30.おかしな方向へ
大変遅くなって申し訳ありません。
風邪引いたり、熱暴走したのを修正したりとやっていました。
風邪は治っていません。
30.おかしな方向へ
護衛の人達にパフェをご馳走になり、そのまま送迎して貰って部屋に帰りその日がやっと終わった。適正年齢になるまでもう居酒屋に行くことはないだろう。
そして現在。不機嫌そうな茜さんと一緒に朝食を取っている。
「私がいない間に美味しい物を食べるなんて。しかもタダで」
「事前に言っていたじゃないですか」
「私だって仕事の都合が付けば行きたかったのよ。生贄に近藤を差し出せば私に被害が来ることもないと思ったし」
被害を出す人は佐伯先生だろうな。そして何の躊躇もなく近藤先生を差し出す辺り、近藤先生も不憫な人だな。成人してから茜さん達と付き合ったら色々と大変そうだ。
「凄かったですね。飲みっぷりが」
「タダ酒だから猶更だろうね。二次会にいった人達は無事だったかな」
一時間でボトル何本空けただろう。それに勧められるままに飲んでいた学園長が無事だったように見えない。俺からのメールちゃんと確認しただろうか。やらかしていないといいのだが。
「よし!次の晩御飯は焼肉にしよう!」
「そんな余裕はありません」
「そこを何とか。私も偶には牛肉が食べたいの。お肉代とかも出すからさ」
「うーん。……仕方ないですね」
材料費を出してくれるならいいか。商店街の精肉店に顔を出せば、少しサービスしてくれるし。スーパーに行くより商店街の方がお得になってしまったな。最初のスーパー巡りとは何だったのか。
「では茜さんの次の休日にやりましょうか」
焼肉やるなら茜さんも結構飲みそうだし、余ったら色々と別の料理に回せるな。何日かは牛肉が食えそうだ。うん、偶にはいいな。
「ヤッター!ということで寝る」
「力尽きてここで寝ないでください。自分の部屋に行ってください」
「何かここに住んでいてもいいような気がしてさ。寝る以外で自分の部屋にいないしさ」
「旦那さんはどうしたんですか?」
「部屋に私がいなかったら此処にいると話しているから大丈夫でしょ」
「いえ、大丈夫じゃないです。ここに乗り込んでくるじゃないですか」
知らない男性が訪ねて来たら俺は一体どんな反応をすればいいんだよ。流石に女性の一人暮らしに男性が訪ねて来たら問題がある。そして母も一緒の時とか何を想像されるか分かったものじゃないぞ。
「鍵を持っていないから大丈夫でしょ。琴音の事もちゃんと伝えているから」
「茜さんが私の事をどう説明しているのか不安なんですが」
公然と嫁を言いふらしている位だ。旦那さん相手に何を言っているのか分からん。旦那さんが嫉妬に燃えていたらどうなるんだよ。何で女の俺に嫉妬を向けられねばならん。
「大丈夫大丈夫。旦那は理解のある人だから」
「それを信用していいのかどうか」
迷うな。それに茜さんの旦那について誰も知らないのだから、どういう人なのかもサッパリだ。知っているのは何をしている人なのかだけ。判断できる材料が少なすぎる。
「それでは私はバイトに行きますから。茜さんも部屋に戻ってください」
「了解了解。じゃあまた後で今後の食事について語ろうねぇ」
フラフラと出ていく茜さんを見送りながら、この人も疲れているんだなと思う。あとは人恋しいのかもしれないと考えてしまう。結婚しているのにあまり旦那と会って無さそうだから。
俺もさっさと食器を片付けて行きますか。
バイトしながらふと思ったが、有名なバンドなら香織が何か知っているのじゃないかと。俺よりだったらTVとか見ているだろうし。バイト終わったら話してみるか。
「と言う訳で知っているか?」
「どういう訳か知らないけど、知っている。ファンだから。むしろ音楽番組見ていたら知っているはずなんだけど」
「TV見ないから」
自慢じゃないが、TVのコンセントは抜きっぱなしだ。部屋では本を読んでいるか、自習しているかのどちらかだからな。ネットは使う時はあるが、芸能情報とかは全然調べていない。
「女子高生としてどうなのよ。友達と話が合わないじゃない」
「全く持ってその通り」
「たく。それでイグジストについてだけど結成は二年前。噂だと五人目がいたとか言われているけど」
多分それは俺の事だろう。趣味で結成していて俺もベースで参加していた。となると俺を抜いた四人で活動しているのかな。あいつ、ベース兼任でヴォーカルをやっているのか。何でそこまでしてやろうと思ったのだろう。
理由が全然思いつかないな。
「七月にライブもあるんだけど、琴音の分はないわよ」
「いや、行く気はない。あとで感想でも聞かせてくれ」
俺の分まで取っていたら問答無用で連れて行く気満々だったと思う。しかしライブを開けるだけ有名になっているとはな。ネタで動画を上げていたというのに随分と偉くなったものだ。
あの動画は俺達にとって黒歴史になっているけどな。
「それより琴音は球技大会、何に出るの?」
「私は生徒会所属だから助っ人参戦のみのはず」
「そう言えばそうだったね。楽しちゃって」
実行委員会の手伝いをしながらだから、固定での参加が無理なんだよな。手伝いと言っても集計とか位だからそこまで忙しいわけでもないのだが。ただ確かに動かなくていいだけ楽なんだよな。
「琴音。それよりこれからの時期、それどうするんだよ?」
「それとは?」
店長に指摘されたことに気付かずに返したが、本当に心当たりがないんだよな。はて?
