after.01.新たな門出の始業式
After Story『皐月の結婚式』始動します。
GW期間で終わらすぞぃ!
私になってからの始業式。学年が上がったところで気にする部分はないのだが、将来のことを真剣に考えないといけない時期でもある。だが、現実は将来よりも今抱えている問題を優先しないといけないんだよな。
「えーと、新しいクラスはっと」
新入生やクラスを確認する生徒で大混雑の掲示板前。どういうわけか今回は私一人だけ。何かを察した香織は途中で離脱したんだよな。恐らく厄介ごとに巻き込まれると思ったのだろう。それが何なのか今の私には分からない。
「お姉様ー。おはようございます!」
「お姉ちゃん。おはよう」
「二人も来ていたんですね」
今年から双子もこの学園へと入学する。朝に合流する予定はなかったのだが、どうやら私を探していたようだ。この後は入学式兼始業式が執り行われる予定になっているから、あまり悠長にはしていらないはずなんだけど。
「二人のクラスはどうなりましたか?」
「一緒です」
「多分だけど、気を使われたと思う」
二人が一緒なら安心できるかな。共依存しているわけではないのだが、昔から二人で一つみたいなところがあったから。いきなり分かれて生活といっても、無理な部分も出てくるだろう。
「お姉様はどうでした?」
「私は去年とあまり変わらない面子ですね」
「お姉ちゃん。学園だとそっち?」
「こっちです。プライベートの私は刺激が強いかと思いますから」
「「そだねー」」
「何か汚染されていない?」
魔窟と接触してからちょっとだけ悪ふざけができるようになってきた気がする。大真面目よりは大いに歓迎できる変化ではあるのだが、行き過ぎればあの馬鹿達みたいになってしまう。それだけは看過できない。
「あっ、琴姉!」
「「姉?」」
「はい、そこ。その部分に反応しない」
険しい顔で凜を見ない。双子の反応に何かを察したのか凜がにやりと笑うのは新しい玩具を見つけた綾先輩と同じだ。厄介さでは綾先輩の下位互換ではあるのだが、それでも被害を受けるのが私であることは変わらない。
「琴姉。もしかしてそっちが琴姉の妹と弟?」
「妹の琴葉と弟の達葉です。変なちょっかいを掛けないでくださいね、凜さん」
「それは無理な相談」
「お姉様。粛正してもいいですか?」
「お姉ちゃんをお姉ちゃんと呼んでいいのは僕達だけ」
香織が危機察知したのはこの場面の為か。別にこれで香織がダメージを受けるような流れ弾はないと思うのだが。私なら香織を巻き込んで盛大に爆発してやるつもりはあったけど。
「中々のシスコンっぷり」
「猫を被らなくてもいいのですか?」
「琴姉と同じく新学期デビューしてみようかなって。前例もあることだし」
その前例って兄のことだよな。確かにあれと比べればそこまでのインパクトにはならないだろうから、受け入れられやすいだろうけど。次女から兄への変化は変貌といっても言い過ぎじゃないからさ。
「凜の問題はそっちで解決してくれるなら別にどうでもいいです。私からは頑張れとしか言えません」
「綾姉みたくできる気はしないけど、やれるだけのことはやってみる」
その点に関しては一切心配していない。凜が孤立するような状況は想像できないからな。上手く立ち回ってクラスを掌握するような未来が見えてしまう。つまり、姉妹揃って独裁クラスを立ち上げそうだ。
「いいですか、琴葉に達葉。この子にはあまり関わってはいけませんよ」
「そんな危険人物みたいに」
「「はーい」」
「ノリいいね、この子たち」
よし、これ以上魔窟の馬鹿達とこの子たちを接触させるのは止めよう。悪影響しか与える気がしない。それと霜月姉妹もだな。化物に化物を与えたら共食いして、新たな進化を促しそうで恐ろしい。
「ぐぬぬっ」
「ところでハンカチを噛み締めながらこっちを見ている小鳥先輩は何?」
「気付かない振りをしていたのに」
割と前から小鳥の存在には気付いていた。主に双子と接触したあたりから。私に声を掛けようとしたところで、二人が先制してきたので機を逸したのだろう。なぜかは知らないけど、小鳥と双子は反発し合いそうな気がする。
「あれは敵ですね」
「うん、敵」
何があったら、初見で敵認定する事態になるんだよ。ワザとらしく私の両腕にしがみついてくるのは小鳥に対する牽制だろうか。これは私達のものであって、貴女のものではないと。私はどっちのものでもないというのに。
「はいはい、二人とも。そろそろクラスに向かわないと遅刻しますよ。初日から醜態を晒すのは姉として許せません」
