27.保健室での密談
調子のいい時と悪い時の落差が激しいです。
悪い時は書いては消してですね。半分位書いても消します。
ということで結構不定期更新です。
27.保健室での密談
本当に一週間、食堂で昼食を取らされた。拒否しても毎回引き摺られて連行されるので無意味だった。そして何故か食堂に集まる人数が増えて食堂のおばちゃんに感謝までされた。
うん、全然状況が分からん。
「今年の貴女も話題に事欠かないわね」
「巻き込まれているだけなんですけどね」
現在いる場所は保健室。一週間、自分の事ばかりで学園長の依頼をすっぽかしていたので、流石に動かないと不味いと思ったからだ。まぁ他にも理由はあるのだが。
「佐伯先生。タダでお酒が飲めるのなら来ますか?」
「当然行くわよ」
そこは理由位聞くべきじゃないかな。即答で答えられたから、ここからどうやって誘おうか悩む必要が無くなってしまった。
「面子に関しても気にしませんか?」
「会ってみないと分からないわね。お酒の席だと人が変わる人もいるから」
それもそうだな。普段は大人しいのにお酒が入った途端に人が変わる人なんて珍しくもない。それが良い方に転ぶかどうかは分からないけど。絡み酒は面倒臭い。
「行ってみたい場所とかありますか?私も詳しく知りませんので」
「貴女がセッティングするの?」
「何故かそういうことになりました」
女子高生が居酒屋などの予約をするなんて誰が思う。俺だって不味いという自覚はあるが、電話で予約するのであれば問題ないと思う。いや、問題大有りか。
「流石に不味いと思うわよ。代わりに私が場所を決めるわ。久しぶりに行きたい場所もあるから」
「何処ですか?」
「てっちゃんという居酒屋よ。最近お金が無くってご無沙汰だったから」
毎日浴びるだけ飲んでいそうだからな。まだ部屋で飲まれていないからどの程度飲むのか分からないが、一緒に連れて行かれた茜さんがあれだけ酔わされるのだ。相当な量なのだろう。
そして俺が一番気になっているのが行く場所。まさかな。
「あの、店主の名前とか知っていますか?」
「大石蔵助だったかしら。以前は大石三郎ね。何であの店名になったのか想像できないけど」
うん、まさかが当たった。琴音としてではなく、俺として知っている。だがよくよく考えれば姿、むしろ性別まで変わっている俺が行った所で分かるはずもないか。
生前に俺も通っていた居酒屋だ。
「まさかと思うけど行ったことあるなんて言わないわよね?」
「高校生が行けるはずがありません」
普通に飯を食う位なら行けるんじゃないかと思うが、琴音として行っていたのなら大問題だ。あそこは確か鳥が中心だったな。魚介系もある程度用意できるはず。
前に飲み放題で赤字を出す客がいると聞いたが、佐伯先生の事かな。
「予定はいつにしますか?私も集める人を探さないといけないので」
「来週の土曜日なんてどうかしら。次の日が休みだからいいとは思うけど」
「分かりました。それで他の方々を誘ってみます?」
「学生を集めないでよ。私が呑み難いから」
「成人している方を集めます。候補では近藤先生とか」
「なら良し。一応言っておくけど貴女は一切飲んじゃ駄目よ」
「烏龍茶でもがぶ飲みします」
学園長とかいる目の前で飲んだら退学待ったなしだよ。すでにリーチが掛かっている状態だからな。むしろ居酒屋に入るのを見られただけでアウトではなかろうか。
誘った人物が学園長と言うのも問題なんだよ。
「それにしても全額奢りなんて太っ腹な人がいるものね」
「私としてはいい迷惑なんですけどね」
「というか誰?」
「それは当日のお楽しみにしてください」
学園長と答えて、来て貰えなかったら泣くぞ。学園長が。
「なら聞かないでおくけど。貴女の交友関係って予測できないのよね」
「成人されている方も結構いますからね」
職業的に考えると看護師、教師、喫茶店店主とかバラエティに富んでいるな。統一性が一切皆無だが、俺としても何故こんな交友関係になったのかは全然分からん。
「人数は多い方がいいですか?」
「それは任せるわ」
なら少なくてもいいということだな。誘える人物は考えているが、来れない人がいるかもしれない。ただ店長や沙織さんを呼ぶわけにはいかないな。下手したら近藤先生や佐伯先生から誰かを誘って貰わないといかないな。
