after18.護衛達の対比
明けましておめでとうございます(超絶遅い)
アメから連絡がないのは不安だけど、こちらから連絡するのも躊躇する。理由としては万に一つの可能性としていい雰囲気のところへ着信を入れてしまい、雰囲気をぶち壊してしまうのが。
「いや、ないか」
億に一つの可能性すら信じていないのが私の素直な気持ち。躊躇している本当の理由は面倒ごとに巻き込まれるのが分かっているから。だって、こんな他人からしたら面白そうなイベントをあいつ等が見逃すはずがない。
「痕跡残し過ぎなんだよなー」
滅多に喫茶店に来ない長月が毎日の如くやってきたり、私が長月の家へ呼ばれたりと目撃情報だけでこれである。他にも調べられたら詳細を知られているだろう。
「で、やっと着信が来たか。予想通りだけど、出たくはないねー」
着信拒否っと。ライブで疲労困憊なのだから、これ以上の労働は拒否させていただく。気付かない振りをしておけば、問題は起こっていないことになる。着信履歴でバレバレだけど。
「うげっ」
無視できないところから着信がやってきて、流石の私も呻いた。なるほど、あちらさんも知恵を使うな。多分、偶然だとは思うけど。頼れそうなところがここだけだったのかな。
「はーい、晶さん。何か用ですか?」
『電話に出ろぉー!!』
「電話で叫ぶなー!!」
ハンズフリーにしておいて良かった。耳に当てていたらダメージ必至の声量だったはず。こちらも負けず劣らず声を張り上げたが、あちらも私の行動はお見通しだろう。
『何で私が他社の救援依頼を受けないといけないのよ!』
「晶さんの所に連絡が行くのは正直予想外でした」
来るとしたら長月家経由だとばかり思っていたから。やっぱり十二本家相手には救援を頼みにくいのかもしれない。それこそ雇い主でもあるからな。自分たちの実力不足を報告するようなものか。
『時間外よ! ビールだって一缶飲んじゃったわよ! こんな状態で残業なんて嫌だー!』
「凄い切実に聞こえますね。でも居場所はいつものところですよね?」
『自分の家よりも、ここで寝泊まりしていることが多いわね』
私の護衛目的で借りている隣のマンションの一室。晶さんは帰るのが面倒だと言って、ほぼこちらで過ごしている。仕事で借りているはずなのに、今では私室と変わりない居場所を形成しているとかなんとか。
「話を戻しますけど、何かしらの問題が発生したとのことでいいのですよね?」
『自分達では対応できない。十二本家の琴音と何としても連絡を取りたいと来たわね。連絡が取れない場合は私達に助けてほしいと』
「なりふり構っていられないみたいですね」
『競合他社である私達に縋り付いてくる時点で異常事態よ。それだけ崖っぷちの状況だって分かっているんじゃない?』
私と奥方が協議している中にもいたから、今回の件で自分たちの不手際があったら契約を解除されるかもしれないと思っているのかもしれない。その考えは正しい。あの奥方ならやりかねない。
「どうせ、他の十二本家が介入してきたとかでしょうね」
『予想できていたの?』
「それはそうでしょう。彼らにとって最高の娯楽ですよ。ドラマ、コメディ、ギャンブルと捉え方次第では色々と楽しめますから」
『長月家の恋愛は他の家々からしたら娯楽なのね』
「それで、何家が介入してきたとか言っていましたか?」
『そこまでは言っていなかったけど。ちょっと待って。何家? えっ、複数? いつもの面々だけじゃなくて?』
あっ、酔いが醒めたような声を出している。ついでに何か絶望している感じかな。史上初めてかもしれない長月家の初恋だよ。注目を集めないわけがないじゃない。
「いつもの先輩たちは当然として、後輩たちも絡んでくるでしょうね。他はちょっと読めません」
『読めないということは絡んでくる可能性は否定できないわけね』
「直接的ではなく、間接的に関与してくる可能性はあります」
