after.09 夏の来訪者は幼馴染
明けましておめでとうございます!
季節感一切関係ない夏編の開始です。
夏休みの初日。私はある用事のために駅前へとやってきていた。ここら辺は兄も用事がないので来なかったから目新しいものが多いかな。特に買うものはないのだけれど。
「しかし、何でまた急に」
ここに来た理由。それは姉の幼馴染を迎えに来たのだ。昨日、突如として母から連絡が来てアメリカから来る幼馴染を夏休みの間、泊めてくれないかと。
「実家に泊まるよりは私の所の方が気が楽か」
小さな頃は立場やら家の大きさなんて気にしない。だけど、大きくなって社会を知ってからは入りづらい場所になってしまう。うちなんてその典型だからね。
「えーと、待ち合わせ場所は」
私服でやってきたのだが、七月だというのに猛暑が辛い。日除けで帽子を被ってきたのだが、それでも汗は流れ落ちる。持ってきた水の残量はどんどん減っていくな。
「それにしてもあの小さな子がここまで目立つ容姿になっているとは」
父親がアメリカの人で、母親が日本人のハーフ。母親が私の母と友人で小さな頃は頻繁に遊びに来て、喧嘩なんかもしたり、それなりの交友関係を築けていたはず。最後は喧嘩別れだったけど。スマホに送られてきた写真を見て、感慨深げな思いに駆られてしまう。
「だからかな。探さなくてもすぐに分かるのは」
何だろう、オーラが違うかな。年齢は私よりも一つ上。金髪碧眼で身長も私と同じくらいだから高め。胸は大きく、腰は細い。そして、お尻も。モデルでもやっていけそうなビジュアルをしてる。
「アメー」
「?」
呼んでみたのだが、周りを見渡して疑問符を浮かべるような顔をしている。フルネームはアメリアなのだが、姉は略してアメと呼んでいたからそれに倣ったのだが。
「無視するのはどうかと思うな」
「えっ、琴音? えっ、本当に? これが?」
「出会って早々に失礼な。私も変わったのは自覚しているけどさ」
姉をベースとして外見を整えたら、清楚系に傾いてしまい持っている服装では再現できない。だから兄が買った服装で整えたのだが。そうなるとボーイッシュというか。子供の頃と違いが大きくなってしまう。
「お互いに外見が変わったのは仕方ないだろ。それなりの年月が経っているのだから」
「むしろ、話し方まで変わっている琴音に驚きよ」
「色々とあったんだよ。色々と」
説明はできないけどな。一年間で様々なことが起きて、人格なんて何度変化しただろうか。一般的な人生とは程遠いのは自覚している。思い出したくない現状まで自覚してしまう。
「それじゃ移動しようか。ここにはもう用事はないし」
「えー、観光とかは?」
「ナンパのウザさを許容できるのならご自由にどうぞ」
「うん。琴音の家に行こう」
やっぱりされていたか。それも一回や二回じゃないな。それを慣れた様子でかわしていたのが容易に想像できる。姉と喧嘩していた様子から気が強そうだったからな。
「それにしても何でまた日本に?」
「離れてから随分経つから懐かしくて。大学進学も無事に済んだことだし、自分にとってのご褒美としてよ」
「なら泊まるとこの準備くらいしろよ」
「予算の都合がね。流石に一か月も滞在できるだけの資金は準備できなかったわよ」
「えっ、一か月もいるの?」
「あー、嫌そうな顔をするんだ。琴音と会うのも目的の一つだったのになー」
いや、嫌な理由は一か月も居候を抱えないといけないことなのだが。母さんも私が嫌がるのを分かっていて、滞在期間を教えなかったな。ただの観光だったら三日位だと思うじゃないか。
「それで車はどこ?」
「公共交通機関を使うに決まっているだろ。バスだ、バス」
「いやいや、十二本家のお嬢様がバスを使うなんて。えっ、マジ?」
「私だって高校三年だし、一人で暮らしているんだぞ。バスくらい当たり前に使う」
