after12.幼馴染への初恋
夏編は本当に話数が未定です。
実時間で夏までには終わってほしいです。
女子会という名の茜さんの質問攻めは全てアメへと矛先が向かったので、私と香織は比較的平和な時間を過ごせた。艶々とした茜さんとゲッソリと疲れ果てたアメの対比は何だったのか。
「店長ー。臨時のバイトを確保しましたよー」
「唐突に何を言っているんだ」
あれ? 私が抜ける日があるから忙しくなりそうで困るなとか話していなかったかな。その都度、美咲にバイトさせるのも都合が悪いと思って、どうしようかと思っていたんだが。
「琴音が勧めるなら優秀なのか?」
「いえ、バイト自体が初めてのド新人です」
アメに確認してみたのだが、バイトはしたことがないとのこと。それならば、社会人になる前に仕事とはどういうものなのか経験してみるのも悪くないだろと諭してみたら、やってみようという話になったのだ。
「本当に大丈夫なのか?」
「仕事は教えればいいだけです。ビジュアルとしては、私の制服ですらボタン弾け飛ぶじゃないかと心配に思うほどのダイナマイトボディの持ち主ですよ」
一度もここの制服に袖を通した覚えはないけどな。だって、面白半分で用意されたウェイトレスの服なんて着たいと思わないだろ。アメの胸は私よりも一つサイズが上だったかな。それで弾け飛ぶのかは分からない。
「琴音。私はまだ昨日の疲れが抜けていなんだけど」
「それでも働くのが日常よ」
「世知辛い世の中ね。ちなみに私は夏休み中だということをご理解できている?」
「社会人に夏休みなんてものはない」
「私達、学生だからね!」
「?」
「香織ー! 叩いていいー?」
学生であろうとも、アルバイトをしている時点で社会人と同じようなものじゃなかろうか。不思議そうな表情をしたら、アメが青筋浮かべたような怒り顔になってしまった。
「琴音がここまでボケ側に回るなんて珍しいわね」
「昔から若干不思議ちゃんみたいな部分はあったけど。輪をかけて酷くなった気がするわ」
失礼な。私は姉と兄のハイブリットだぞ。不思議ちゃんではなく、兄が理解不能な部分が大きいだけだ。私も感覚で喋っていると何を言っているのか分からない時がある。
「実際。夏休みだからと遊び歩いていても飽きるだろ?」
「そりゃそうだけど」
「社会人の前に、社会を経験しておくのも悪くないだろ?」
「そうね」
「ここなら気心の知れた同僚がいるから、最初に体験するなら最適だろ?」
「働いてみようかな」
「チョロッ」
だよな、香織。最初は嫌がっていたのに、適当に説得してみたらあっさりと乗ってくれた。流石にパッツパツの制服を着せるつもりはないから、道楽として美咲に用意させるか。
そして、私が一日教育して現場に出しても恥ずかしくないレベルまで育てた。ついでに夕方には依頼を受けた美咲が制服を用意してくれたのだ。相変わらず十二本家は訳分からない依頼にも迅速対応だよ。
「いらっしゃいませ。お席にご案内いたします」
「ここのバイトの人はどうしてビジュアルがハイグレードなんだ」
「臨時の子なので、ご容赦を」
常連さんも満足いくレベルの外見だから、ある程度のミスは許容してくれる。それもまた初心者には優しいから、やっぱり最適だったな。
「き、如月。あの人は?」
「いらっしゃいませ、長月。珍しいな、お前がここに来るなんて」
以前に一度だけ来てから、結構間が空いたような気がする。ちなみに私は制服なんてものを着ていない。だって、今更のような気がするじゃないか。
「そんなことはどうでもいい。彼女は誰なんだ?」
「私の幼馴染のアメリア。期間限定の臨時バイトして働いてもらっている」
「アメリア。アメリアさんか」
あー、嫌な予感がする。端的に言って、一目惚れのような顔をしている。誰も彼もがアメリアの魅力にやられているのは分かるのだが、ここまで露骨に恋心が溢れているのは長月位だ。
「とりあえず、邪魔になるからさっさと座れ。そして、注文して食べてさっさと帰れ」
「客に向かって失礼じゃないか?」
「面倒事を持ち込みそうな奴を客として扱いたくないんだよ」
やっと学園長の一件が片付いたのに、また恋愛ごとの相談はやりたくないんだ。あんなのは兄の置き土産だけで十分だ。私はやりたくもない。
「如月。君に俺から一生に一度の頼みがある」
「十二本家の長男がそれを言ったら、滅茶苦茶重いんだよ」
