after13.幼馴染が知らぬ間に
長月とアメをくっ付ける。全面的に協力するつもりはないし、そういうのは当人たちの気持ち次第だろ。やり過ぎると関係が崩れてしまうのも考えておかないと。
「アメって日本のバンドに興味ある?」
「あるよー。ほら、イグジストとか割と好きかな」
「あいつ等はどうでもいい。実はライブチケットがあるんだけど、私はどうしてもいけない」
「代わりに私にくれると?」
「バンドメンバーはおっさん達だけどな」
「音楽に年齢は関係Nothing! 好みに合うかどうかが一番よ」
あの人達の曲は一度も聞いていないと思う。それなりに有名ではあるが、それだって日本の中だけの話。ただ、アメをライブの中で一人にするのは止めておきたい。絶対にナンパなんかで迷惑するだろ。
「アメ一人だけだと心配だから、私の知り合いを一人同行させる。護衛としては最適な人物だ」
「まー、一人だと色々とウザい連中が近寄ってくるけど。誰を紹介してくれるの?」
「長月」
「十二本家をあっさりと私の護衛に付けられるのは琴音くらいよ」
正直に言えば、私が紹介できる身を守ってくれる男性となれば長月位しか候補がいない。流石に私の護衛をアメに付けることはできないし。
「悪い奴ではないし、女性を守るという点においては最適だと思う。強いかどうかは知らないけど」
「男性と一緒というだけでも抑止力にはなるわね。それで長月、さん? はどういう人かな?」
「あー、へた。いや、今日喫茶店で私の前にいた人。」
結局、喫茶店で長月は一言も話すことができなかった。その所為で印象に残っていない様子。最後にごちそうさまでしたと言えた弟のほうが印象に残っているかもしれない。
「どんな人だっけ?」
「印象に残っていないのなら別にいいんじゃないか? 良い人ではあるけど」
善か悪かで選べば確実に善だな。私は混沌の方だけど。一緒にライブに行ったとなれば、流石に何かしらの印象は残るはず。あとは長月の頑張り次第にはなるが。
「そういえば、琴音はどうしていけないの? チケットがあるということは好きなんでしょ?」
「チケットは貰い物。私としては観客として見たいとは思うけど、どうしても私は見れないから」
「どうして?」
「ゲスト出演だからだよ」
思うのだが、事務所が違うのにその垣根を簡単に越えてしまっていいのだろうか。妙に協力的なシェリーの事務所が不気味なんだよ。私に対して後で何を仕掛けてくるのか。
「それで最近、楽器の練習しているのね」
「今回、要求されているのはベースとしての参戦だからな。夏休みだから時間あるだろと断れなくなったんだ」
何でアメは私がライブに参加することを当たり前のように受け止めているのだろうか。最近だと香織も似たような反応をするし。私、高校生だよ。普通の女子高生のつもりだよ。
「本当に忙しかったのね」
「どこかの誰かの所為でな」
兄があの卒業式でシェリーと歌わなかったら、最初の契約はまだ有効だったはずなのに。自分から契約を破ったのだから、学園生活中に活動しないという契約は無効になってしまった。
「それでどうする?」
「行ってみようかな。日本のライブとかも興味はあるし、琴音の勇姿も見てみたいから」
「仮装しているけどな」
箱被ってステージに上がるとはアメも思っていないだろうな。それは当日まで秘密にしておこう。そのほうが面白いだろうし。アンノーン=箱は絶対に外せない。
「それじゃ、長月にも連絡しておくから」
「私はお風呂入ってくるわねー」
何だかんだとアメのアルバイトも順調。元々コミュニケーション能力は高いから、接客の仕事とは相性が良かった。本人も楽しそうだったからいいか。
『アメがあるバンドのライブに行くけど、長月も行く?』
『唐突にもほどがあるだろ!』
慌てふためいているのが目に浮かぶよ。でも、チャンスとは唐突にやってくるものだ。それをいかにしてものにできるかが勝負の分かれ目でもある。
