23.報告会in喫茶店
まさか人物紹介を書いていたら一日潰れるとは思いませんでした。
予想外に時間が掛かりますね、あれ。
23.報告会in喫茶店
次の日、実家から直接バイト先の喫茶店へと向かった。通勤はまだ護衛の人達が送ってくれたので快適だったのだが、家を出る際に双子が凄く寂しそうにしていたのでちょっと心が痛んだ。
あのまま実家に戻るわけにもいかないからな。
「おはようございます」
「どうだった?」
沙織さんに挨拶したら、すぐに尋ねられた。やっぱりこの人も気にしていたんだな。実家への帰省は特に問題もなく、良好なものだったな。
「特に何も。むしろ肩透かしみたいでした」
「なら良かった。それじゃさっさと仕事するよ」
詳細を聞かない辺りが沙織さんらしい。これが店長や香織だったら根掘り葉掘り聞いてくるのだから、香織の性格がどちらに似ているのか分かるな。
「沙織さん、ありがとうございます。持っていったもの好評でした」
「それが仕事だからね」
ふむ、意外と機嫌が良さそうだ。素直に感情を表に出さない分、沙織さんの機嫌は雰囲気や仕草で判断するしかないんだが、慣れると大変分かり易い。
「おーい、琴音。どうだった?」
「良好でした」
「いいから仕事しなよ。開店を遅らせる訳にはいかないんだから」
「いや、気になるだろ」
「後で聞きな」
スゴスゴと引き下がる店長を見ると、やっぱりこの家族の中で最強なのは沙織さんなんだなと再認識する。でも今話していると開店まで間に合わないのも確かだな。
俺もさっさと準備を済ませるか。
「お預けを食らった俺に詳細を話してくれよ」
「まぁ昼休憩中ですから、いいですけど」
午前中ずっとソワソワしていたから、かなり気になっていたのだろう。他人の事なのにそこまで気にするのだからお人好しだよな、店長。
「双子とは和解しました。むしろ懐かれ過ぎて戸惑っています」
「嫌われているよりはいいだろ」
確かにそうだが、如月の血を信じると限りなく面倒な事態を想像してしまうんだよ。母の予想通り兆候が出ているのは俺だって分かってしまうんだから。風呂で好きな人がいるかと聞かれたのもその所為だろう。
あれで居ると答えたらどうなっていたのやら。
「流石に使用人全員と和解するのは無理でした」
「それが出来たらどれだけ琴音が人心掌握に長けているという話になるわよ」
そして沙織さんも当たり前のように居る。この人が昼休憩中にでも表に出てくるのは珍しい。やっぱり内心では気になっていたのだろう。
「一応、一人とは会話したのですが未だに怖がられています」
「あんた、何をやったのよ」
奈々に関してはそう簡単に受け入れられるとは思ってないけどな。結構根が深いみたいだし。やっぱりあれかな。反射的に服を投げたのは不味かったな。だけどあれは無理だ。
「過去に言葉で叩きのめした位でしょうか」
「以前の琴音ならやりかねないね」
そしてしれっと香織まで混ざってきた。部活は午前中で終わったのだろうか。そういえば俺がいる間に喫茶店で家族が揃っているのはかなり珍しいな。香織は殆ど店内にいないから。
「あとは私の学園での話を聞いたりですね」
「生徒会に入ったと言った時の母親の反応は?」
「お茶を吹き掛けていたな」
尋ねた香織もうんうんと納得するように頷いている。琴音のことを知らない店長と沙織さんは首を傾げているが、知っている人達にとってはかなり驚くような内容なんだよ。
問題児として有名だったからな。
「それであとは帰ったのか?」
