after17.回想とは裏側の話
本当に今年は更新が進まず、不甲斐ない一年となりました。
新年は多分、きっと、恐らくもうちょっと更新すると思います。
今年一年、お付き合いくださりありがとうございました。
良い、お年を!
打ち上げが終わって部屋に帰って来た時は日付が変わる前くらいになっていた。鍵を開けて、玄関のドアを開けた時点での違和感。アメの靴が見当たらない。
「まだ帰ってきていないのか」
私より早く帰ってきていると思っていたのだが。ライブを見て、帰りにご飯を食べて、それで帰宅する。超奥手な長月がそれ以上の進展へたどり着ける気がしない。もしかしたら、という考えもちらついたが現実的じゃないな。
「長月が送り狼になった可能性は除外するとして、あとはトラブルに巻き込まれたか」
その可能性も低いよな。長月にだって護衛のボディーガードが付いている。役立たずでないのは、今回の件の打ち合わせで把握済み。恋愛相談だったはずなのに、どうして規模がこれほど大きくなってしまったのか。
「十二本家が相手だと、何事も規模が広がるか」
たかがデート一つで、どれだけの人員を導入したのやら。あの打ち合わせを思い出すだけで頭が痛くなってくる。長月だけはまともだったと思っていたのに。
―――――
長月のデート計画。立案したのは私だし、これを誰かに言った覚えもない。それなのに、如月家経由で私に長月家へ出頭するよう打診されてしまった。断れるわけがなったから出向いたのだが。
「いやいや、ご足労頂いてすまなかったね」
「御当主、自らのお出迎え痛み入ります。それで私にどのようなご用件が」
「お客人を立たせたままでは失礼ですな。こちらへ」
案内されるままに連れて来られた部屋には長月家の家族が勢揃いか。一応の為に、長月の家族構成は調べておいた。家族の人数としてはうちよりも少ない。両親に兄弟のみ。その中に情報がない人物も混ざっているが、何やら居心地が悪そう。
「とりあえず、鉄拳制裁!」
「ぐぇっ!?」
拳骨を一発を長月の頭に叩き込んでおいた。頭を抑えながら悶絶している長月を無視して用意されている席に着く。ただ、流石というか私が長男に暴力を振るったのに、誰も表情を変えていない。むしろ、奥様は当然とばかりに頷いているのが不思議だ。
「それで私を呼んだのはなぜですか?」
「貴女なら察しているのではなくて?」
「これのあれですか」
「そうです。あれです」
これで伝わっているのがなんだかなと思う。そもそも、長男の初恋程度で他家の十二本家を呼び出している時点で異常なのだ。その意味を知らない限り、私がここから脱出できる算段は立てられない。
「たかだかこれの恋程度で騒ぎ過ぎではないのですか?」
「長月家にとっては異常事態であり、逃してはいけない案件なのです」
「その心は?」
「長月家の男児は今まで恋心を抱いたことがありません」
本当に何で十二本家はこれだけの欠陥を抱えているのに、よくここまで残って繁栄できたと思うよ。恋をしなくても結婚はできるし、子だって産める。それは分かっているけど、やっぱり十二本家は一般的とずれている。
「その程度なら、恋が実ろうと失恋しようと違いがないのでは?」
実際、私の言葉通り長月の恋愛がどのような結末を迎えようと長月家の子が途絶えることはない。それこそ、我が家だって愛が無くても子供が生まれたくらいなのだ。しかも、三人も。あまり推奨できない方法であろうことは想像できるけど。
「折角なら実るように尽力しようと思いませんか?」
「私は協力する気ありません」
明言しておこう。こういうのはちゃんと意思表示して、声に出さないと意味がない。曖昧に濁していたらいつの間にか了承したことになっている場合だってある。特に十二本家相手には一歩も引いてはいけない。
「デートの企画までしておいて?」
「妥協のラインです。そこから先は当人たちの問題ですから」
関係が進展するか、断絶するかは二人の問題であって、私は友人として相談に乗るが関の山。それ以上踏み込もうものなら、馬に蹴られて被害甚大。あとは長月がしつこくなって面倒臭くなりそうだったのが理由だな。
「それに個人情報を勝手に探ったり、盗撮したりするような人たちに協力したくはありません」