『こっちとしてはチャンスを用意したんだけどな』
『こっちの心の準備がまだなんだよ』
『だからお前はチャンスを逃すんだよ。お前が駄目なら他の男を紹介するぞ』
『それは止めてくれ!』
他に紹介できる人なんて恭介さんくらいしか思い浮かばないけど。葉月先輩はどうだろう。何か相性が悪そうな気がするんだよな。素直なアメと勘繰る葉月先輩だと話がかみ合わない気がする。
『覚悟を示せよ。私がやれるのはこのくらいなんだから』
『もっとこう、段階を踏むものじゃないのか?』
『そんな悠長にしていたら、夏休みなんて終わってアメは帰るからな。そうなったらもう会えないかもしれないんだぞ』
冬に来る可能性もあるけど、それは低いだろう。来年だって来る保証は全くない。長月とアメの接点は今回紡がないと一生無くなってしまうかもしれないのだ。
『悠長にしていると本当にアメはいなくなるからな』
『わ、分かった。当日までには覚悟を決めておくから!』
そんなに日程の余裕はないのだが。今週の土曜日だから四日後か。私もそれまでに練習を頑張らないと。兄の記憶にある人たちとの演奏となると本気で取り組んでも見劣りしそうな気がする。
『しかし、何で如月は今回。こんなに協力的なんだ?』
『友達が恋をしたのなら、協力くらいするだろ』
『俺達、友達だったのか?』
『違っているのなら今回の話はなしにしておくな』
『そうだな! 友達だったな!』
それなりに交友があり、私の部屋にもやってきたのだから友達といっても間違いはないだろ。初期の関係から考えたら、随分と変わったと思うな。主に兄がおかしかったのだが。
『長月のイメージだと真面目なお付き合いから始まって、気長な関係でゴールインというのが思い浮かべるな』
『俺だってそんな関係を考えているが。今回だと時間制限があるだろ』
『せめて、友達としての関係を築かないとな』
恋人として付き合うのが目標ではあるが、この夏でそこまで進めるかどうかは分からない。最初に言った通り、そこら辺は当人たちの気持ち次第だ。
『日付と時間。会場の場所は今送った通りだ。アメは土地勘がないからちゃんとエスコートしろよ』
『ちゃんとシミュレーションを重ねるから大丈夫のはずだ』
『言っておくが、私は陰ながら見守れないから援護は一切ないと考えておけ』
『えっ? 本当に?』
こいつは私の援護を期待していたのか。いや、本当に二人っきりになるとは露ほども思っていないのか。結局は三人でライブ観戦だと思っているな。
『これはデートだからな。アメがどう思っていようとも』
『デ、デート!?』
友達同士、男女が一緒に出掛けるのがデートかと言われれば私は違うと断言できる。今の言葉はあくまでも長月に対する発破の意味だけ。
『私の手札は多くないから。一戦一戦を大事にしていけよ』
『いや、本当に協力は助かる。俺の心臓が持つかどうかが不安あるけど』
『恋で死ぬなよ』
失恋で寝込む可能性はあるか。長月だと長らく引き摺りそうな気がする。夏休み明けに生徒会の仕事が滞ると霧ヶ峰さんから苦情が舞い込みそうで嫌だな。
『何かあれば連絡する。とりあえず、明日喫茶店に来い。長月の紹介とチケットを渡すから』
『了解した。開店と同時に行く』
行動力はあるのに、どうしてか気持ちが追い付いていない気がする。ぶっちゃけ、学園長以上にへたれな気配がするんだよな。あの人は覚悟が決まったらガンガン攻めていたから。
通話終了っと。あとは長月に任せよう。私だって他人の心配をしてられるだけ余裕はない。だって、衆人環視の中で箱被ってライブに参加するんだぞ。緊張しないわけがない。
二週間に一回の更新は必ずやろうと決めたのはいいとして。
思い出したのは日付変わる一時間前とかズボラにもほどがあるといいますか。
他にも書きたいものはあるんですけどねー。ガチで時間が足りないです。