重さのレベルが違い過ぎる。一般人のそれなら、何度使ったところでまたかで済むのだが。十二本家の人間がこの言葉を使ったら、信用が重すぎる。
「というか、私は仕事中だけど」
「店長! 如月を少しの間だけでも貸してもらえないだろうか?」
「いいぞ」
「店長ー!」
あっさりと私は売られてしまった。実際、香織も教育補佐として参加しているから人員は多いんだよな。だから、誰かが暇していても仕事に支障はない。
「頼みというのが簡単に想像できるけど、一応確認しておくか。何?」
「俺とアメリアさんの仲を取り持ってくれないか?」
「何で十二本家の男どもはどいつもこいつも恋愛に臆病なんだよ」
ドーンと行けよ、ドーンと。そして思いっきり砕け散れ。そうしたら、誰かが優しくしてくれてその女性と恋仲に発展してくれるかもしれない。私はやらんぞ。
「大体、初恋というわけじゃないだろ」
「いや、それが」
「えっ、マジで?」
私達だって年齢は十八歳になったか、なっていないかだぞ。異性を好きになる出来事の一つくらいあっても不思議じゃない。ただし、私に初恋の話を振るな。禁句だからな。
「確かにアメの外見なら好きになるのも分かるけど」
「分かるよな!」
「食いつくな。十二本家に嫁入りさせるなら、中身だって大事だろ」
「如月の幼馴染なら、中身も信用できるだろ」
明らかに外見で一目惚れした奴の言葉をどれだけ信用できるだろうか。長月の奢りで何か頼もうかな。今の私なら何をしても許されそうだ。
「小さな頃からの付き合いだから、アメなら十二本家とも付き合うのは大丈夫だと思う」
「それなら」
「だけど、長月と相性がいいかどうかは全く分からない」
「そうか」
明らかに落ち込んでいるが、これは当たり前の話だからな。お互いに話したことすらないのに、性格の相性が一致するなんて分かるはずがない。
「店員さーん。注文いいですかー?」
「何で琴音が注文するのよ。そっちの人は琴音のいい人?」
「それ、本気で言っているなら絶交だからな」
「あー、うん。ごめん」
バッサリと切り捨てたら、私と長月の顔を見てから謝られた。大丈夫。今の長月なら、その程度でへこみもしない。むしろ、アメが近づいてきて緊張している様子。
「珈琲とショートケーキで。長月は?」
「あっ、あー。俺も同じもので」
メニューくらい確認しろよ。そこまで混乱するような状況じゃないだろうに。駄目だ、こいつも恋愛に対してドヘタレの部類だ。兄の厄介事、再びか。
「ご注文。承りましたー。少々お待ちください」
さてと、アメが離れていっている間に少々話を詰めるか。別にこんな話を私が受ける必要はない。学園長みたいにメリットがあるわけでもなく、弱みを握られるわけでもない。断ったところで何の問題もない。
「面倒臭いから嫌だ」
「そこは受けてくれないと困りますね」
「出たな、腹黒弟」
いつの間に私の隣へ座っていたのか。全く気付かない辺り、変な技術を身に着けているような感じがする。長月兄だけなら、何とか誤魔化しきれる。いや、騙せるのだが。弟がセットとなると分が悪いか。
「兄の一世一代の大勝負なんです。これが駄目だったら、後がないと思ってください」
「初恋でこけたら次がないとか、お前たちの家は跡継ぎを残す気はないのか?」
「だって兄ですから」
「そうか。そうだったな」
「お前らは好き勝手言いやがって」
味方はいない。だが、長月の恋を応援している輩はいるんだ。そこは喜べよ。しかし、どうするか。下手に長月弟と敵対関係になると猶更面倒臭そうなんだよな。だったら、適当に引き受けたほうが労力は少ないかも。
「言っておくが、アメが在日しているのは夏休みの間だけ。その期間の間に連絡先くらい交換できなければ、詰みだからな」
「期間は一か月といったところですか。中々に絶望的な時間の少なさです」
「俺だって本気を出せば」
「だったら、珈琲持ってきた時に自己紹介位してみせろよ」
「いやいや、兄にそんな高難易度なことができるはずがないですよ」
「ちょっと気持ちの整理をさせてくれ」
「このへたれが」
別に私の知り合いだと自己紹介すればいいだけなのに。なぜその程度に臆するのか。長月弟だって溜息を吐く始末。これは、学園長以上に苦戦する予感しかしない。
PS4がコントローラーの充電を放棄したので書きました。
あれかな、さっさと書けと発破をかけられているのかな。
ゲームの時間が無くなれば確かに書く時間に変換されますけど。
癒しの時間が無くなるのは困ります。やっているのは殺戮ですけどね。