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21.侍女達のあれこれ

予想外に一日の話が長くなってしまいました。

おかしい、2話位で終わるはずだったのに。

21.侍女達のあれこれ



あれから更に学園での事、バイト先の事、一人暮らしについて双子に急かされるままに語り、時間はあっという間に過ぎてしまった。


「お嬢様。本日はお泊りになりますか?」


「いや、帰るけど」


「「「えぇー」」」


双子プラス母から不満の声が上がったが、俺にどうしろと。今は応接室で話しているからいいが、ここ以外には他の使用人の人達だっているんだぞ。それこそ今の俺と琴音と割り切れない人達が。

そんな家に泊まれというのは難易度が高いんだよ。


「うん、考えたけど無理だ」


「お姉様と一緒にお風呂入って、一緒に寝ようと思ったのに」


「私も一緒に色々としようと思ったのに」


「勘弁してくれ」


琴音が変わったということに違和感があるはずなのに、双子の様子も変わり過ぎて俺も違和感を凄く感じるわ。如月家、二面性持ち過ぎだろ。


「僕は流石に。男だし」


「一緒に寝る位なら大丈夫じゃないか。家族なんだから」


「やっぱり泊まっていこうよ、お姉ちゃん!」


要らんことを言ったな。家族三人の様子から泊まった場合は全員と一緒に寝ることが確定しそうだ。四人も一緒に寝るようなベッドなんてあったか。


「着替えがないし」


「以前着ていた琴音の服があるじゃない」


「あ、あれか」


今の俺は基本的にラフな格好を好んで着ている。男性としても女性としてもどちらでも着れるようなものだ。しかし琴音の恰好は明らかに女性としての服装だし、尚且つ派手なんだよ。


「あれを着て、明日のバイトに行くのは罰ゲームなんだが」


「派手なものしかなかったね。でもあれしかないから」


「いや、私が帰ればいいだけだから」


「逃がすと思う?」


そこで何でそのセリフが出てくるんだよ。周りを見ると両隣は双子に固められ、扉の傍には美咲が立っている。鉄壁の布陣だろうが、決定的な欠陥があるぞ。


「美咲、そこどかないとこのクッキーあげないぞ」


「どうぞどうぞ」


アッサリとどいてくれた。これには家族三人目を丸くし、咲子さんは額に手を当てて呆れている。簡単に言ってしまえば、美咲をお菓子で買収すれば、この家から脱出するのは容易なんだよ。ただしこれにも弱点はある。


「咲子、美咲を確保」


「承りました、奥様」


「お母さん、私がいつまでもやられると思っているのですか?」


「いいから黙っていなさい」


あっという間に美咲が簀巻きにされていた。流石、咲子さん。手馴れている。そして逃亡手段を失った俺。茶番なのは分かっているさ。


「大体他の使用人の人達はどうするのさ。私の事、よく思っていないだろ」


「休ませたから大丈夫よ」


「おい、なにをやってんだよ。母さん」


道理で家に入ってから美咲や咲子さん以外の人達と会わないと思ったよ。こういう強引なことが出来るんなら、母も最初からやれってんだ。何でこれで父に負けるんだよ。


「今の琴音を見て、私も変われるんじゃないかと思って。色んなことをしてみようと思ったのよ」


「単に権力を使っただけだろ。それに使用人がほぼいないんじゃ、色々と不便じゃないか?」


「咲子と美咲、あとは奈々と厨房長がいれば問題ないわ」


「んっ?奈々もいるのか?」


奈々というのは主に双子に付いている侍女だ。常にオドオドして自信のない態度をしていて、それが原因で琴音からいじめられていたんだったか。


「誰か来たら教えてくれるよう見張りを頼んでいるわ」


「何か一人だけ仲間外れにしていて可哀そうなんだが。呼ばないのか?」


「お嬢様と会って平静でいられるかどうか分かりませんから」


咲子さんの言葉で納得してしまう。あれだけ虐められていた相手に会って、あの子が周りと一緒に落ち着いてお茶が飲めるとは思えない。震えてお茶を零すのが容易に想像できるな。


