24.不穏な気配
人物紹介、結構抜けている人もいたので今回は見送りです。
ただ一話分の容量になりそうなんですよねぇ。
24.不穏な気配
此処に来る度に思うのだが、俺だって一般的な女子高生なんだよ。確かに去年は問題児だったが、今年はまだ何も起こしていない。むしろ巻き込まれている存在なんだよ。
それが何で学園長室に通わないといけないんだ。
「もう限界だ」
原因は目の前で項垂れている人なんだがな。というか、やっと諦めたか。一体何回駄目出ししたのか俺も数えるのを止めた。
「学園長。友達いないのですか?」
まず第一の欠陥として学園長が誰も連れて来ないという点。いや、俺を人数に入れるのは間違っているから。つまり学園長と佐伯先生の二人プラス俺というのが問題なのだ。
「こういうのに誘える人物は確かにいないな」
「自信あるように言わないでください」
この時点で駄目なんだよ。分かっているさ、学園長と佐伯先生の二人にしたところで会話なんて全くないであろうことは。佐伯先生が話題を提供しても、学園長が台無しにすることも。
「私の代わりに考えてくれないか?」
「だから女子高生に頼まないでください」
第二の欠陥に行く先の店選びで俺が許可を出していない。何処を選んでも値段が高い場所ばかり。俺だって行きたくないし、どんな理由を付けて誘うんだよ。一般的に軽く行くような場所ではない。
「もう私は駄目だ」
「なら佐伯先生のことも諦めてください」
「アタックする前に諦めろと言うのか」
「ならさっさと当たって砕けてください」
「協力してくれるのではなかったのか?」
もう面倒なんで俺から触れたくはないんだよな。ただ一歩も前に進まない状況だと延々と俺が学園長室に通わないといけない。それはそれで問題があると思う。
仕方ない。手を出すか。
「なら私がセッティングしてもいいんですよね?」
「願ったり叶ったりだ」
「学園長が行ったことないような場所でも全然構いませんよね?むしろ了承しない場合は依頼を投げます」
「構わない。好きにやってくれ」
言質は取った。取り敢えずやるなら人数を集めないと。言った通り、俺と佐伯先生のみの参加なんて俺が拒否する。せめてあと二人くらいは集めたい。その前に予定を聞かないと組めないな。
まぁ急ぐことはないか。
「日程と場所が決まったらお知らせします」
「うむ、宜しく頼む」
うむとか言うんじゃねーよ。その満足そうな顔を引っ叩きたくなるが自重する。流石に学園長を叩くのは不味いだろう。
さて、帰るか。
保健室で佐伯先生に声を掛ける前に他の人を誘っておこう。候補としてはやっぱり近藤先生かな。佐伯先生とも同級生と言っていたし、俺としても一時期お世話になったからな。
タダ酒なら来る可能性は高いだろう。もちろん全額学園長負担だ。
「如月琴音さんですね?」
「そうですが何か?」
玄関で外履きに変えていたら声を掛けられたが、誰だろう?琴音が迷惑を掛けた人達を全員覚えているわけではない。琴音の印象が薄い人たちは必然的に記憶も曖昧だからな。
「貴女に用事があります。付いてきてもらえますか?」
疑問形で聞いているが拒否権は無さそうだな。声を掛けてきた人以外にも3人いる。全員が友好的な感じじゃないな。可能性があるとしたら今までの報復かな。
「別に予定もないのでいいですよ」
取り敢えず素直に付いていこう。多分、拒否して帰ろうとしても囲まれそうだからな。学園長と話していて他の生徒達の帰宅時間からずれてしまって、他に生徒もいないから。
そして連れて来られた場所は俺が良く昼食を取っている人があまり来ない場所だった。
「率直に申します。生徒会を辞めてください」
んっ?今まで大人しくしていたから、今なら琴音にちょっかいを掛けても大丈夫だと思っての報復じゃないのか?そんなことを考えていたのに。
「それは会長に言ってください。私を誘ったのは会長なんですから」
条件付けてまで入ることを了承したのだから今更理由も告げずに辞めることは出来ない。大体理由は何にするんだよ。一身上の都合とでも言えばいいのだろうか。
「嘘ですね。何か弱みを握って会長を脅したくせに」
いやいや、弱みを握られているのは俺の方なんだが。主に学園長との関係とかさ。大体色々な手を使ってでも俺を生徒会に入れようとした人だぞ。弱みなんか俺が握れるか。
「貴女のような人は生徒会に相応しくありません」
うん、知ってる。
「なら私の不信任案でも出してください。可決されれば私は晴れてお役目御免です」
「貴女から辞めれば済むことです」
それが出来れば俺だって苦労はしていない。何だかんだと理由を付けられて会長が逃がしてくれないだろう。あとは女性陣が許してくれない。
「一応喋ってみます」
「信用できません」
どないせっちゅーねん!何だよ信用無いから俺が喋らないと思ってるのかよ。なら俺にどうしろと。お前らの誰かが一緒に生徒会室に入って監視でもするのか?
