197.八歩目は、友人と実家へ
年内更新を諦めたことをご報告いたします。
流石に大晦日だけで三話も書きあげるのは無理でした。
来年ももう少しだけのお付き合いをお願いします。
結局、勇実と柊を引き連れて実家にやってきてしまった。むしろ、これ以上人数が増えなくて助かったともいえる。不幸中の幸いか。綾香なんかが乱入してきたら目も当てられない。
「おー、凄い豪邸だね」
「やっぱり十二本家ごとに設備は違うのかー。弥生のところなんてスポーツジムみたいな感じだったから」
「それぞれの分野に特化しているのかもしれないな」
霜月なんて音楽スタジオも持っているらしいからな。私がそんな場所を見学したら、絶対に歌わされるのが分かっているので行かないけど。でも、いつかは連行されるだろうね。おのれ、霜月。
「これってあれかな。玄関から入ったら、メイドさんたちがずらっと並んでいたり」
「そんな無駄なことをするわけないだろ。各自で仕事があるんだから、効率優先だ」
「だね。弥生でも出迎えは少人数だったかな。そこから逃亡しようとしたら、どこから湧いたか分からない人数に制圧されたけど」
乾いた笑いを浮かべながら喋る柊というのも初めてのような気がする。過去は過去として笑いながら話すのが柊の特徴だったのに、一体どれほどの苦難を弥生から受け続けていたのか。
「ただいまー」
「「お邪魔しまーす」」
とりあえず、柊の件は忘れることにして実家にやってきたわけなのだが。ここで私は失念していた。それは琴音として誰かと一緒に実家へやってきたことがないという事実。
「琴音が誰かと一緒にやって、きた!?」
「母さんが大変失礼な物言いをぶつけてきたな」
「どもー、琴ちゃんの友人一号でーす」
「じゃあ、二号でーす」
「美咲。こいつら白瀬たちと同類な上に、あいつら以上の危険人物だからな」
「総員警戒配備!」
説明不要なのは助かるな。魔窟の人間によって苦い思い出を持たされた人物は同類がいると知れれば警戒してくれる。美咲の場合は他の侍女たちにも警戒を促してくれたから被害は少なくなるかな。
「白ちゃんたちと遊んだの?」
「卒業式の二次会で語部も参加しての闇お好み焼きをやった」
「激辛大会かー。内臓にダメージ食らうから危険度高めなんだよねー」
「しほっちはまだ耐えられるからいいじゃない。耐性のない私達なんて悲惨だったんだよ」
下腹部に尋常じゃないダメージを食らうからな。度胸試しでやるものじゃないのに、率先して参加していった馬鹿達は軒並みやったことを後悔していた。勇実もその一人だったな。
「そうだ、美咲。弥生に連絡してくれ。獲物はこちらで預かっているから受け取りに来てくれと」
「承知しました」
「売り渡すの早いなー」
厄介な人物はさっさと退場してもらうに限る。懸念があるとしたら弥生が速攻で帰らずに居座る可能性か。でも、よく知りもしない十二本家に長居するとは思えない。私だってさっさと退散するのだから。
「あの、琴音。弥生と聞こえたのだけど、まさか更に十二本家の方とお付き合いが増えたの?」
「違う。弥生と交友があるのはこいつだけで、現在弥生から逃亡中なんだよ。私は会話したこともないから他人と変わらない」
「弥生から絶賛逃亡中。窓ガラス割ってのダイナミックお邪魔しますをやってきたらゴメンね?」
「弥生もやったことがあるか?」
「そんな馬鹿な真似をするのは私達くらいだよ」
そうだな、魔窟の奴で経験済みの奴がいたな。主に兄とか柊とか。フルフェイスヘルメットや防護ジャケットとか着込んでの完全防御状態で。魔窟のみのお祭り騒ぎは何が起こっても不思議じゃない。
「琴音の友人は個性が濃いわね」
「母さん。こいつらが例外なだけで、同年代の子たちは普通だから」
むしろ、ここまでの会話で一切の動揺がない母もおかしいな。双子なんて事態が飲み込めずにポカーンとしているぞ。しかもその双子を守るように侍女たちがスタンバイしているのが何とも言えない。
「しほっち。私達、明らかに危険人物判定をもらっていない?」
「あながち間違いではない。私達以外の連中が何をしていたのか気になるところではあるけど」
「正月の騒動だろうな」
「「納得」」
又聞きであろうとも、あの十二本家と拮抗するような勝負をした連中を警戒しないわけがないだろ。まだ双子は十二本家にも汚染されていないのに、魔窟側で汚染されては将来が台無しになってしまう。
「日本のおもてなしの心はどうなったのかなー?」
「餌は黙って捕食生物がやってくるまで待っていろ」
「人間扱いされないのも久しぶりだねー」
普段であれば、おもてなしとして別の部屋へ案内されたり、お茶を出されたりするはずなのに侍女たちの行動が防衛側に振り切っている。美咲の言葉だけでここまで警戒レベルの上げるのは異常だと思うのだが。裏で何かあったか?