「私が来ていると伝えている?」


「いえ、奥様の大事なお客様が来ると伝えているだけです」


「なら今の私と会っても気づかない可能性もあるよな?」


「それはそうですが。流石に気づくのでは?」


「咲子さんだって今の私と会って、誰ですかと聞いたじゃないか」


痛い所を突かれて咲子さんは黙ってしまったが、これは一種の賭けだ。言い方は悪いが、騙せるか騙せないかの一発勝負。そして騙せたなら、その後に正体を明かす。あとはなるようになるだろ。


「それじゃ美咲、連れてきて」


「今の状態ですと無理です」


そういや簀巻きにされた状態だったな。美咲ならお菓子の為にその程度の拘束は楽に抜け出されると思ったのに。やっぱり無理か。


「なら私が直接会ってみるか」


思い立ったら即行動。というわけでスルリと双子から抜け出す。こういうのはタイミング次第で簡単に抜け出せる。別にずっと腕を掴まれていたというわけでもないからな。


「いる場所は?」


「玄関口にいるでしょう」


「じゃあ、ちょっと行ってくる」


さてどう接するかな。やっぱり琴音をイメージさせるような行動は慎まないと。目的はまず、茶会を開いている応接室に入れる事。その後は家族を交えて何とかしよう。後の事なんて考えていないからな。


「奈々さんですよね?一緒にお茶をしませんか?」


なるべく優し気に、柔らかい微笑みを意識して浮かべる。これで少しでも警戒心を薄くさせることが出来れば僥倖だ。


「いえ、私は奥様の命でここに居りますので、お気遣い無用です」


どうやら琴音だという事には気づいていないようだ。なら後は強引にでも連れていくだけ。しかしこの真面目な彼女が琴音を見ただけで取り乱すとはちょっと想像できないな。それだけ酷い言いがかりをつけた覚えはあるが。


「人が多ければそれだけ楽しいですから。奥様もそれを望んでいますよ」


いつもの敬語と違う話し方をしている所為で俺の違和感が半端ない。女性らしさを前面に押し出しているが、自分で鳥肌が立ってきた。


「ですが来客された方をお持て成しする者がいなくなってしまいます」


「本日の来客は奥様がお断りする予定だそうです。だから奥へ行きましょう」


母さんからそんな話は一切聞いていないがな。これはまるっきり嘘だ。ただ父がいない我が家に客が来たら、それはそれで怪しいだろう。仕事に関して母は一切関与していなかったはず。

来るとすれば母と個人的な繋がりのある人だけだろう。だから問題ないだろ。


「ですが」


「いいから行きますよ」


このままだと埒が空かないと思って腕を掴んで強引に応接室に連れていく。予定もなく来る客なら多少待たせても文句は言われないだろ。


「先輩、何をやっているのですか?」


「見ての通りです」


まず初めに彼女が目にしたのは簀巻きにされた状態の美咲の姿。というかまだその状態だったのかよ。咲子さんは全く気にせずに母さんに追加の紅茶を淹れているし。


「彼女のことは気にせずに座って下さい」


「いえ、私のような侍女が奥様方と一緒の席に座るなど」


「いいから、す・わ・り・な・さ・い」


有無を言わさず両肩を抑えて、母さんの隣の席に座らせる。どうして如月の家の侍女は家族に遠慮するのだろう。やっぱりそれが仕事だからだろうか。息が詰まりそうな職業だよな。


