いことを言ったか。でも正直苦しいんだよな。さっさと終わってほしいんだが。
「いやぁ、眼福眼福。それじゃ中央に集まって」
眼鏡を掛けた男性が写真部の人なんだろう。カメラ持っているから間違いないだろ。その前に着替えたのはあくまで俺達女性陣だけであって、男性陣が全く着替えていないのはどういうことだ?別撮りなのだろうか。
「先に時間が掛かりそうな女性陣からやるのさ。僕達は余った時間か次の日に撮る予定だから」
「逃げないでくださいよ、会長」
「逃げる理由がないからね」
なら逃げるだけの状況に追い込めばいいだけだ。男だからって当たり前の恰好が出来ると思うなよ。絶対に後悔するような恰好をさせてやるからな。
「ポーズとかどうするんですか?」
木下先輩の声で会長にどんな格好をさせるのか考えていた思考が現実に戻って来た。あまり派手にポーズとかしたくはないんだが。むしろ軍服で派手なポーズってどんなのだろう。
「最初は三人集まった普通の写真を撮ろう。その後は服装に合せたシチュエーションにしようじゃないか」
取り敢えず三人集まってカメラの前に並ぶ。並び順は木下先輩を俺と小梢さんが挟むように立つようにした。こういった時はやっぱり先輩を立てないと。服装を選ぶ時は遠慮など一切しないが。
「はい、三人共笑って。……如月さん、笑顔が引き攣っているよ」
カメラマンにダメだしされてしまった。どうにもカメラを正面から見ると普通に表情が作れないんだよな。昔からの癖で幾ら直そうとしても無理だった。人前だと普通だというのに。
「いつも通りの表情でいいと思いますよ」
「ならお言葉に甘えて」
「……凄い無表情になった」
仏頂面とも言うな。表情を作るよりも一番楽なんだよ。特に何かを考える必要もないし。ただ今の状況でこれはいかんと思う。思うが表情を作れないのだから仕方ない。
「……これは酷い」
カメラマンの言葉に写った画像を見せて貰った確かに言葉通りだ。二人とも笑顔なのに俺だけ仏頂面で凄い浮いている。明らかに写りたくないと心の中身ごと撮られているようだな。何処かの悪役令嬢みたいだ。前から写真写りが最悪に悪い自覚はあるのだが、これも酷いな。
「じゃ、じゃあ次はシチュエーションで撮ろうか」
流石に撮り直すとは誰も言わなかった。多分空気を読んでくれたのだろう。引き攣った笑顔と仏頂面とどちらを選んでも最良の結果なんて得られないんだから。俺の所為です、すいません。
「シチュエーションと言っても。私は姫様相手に傅けばいいですか」
「私は控えている感じかな」
「でしたら私は琴音さんに手を差し伸べるようにしてみましょう」
各々がどのようなことをするのか決めて、壇上でシチュエーションを作ってみる。それに他にどんなシチュエーションにすればいいのかなんて全然考え付かないんだよ。むしろこれは騎士物語のシチュエーションではないだろうか。
「おぉ、これはいいね。うん、さっきのとは雲泥の差だよ」
直接カメラを見ていないから先程とは条件が違う。それに表情を作る必要もないからな。このシチュエーションで笑顔を作るのは違うと思うし。
「次は和服だ!着物の準備をしろ!浴衣とか簡単な物じゃない。十二単の本格的なものを用意しろ!」
何か演劇部部長、変なスイッチが入ったみたいだ。そりゃ俺や木下先輩は黒髪だから洋物があまり似合わないかもしれない。金髪のカツラとか被れば見栄えが良くなるだろうが、この長髪をカツラで隠すことなんて出来るのだろうか。
「時間がないので止めてください」
流石に木下先輩からストップが掛かったな。当たり前だが本格的な着物の着付けなんて何時間掛かると思ってんだよ。放課後の時間を利用しているんだから極端に時間が掛かることなんて出来ないんだよ。むしろ何でそんな着物があるんだよ。
「素材としてはトップクラスが揃っているというのに。何故生徒会に取られているんだ」
「「入る気が無かったので」」
俺と木下先輩は揃って返した。木下先輩に関しては本当に入る気が無かったのだろう。琴音は勧誘されてはいたが派遣された人材で失敗していたといえる。むしろあの化粧の琴音を勧誘している時点でどうかと思うぞ。
「そういえばあの馬鹿が居ませんね」
「会長から言われてな。締め出した。如月もその方が良かっただろ」
「居たら全力で逃げます」
唯一、本当に唯一去年の琴音に積極的に関わろうとしていた人物がいるのだが、俺としては全力で相手をしたくない。正直気持ち悪すぎて生理的に受け付けないのだ。殴るの我慢できる気もしないほど。
「今年はこちらで抑えつけているがそろそろ限界なんだよな。会長からも接触させるなと言われているが難しくなってきた」
その点に関しては会長に感謝しておこう。本当に無理なんだよ、あれの相手は。琴音はよくあれの相手を出来ていたよ。といっても罵倒していただけなんだが。
「それじゃ次の撮影に入るから着替えて来てくれ」
「分かりました。絶対にあの馬鹿の侵入だけは防いでください」
「善処しておく」
一応釘は刺しておかないと。さてさて次は何を着させられるのやら。
「妥協して浴衣ですか。まぁ着物を着つけている時間がありませんからね」
「それよりも今日一日で撮影が終わるとは思えませんね」
確かにな。今のペースでやったとしてもあと何枚撮れるやら。意外と着替えるのに時間が掛かっているというのも問題なんだよな。こればかりは仕方ないと諦めてはいるんだが。
「木下先輩は会長から何かスケジュールについて聞いていますか?」
「いえ、何も。今回の件に関しては会長が独自に進めているようで」