何より私までとばっちりで遅刻してしまいそうだから。別に私自身よりも、二人の今後を心配してのもの。どうせ私が遅刻してもまた馬鹿やったんだろうと言われてお終いなのだ。おのれ、兄め。変なイメージを植え付ていきやがって。
「それでは凜に小鳥も。また後で」
今日の夜は双子の入学祝で実家へ行かないといけない。あの日以来、父親の家族に対する態度は軟化した。一般的な家庭と比べれば、まだほど遠い関係ではあるのだが、以前の状態を考えると随分進歩したと思う。
「私との距離感はあまり変わらないけど」
兄の致命的な一撃は家族との関係を劇的に変化させたのだが、私に対する恐怖心を植え付けるものとなった。全体的に見れば、利益の大きい効果だったのだが。個人的には何とも言えないもの。
「うーん、このまま普通にクラスへ入るのも面白みがないような」
この性格は主に兄が多大なる影響を与えているんだろうな。姉だったら、普通に入ってそれでお終いなのだが。どうして兄は何事も普通に終わらせようとは考えないのだろうか。
「その癖、自分は一般人だと思っているし」
兄を知っている人達なら絶対に逸脱した人だと確信しているだろう。私だって同じ感想だ。そんな兄の大部分を引き継いだ私だって一般人だとは言えない。元より第四人格の私だって一般人からは逸脱している。
「最初は次女の強烈デビューで、次の兄は男らしく堂々と。なら、私が取るべき手段は」
外見による強力なパンチ力は必要ない。そして、兄の様に全てを払い除けるような強靭な精神力も必要ない。下地は整っているのだから、現状を改善する必要もないのだ。なら、私がやるべきなのはただの悪ふざけ。
「おはようございます、皆様」
だから清楚な感じを全開でいってみよう。髪だって下ろして姉の様に振舞えばそれらしく見えるはず。最初は何してんだ、こいつといった表情をされたが。その後にまさかまたなのかと驚きの表情に変わっていく。
「また琴音が新学期デビューを決めてきた!?」
「今度は清楚キャラか!?」
ちなみに姉モードを長時間維持していると肩が凝って仕方ない。胸だけでも肩が凝るのに、神経を使って更に凝るとか。やっぱり自然体でいるのが一番いいのだろう。だから悪ふざけもやめられないのだ。
「はいはい、馬鹿やっていないで元に戻って頂戴」
「頭を叩かないでくださいませんか。香織さん」
「琴音が正気に戻るまで何度でも叩いてあげるわよ」
ペシペシと頭を叩かれ続けるので仕方なく髪を結う。これで気が引き締まるとは違うのだが、やっぱり切り替えのきっかけにはなってくれる。しかし、私が清楚でいるのはそんなに違和感があるのだろうか。
「私のイメージってどうなっているのかな?」
「そりゃ、突発的に騒ぎを起こす問題児でしょ」
「酷くない?」
いや、周りも同意するなよ。確かに兄がやらかした案件は一つや二つじゃない。だけど、それだって巻き込まれただけのものだって多いはず。だったら、誰の所為だといえば卒業したあの二人だろうな。
「いやー、琴ねんがまたやらかしたのかと心配しちゃったよ」
「やっぱり去年からの琴音が一番だよ」
「そんなに違和感ありましたか?」
「「「これ以上、別人になられても困る」」」
そんなにぽんぽんと人格が生えてくるわけないのに。でも、人が変われば対応も変わってくる。それは兄で体験済み。なんだかんだで慣れたものの方が一番いい。それは私だって同じ。
「私は変わりませんよ。これ以上はね」
姉たちの訳分からない超技術は失われたから、私が変わることはない。香織だけが事情を知っているから盛大に溜息を吐いているが、いたずらは大成功だったと言えるだろう。
「偶にはガス抜きをしないとやっていられませんよ」
「それに振り回されるこっちの迷惑を考えなさいよ」
「尊い犠牲です」
現状、厄介な案件をこなさないといけない為に色々と奔走している最中なんだ。それが気を遣うやら、手綱をきっちりと握っていないと大惨事になるやらでかなり大変。兄の置き土産が想像以上に修羅場だった。
「当日がものすごく不安」
「頑張りなさい。私は不参加だからあとで結果だけ教えてもらうわ」
「二人して何の話しているの?」
「「秘密」」
まだ知られてはいけない話なので、主に学園関係者には絶対に知られてはいけない。だって、学園長と佐伯先生の結婚式の話だから。そして、私の匙加減でどのようなものになるかが決まってしまうという責任重大なものでもあった。
完結のお祝い、ありがとうございました!
ここからはやり残したことを終わらすための後日談です。
一幕が終わるまでは、連載中に戻しておこうかと思っています。
四話くらいの予定なので、GWで終わるはずなんですよね。
前科あり過ぎて信用価値ありませんけど。