28.居酒屋、てっちゃん
28.居酒屋、てっちゃん
飲み会当日。バイトを終えてそのままの恰好で集合場所へと向かっている。もちろん現地集合だ。格好に気を遣った所で持っている服装が限定されているからな。
それに俺が飲み会に誘われることなんて今回だけだろ。
「三年経っても全然変わっていないな」
俺が死んでから三年が経過してるのに居酒屋は何も変わっているように見えない。以前にいったショッピングモールなんて中身がゴッソリと入れ替わっていたというのに。
変わらないものってあるんだな。
「いらっしゃいませ、お一人様ですか?」
「佐伯静流で予約していると思うのですが」
「あぁ、静流ちゃんの知り合いね。奥の個室になるわ」
通い慣れているな佐伯先生。店内もあまり変わっていないかな。小物や何故かサイン色紙なんて飾っているが誰か有名人でも来たのか。
「ここは初めてかしら?」
「そうですね。場所は静流さんに任せたので」
「静流ちゃんの知り合いということは貴女も教師かしら?」
「違いますよ。というか今日の集まりで言えば私だけが例外です」
教師達の中で俺だけ生徒だからな。だから佐伯先生も気を遣って個室を用意して貰ったんだろう。居酒屋に生徒が来たりはしないだろうが、予防線を張っておくに越したことは無いだろう。
家族に連れられてくることだってあるからな。
「此処よ。まだ誰も来ていないけど」
「メニューでも見ています。私は食べる専門なので」
ふむ、レパートリーは若干増えているか。唐揚げと焼き鳥セットは鉄板で頼むとして、あとは何にしようかな。久しぶりに焼き鳥丼でも頼むかな。他には、というか奥さんが去らない。
「どうかしましたか?」
「えっと、ちょっと失礼なんだけど。何か知っている人に似ているから」
「その方も女性ですか?」
「男よ。ただメニューを見ながらワクワクしている姿がダブるのよね」
似ている人なんて何処にでもいるだろ。前の俺だって全員集まるまではずっとメニューを見て、何を食うか悩んでいたからな。
……ん?前の俺?
「その方は今も来られるのですか?」
「残念ながら三年前に亡くなったわ。私と旦那の同級生だったんだけど」
はい、俺でした。姿や性別が変わっても雰囲気が似ているのかな。丁度いい機会だから色々と聞いておくかな。俺も自分のことについて図書館で新聞のバックナンバーで調べてはいるが、もしかしたら何かしら分かるかもしれない。
「失礼ですが、その方はどうして亡くなったのですか?病気とかですか?」
「違うわよ。殺人事件。それも仕事の同僚に毒殺されたの」
それは知っている。俺の最期の記憶も差し入れを喰った所で終わっているからな。新聞で調べたこととも合っている。ただ何故同僚がそんなことをしたのかが載っていなかった。
捜査中としか書いてなく、続きも載らず。他の記事に埋没したのだろう。
「何故同僚が?」
「うーん、これを他人に言うのはちょっとね。関係者に許可を貰わないと私からは言えないわね」
「そうですか」
つまり俺だけに恨みがあったという訳ではないという事か。もしかしたら何かに巻き込まれた可能性もあるな。ただあの以前におかしなことに巻き込まれたことなんてなかったよな。
「おーい、手伝えよ」
「ごめんごめん。それじゃ私はこれで」
「忙しい所、申し訳ありません」
「そういう所も似ているのよね。あっと、旦那に怒られるわね」
俺としても癖なんだけどな。ただこの世界が俺の死後三年後の世界である可能性は高いな。十二本家やこの居酒屋など俺の知っている事柄が多いことも起因している。
だから生活して混乱することもなかった。
「あと知るべきことは死んだ原因。何故こうなったのか。他の連中についてか」
奥さんの言葉から他の連中と接触しない限りは自分が殺されたことについて調べるのは無理だろうな。だからといって、どうやって会って、どうやって聞き出すかが問題だ。
三年も経っているのだから住所が変わっている奴だっている。それに赤の他人に話せる内容なのか。
「問題は尽きないか」
「んっ?何か有ったの?」