「一週間位はやると聞いた。女子で何日使うかは分からないって」
何故に小梢さんが知っているんだよ。そういえば彼女は賛成派だったんだな。だからといって副会長が知らないことをどうして書記が知っているんだよ。
「衣装選びで協力した」
「全面的に私達を裏切っていますね」
「欲望には勝てなかった」
何の欲望だよ。ドヤ顔で言われてもムカつくんですが。これには流石の木下先輩も青筋浮かべているぞ。後が怖いな。気付いた小梢さんが慌てているが全面的に彼女が悪い。ご愁傷さまっと。
「取り敢えずさっさと終わらせましょう。時間的にあと二回位の衣装替えをすれば今日は終わるでしょうから」
小梢さんに制裁を加えようとにじり寄っている木下先輩を止めておく。そうしないといつまでも終わらなそうだからな。しかし浴衣のシチュエーションって何だろう。
「制裁は後にしてとっとと終わらせましょう」
「仕方ありませんね。後日徹底的に行う事にしましょう」
「容赦なし。琴音、助けて」
「無理。私も制裁する側だから」
げんなりしている小梢さんを引っ張ってまた壇上に上がる。先程と違って胸がきついとかはないんだが、全体的にスースーして落ち着かないんだよ。男だったら開放的だと思っていたのだが、女性だとやっぱり感じ方が違うな。
「やっぱり笑顔は無理か」
「どうにもなりません。察してください」
本能的なものだからすぐには治りそうにもない。琴音としても写真写りは悪かったみたいだから更に顕著になったのかもしれない。だから写真はあまり好きじゃない。
「じゃあまたさっきみたいにやってくれるかな」
いや、考えても何も出て来ないんだが。撮る方でも何かしら思いつかないのだろうか。アドバイスがあればその通りにやるんだが。そう思っていたら演劇部の方で動きがあった。
「小物関係の準備も万全だから」
だから何で縁日とかである水風船や金魚入りの袋があるんだよ。明らかに演劇と関係ないだろう。しかも金魚なんて精巧な作り物で水も固形物だ。一体どうやって準備したのやら。
「わぁ、凄いですね」
「木下先輩はこういうの好きなんですか?」
「夏祭りとかは好きですよ。今年の花火大会も楽しみなんです」
夏が好きな人なんだろう。逆に冬が嫌いのパターンもあるが、人それぞれだな。俺は冬があまり好きじゃない。暖房代が何としても掛かってしまうから。ずっと布団の中にいるわけにはいかないからな。この地区だと普通に雪も降るから猶更だ。
「結構大きな花火大会ですからね」
「今年は晴れてくれるのを願います。やはり雨降りの中での花火大会は残念ですから」
以前の俺でもその花火大会は友人達と見に行ったくらいに見事なものだったな。それにしても去年は雨の中でやったのか。それだと煙が流れないのとずぶ濡れになって大変だっただろうな。もちろん琴音の記憶に花火を見た物はない。もうちょっと他に興味は持てなかったのか。
「はい、撮影OKです」
いつの間にか終わっていた。木下先輩と小道具を弄りながら歓談していただけなんだが。小梢さんなんて一切会話に入ってきていない。多分、彼女も花火大会を見に行っていない人なんだろう。近くで水風船を弄っているだけだった。
そしてもう一着の衣装を撮って今日が終わり、何だかんだと三日が過ぎた。
「ここまでは怪しい衣装はなかったですね」
「だけど女子最終日の今日が一番怪しいですよ、木下先輩」
最初の日は確かに露出少なめなものが多く、その後に着た物も部活で着るユニフォームやら何処かのお店の制服とかそこまで怪しいのはなかった。そう、ここまでは。
「すみませんが、今回は着るもの全部一度見せて貰えませんか?」
いつもの衣裳部屋にいる演劇部の人に頼んで並べて貰う。うん、予想的中。肌の露出で言えば一番酷い。
「チャイナドレスやレースクイーン、水着とか絶対に演劇と関係ないですよね」
「木下先輩。それにこの水着、明らかに学園指定の物じゃなくて市販のものですよ」
三着ある水着の内で一着だけ学園指定の物。残りはワンピースタイプとビキニタイプの水着。
「小梢さん。自分だけ安全牌を用意するなんてどういうことなんですか?」
衣装の相談を受けていたというのだから彼女にも衣装選びの選択権が用意されていたはず。だから自分だけ妥当なものを用意することだって出来たはず。
「私も会長に言った。水着は絶対に二人とも了承しないって」
「前者二つも私と琴音さんは着ませんよ」
太腿が見えるとかというレベルじゃないから絶対に着ないぞ。大体水着なんて着たら傷跡も写真に写ってしまうじゃないか。それだけは絶対に阻止しないといけない。
「大体この水着は誰が用意したんですか?」
「生徒会長が持ち込んでいましたよ」
俺の疑問を部員の人が答えてくれた。自腹切って何を用意しているんだよ。ネタで用意したとしても俺と木下先輩の好感度はダダ下がりだ。ラストでこれなんだから救いようがない。
「でもこのビキニ着るとしたら琴音だよね」
「そうですね。私や小梢さんの体形ですと似合いませんね」
「絶対に着ませんよ!もう一度言いますが、絶対に着ません!」
部員の人達も残念な顔をするな!こっちには着れない事情があるんだよ!尚且つ、誰が自分の裸体を写真に撮りたいと思うんだよ。俺は金を払われても絶対に拒否するぞ。
「琴音さんだけ着てみてくれませんか?もちろんここから出なくていいので」
「裏切るんですか木下先輩!?」
「小梢さんの気持ちが何となく理解できました」
理解しなくていいから!水着持ってにじり寄って来ないでくれ!おい、他の人達も俺の周りを囲んで包囲網を築こうとするな!