「強制的に泊まることになりました。私は帰ろうとしたのですが」
「なんつーか、極端に変わったな。いや、琴音も極端に変わったらしいが」
そこら辺は血筋が関係していると思う。全く近寄って来なかった双子が人が変わったように俺に懐いたのもそれが原因かもしれない。
「となると一緒にお風呂とか入ったの?」
「一緒に入ろうとお願いされたからな。妹と、母さんはあとで乱入して来たけど」
「慌てた?」
「そういえば特に慌てなかったな。家族だったからかな」
「ふーん、私の時は盛大に焦っていたのに」
「言うな……」
以前に橘家の浴室を借りた時があった。あの時は確か喫茶店に向かっている時に通り雨に打たれたんだった。物の見事にびしょ濡れになって沙織さんにシャワーを浴びるように言われたんだよな。
で浴びていたら自主練から戻ってきた香織も入ってきたんだ。
「女の子らしい琴音を初めて見た気がする」
「キャーと悲鳴が聞こえてきた時は何が起こったかと思ったね」
いきなり全裸の女性が現れたらそりゃ驚くわ。慌てて駆けつけてきた沙織さんも固まっていたよな。その時の俺は香織の方をまともに見れなくて、しゃがみ込んでいたんだったか。
「女同士なんだから恥ずかしがることもないのに。身体まで隠してさ。顔は真っ赤だし」
「あぁ、あの時か。仕事始まっても暫く様子がおかしかったな」
注文間違えたりして大変ご迷惑をお掛けしました。顔の熱も中々引かずに大変だった。
「でもやっぱり琴音はいい身体しているよね」
「私もチラッと見たけど確かに私達とは違うね。それと香織、その発言は親父臭い」
「お母さん、酷い」
「もうやめて……」
何で俺の裸体の話で盛り上がっているんだよ。滅茶苦茶恥ずかしいのだが。
「それなのに家族なら平気なんだからね」
「むしろ家族だからだろうね。香織だって旦那に見られても何とも思わないでしょ?」
「殴りはすると思う」
「ひでぇ」
ふむ、それを考えると家族の裸は別という事か。だけどそれは琴音の記憶に引っ張られている部分が無意識に出ていると考えるべきか。性格とかじゃなくて良かったと思っておこう。
「でもさ琴音。水泳の授業とかその状態で大丈夫なの?」
「目を瞑って着替えればいい」
「確かに出来なくはないけどさ。まぁうちの水泳授業は男女別なのがせめてもの救いかな」
「そんなに気にすることか?」
「琴音、せめて外見を自覚した方がいいわよ。かなりの視線を浴びると思うわよ」
元が男だから男子からの視線くらい平気だと思うんだが、女子からしたらやっぱり違う風に捉えられるのかな。実際になってみないと分からないな、これは。
ちなみに去年の琴音は水泳の授業に一切出ていない。父以外に肌を見せることが嫌だったみたいだ。
「一応気を付けておく」
「全く信用できない台詞よ」
失礼な。といっても確かに何に注意すれば良いか全然分かっていないけどな。
「さて、そろそろ休憩時間終わりだぞ」
「それじゃ私は引っ込んでおくね」
「偶には手伝えよ、香織」
「琴音がいるからいいじゃない」
店長の言う通り偶には手伝ってもいいと思うけどな。本来なら俺が看板娘じゃなくて、その役目は香織のもののはずなんだしさ。といっても、そうなると俺が働いている意味が無くなるから言わないが。
そんなことを考えながら表の札をOPENに変えたら、早速お客さんが来た。
「お姉様、約束通り参りました」
「お姉ちゃん、こんにちわ」
今朝方別れたはずの双子だった。確かに店に来れば会えるとは言ったが、当日に来るのはどうなんだよ。こんなに行動力のある子達だったか?