『うげー、聞きたくはなかったけど。でも聞いておかなかったら覚悟が決まらなかったわ』
「時間的に今回絡んできたのは先輩達でしょう。先輩達も未成年だから時間的にアウトなんですけどね」
『もっと年上の人達の可能性は?』
「その時点で私にできることはなくなりますけど」
知らない人達相手では対策を立てられない。知っている奴らでも対策なんて立てられないけどな。だって、対策を利用されたり、対策を容易く踏み潰すような連中だから。
「それじゃちょっとあちらさんに連絡してみます」
『私に仕事を振らないようにして頂戴』
「通信状態悪いので聞こえませんでした。それではまた」
何か絶叫が聞こえてきたような気がしたけど、大音量になる前に切断を押す。それでは覚悟を決めて、長月の護衛へ連絡を取ってみよう。
『やっと、やっと連絡をしてくれたのですか!』
「それで何か問題でも?」
『順を追って説明します』
「いらないです。現在の状況は?」
会場を出てからの行動を説明されても無駄。そこら辺は帰って来たアメから直接聞けばいい。それよりも現在どのような状況になっているのかを知る方が重要。
『葉月、霜月の両名によってカラオケ店へ引きずり込まれました』
「放置で」
『は?』
「放置で。対応は以上です」
何だよ。連絡が欲しいと言っていたから拙い状況なのかと思ったけどそんなこともなかった。晶さんたちならひとまず静観して、状況が動いたら報告してくれるだろう。その前に一報くらいは入れるかな。
『いえ、しかし』
「別に異常事態でもありません。二人に害が及ぶ可能性はゼロです。むしろ、絶対に安心できる状況です」
長月の護衛だけでなく、葉月と霜月の護衛もセットになっているんだぞ。万が一すら起きない絶対防壁が築かれているのだ。これ以上の安全が約束されている。
『ですが、中で何が行われているのか確認できないのが問題かと』
「そんなの後で聞けばいいじゃないですか」
あの二人の魂胆なんて現状の確認とか、これからどうやって二人の仲を近づけようかとか、脈はあるのかとか、そんな色々な計画を立てるための布石か。
「それに私が乗り込もうにも時間的に私が外を出歩くのは駄目ですよ」
日付変わっているような時間帯に未成年が出歩けるわけないだろ。見た目的に成人ですと偽ることはできるけど、それに慣れてはいけない気がする。今の時期にスキャンダル問題を発生させるわけにもいかないだろ。
「朝方には解放されるはず。心配だったら、隣の部屋でも抑えればいいじゃないですか」
『両隣を葉月、霜月の護衛達が抑えていて。私達が入り込む余地がありません』
「初動の出遅れはそちらのミスです」
慣れている人達の判断の早さは流石だよな。それに先輩達が暴走して本当にヤバい状況になったら、護衛の人達が雪崩れ込んで止めてくれると信じている。
「流石に葉月も霜月も、この時間帯に外で何かをすることはしないでしょうから。朝方までそのカラオケ店にいるでしょう」
『では、我々の対応は』
「様子見で結構です。何かしらの動きがあれば連絡をください。私は寝ます」
『異常事態が起きた時に誰へ連絡を取れば?』
「そんなの私が知るはずがありません。そちらの判断でよろしいでしょう」
そこまで私が面倒見るのは嫌だよ。徹夜してまでやるような案件でもないし。悲痛そうな雰囲気を感じながらも容赦なく切断を押す。何かあれば晶さんの方へ連絡がいくだろうね。
「十二本家相手に遠慮なんてしていたら、何もできませんよっと」
それを学んだ護衛は何社くらいあるだろうね。私の所の原因は全部兄の所為だけど。護衛相手に鬼ごっこする馬鹿がいるとは誰も思わないよね。
珍しく特に何事もなく新年を過ごすことができました。
今年こそは良き一年を過ごせるという啓示でしょうか。
調子に乗って職場でフラグ立てたら、数分後に回収しましたけどね。