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195.六歩目は過去と向き合う

何とか生きています。


 折角なら柊の家の前で弥生が待ち構えていれば楽なのにと思ったのだが、人生そんな楽な展開にはなってくれなかった。周囲を警戒しながら自宅から出てくる人物も中々いないだろう。


「よし、まだ来てない」


「予定時間とか聞いていなかったのか?」


「奴に予定という言葉は存在していない」


 つまり、毎度いつ来るか分からない存在に怯えていないといけないのか。それは精神的に辛いものがあるが、魔窟の連中とつるんでいればそれが日常なんだよな。気づいたら自宅を包囲されていることすらある。


「琴音の家って結構遠い?」


「電車を使う必要があるくらいだな。その後は車での移動になると思う」


 美咲に連絡を入れて、駅に迎えに来るよう伝えている。飴玉一個くらいは渡しておくか。適度な餌を与えておかないと、こちらの言う通りに動かないかもしれないからな。


「これで奈子も一緒だったなら、学生時代を思い出すんだけど」


「私としては思い出したくもない事柄が出てくるんだが」


「ランダムエンカウント方式だったから仕方ないよ」


 何と出くわすか本当に分からないものだったからな。柊と一緒に歩いているといきなり車が突っ込んできたとしてもおかしいとは思わない。それほどまでに何が起こるのか予測ができないのだ。


「頻繁に職質を受ける所為で警官に顔を覚えられたんだったか」


「何で覚えられているのに毎度私に向かってくるのか謎だよね」


 怪しさ全開だからではなかろうか。こいつは何かをしそうだから一応の為に確認しておくかという考えなのかもしれない。それは間違いではないのだが、犯罪行為をしたことはないぞ。


「そういえば、他の皆とは会ったの?」


「奈子や瑠々。勇実一派とか悟や綾香と蘭。白瀬は遺憾ながらコンビを組む羽目になった」


「なるほどねー。それだとまだそんなに会っていないんだ。正月の騒動では別行動だったと」


「私が指揮官で奴らは捕縛対象だったからな。直接顔を合わせたわけじゃないけど、相変わらずおかしな行動をするよ」


「私も参加したかったけど、丁度仕事が立て込んでいたんだよねー」


 兄としても柊が参加しなくて本当に良かったと思っただろう。予測不能レベルでいえば、群を抜いて柊が一番だ。変な相乗効果を発揮されたら、兄と葉月先輩であろうとも危なかったかもしれない。


「不参加連中には感謝しかないな。魔窟総出とか制御できる気がしない」


「三つ巴どころの騒ぎじゃないからね。どことどこが敵対関係になっているのか分からない時があるよ」


「戦いの度に相関図作らないと素人には理解できないだろうな」


 最初の頃は兄ですら頭の中がごちゃごちゃになっていたくらいに訳分からない状況を作り出されていた。その発端となった原因はやはりというか、兄の所為なのだけど。今は関係ないので割愛だね。


 他愛のない世間話、兄にまつわる昔話、信じられないネタ話をしながら歩みを進めているので暇ではなかった。異変が起きたのは駅までもう少しのところだった。


「唐突に消えるなし」


 先程まで隣で会話をしていたはずの柊が忽然と消えたのだ。開いていたマンホールにでも落ちたのかと思ったが、そもそもマンホール自体が近くない。つまり、自主的に消えた可能性がある。なら近くに弥生の配下でもいるのかな。


「琴ちゃん。やっほー!」


「こっちの可能性は考えていなかった」


 勇実と出会うのは想定外であった。そもそも柊の家と勇実の家はそれなりに離れており、駅に向かっているといっても勇実の行動範囲からは遠い。何かしらの用事でもない限り、こちらと合流するはずはなかった。


「何でこっちにいるんだよ?」


「何となくかな。偶には気ままに散歩位するんだよ」


 相変わらずこいつの行動が読めない。ある程度はこちらで制御できるのだが、知らないところでどのような動きをしているのか全く分からない。それに今は、私が勇実とあまり会いたくはなかった。


「琴ちゃんも一人?」


「さっきまで柊と一緒だった。今はどこかに消えたみたいだけど」


「しほっちは相変わらず唐突に消え去るよね。そして、いつの間にか隣にいるという」


「話だけ聞けば心霊現象だよな」


 ただし、魔窟の連中は瑠々の所為で慣れてしまっている。流石の柊も一芸という部分では敵わない相手もいる。一芸で負けているからといって、柊の異常性が薄れるわけもないのだが。