「手首の事だよ。これから夏服になったら体育の時間とかは隠すことできないだろ」
「確かに」
すっかり忘れていたが、手首にある傷跡は全然薄まっていない。まだ3か月しか経っていないから当たり前なんだけど。制服の時なら今と同じで腕時計で隠せるだろうが、体育の時はそうもいかない。半袖の時は見えるな。
「琴音の手首に何かあるの?」
「これ」
香織に見せていなかったな。というわけで腕時計を外して傷跡を見せる。思いっきり顔を顰められたが、俺はあまり気にしていないんだよな。気心の知れた相手ならという条件はある。
「何をやっているの!」
「香織と出会う前のことだから。まぁ私が変わった理由だと思って」
「二度とやらないでよ」
「やらないよ。やる理由がないから」
「理由があってもやらないの。悩んでいるんだったら私や他の人に相談すること。いいわね!」
「分かったよ。その時は世話になる」
「なら良し。でもそれを考えると水泳の授業なんて丸見えじゃない?」
「絆創膏でも張っておく」
それしかないだろうな。体操服ならリストバンドでもいいだろうが、水泳の場合はどうにもならん。包帯で隠していたらプールにすら入れないだろう。
「多分それでも怪しまれるよ」
「また噂の種が生まれるか」
しかも今回の噂で流れるものには真実も混ざるだろうな。琴音が自殺したのは本当であるし、証拠も俺自身が常に身に着けているようなものだ。完璧に隠すことは難しい。
「でも琴音のクラスだとあまり気にする人いないと思うのは私だけかな」
「あのクラス。異様に寛容だよな」
仕組まれていたんじゃないかというほど、こちらを気にしてくれるんだよな。去年の事をあまり気にせず接して来るし、今の俺の事を見てくれる。色んな意味で異様なクラスなんだよ。
「それでも何処から話が出てくるか分からないから」
「確かにね。関係ないことでも琴音の事が出てくるなんて不思議じゃないし」
裏で何かしらやっているなんて噂はザラだ。悪いことの裏には如月琴音がいるというのが学園での常識になっている。去年が酷かったとはいえ、どうしてこうなったのかは分からない。
そんなに悪い印象を与えていたのだろうか。
「よく考えたら神経図太いよね、琴音」
「気にしていないだけだ。気にしたら潰れるからな」
最初は印象が変わり過ぎて、誰だこいつ位に見られていたがバレてからの視線が痛いこと痛いこと。それを一々気にしていたら精神力がマッハで削られるさ。
「裸見られてもそれだけ気にしなければいいのに」
「それを言うな」
「水泳の時にどんな反応するのか見れないのが残念だなぁ」
「残念言うな」
自分の裸と言うより、他人の裸を見るのが恥ずかしいんだよ。まだ精神的に女性に成りきっていないから、他の人達の裸体なんぞまともに見れないんだよ。赤面しているのはそれが原因だ。
「どうせ後で弄られるんだから諦めなさい」
「いつの間に私は弄られキャラになったんだよ」
「反応が初々しいからでしょ。堂々としていればいいのに」
「それが出来れば苦労していない」
ガン見していて変に思われたらどうするんだよ。ただでさえ百合っぽい輩が居そうだというのに下手に刺激するような話題は提供したくないぞ。
「そうだ。琴音にちょっと確認したいことがあるんだけどさ」
「何?」
「今回の球技大会で優勝賞品が変わるっていう話、本当?」
「いや、生徒会でそんな話は出ていないが。私も毎日行っているわけじゃないから確証は得られないぞ」
「そっか。となるとこの噂はガセかな。あの会長なら何かしらやりそうなのに」
「あの会長だしな。不思議じゃないが、賞品を変えて何か意味があるのかな」
「毎年学食の食券じゃ飽きられるんじゃない?」
「三年で入れ替わるのに飽きるも何もないと思うぞ」
ただし本当にあの生徒会長は何をするか分からないからな。俺も注意していた方がいいか。実害を被るのは役員達だから俺もその中に含まれる。平穏無事に行きたいものだ。
「それじゃ私はそろそろ帰る」
「晩御飯食べていかないの?多分、お母さんそのつもりだと思うけど」
「じゃあ沙織さんに確認してからにするか。作ってもらって勝手に帰ったじゃ失礼だからな」
結構長居してしまったから気を遣わせたかもしれない。茜さんが夜勤じゃなかったら困っていたな。二食は食えるがその分、ちゃんと動かないと大変なことになるからな。
結局、準備していたので晩御飯をご馳走になってしまった。やっぱり他の人が作ったご飯は妙に美味いな。
