after05.満を持しての結婚式
終わるのかな、これ……。
色々と準備やら、馬鹿達の制御やらで忙しい日々だったが多分楽しかったんだろうな。しかし、これを制御していた兄はやはり凄まじい存在であったのだと戦慄した。そりゃ姉が記憶を覗いていて絶句していたくらいだからな。
「それにしても、私になってドレスは慣れないな」
「着慣れていないからでしょう。私なんてもっと慣れていないわよ」
結婚式当日。迎えに来た車に乗り込んで会場に香織とやってきたのだが。会場の周りが厳重警備過ぎて軽く引いてしまう。集まっている連中の重要度が高いであろうことは想像できるから、その所為だろう。
「私の場違い感が凄いんだけど」
「大丈夫。佐伯先生だって一般人だから大丈夫だ」
逸脱している部分はあるけど、それを除いたら一般人だ。見ろよ、佐伯先生の親族だってあまりの場違い感に困惑しているぞ。更には友人たちまで顔を青くしている。だから大丈夫だって。
「著名人もいるだろうけど、私はよく分からない」
「琴音だって著名人の一人じゃない。顔は隠しているけど」
「今は隠していないけどな」
挙式の際には顔を隠す必要はないからな。披露宴の時は最初から抜け出して、姿を隠して参加しないといけない。料理とか食べれないのは残念ではあるが、そのおかげで魔窟との絡みがほぼないはず。その為の代償だな。
「十二本家の人達も来ているのよね?」
「殆どは親が来ているだろうから、顔はあまり知らないな」
小鳥や葉月先輩、霜月姉妹は普通にやってきている。あとは元生徒である人達が来ているな。でも、顔を知っているのは弥生位だな。その弥生がドレス姿なのは何故か違和感が凄い。
「おのれ、柊め」
「何か知らないけど、それは八つ当たりだと思うわ」
「あっ、如月さーん。この間はありがとねー」
「いえ、柊がお世話になっているようで。使い心地はどうですか?」
「サンドバックとしては優秀なのよね。あと防御も上手い。食らっちゃ駄目なものを本能的に察知しているような感じかしら」
「どんな会話よ」
私だって冗談で言ったんだぞ。それに対して真面目に返されるとは思っていなかった。でも、弥生にとってその時間は楽しいんだろうな。次は何を試そうかと笑顔になっているのはいいのだが、柊の身を考えるとちょっと心配でもある。
「柊にも限界はありますからね」
「その点は私のストッパーが判断してくれるから大丈夫よ」
弥生が指さす方には見知らぬ男性がいて、こちらに会釈をしてきている。一応、返しておいたが本当に見覚えがない。弥生や柊の会話を思い出せば、師走であろうことは予想できる。
「あら、貴女たち知り合いだったの?」
「お久しぶりです、学園長のお姉さん」
「あっ、先代お久しぶり」
「先代?」
「私が勝手に呼んでいるだけよ」
てっきり以前の学園長だったのかと思った。年齢的に近い二人だから、違うのは分かるんだよな。でも、何で弥生はお姉さんのことを先代と呼んでいるのだろう。接点がありそうな気はしないのに。
「琴音さん達が来るまでの問題児だったから、記憶に残っているわ」
「暗に私達も問題児だと言ってませんか?」
微笑みで返さないでほしい。弥生もニンマリと笑うなよ。事情を聞けば、あまりにも聞き分けのない弥生たちに手を焼いた学園長がお姉さんの手を借りたらしい。それは私達よりも随分とやんちゃだったんだなと。
「琴音も似たようなものだと思うけどね」
「私はそこまで迷惑を掛けていません」
「むしろ、私の愚弟が迷惑を掛けていたわね」
まったくもってその通り。何度あの学園長の所為で出たくもないものに出席されただろうか。その派生で厄介なことにも巻き込まれたし。大半は学園長の所為だといっても過言ではないな。
「これからもよろしくね」
「いえ、結婚まで辿り着いたのですから私の手からは離れたはずですよね?」
「子供ができるまでに決まっているじゃない」
期限が伸びすぎじゃないかな。でも到達点としてはそこが最後だろう。それに新婚の家庭に私が転がり込むわけでもない。放置していれば子供なんて勝手にできるはず。私が心配するとしたら、その先だな。兄のことがあるだけに。
