after16.後輩を裏切って
ライブは終わった。それこそ私としては平穏無事に。それなのにカナはプリプリと怒っているのは何でだろう。そりゃちょっとだけ騙した形になったけど、お客さんの反応は上々だったよ。
「いやー、ナイスフォローでした」
「一歩間違えたら怪我していたかもしれない自覚を持ちやがれ」
そして私は主役の方々から説教を受けている最中。あれはちょっとしたトラブルだった自覚はある。やっぱりやったことがないことを実行すると予想外の事態が起きてしまう。
「思いっきり打ち上げてくださいとお願いしたら、あそこまで勢いがつくとは」
「俺が受け止めていなかったら、カナちゃんは足を挫いていたかもしれなかったんだぞ」
私が要望したのはステージ下からカナを派手に登場させてほしいというもの。インパクトとしてはそれなりにあるかなと思ったけど。身長よりも高く飛んだからカナはかなりビビっていた。
「もし、怪我でもしたら俺達の責任問題になっていたんだからな!」
「そこはスタッフの力加減の問題だったから私は関係ないと思いまーす」
「提案したお前が一番悪いんだよ!」
演出としては成功したはずなのに。派手な登場で飛び出したカナ。それを受け止める主役。観客は大受けしていて、私の登場なんて霞んでいたほど。おかげで目立たずに済んだよ。私の視点としては。
「琴音さんの嘘つき」
「何のことかなー?」
「うっわ、白々しい」
「視線合わせていない時点で自覚有りだろ」
カナの視線が突き刺さる視線が痛い。そりゃ、提案したのは私だ。最初は主役であるおっさん達より目立つのを目的にしていた。でも、途中で考えを変えたんだよ。
「カナをスケープゴートにしようと」
「やっぱり酷いです!」
下から飛び出すカナ。そして、私は上空から落下してくると提案した。それなのに、私はカナを裏切った。そりゃ、カナも怒って当然か。私だってそんなことしたら怒るからな。
「何で舞台袖から普通に出てくるんですか!」
「それは私の印象を薄くするため」
「自分の為なら後輩を売るとか、先輩としてどうなんだよ」
「全く効果なかったこっちの心情も察して」
ちくしょう。やっぱり箱を被った頭のおかしい女性が登場したら、そりゃ注目されるよね。一瞬、会場がドン引きしたような気配を察したよ。私でも流石に心にきたぞ。
「悪いが、めっちゃ笑えた」
「殴りたかったけど、その後のフォローで手打ちにしておいた」
本当におっさん達のフォローには頭が上がらなかった。箱を被った不審者という時点で観客たちも私がアンノーンだと気付いたのだが、おっさん達が改めて紹介してくれて、場が温まったような気がした。
『ボス、お気に入りの後輩が二人も応援にきてくれたぞ!』
あの言葉で観客たちも理解してくれたし、私達の居場所も確保してくれた。場慣れしていない私やカナだと何を喋っていいか分からなかったからな。あのような場だと第一声が大事なんだよな。
「しかし、アン嬢の度胸はどうなってんだよ」
「俺達でも最初のライブはガチガチに緊張していたよなー」
「普通に演奏できる時点で凄いわ」
「手汗酷かったですけどね」
おっさん達が好き勝手に言ってくれるが、私だって緊張していたからな。あの人数の観衆に見られて緊張しないとか、それこそ心臓が鋼で出来ているんじゃないかと思われるぞ。
「カナはガッチガチだったな」
「あれが正しい反応だよな」
「やっぱりアン嬢が変だよな」
「よっしゃ、喧嘩なら買うぞ」
好き放題に言いやがって。というか、私達は喋っているがカナが置いてけぼりになっている。ハンドサインでカナに意識を向けるように仕向けるとそれだけで理解してくれたのはありがたい。本当にいい人たちだと思うよ。人のことは弄ってくるけど。
「カナも徐々に慣れてきて緊張が解れていく過程は観客によく受けていたな」
「頑張れーとか声が掛かっていたな」
「メンタルクソ雑魚ですみません」
「「「いやいやいや、そんなこと思っていないから」」」
「やーい、墓穴掘ってるー」
煽れるときに煽る。後で後悔しないようにしておかないと。だって、攻撃回数が減ったら損した気分になるじゃないか。ただし、相手からの攻撃は激しくなるというデメリットがあるけど。
「先輩として、後輩の何たるかを教えてやろうかー?」
「おー、聞かせてもらえおうじゃないか」
「あの、喧嘩は」
「ただのスキンシップだから大丈夫、大丈夫」
「そうだな。ただのスキンシップだな」
「滅茶苦茶ギスギスしているような気がします」
傍から見たら、そう感じるだろう。でもさ、これもコミュニケーションの一種なんだよ。殴り合って親交を深めるケースもあるだろう。私達のこれは冗談交じりのお遊びだけどさ。
「よっしゃ、打ち上げ行くぞ!」
「未成年でーす」
「あの、私も未成年なので」
「年齢の壁!?」
「そうだった。俺達はおっさんだった!」
「いつもの流れなら、酒飲みながら騒ぐはずなのに!」
当たり前だが、今の時間はそこそこ遅い。未成年が外を歩いているとあまりイメージとして良くない。尚且つ、飲酒の席に同席しているのは客観的に見てどうだろうか。私に関しては今更の話だけど。
「私はお酒は飲めませんけど、保護者的な人がいるので大丈夫」
「私はマネージャーさんと相談してみないと分かりません」
そこで私の頭の中にハテナマークが浮かぶ。そういえば、私のマネージャーは一体どこにいるのだろうか。馬鹿達に捕まっているのは理解している。だけど、未成年を一人で会場に行かせ、終わりにも姿を見せないのは常識的にどうよ。
「晶さーん。飲み会に行きますけど、飲みますか?」
「職務中よ!」
代替えを立ててもいいような気がするけどさ。しかし、本当にマネージャーの件は考えないといけない気がする。真面目に活動するにしても、今後の課題として残る。やっぱり馬鹿達だけで唯さんの手はいっぱいだよね。
「そういえば、俺達が送ったチケットはどうしたんだ?」
「有効活用させてもらったよ。どうやら、上手くいったようだし」
スマホのメッセージを確認して笑みを浮かべる。アメは十分に楽しめたようだし。長月からは何も来ていないのはそれだけ余裕がないということかな。あいつの本番はまだ続く。というよりも、ここからが大事だな。ここで終わってしまっては意味がない。
「マネージャーさんから許可が出ました。同席するというのが条件みたいです」
「そうなるよな。間違いが起こったら大変だ」
「アン嬢。おふざけは止めろよな」
「いくら私でもやっちゃいけないことくらい分かっているよ」
「お前さんならやりかねないと思っちまうんだよ」
信用ゼロか。未成年にアルコールを摂取させるわけない。他のことならやるかもしれないけど。大丈夫、兄ほどの暴挙はしないよ。あれは普通に喧嘩へ発展するようなことだから。魔窟の馬鹿以外にはやっちゃいけない。
「私は食べるのメインだから、満腹になるまでは大人しいよ」
「満腹になった後に何をするつもりだよ」
何をするんだろうね。私だって未来のことなんて分からない。基本的に私達はアドリブで行動を起こすのが定番だから。何か姉から苦情が飛んできたような気がする。
新しく発見したデザートのお店に飛び込む趣味があります。
今回もケーキを6個ほど購入して帰宅したのですが。
翌日には全て消滅していました。私が一口も食べれずに!
何で買った本人が食レポだけ聞くという苦行を味わなければいけないのか。