……何で俺が幹事をしているんだろう。
そしてよく考えてみれば俺が飲み会に近藤先生を誘うのは不味くないか。道徳的にも見た目的にも。
「すみません、近藤先生を誘ってもらえませんか?」
「なら呼ぶわよ」
相変らず近藤先生に対する扱いが酷くないか?俺も道連れ要員で選んでいる時点でそんなこと言えないんだけどさ。しかし保健室に先生二人に学生一人というのも他の人が見たら変なこと邪推しそうな状況だよな。
「何の用だよ?」
「今度飲み会やるんだけど、あんたもどう?」
「静流と飲むとペース引き摺られて潰れるんだが。それに何で如月もいるんだ?」
「私も参加ですから。拒否権がありませんでした」
「企画したの誰だよ」
それを言えば誰も来ない可能性があるので黙秘権を行使する。普通の会社で言えば社長と一緒に飲むようなものだ。断ろうにも失礼に当たるから、気分は凄い微妙なんだよな。
気を遣うから楽しくも飲めない。
「それでどうしますか?」
「私からの誘いなんだから断りはしないでしょ」
「参加はするけどよ。男が俺一人とか勘弁して欲しいな」
「大丈夫です。もう一人の方も男性なので。あともう一人位いませんか?お酒飲めない私だとキリが悪いので」
「と言ってもよ。如月が一緒となると来る奴は微妙だぞ」
そういえば教師からの評判も悪かったな。それに教師の中で俺だけ高校生と言うのも問題があるから、ある程度口の堅い人になるだろうな。口止めに関しては学園長に任せるが。
「キャシーはどう?貴女とも仲がいいでしょう」
「仲がいいというか、過剰なスキンシップに迷惑しています」
英語の教師で見た目は金髪でスタイル抜群の方。だけど日本生まれなので日本語はペラペラ。授業が終わって声を掛けられたので返事したらいきなり抱き付かれたんだよな。
「何故好かれたのか全然分からないのですが」
「ほら、如月は去年教師から何を言われても無視していただろ。あいつはそれを気に病んでいたんだよ」
「それと今の状況と何の繋がりが?」
「ツンとしていたのがデレたんだ。あいつはそれが嬉しかったんだろ。前のお前なら呼ばれても無視。抱き着かれでもしたら平手位していただろ」
多分と言うか確実に頬を張っていただろうな。しかし俺がツンデレキャラ扱いされるとは。色々と人の価値観は様々だ。
「毎回抱き付かれる私の身にもなって下さい」
「男としては羨ましいけどな。その双丘に顔が埋められるんだから」
「セクハラよ、近藤」
あの人、本当に胸がデカいからな。抱き着かれた後は決まって赤面の俺はクラスメイトからよくからかわれている。こっちとしては息苦しくてという理由もあるんだが。
「ただやはり私から誘う訳にもいかないので、どちらかお願いできませんか?」
「ならやっぱり私ね。男が誘ったら勘違いされそうだから」
「下心なしで言った所で信用無いよなぁ」
「先程の発言で更に信用がないですよ。近藤先生」
「違いない」
笑う近藤先生にこっちまで笑みが零れてしまう。誰が想像できる。去年まで不良少女だった琴音と教師がこうやって笑い合いながら馬鹿話をしているなんて。着実に琴音のイメージは回復してきているな。
「近藤、顔が赤いわよ」
「やっぱり如月の笑みは破壊力あるな。何も知らない奴だったらコロッといくぞ」
「それに関しては同意するけど、あんたが陥落されるんじゃないわよ」
「分かっているって。女子高生とのお付き合いはマジにならないと出来ないさ」
「私はお断りです。先生と付き合うなど学生生活が破綻します」
まともに送れるとは思わない。隠れて付き合ったとしても絶対にばれること間違いない。尚且つ、俺がまだ男性と付き合うという覚悟がない。本気で好きな人なんていないしな。
「振られたわよ」
「はいはい、いい相手を見つけるよ」
「佐伯先生と近藤先生はどうなんですか?そういう関係というのは」
仮にこれでどちらかに好意があるのであれば事態は更に面倒臭くなるからな。一応は確認しておかないと。それに巻き込まれるのは確実に俺なわけだし。
「「ないない」」
「そうですか」
「私のタイプじゃないから。友達位が丁度いいわよ」
「こんな大酒飲みと一緒だと肝臓が持たん。生活に支障きたすレベルだぞ」
「それはあんたが弱いだけよ。茜は何だかんだと付き合ってくれるわよ」