「でも、丁度良かったかな。琴ちゃんとこうやって出会えたのは」


「私としてはタイミングが悪かったが、用事があるのならとっとと済ませたらどうだ?」


 これ以上、実家に連れていく面子を増やしたくはないのだ。現在としての面子なら別に構わないが、過去の連中を実家に連れて行くと面倒ごとしか増える気がしない。特に柊と勇実は一番厄介そうなんだよ。


「これだけはちゃんと伝えたかったの。琴音さん、総君ともう一度会わせてくれて、ありがとう!」


 本当にこの人の行動は読めない。唐突にもほどがある。私に向かって深々と下げた頭に対してどうするべきなのか少しだけ迷ってしまう。私なのか、それとも姉としてなのか。


「頭を上げてください。勇実さん。お礼を言われるようなことはしていないのですから」


 髪を解き、姉モードに切り替える。自分で言っておいて馬鹿じゃないのかと思う表現だが、適切な言葉がこれしかない。ちなみに兄モードはない。通常の私が兄に近いから。


「むしろ、私が謝らなければいけないのです。もう一度、お別れをさせてしまい申し訳ありません」


「やっぱり、逝っちゃったんだ」


「それはもうあっさりと」


 兄も姉も全てを私にぶん投げて逝ってしまった。去るのなら後腐れなく全部を片付けてから逝ってほしかった。しかし、本当に何の躊躇もなく逝ったけど後悔はなかったのかな。


「せめて何かしら一言位あっても良かったと思うのですが」


「そこは琴音さんを信頼していたんじゃないかな。琴音さんなら自分の後をしっかりと引き継いでくれると」


 そっか。勇実さんはまだ姉も一緒に逝っちゃったことを知らない。そもそもその可能性を考えていないのか。私はあくまでも姉の真似をしているのだけれど、姉と会ったことがない勇実さんは違和感も分からない。


「大変言い辛いのですが、姉も兄と一緒に逝きました。私は二人の妹という立場です」


「はい?」


 珍しく勇実さんがフリーズした。これが正しい反応だと思う。兄がいなくなったのだから、普通なら元の人格である姉が残るものだと思うのは当然。頭がおかしいのは兄と姉の方なのだ。


「妹?」


「はい。兄と姉の色々を引き継いだ存在だと思っていただければ幸いです」


「ということは、私の妹かな」


「はい、そこ。ちょっと思考を正常に戻そうか」


 姉モード終了のお知らせ。トチ狂った発言をし始めた勇実さんを何とか踏み止まらせないと。確かに兄と勇実さんは赤子の頃から一緒だったけど、私とは一切の関係はない。姉を知っているわけでもないのだから。


「私と勇実さんの間には一切の繋がりがないのを理解しろ」


「総君という繋がりはあるじゃん。それと今更さん付けされて違和感しかないよ」


「血の繋がりや、精神の紐づけだと分かれよ。私はまだ魔窟というトンチキ集団に染まりたくない」


「総君を引き継いだのなら頭より下はどっぷりと浸かっているよ」


 すでに手遅れレベルかよ。しかし、この場面って本来なら悲しみとかそんな感じの雰囲気になるはずなのに。どうして、こんな馬鹿な会話に繋がるのか分からない。深刻さとか皆無だな。


「しかし、これで名実ともに琴ちゃんとなったわけだね。琴ちゃん完全版か」


「限定商品みたいに言うな」


「よし、琴ちゃんと親交を深めるために今日は私がずっと同行するよ」


「家はあっちだろ。さっさと帰れ」


「嫌だよー。拒否されても隣にいるからね」


 何で兄の周りには人の都合を一切考えない馬鹿しかいないのか。どこかに消えた柊はこの際無視してもいいか。弥生の追っ手に捕捉されたのか、それとも別のトラブルに遭遇しているのかは分からない。予測ができる生態でもないからな。


「どこかに投げ捨てたい」


「どこに行くのか分からないけど、レッツゴー!」


 実家に行くの日を改めようかな。いや、美咲が迎えに来て強制連行されるのがオチか。初日からトラブル三昧なのはどうしてなのかな。

新連載の魔窟へ集中して、体調を崩して、文字通り身体をぶっ壊しました。

庶民の頃もそうですが、新連載を始めると病院への通院も始まります。

現在は回復しつつありますが、本調子でもありませんので今後の見通しが全然分かりません。

とりあえず、死にはしないと思います。

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― 新着の感想 ―
[一言] 新作知らんかったんだが。何時から出てたんだか
[一言] 魔窟からは逃げられない! お体を壊さないよう無理はしないで下さい。
[一言] ご自愛ください・・・ 何をするにも身体は資本ですから・・・
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