「なら私はどうしたらいいのですか?」
「生徒会室に入らなければいいのです」
いや、それだと辞めたことにならないぞ。こいつ、馬鹿か?それに俺が行かなくても誰かが迎えに来て引き摺ってでも連れて行かれるような可能性だってあるのに。
「会長が迎えに来たらどうするのですか?」
「そんなことを会長がするはずがありません」
だからその会長は勧誘の為に食堂で一緒に飯を食うくらいの行動力があるんだよ。木下先輩でも小梢だって俺を強引に連れて行く可能性は高いっていうのに。
「全く話にならないのですが」
「私の言うことが聞けないのですか!」
「聞く聞かない以前の話です。もっと具体的に私が生徒会を辞めれるような助言を下さい」
採用できるのであれば実践はするさ。ただその全てをあの会長は踏み倒しそうなんだよな。会長がぐぅの音も出ないような完璧な理由はないものだろうか。
「貴女、断れるような状況だと思っているのですか?」
いや思っているけどさ。四方を囲まれていると言ってもただそれだけだし。この程度なら逃げる事なんて何とでもなりそうだ。むしろ何でこれで優位に立ったと思っているんだよ。
せめて俺を壁際に追い詰めるとかしてみろよ。そんな状況に俺はしないが。
「捕まえなさい」
それは声に出しちゃいかんよ。俺も動くから。背後を振り返って捕まえようとしてきた相手の腕を逆に掴んで、先程まで俺の正面にいた人の方へと引っ張る。
「きゃっ!?」
はい、終了。俺と背後にいた人の位置が入れ替わっているので両隣にいた人達からも捕まってはいない。もちろん前方の方は突っ込んできた背後の方とぶつかって尻もちをついている。
「それでは私は帰ります」
いつまでも時間を無駄にしてられない。段々と俺も苛々していたからな。本当にこいつらが何をしたかったのか全然分からん。
「そこで何をしている?」
タイミング最悪だな。何で逃げようとしたら人が来るのやら。むしろこんな人が来ない場所に何の用事があって来るんだよ。そして現れた人物に俺の顔が歪む。
面倒臭い人物がやってきたと。
「助けてください、長月さん!」
尻もちついている人が助けを求めているが、俺の方が助けてほしいんだが。ただこの人物に対しては有効な手だろうな。琴音のイメージ最悪な印象を持っている人物だから。
「如月か。やはり今までは鳴りを潜めていただけか」
うん、予想通りの反応だな。琴音がちょっかい掛けていただけのことはある。逃げるタイミング完全に無くなったな。
「一応言っておきますが、私が彼女達に連れて来られたのです」
「見え透いた嘘を吐くな。誰がそれを信じる」
本当に面倒臭いな!被害者からいきなり加害者かよ。
「どうせ彼女達に何かしらの因縁を付けて前みたいなことをしようとしたのだろ」
「そうなんです!私達を無理矢理連れてきて!」
むしろ4対1でどうやって俺が連れてくるんだよ。家の名を使うにしても琴音だって人数差は考えていたぞ。前は卯月とかいたからやれていたんだしな。
ヤバい、本当に苛々してきた。
「帰ります」
こんな茶番に付き合ってられるか。このまま此処にいても俺に何の利もない。弁明しても聞いてくれない連中に何を言った所で無意味だ。後ろから何かしら言われるが知ったことか。
しかしあいつらの目的は何なんだ。生徒会から俺を排除してあいつ等に何の利があるんだ。
「ちょっと散財しよう」
自分でも分かっているが、かなり苛々している。別に琴音がしたことに謝るのなら仕方ないと思っている。ただ今回のことは琴音が何かしたわけでも、俺がしたわけでもない。