「あいつもあいつで強いよな。あいつの旦那もよく付き合えるよ」
バーを経営している位だ。ある程度の酒の付き合いならば大丈夫なんじゃないかな。酒を全く飲めない人がバーのお酒をどうやって作っているのか想像できない。
「いつもは缶ビール3缶くらいで終わっていますけど。茜さん、そんなに強いんですか?」
「俺としては何で如月が茜の飲み数を知っているのかが不思議なんだが」
「一緒に晩御飯食べたりしていますから」
「半ば同棲みたいなものよ。茜のご飯を如月さんが作っているのよ」
「あいつが作るのって基本的に炭だからな。納得はできる」
茜さんの料理の腕はその位なのか。偶に手伝おうかと尋ねられることがあったが、遠慮しておいて正解だったか。包丁を握らせるのも不安を覚えるな。
「茜なんて如月さんの事、嫁と呼んでいるわよ」
「離す気ないな、あいつ。如月が実家に帰ったらあいつは生活できるのか?」
言われてみるとそうだな。俺は帰る気はないが、学園を卒業したらどうなるか分からない。実家に帰らされるのか、それとも勝手に縁談でもまとめられて結婚させられるか。または大学に通えるのか。
俺に選択肢があるのかどうか分からないからな。
「今まで一人で生活できていたのであれば大丈夫だと思いますが」
「絶対に灰のように真っ白になる姿が想像できるんだが」
「奇遇ね。私もよ」
そこまで精神的にショックを覚えるのかよ。嫁に逃げられた旦那のような心境だろうか。俺は逃げる訳でないのだが。
「あいつが嫁と言うんだったら結構依存している証拠だよな」
「高校時代に親しい子が転校した時なんて結構塞ぎ込んだわよね」
「全然想像できませんね」
あの人が塞ぎ込んで、お先真っ暗状態になるなんて全く思えない。賑やかな状態しか見たことないからな。むしろ旦那がいるんだからフォロー位するだろ。
「旦那さんがいれば大丈夫だと思いませんか?」
「その旦那と会ったことがないから何ともね。茜、結婚式は親族のみでやったから」
「何か事情があったんだよな。あいつが友人の一人も呼ばなかったんだから」
「多分ね。茜と言うより相手方の理由だと思うけど」
相手方に何かしら知られたくない理由があったという事か。それがどんな事情だったか分からないが、茜さんにとっては苦渋の決断だっただろう。友達とか大事にしてそうな人だから。
「こんな話をしているのもあれだから話を変えるけど、茜を呼ばなくてもいいの?」
「タイミング悪く来週の土曜は夜勤です。愚痴は零すと思います」
「本気で嫁みたいだな。これがあの如月かと思えるぞ」
だって予定を聞いておかないと献立を考えるのが大変じゃないか。俺だって手を抜きたいときだってあるんだから。作って無駄にもしたくないからな。
「それにしても教師のみでの飲み会に生徒が参加と言うのも問題だと思うのだけれど」
「それは企画者に言ってください。私も最初は断ったのですから」
「なら企画者を教えなさいよ」
「言えません。文句は当日にお願いします」
これで断られたら学園長への対応が面倒臭いんだよ。俺に何かを言う前に絶望しそうだから。だったら自分から積極的に動けと俺は言うけどな。また手を貸してほしいと頼まれるのも面倒だ。
「なぁ如月。その人は偉い人か?」
「黙秘権を行使します」
「何か怖くなってきたな」
「でも生徒を誘うような人よ。偉い立場の人がそんなことをするかしら」
するのですよ。率先して俺を巻き込んでいるのだから。女子高生に恋愛の相談する学園長がどこにいるよ。しかも出会いのお膳立てをお願いするような人だ。まともじゃない。
「教師三人に生徒一人、謎の人物一人か。マジでどんな飲み会になるんだ?」
「ある意味で醍醐味ね。タダ酒だから文句は言えないかしら」
当日にドンと文句を言ってほしい。俺だけ言っても全く聞く耳を持たないから、惚れた人に言われたら考えを変えてくれるかもしれない。いい方向に事態が動いてほしいな。
あの学園長が呑んで性格変わらないとは限らないが。
知っている人もいますが、次話でこの世界について触れます。多分。
改訂してから一体何話後の話なのか。
不定期と言いましたが、一週間も間が空くことは無いと思います。
勢い有れば一日一話書けるのですから不思議なんですよね。