「母さんも一緒にかよ」
「私が一緒じゃ駄目かしら?」
「駄目じゃないけどさ。幾らなんでも早くないか?」
「行きたいとせがまれちゃって」
双子の行動力侮りがたし。そして奈々、いつまでも固まっていないで戻って来い。本来ならお前がストッパーになってくれないと困るんだよ。美咲は役に立たないし、咲子さんは美咲の相手で手一杯だろうしな。
「取り敢えず入ってくれ。目立つからな、主に奈々の恰好が」
侍女服で来る辺りが、本当に何も考えずにやってきたことを物語っている。せめて私服に着替えるとか気を遣ってくれよ。
「いらっしゃい、琴音の母親か。となるとそっちの二人は」
「私の妹弟です」
「如月琴葉です」
「如月達葉です」
ほぼ同時に喋ってしまった。こういう所が姉弟らしいのだろうが、俺としては意外なんだよな。息が合うとは全く思ってなかったから。
「で注文は?」
「「ケーキとカフェオレ」」
「私はケーキと紅茶で」
「奈々は?」
「私が一緒に頂くわけには」
何を遠慮する必要があるんだよ。むしろ喫茶店で何も頼まずに居座られる方が迷惑なんだよ。それは母も分かっているのか、奈々に厳しい眼差しを向けている。
「それでは私もケーキと紅茶で」
空気を読んで頼んでくれたな。席も一緒に座るように釘を刺してから、注文の品を運んでいく。他のお客さんもやってきているから、今回は家族の対応ばかりしてられない。
「お姉様はいつもその恰好なのですか?」
「そうだけど」
「お姉ちゃんはウェイトレスの恰好をしないの?」
「そんなものないから。ねぇ店長」
「いや、あるぞ」
あるんかい!?今まで私服にエプロン姿で裏方から接客まで全部やっていたから、てっきり仕事用の服なんてないとばかり思っていたのに。ただあまり着たくはないな。
スカートは制服だけで結構だ。
「ただなぁ、あれは香織に合せているから。琴音じゃキツイだろうし」
「確かに丈が合わないですね」
「いや、胸」
そうですか。妹様がプルプルと震えているが気にしないでおこう。香織や沙織さんはあまりスタイルについて気にしないから、妹一人の反応だけで助かる。
いや、解決方法なんてないんだけどさ。
「別に私は必要ないですからね」
「うーん、ただやっぱり仕事用の服は用意した方が」
「いりません」
即答で断っておく。ここで返事を曖昧にしてしまったら何だかんだで店長は用意しそうだからな。というか家族三人とも、残念そうな顔をするなよ。
「いいじゃないですか。私は特に困っていないんですから」
「でもいつも同じ格好しているのも、私はどうかと思うわよ」
初期装備のワイシャツにジーンズばかり着ているのは確かだが。夏になるまでは服を買う予定はない。むしろ夏でもワイシャツで過ごせるよな。流石に駄目になるかな。
「琴音の私服を送ってあげようかしら」
「やめてくれ、母さん。絶対に着ないから邪魔になるだけ」
嫌がらせかよ。送られてきても俺の年齢じゃ中古で売り飛ばすことも出来ないな。真面目に邪魔になるだけだ。
「私としてはラフな恰好が一番いいのです」
「ふむ、顧客に需要はありそうなんだがな」
店長の言葉に来店しているお客さんに視線を向けると何人かがサムズアップしている。睨んでみるとバッと視線を逸らしたが、全員顔は覚えたからな。要注意人物としておこう。
「琴音お嬢様、馴染んでいますね」
「私の過去を知らない人達ばかりだからな」
琴音のことを知っていたら、下手したら喫茶店が閑古鳥が鳴く可能性もあった。ただ琴音が有名なのは学園と、社交界に出ているような人物たちだけ。一般的にはあまり知られていない。
尚且つ、俺と琴音ではあまりにもイメージが違いすぎている。
「むしろお嬢様が働いていることに驚きました」
「言うようになったじゃないか、奈々」
「た、大変失礼しました」
知っている人から見たら、こんなイメージだしな。だからこそ知っている人が俺のことを見てもバレる可能性も低い。なにせ素顔を見せたことが無かったからな。
あの化粧、変装並みだったから。
「お姉ちゃん、このケーキ。昨日のと同じ味がする」
「作り手が同じだからな」
「此処のケーキはいつ食べても美味しいわね。毎日来れないのが残念だわ」
「老舗の人達が困るだろ」
いつも注文してくれるお得意さんから注文が来なくなったら大変だろ。趣味が変わったとか、食べる人がいなくなったとかなら分かるんだけど。一般の喫茶店に負けたと知ったら、どうなることやら。
「大体頻繁に来たら気づかれる可能性だってあるだろ」
「それもそうね」
冗談だってことは分かっているさ。ただもうちょっと自覚してほしい。父にばれたらどのようなことが起こるのか予想できないことを。もしかしたら全て知られているかもしれないことも。
この話を書きながら缶コーヒー飲もうとしたら飲み口反対でした。
顔面にドバッです。凄いベタベタします。
ただ最初に思ったことはキーボードが無事で良かったでした。
あっ、人物紹介に関しては筆者のメモとなりそうです。