「あの、奥様」


「諦めなさい奈々。この子が言い出したことなんだから」


「そうかもしれませんが。それに失礼ですが、お客様の名前は」


「如月琴音です」


「え”っ」


「久しぶり奈々。元気そうで安心した」


「おおお嬢様も、ごご健勝のほどおめでとうございます!」


「いや、訳分からん」


先程までの落ち着いた雰囲気が消し飛んで、滅茶苦茶狼狽しているな。目がぐるぐる回っているような状態みたいだ。あっ、身体も震えている。


「奈々。お姉様は以前と違うわよ。だから怯える必要はないの」


「うん、大丈夫だから」


「でですが、こ、琴音お嬢様ですから。ああっ、失礼しました!」


双子の説得も意味はないか。これに関しては慣れてもらうしかないからな。今回連れてきた目的は琴音という存在が以前とは違うという印象を与える為なのだから。


「まぁ落ち着いてお茶でも飲もう。お茶菓子にクッキーもあるから」


持って来ていたクッキーを取り出して奈々に勧める。何処からともなく悲鳴が聞こえてきたが、発生源は分かっている。現在、芋虫状態になっている人物からだろう。


「お嬢様!それは私の分では!」


「奈々の分、持って来てなかったから仕方ないだろ。美咲は私の部屋に来た時に色々と食っていただろ」


「お嬢様の鬼!悪魔!」


酷い言われようだが、奈々と会うとは思ってなかったんだよ。だから準備もしていない。というか奈々という存在を俺が忘れていただけなんだけどな。最近会ってなかったし。美咲と会っていなかったら、多分こいつの分も用意していなかったと思う。


「咲子さん、美咲のお菓子禁止令は向こう何年ですか?」


「私が死ぬまでです」


「さて美咲。どうしようか?」


「……私はお嬢様に従います。というかそろそろ解いてください」


「芋虫みたいに動けると思ったけど、やっぱり無理か?」


「無理です。漫画のように動くには相応の筋力が必要ですから私では転がるのが限界です」


使うのは腹筋と背筋かな。実際にやってみないと分からないが、多分辛いのだろう。だけど俺が解くのもどうかと思うし、咲子さんに一任しよう。


「私の別けてあげるから我慢しなさい」


「お母さん、そこは全部くれないのですか?」


「お嬢様から初めて貰った手作りクッキーですよ。私も味わいたいわよ」


あらら、意外と好評みたいだな。こう言われるのであれば作った方としても気分がいいな。というか奈々が先程からカチコチに固まって全然動かないのだが。


「そこまで緊張する必要もないから」


「ふぅ、やっと立てた。お嬢様もよくこの状態の奈々を連れてくることが出来ましたね」


「いや、私だって気付いていなかったから」


聞いてきた美咲も、咲子さんも家族も全員「あぁ~」と納得したような声を上げた。いや、俺も反応には慣れたけどさ。だけど家族まで納得することはないだろ。


「奈々、これが今のお嬢様です。過去のことは忘れた方が身のためです」


「せ、先輩。よく琴音お嬢様に鬼とか言えますね」


「今のお嬢様はこの程度で何かを言ってくることはありませんから。だから奈々も好きにすればいいのです」


意味もなく罵倒されたら俺だって美咲の頭を叩く程度の事はするけどな。というか美咲は琴音の時も普通に言っていただろうが。全然気にしていない美咲と、滅茶苦茶気にしている奈々を同じ立場にはなれないだろ。

むしろ難易度が高すぎるわ。


「奈々、どちらにせよ貴方は琴葉と達葉付きの侍女なのよ。琴音と会う機会も増えるのだから慣れる必要があるわ」


「お、奥様まで。ですが琴音お嬢様はこちらにお住まいになられないのでは?」


「あの子達を見て、今年会うのが最後に出来ると思う?」


母の言葉に俺も両隣の双子の表情を見ているとニコニコと、琴音がいた頃と全然違う表情をしている。確かにこんな表情をしているのに、来年の入学まで会えないとは言えない気がする。