「情報収集は基本ですよ」
争う場合なら私だって同じ手を使う。だけど、これは戦いを目的としたものじゃなくて関係を深めるものだ。そこで正攻法じゃない方法を使い、それが相手にバレてしまったら関係悪化に繋がるだろう。
「これだから、力ある家の人達は身勝手にその力を使う」
「あら、使えるものは何でも使うものでしょう?」
時と場合によると言いたいのだが、それよりも疑問がある。なぜ当主である旦那が先程から発言せず、奥さんがずっと主導権を握っているのだろうか。こういった場だと当主が主導するものじゃないだろうか。
「なぜご当主殿は黙っているのですか?」
「この朴念仁たちが恋愛の何を理解できるというのですか?」
「ごもっとも」
それには私も納得せざるを得ない。だって、長男がこれでしょ。次男だってニコニコしているが、この場を楽しんでいるだけ。当主なんてそっぽを向く始末。関心がないというわけではなく、本当に理解できていないのだろう。
「僕はお見合い派なので」
じーと次男を見ているとこのような返答があった。本当にこいつらは駄目な男たちばかりなのだと再認識するばかり。恋愛をする気のない次男に、好きな子ができたのに何をすればいいのか分からない長男。何もできない親父。
「これは尻に敷かれますね」
「尻には敷いていますが、実権は夫にあります。私はあくまでも口を出し、助言を与えるだけですよ」
その影響力が大きいのは奥さんも理解しているのだろう。ただ、それが長月家に悪影響を与えるようなものじゃない。あくまでも長月家へ利益をもたらすような意味のある助言。妻に支えられているから、長月家は繁栄できてる。奇跡的な出会いが織りなす共同作業。
「分かりました。ある程度は妥協して協力しましょう」
「良いのですね?」
「どうせ拒否したら、そっちが勝手にやるだけですよね。だったら、私が道になる必要があります」
勝手に動かれてアメが誘拐されたなんてことが起こったら、私がアメリカのアメの両親まで出向いて謝らないといけなくなってしまう。それを防ぐためにも、アメになるべく迷惑を掛けない為にもある程度の妥協は必要になってくる。
「こいつら、必要ありましたか?」
「居ても居なくても構いませんでしたが、一応は当主と当事者です。置いておくだけの意味はあります」
置物程度の意味しかないと。だったら、次男は本当にいる意味もないんだな。げっそりしている長男は根掘り葉掘り聞かれて、更には関係の進捗がなくて怒られたと推測してみる。喫茶店に通う程度しかなかったからな、こいつの行動力は。
「ミッション期間はこの夏休みのみ。それ以上はアメリアも帰国します」
「滞在期間の延長は?」
「無理に拘束するのなら、アメリアからの心象は悪くなるだけです。自然的な恋愛を望むなら、この要求は飲むべきです」
「それもそうね。無理を通せば、相手の気持ちを無視してしまう。それは恋愛としては駄目ね」
これで長月が失恋したら、私はどうなるのだろう。責任取って私に何かを要求してきそうだけど、受け入れれば私の両親が黙っていないだろう。嫌だよ、十二本家同士の抗争とか。
「これは提案ですが、私達だけで予定を決めるのではなく警護担当にも話を通しておいた方が宜しいと思いますよ」
「そうね。どちらにせよ、予定を話す必要はあるものね」
いや、ごねるからだよ。私のところは兄の所為で耐性が付いているが、普通のところなら無茶なミッションはお断り案件だからな。ただでさえ、十二本家の依頼で達成不可だった場合の損失が計り知れないのだから。
以上。回想終了。兄のメンタルで会談したのでそれなりに持ったとは思うよ。姉のメンタルは結構柔らかいから。ついでに言えば警護担当の人は私達の予定を聞いて顔を青ざめさせていた。数百人規模の観客がごった返す中で二人を守れと言われても、そんな無茶なと思うよね。
そんなわけで年末の出来事を一つ。
12月中旬。コンビニでご飯を買っていたら職質を受ける。
12月下旬。会社の駐車場でバックナンバーのライトが切れていると警察に捕まる。
あとは12月以外だと階段から落ちたり、車に突っ込んだり、突っ込まれたりとそれなりの
一年間だったと思います。他は忘却しました。