「いえ、何もないです。早かったですね、静流さん」
考えに没頭していて佐伯先生が入ってきたことに気付かなかった。プライベートの飲み会で先生と呼ぶわけにもいかないから下の名前を勝手に呼んでいるが、問題はなさそうだな。
「もうちょっと恰好に気を遣ったらどう?」
「バイト終わって直行してきましたから」
「着替える時間位あったでしょうに。まぁ大人びて見えるから、あれだけど」
居酒屋に入ってきて未成年だと聞かれてもいないからな。堂々としていれば問題ないだろ。
「料理は勝手に頼んで頂戴。私はビールね」
「まだ揃っていないのに早いですよ」
「今の内に注文しておかないと乾杯に間に合わないじゃない」
確かに一理ある。事前に頼んでおくのに越したことは無いか。他の人達が何を呑むのか分からないが、やっぱり最初はビールかな。俺は烏龍茶だが。
「すいませーん」
「あいよー。んっー?」
「どうかしましたか?」
今度やってきたのは旦那の方だった。ここって店員少ないから店長もよく動くんだよな。その分、奥さんも厨房に立つことがあるんだが。
「いや、あいつから聞いたんだが。似ているような、似ていないような」
「それは総じて似ていないという事です」
悩んでいるなら似ていないで納得しろよ。むしろ琴音と俺では背格好からして違うんだから。似ているのは癖とか雰囲気とか位だろ。
「注文です。これとこれとあとこれも。飲み物はビール一つ、烏龍茶一つ。全員揃ってからお願いします」
「何だ、呑まない奴もいるのか。静流さんの知り合いなら全員酒豪だと思ったんだが」
「私が呑みません。私は食べる専門です。というか静流さん、どれだけ呑んだんですか?」
「そこそこね」
「そこそこであの量を呑まれたら店としてやっていけないぞ。今日は手加減してくれよ」
「大丈夫。皆の飲み放題分くらいにしておくから」
この人、全然手加減する気がないな。俺は烏龍茶二杯もあれば十分だし、他の人だって元を取るだけ飲むような人はいないだろう。
「琴音ー!」
「おぶっ!?」
店長と入れ替わりに入ってきた人に抱き付かれて、押し倒された。柔らかいけど息が出来ない!この感じはあの人だって分かるけど声が出せない。
「キャシー。琴音が苦しそうだから離してあげなさい」
「Oh、Sorry。誘って貰えて嬉しくて」
「だからって唐突に抱き着かないでください」
「……羨ましいな」
「あら、近藤も一緒だったの?」
「俺が道案内役だったからな」
どうやら近藤先生とキャシー先生は一緒に来たみたいだな。これであと来ていないのは学園長だけか。それに佐伯先生も気を遣って名前で呼んでくれているな。他の人達もそうしてくれると助かるんだけど。
キャシー先生に関しては元から名前で呼んでいるが。
「あんた達もビールでいいわよね。店長ー!ビール二つ追加!」
「勝手に頼むなよ。まぁそれでいいがな」
「OKOK。他に何があるか分からない」
来たばかりでメニューも見ていないからな。約束の時間までもうちょいか。学園長、まさか仕事していて遅れてくるなんてことないよな。それだと不評買って嫌われるぞ。
「すまない。遅くなったな」
「「「……は?」」」
雑談しながら待っていたらやっと来たか。そして三人の教師は唐突にやって来た学園長に絶句している。俺はそれを見て笑いを堪えているが。当然の反応だよな、やっぱり。
「えっ、ちょっと!?」
「いやいやいや、謎の人物ってこの人かよ!?」
「……Why?」
「三堂さん。プライベートの飲み会でスーツなのはちょっと」
「仕事を片付けていたからな。そういう君だってあまりお洒落をしているように見えないが」
俺のことはいいんだよ。今回の主役である学園長がスーツで来るのはどうなんだよ。いつも見ている姿だからインパクトがないな。主に俺に。いや、似合ってはいるんだけどさ。
「ちょっと琴音!何を普通に会話しているのよ!」
「どうやって知り合って、どうやってこんな状況になるんだよ!」
まだ混乱しているようだな。言っていることは分かる。ただの生徒が学園長とプライベートのセッティングをする位に親しいなんて思わないだろうな。俺だって親しくするつもりはなかったさ。