次の日に生徒会室に立ち寄ったら、昨日香織と話していたことが現実となっていた。
「何ですか、このボードに書いている内容は」
「もちろん球技大会の優勝賞品候補だよ」
自信たっぷりに答える会長に頭痛を堪えるように溜息を吐くしかなかった。いや、マジで頭が痛くなってきたんだが。
「その写真集というのは何ですか?」
「生徒会役員によるコスプレ写真集だよ」
「誰がやると言ったんですか!」
「僕さ!」
うん、今回は我慢することを止めよう。苛立ちを込めて会長の顔面を鷲掴みにして、思いっきり力を込める。
「いい加減にしないと私も怒りますよ」
「イダダ!?現在進行形で怒っているよね!?顔、顔が潰れる!?」
「私の握力では潰れません。痛いだけです」
身体能力が高いといっても人間の頭蓋骨を砕くだけの力なんてあるわけないだろ。というかあんたはそろそろ痛い目を見ないといけない気がする。そうじゃないと俺の我慢も限界を超えるぞ。
「本音!本音を話すから離して!」
「全く。最初からそうしてください」
掴んでいた手を放すと会長は痛そうに掴まれた部分を摩っている。痛いようにやったのだから当然か。それにしても俺の暴挙を誰も止めない所を見ると全員何かしら思うことがあるのだろう。
「僕達の生徒会も残り半年位しか残っていないじゃないか。ただお堅い作業ばかりやっていないで、偶には思い出作りに馬鹿なことをやりたいのさ」
「いつも馬鹿なことを言っているじゃないですか」
「酷いなぁ。皆はそんなこと思っていないよね?」
全員視線を逸らす辺り思っているんだろうな。大体思い出作りにコスプレ写真集が行動に出てくる限り思考回路がどんな風になっているのか謎だ。普通に活動記録とかで写真を載せればいいだけではないか。
「作ったものだって中身を見て、賞品にするのか決めるんだしさ」
「衣装とかどうするんですか?写真だってここにはカメラもないですよね」
「そこら辺は演劇部や写真部に協力を頼むさ」
「その人達には見られるということですね。そこから流出したらどうするんですか?」
「もちろん手を打つさ。外部流出したら言い値で取引されそうだからさ」
木下先輩のコスプレ写真なんて撮れる機会ないだろうからな。会長の写真だって人気ありそうだし。大体、俺の写真なんて需要はあるのだろうか。飯を食っている写真を撮られたことはあったけどさ。
「だから僕達の思い出作りに協力してくれないかな」
「情に訴えるやり方もどうかと思います。木下先輩も反対しましたよね?」
「反対はしましたが、反対したのが私一人だけだったので負けました」
小梢さんがまさかの裏切りかよ!?あんたもコスプレさせられる側なのに何で賛成しているんだよ。買収でもされたのか。
「先輩と琴音のコスプレ姿見たさに負けました。でも後悔はしていない」
「してください。そしてグッジョブしないでください」
こんな所に伏兵がいるなんて思わなかった。確かにこんなことをやれば思い出になるし、アルバムとしてなら残してもいいかもしれない。ただ優勝クラスに晒さなければならないのは納得いかないが。
「本当に賞品には考えていないのですよね?」
「中身次第さ。それで反対されるなら僕からは何も言わないと約束するよ」
「大体学園長から許可は取れたんですか?優勝賞品を変えるのですから必要なのでは?」
「今朝方に駄目元で行ったら体調悪そうでさ。僕の話なんて話半分くらいにしか聞いてなかったんじゃないかな」
二日酔いがまだ残っているのかよ。あの日、どれだけ頑張って飲んだんだよ。恋に全力出し過ぎて、影響が残り過ぎだろ。もうちょっと考えて行動してくれよ、頼むから。後で話を聞くのが怖いな。
「分かりました、協力しましょう。ただし際どいのは無しですよ」
「それには私も全面的に賛同します」
「そこら辺はちゃんと考えておくよ。嫌なものは着なくていいよ」
よし、言質は取った。変なコスプレなんて絶対に着たくはないからな。しかし生徒会に入ってから変な方向に走っているような気がするのだが。
何でこんなことになっているんだろう。
30話の節目に何を書いているんだろうと思いました。
ただこんな話を書きたかったと前から思っていましたね。
風邪は鼻と咳と熱で、熱は引きました。他は中々治りません。
ティッシュが手放せず、布団にくるまりながらアトリエをプレイしています。
本日手違いによりデータが消えて、泣きそうになりました。