「あぁもう!木下先輩、ちょっと来てください」
「覚悟が出来ましたか?」
「何でもいいので来てください。他の人達はちょっと下がってください」
近づいてきた木下先輩を更に引っ張って他の人達から離れると腕時計を外して傷跡を晒す。口が堅そうだから多分大丈夫だろうと判断したから見せているんだ。
「えっ」
「こういう事情があるので着れないのです」
「あの、その。事情を知らずに申し訳ありません」
「あまり知られていないので仕方ないです。ただし内密にお願いします」
「分かりました。誰にも話さないことを約束します」
ふぅ、これで水着を着なくていいな。学園の中でも誰かしら事情を知っている人を置きたかったのもある。先生達だけが事情を知っていても不審に思われるかもしれないからな。
「それでは気を取り直して会長に制裁を加えに行きましょう」
「そうですね。水着なんてものを用意した人には制裁を加えないといけませんね。行きましょうか、琴音さん」
腕時計を嵌め直して衣裳部屋を出る。後ろから水着を放り棄てて木下先輩も付いてきてくれた。これで他の人達も諦めてくれるだろう。諦めていなくても絶対に着ないがな。
「あれ?着替えて来なかったの?……アダダダダ!?」
疑問符を浮かべている会長に問答無用で顔面を掴む。思いっきり力を込めるといい具合に悲鳴を上げてくれているから効いているのだろう。更に後からやってきた木下先輩が両拳で頭を挟んでグリグリとやっている。
「な、何で!?痛い、凄く痛い!?」
「「馬鹿への制裁です」」
有無を言わさぬ俺達の攻撃を止める人達は誰もいない。生徒会の男子達は巻き込まれないように少しずつ下がっているし、他の人達も俺達の行為に唖然としている。大人しそうな木下先輩も攻撃に参加しているから驚いているのだろう。
「前に言いましたよね。着たくないものは着ないと」
「だからって直接攻撃はないんじゃないかな」
攻撃の手を止めると涙目になりながら反論して来るが、用意したものが悪すぎる。幾らなんでもあれは露骨だ。
「私達は思い出作りに協力すると言ったから渋々賛成したのです。ですがあれは無いです」
「そうですね。水着なんて何の関係性があるのか説明して貰えますか?」
「僕が見たかった」
「少しは反省してください」
木下先輩の質問に即答する辺り全く反省の色がないんだよな。二人揃って溜息を吐きつつ、会長の頭を平手で叩いておく。口で言った所で全然堪えないからな。だから直接攻撃だ。
「そういうわけなので今日の撮影は私達やりません」
「琴音さんに賛成です。女子の部はこれで終わりにします」
これ以外に用意されているとしても碌でもない物がありそうで嫌だ。それに露出が増えると傷跡が映る可能性だって上がる。今まで何とか誤魔化していたがそれだって限界を迎えるだろう。だからここで終わらせるのがベストなはず。
「仕方ないか。約束は約束だからね」
意外と聞き分けがいいな。駄目で元々だったということかな。ごり押しされても協力者がいる以上、絶対に阻止するけどな。取り敢えず、漸く良く分からないイベントが終わったと思っていいだろう。精神的に疲れたな。
体調悪いのと寒い時期のぬるま湯は駄目ですね。速攻で冷えました。
あと資格取得の為に会場に行ったのですが。
案内板「高校入試対策模試会場」筆者「あっれー?」
素で日付を間違えました。最近のやらかし率の高さが異常です。
筆者「あと一か月、平穏無事に過ごしたい」
友人「無理でしょ。それフラグだから」
筆者「何でそんなことを言うの!」
友人「過去を振り返ってみなよ。むしろフラグ立てなくてもネタを提供するのがあんたじゃない」
ぐぅの音も出ませんでした。この後、過去話に話が弾んだのは必然です。