巻き込まれただけだ。
「あの事件で色々とありまして。店長!ビールもう一つ追加で!あと全員揃ったので持って来て下さい!」
「切っ掛けはそうだな。彼女の母とも付き合いがあって、それも関係しているか」
「あぁ、納得か。……いや、納得できるか?」
「無理よ。それだと今の状況が説明付かないわ」
そこは無理にでも納得してほしい。話が進まないから。まさか佐伯先生とお付き合いさせるために色々と画策しているなんて言えないぞ。取り敢えず当たり障りのないことを言っておくか。
「三堂さんも皆さんと交友を広めたいと言っていたので今回の会を企画したのです。学園長が直に誘っても皆さん、委縮するでしょうから代わりに私に頼んできたのです」
この説明で何とか納得してくれたようだ。佐伯先生だけはまだ疑っているようだが、今は勘弁してください。貴女だけは別件だから。
「それでは飲み物も揃ったので。三堂さん、乾杯の音頭をお願いします」
「では僭越ながら。全員揃わなかったが、これからもどうか力を貸してほしい。それでは乾杯!」
「「「乾杯!」」」
「乾杯。というか音頭が堅いです」
俺の言葉に合わせてくれたのはナイスだが、会社の飲み会じゃないのだからもっと砕けた音頭でいいというのに。そこら辺はやっぱり性格なのだろう。さてあとはどうするか。
俺もこっから先の事なんて考えていない。
「琴音。琴音の交友関係って凄いね」
「キャシーさん。これは偶然の産物です。私の知り合いが全員凄い人物じゃないのですから」
俺の知り合いで一番偉い人物が学園長だからな。他の成人している方で地位の高い人なんていない。だから尊敬するような瞳を向けないで欲しい。
「私もまさか三堂さんと知り合いだったのは予想外だったわ。店長!ビール追加!」
早いな。というか確実に一気に飲み切っただろう。それと学園長。名前を読んで貰えたからって顔を緩めるな。あんたが動かないと距離は縮まらないんだから。
「君達は琴音と親しいのか?」
「俺は知っての通り担任ですからね。去年は苦労させられましたから、今年は楽が出来ると思っています」
「近藤君。今はプライベートだから敬語は必要ないぞ」
「と言われましても。……わ、分かったから睨むな!怖いわ!」
学園長が睨むとマジで怖いからな。普通にしていても怒っているように見えるから尚更なんだよ。ただしメンタルは弱い。
「私は親友が琴音と親しいから、その繋がりね。その内、遊びに行こうかなぁと」
「いいんですか?教師が生徒の家に遊びに来るのは」
「いいんじゃない。私は茜と会うだけ。貴女と会うのが目的じゃないから」
それは屁理屈じゃないだろうか。ただ晩御飯時に来れば必然的に俺の部屋に来ることになるからな。俺も拒否するようなことはしない。関係が悪化するからな。
「私は、私は、何もない……」
「落ち込まないでください、キャシーさん」
この中で言えばキャシー先生だけがあまり接点がないんだよな。担任と親友との繋がりがある中で、この人だけ授業だけでの付き合いだから。その割にスキンシップは過激だ。
「だから抱き着く!」
「意味が分かりません!」
抱き付こうとしてくるキャシー先生を押し留めながら、目の前に並び始めた料理を見ていく。というかこの状態じゃ飯が食えない。出来立てを喰わせてくれ。
「あっ、お替りお願い」
「静流ちゃん、もうちょっとペースを落としてくれると助かるわ」
「だが、断る!」
奥さんの頼みも一刀両断かよ。本当にペースが早過ぎる。他の人達がジョッキ一杯終わるというのにすでに三杯目かよ。そして本当に酔っているように見えないな。
「し、静流さんは酒に強いのだな」
名前を呼ぶだけで緊張するなよ。それにしても佐伯先生は学園長相手でもあまり気にしていないな。近藤先生なんてまだ緊張しているというのに。キャシー先生はまだ俺を構っているが。
飯を食わせてください。
主人公の死亡詳細は後でちゃんと書きます。
今回はサラッと触る程度と決めていたので。
ちなみに筆者の英語力は最底辺です。