「冗談はさておき」
「一切冗談に聞こえなかったんですけど」
「私にも本気に聞こえたわ」
もしかしたらの話だけど、まさか私が住んでいるマンションに学園長たちが越してこないだろうな。ただでさえ、茜さんの面倒を見ているのに新婚二人の様子を見るとか不可能だからな。
「何か私の中で十二本家の印象が固まってきたわね」
「どんな風に?」
「人の話を聞かない」
「「「間違ってはいない」」」
それぞれで思い当たる記憶があるので否定できない。でも、私はまだ改善の余地があるのでセーフだ。今までの行動は全て、兄と姉によるもので私としてはまだ始まったばかり。印象なんて変えることができるはず。
「それじゃ私は新婦の様子でも見てくるわ。緊張しているなら解しておかないと」
「静流さんでも緊張するんですね。お酒でも与えたらどうですか?」
「飲酒させるのは早いわよ」
多分それで緊張なんて一瞬で解れると思うけど。流石に酒臭い状態で誓いのキスとか学園長が可哀そうか。でも、らしいと思えてしまう。そもそも、学園長は静流さんの飲酒に付き合えるだけの肝臓を手に入れられたのだろうか。
「私もそろそろ行くわ。柊と奈子によろしくね」
「何を伝えればいいか分からないけど、近々の襲撃に気を付けろと言っておきます」
兄が居なくても賑やかな毎日を送っていたんだなと感慨深く思えてしまう。そして、もし兄が生きていたのならそこに巻き込まれていたんだろうなと。駄目だ、私で想像してしまう。
「何というか、前にも言ったけど十二本家のイメージが壊れるわね」
「私達の世代がおかしいわけじゃなかったな」
「おかしい自覚はあったのね」
「葉月先輩と綾先輩がいる所為だ」
特筆しているのはあの二人で、同年代の私と小鳥はまだ普通だぞ。下の連中も下位互換みたいな感じだから、今年は平和な一年になってくれると願っているのだ。学園長も幸せボケで巻き込まれる事件も減るはず。
「そういえば、茜さんは?」
「前乗りして静流さんのところにいる。一応は先輩だからな」
「茜さんの結婚式も普通じゃなかった気がするんだけど」
結婚式の規模としては静流さんの方が上だから参考にできる部分があるかどうか分からないな。茜さんの場合は結構特殊なものだったと聞いているから。ただ、霜月家というだけで波乱があったと容易に想像できる。
「魔窟の人達は?」
「披露宴会場でせっせと準備しているだろ。禁酒令は出しているから大惨事にはならないと思う」
「命令出していないと飲むんだ」
「社会人になった奴らは油断していると何をしだすか分からない」
緊張を解すという名目で酒を飲みだしそうな連中に心当たりがあるのだ。流石の馬鹿達だって一般人の前ではなく、それなりに名の知られている人達の前で馬鹿をやるのは初めてだから緊張しているはず。
「本番で吹っ切れて馬鹿な真似をしないでくれるといいなぁ」
「願望になっているじゃない」
本番での私は傍観者だから責任は一切ないはず。私が登場する頃に会場が冷え切っていないことを本気で願っているぞ。嫌だよ、何とも言えない空気の中で歌うのとか。幾ら顔が見えない状態だと言ってもさ。
「そろそろ会場入りしようか」
「一応、魔窟の現状を確認しておいた方がいいんじゃない?」
「それもそうだな」
グループの中だけでも確認しておくか。少ない不参加組も気にしているだろうし。案の定、不参加組が好き勝手発言して、参加組がそれに対してキレ散らかしているというカオスになっていた。
「何してんだ、こいつら」
「緊張感なんて微塵も無さそうね」
おかしいな。幾ら奴らでも緊張感は持ってくれると僅かばかり信じていたのに。本当に大丈夫なのか不安になってきたぞ。
自爆芸が板についてきた感じが否めません。
しかし、フラグの回収は私の意志ではどうにもならないので無罪です。
でも次回で終わらせれば帳尻が合うので、自分で立てたフラグぐらい折ってやりますよ!
次回、一幕目の最終話になればいいですね……。
絶対無理だと思う。