可哀そうというか罪悪感を感じそうだ。


「お姉様とは来年まで会えないのですか?」


「お姉ちゃん、これが最後?」


双子よ、中学三年生になっているというのに泣きそうな顔をするなよ。母も困ったような表情するな。


「うーん、家に来るのは父が居ない時。あとは何かしら機会を作るしかないだろ。別に今日で最後という訳ではないから」


「私の方でも予定は調べるけど。唐突に帰ってくる場合もあるから確実性がね」


今日は海外にいるから急遽家に帰ってくることはないだろうし、それだけの距離があれば事前に連絡があるかもしれない。ただ国内、それこそ会社に行っている場合は分からないだろう。


「琴葉、お父様を追い出すにはどうすればいいかな?」


「そうね。物理的には無理でも、社会的に抹殺する方向で行けばいいかな。あとは最終手段でお爺様とお婆様を頼る方法もあるわね」


「物騒な相談をするんじゃない。あと最終手段は下手したら自爆する可能性もあるからな」


ヤバそうな会話をしている双子に釘を刺しておく。発症した二人なら本当に父に対して行動を起こしかねないからな。


「会いたくなったらバイト先にでも来ればいい」


そうすれば俺に会えるし、喫茶店の売り上げも上がる。ただし美咲を連れてくるのは止めて貰う。そこは咲子さんが分かっているだろう。先週、母が来た時もいなかったからな。


「それしか無さそうね。私も偶に行っているから大丈夫だと思うわ」


「父にばれないようにしてくれよ」


「大丈夫よ。私達に興味はないから」


確かに母の言う通りだろうな。逐一、家族の行動をあの人が調べているとは思えない。むしろ問題さえ起こさなければ関与してくる可能性は低いだろう。


「あの、琴音お嬢様の雰囲気が以前と違う感じがするのですが」


「あれが今のお嬢様よ。あっ、喫茶店には私が同行しますから」


「私が阻止します。同行者は奈々に任せます。貴方は私の監視の元、旦那様の情報を集めるのです」


侍女たちが色々と話し合っているが、予想通り美咲は待機組になりそうだ。あいつが来ると双子そっちのけでケーキやら何やらを食い漁りそうだからな。


「それじゃ話も決まったことだし」


「「「逃がさない」」」


両腕を双子に掴まれ、今回の脱出は失敗してしまった。ちっ、空気を読み違えたか。あの服を着て明日のバイトに行くなんて罰ゲームだって言ってんだろ!


「今日はお泊り決定なの。諦めなさい」


「いや、だから無理だって!」


「お姉様、一緒にお風呂に入りましょう」


「それも無理だから!」


幾ら姉妹と言っても中身が他人の、しかも元男の俺からしたらハードルが結構高いんだぞ!ていうか、泣きそうな顔をするなよ!


「お姉様は私のことが嫌いなのですか?」


「いや、そういうことじゃないから。あぁもう!どうしたらいいんだよ!」


「お姉ちゃん、大人しく泊まればいいと思うよ」


弟からの冷静な突っ込みに言葉もない。確かにそうすれば問題解決になるだろう。最初は双子と会えればいいと思っていたのに、何で近づかないと思っていた家に泊まる羽目になるんだか。

分かっているよ、問題があるとすれば俺の軽率な行動だってことも。


「あ、あの。私はどうすれば」


「私達はいつも通りに動けばいいだけです。美咲、奈々、支度を始めますよ」


侍女たちまで俺が泊まる前提で動き出しやがった!?拒否権は、無さそうだな。


「なぁ母さん。これは予想していたか?」


「えぇ、私にとっては予想通りかしら。奈々に関しては想定外だったけど」


そうだよな。こういう事態を予想していたから自分付きの侍女達以外に休暇を言い渡したんだろう。母よ、変わり過ぎだよ。

諦めるしかなさそうだよな。

間に合わないかと思いましたが、何とか間に合いました。

目の調子がいいと結構捗りますね。

というかヘッドホンがお亡くなりになりそうです……

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