「あー、何。どういうことなのか説明してほしいんだけど。如月家から出奔したの?」
説明は手短に済まそうか。私が実家を出て、今まで何をしていたのかは省くとして。父親と喧嘩して、実家から一時的に追い出されたと説明した方が説得力がある。色々と説明すると終わらないし。
「というわけ。家族とは和解したけど、一人暮らしが楽しいから継続している」
「お嬢様がいきなり一人暮らしとか信じられないけど。あの琴音がねー。何でもやれていたから料理くらいもできるかとは思うけどさ」
小さな頃から姉は万能だったから信憑性は得られるだろう。実際に姉が一人暮らしを実行したとしても何とかやり遂げられていたとは思う。兄の場合はすでに慣れ過ぎていたけど。
「しかし、日本も暑いわねー。バスの中は冷房効いて快適だけど」
「胸元を開けるな。気持ちは分かるけどさ」
「一番熱が籠るし、汗を拭きたくても堂々とはやれないわよね。人目気にしなければ、どうでもいいけど」
私がバスを利用しようと思ったのはこの暑さの所為だ。それがなければ徒歩で向かっても良かったのだが。熱中症になったら大変だからな。なった後に茜さんが暴走しそうで怖いし。
「何なら琴音が私の胸の中に手を突っ込んで拭いてくれてもいいのよ」
「誰がやるか」
「そういう反応は昔のままよね」
はいはい、姉も抱き着かれたりしたら照れ隠しで怒ったりもしていた。顔が真っ赤だったからアメにはすぐに分かられていたけどな。
「変わっていない部分もあって安心できたわ。もしかしたら、外見だけが同じ別人だと思うじゃない」
「本当に色々とあったからな。その色々の所為で今が大変なんだが」
夏休みの予定にもアンノーンとしてのスケジュールが組み込まれるくらいだ。あの卒業式の所為で、契約の一部が破棄されてしまったからな。私の身を守る部分が消し飛んだのは痛すぎる。
「言っておくけど、私も夏休みではあるがそれなりに忙しいからな」
「ちぇー。琴音に色々と案内を頼んだりして遊ぼうと思ったのに」
「バイトの他にもやることがあるからな。悪いけどそんなに付き合えない」
「マジ? アルバイトまでしているの?」
やっぱりそんな反応をするよな。兄の最初の頃を思い出すよ。お嬢様が金に困ってアルバイトをしたっていいじゃないか。没落したみたいに聞こえてしまうけどな。
「仕送りの額とかは多くならないようにしているから。正直、居候を一人抱えるのは厳しいものがある」
「あれ? 私って邪魔だった?」
「冗談だ。ちゃんとアメ用に資金は貰っている。過保護な母親のおかげでな」
「それはどっちのママの話かな?」
両方じゃないかな。おかげで夏休みを遊び歩けるだけの余剰資金が出来上がってしまったのだ。やっぱり金銭感覚が庶民とは違うんだよな。確認の為に通帳を記帳したらおかしな金額を目撃してしまった。
「ただ、一か月もこっちにいるとして本当に目的がないのか?」
「観光が目的なのは本当だけど。何なら就職をどうするかを考えるのも目的かな。アメリカだけでなく、日本も候補に入れるのは悪くないから」
「何だ。ちゃんとした目的があるんじゃないか」
「遊ぶにしても一か月は長すぎるわよ。誰かが一緒ならそうでもなかっただろうけど」
「なるべく付き合ってやるよ。久しぶりの幼馴染の頼みなんだから」
「それでこそ、私の幼馴染!」
今年の夏休みも暇にはならなそうだな。兄が残していった厄介事。姉が残していった幼馴染の責任。その両方を処理する羽目になるなんて思わなかったけれど。
おのれ、兄姉。せめてどちらか一つだけにしてください。そんなに私に苦労を背負わせたいか!
正直に言えば、何話くらいで終わるかの見通しすら立っておりません。
十話くらいで終わってくれれば御の字だと思っています。
下手したら更新頻度的に半年くらい掛かるかもしれませんが、
何卒ご容赦ください。