被害者のはずなのに加害者にされ、相手が何を考えているのかサッパリ分からない。それが苛々の原因。
一旦、部屋に帰って着替えて早速出かける。晩御飯の準備があるから遠出は出来ないが、向かう場所はそれほど離れていない。
やってきた場所はバッティングセンター。さてかっ飛ばすか。
「全く知らない人が見たらOLがストレス発散に来たように見えるね」
140キロの球を次々とバットで打っていたら後ろから声を掛けられて振り返る。どうせさっきの球で最後だったしな。
「同じ学園の人ですか?」
「4組の幸子だよ。手伝いしてたら見えたからさ」
「よく私に話しかけてきましたね」
「四月にイメチェンして、更にこんな所にいるなんてイメージ違いすぎるから声掛けても大丈夫かなって」
いつものことだな。意外と外見が違うだけで話しかけてくる人はいるんだよな。彼女もその部類の人だろう。
「それにしても苛立っていたね」
ボールにストレス全部ぶつけていたから顔が怖かったかな。それが目的だったから仕方ない。
「被害者なのに加害者扱いされましたからね」
「まだ去年のイメージ引き摺っている人は多いからね」
それは俺も分かっているんだけどな。だからといって状況も把握せずに無条件で俺を疑われるのはどうにも納得できない。
「明日は噂がまた流れそうだね」
「また事実と違うものが流れるのですか」
実力テストの後に卯月が流した噂の内容は知らないが、今回流れるであろう噂は想像つくな。
「「また始まった」」
幸子さんと声を揃って噂の中身を話して、お互いに笑い。その後に俺は項垂れる。折角、触らぬ神に祟りなし位まで生徒達の評判が戻ったというのに。
「ま、まぁ元気だしなよ」
「何かずっとループしそうな気がします」
幾ら俺が評価を戻していっても、似たようなことがあればまた悪くなる。これが延々と続くとなると気が滅入るな。唯一の救いはこの噂が事実無根であると信じてくれる人がいること位か。
生徒会も味方だから学園全体が敵になることもないし。
「小鳥ちゃんが荒れそうなんだよねぇ。如月さんの悪い噂が流れると」
「小鳥と一緒のクラスだったんですか」
そう言えば小鳥のクラスとか全然聞いたことが無かったな。最近だと教室で弁当を喰うことも多くなって、偶に教室まで突撃してくるようにもなっていたが。今じゃうちのクラスでも有名人だ。
「だから4組は比較的如月さんに対して悪感情はないんだよね。4組のマスコットが弁護するからさ」
小鳥はマスコット扱いか。納得はできるけどな。十二本家の人間なのにかなりフレンドリーだし、あの小動物のような外見で威圧感なんか全然ない。むしろ愛玩動物のように守られているだろう。
「あとでお礼でもしておこうかな」
「あはは、嬉しさのあまり気絶したりして」
それはないだろう。いや、ないと信じておくわ。
「それでは私はそろそろ帰ります」
「またのご来店をお待ちしております。なんてね」
「機会があれば」
此処に来たのはこれで二回目なんだよな。一回目は身体スペックを測るために来たけど、150キロのマシンがあるとは思わなかった。チャレンジしてみたが手が痛くて無理だった。
次に来るときもストレス抱えては来たくないんだけどな。
「あぁ、明日が憂鬱だ」
今日もさっさと寝よう。そして気分を切り替えよう。明日の為に。
今回はそこまで暗い話にする気はありません。
前回とは状況が違いますからね。
しかし主人公のコスプレ。意外と反響があるんですね。