「ほぉほぉ、これが琴ちゃんの妹ちゃんか。あんまり似てないね」
「お姉さま。この方をぶっ飛ばしても構いませんか?」
「遠慮せずやっていいよ」
「ちょわっ!?」
脛を思いっきり蹴り飛ばされそうになって、慌てて琴葉から離れたな。ある一部分を凝視してからその発言は逆鱗に触れるというのに。分かっていてやっている部分はあるだろう。ただ、相手の反応が予想外だったのかもしれない。
「大丈夫だよ、妹ちゃん。胸がなくても生きていけるさ。それに、私よりもあるんだからさ」
「反応に困る言葉をいただいても嬉しくありません」
達観した笑みを浮かべながら自虐ネタを披露するなよ。琴葉が何とも言えない表情をしているじゃないか。やっぱり二人を連れてくるべきじゃなかったか。フォローするのが大変になってしまう。
「お姉さま。本当にこの方々と友人なのですか?」
「大変遺憾ながら」
「私達はズッ友!」
「いえーい!」
「包囲殲滅してやろうか、馬鹿共が」
友達の家に初めてやってきた人物は普通、もうちょっと大人しいものじゃないかな。段々と柊のテンションが上がってきているような気がするが、危険度判定はまだいいだろう。侍女たちもいてくれることだし。
「琴音の友人としては、随分と変わった部類の方々ね」
「母さん。遠慮せずに変人だと言っても大丈夫だ」
これは察しているんだろうな。母さんは私と兄の付き合いを知っている。なら、勇実達とどのような繋がりがあって親しくなっているのかも分かるだろう。縁は不思議な繋がり方をするからな。
「総司さんと一番繋がりの太い人達かな」
「あらあら。それならあの時に奇声を上げながら飛び蹴りをしたのは」
「そっちの馬鹿」
そんな奇行をするのは柊以外に存在しない。姉と兄の出会いと別れには柊が二度ほど登場する。一度目は中盤で偶然の出会い。二度目は終盤で狙っての状況。兄の危機を救ったとも言えなくないのが何とも。
「私としては機転を利かせたつもりだったんだよ」
「言動と行動が一致していなかった時点で奇行だ」
「しほっち、何したの?」
「確か暴漢だー! と言いながら飛び蹴りやったかな」
「それが結果的に状況を混迷に叩き込んだんだけどな」
取り押さえられた兄を救うために、どうやって察知してやってきたのか分からないが叫んだまでは良かった。だが、どうしてそこで飛び蹴りをしたのかは不明なんだよ。周囲の注目を集めるだけなら叫ぶだけで良かったのに。
「昔はしほっちも無茶していたよねー」
「今も変わらない気がするけどな」
多少大人しくなったくらいで柊が変貌するとは思えない。語らないでいるだけで、今だってどれだけの無茶をしているのか知らないからな。弥生との活動だって私達は一切関知していない。
「お嬢様。旦那様をお待ちさせておりますので」
「別に私のタイミングでいいとは思っていたけど。ここにやってきても面倒だな。そろそろ行くか」
勇実達とエンカウントさせると父がどのような反応をするか気にはなる。どれだけ父が怒ろうとも勇実達は一切気にしないだろうし。私も止めようとは思わない。むしろ、もっとやれと傍観するだろうな。
「それじゃ行きますか」
「ほどほどにねー」
勇実から忠告を受けたけど、それは父の動き次第だろう。俺の後ろを美咲が付いてきていることからお目付け役かな。やはり以前の件があったから警戒されている。流石に私は兄ほど過激な行動はしないのに。
今年も色々とあったかと思います。
あとがきを読み返さないと何があったのか思い出せませんけど。
ネタに困らないあとがきが平常運行になってしまったのは何ででしょうね。
これも毎年愚痴っているような気がします。
それでは、今年一年お付き合いしていただき、ありがとうございます!
良いお年を!