20.双子についてのあれこれ
段々サブタイトルが訳分からなくなってきました。
ただ付けないと筆者が何の話を書いたのか分からなくなるのです。
20.双子についてのあれこれ
午前中でバイトを終えて昼食を食べて、実家に向かっている最中。俺は何故かボディーガードの人達の車に乗せられて移動していた。
「確かに助かりますけど」
「どうせ身バレしているのだから構わないでしょ」
確かに歩いて移動するよりは車の方が断然早い。理由は簡単だ。歩いているのを後ろから護衛しているよりも車で護送した方が楽であるというだけ。うん、言っていることは分かる。
車も普通だから目立たなくていいけどさ。
「隠れて護衛だったはずでは」
「文句なら晶に言えよ。俺は知らん」
「恭介だって賛成したじゃない」
運転席には常連の男性、助手席には女性が座っている。そういえば今朝の会話でも名前を聞くの忘れていたな。今聞けたからいいが、しかし護衛の割に自由過ぎないか。
「琴音ちゃんも歩いて行って不慮の出来事でプレゼントが駄目になるよりはいいでしょ」
「いつの間にかちゃん付けされているし」
「すまん。こいつ、一回親しくなるとこうなるんだ。諦めてくれ」
いかん、あまりにも周りに濃い人が増えてきたような気がする。美咲にしろ晶さんにしろ、癖が強すぎる。そりゃこんな人ならストレスの感じ方も違うだろうな。
「苦労してそうですね」
「分かってくれる人がいるだけでも有り難いさ。マジで子守のようなものだからな」
「誰が子供よ、誰が」
流石に運転手を殴るようなことはしないか。そんなことをしたら俺が晶さんを殴って止めるが。でも信頼関係は出来上がっているようだから、一緒に仕事している期間は長いんだろうな。
問題は仕事が出来るかどうかだが、性格に難があるのにクビにならないのだから問題なさそうだと思う。
「基本はお二方が私の護衛ですか?」
「そうなる。偶に交代することもあるが、一時的なものだ」
「意地でも戻って来るわよ。こんな優良物件を逃すわけにはいかないわ」
「その意見には賛成だ。マジで他人には譲れない。俺達の交代要員なんて競争率ヤバいからな」
「特に土日は凄いわよ」
そりゃほぼ半日喫茶店でゆっくりするだけの仕事なら誰だってやりたいだろう。この二人だって本を持ち込んで読んでいる時があったよな。
そんな感じで護衛の人達と会話をしていたら、あっという間に実家に着いてしまった。確かに誰かにぶつかってケーキが駄目になるよりは良かったのだが、もうちょっと心の準備というものが欲しかった。
例え父がいないとしてもだ。
「それじゃ頑張ってね~」
「俺達は外で控えている。中で何かがあるとは思えないからな」
むしろ中で問題が起こったらいかんだろ。あぁ、問題が起こるとすれば俺関係で何かしら波乱があると思っているのか。そりゃ嫌われていますからね、本家の人間からは。
「如月琴音です。母は御在宅でしょうか?」
「お嬢様、ご自身の家なのですからそのような発言はお止め下さい」
インターホンを押して尋ねてみたら、咲子さんに叱られてしまった。だって父の関係者が出たら大変じゃないか。その前に名前を出している時点でモロバレなのだが。
「お嬢様、お久しぶりです。お土産ありがとうございます」
「いや、美咲のじゃないから」
出迎えに来た美咲からケーキとクッキーを死守しつつ中へと入る。俺にとっては初めての家だが、琴音の記憶で間取りは完璧に覚えている。通されたのは応接室だから他の人が入ってきたらすぐに分かるな。
「美咲、お茶の準備」
「かしこまりました」
部屋には誰も居なかったが、テーブルに荷物を置き指示を出しておく。持ってくる時間は美咲の判断に任せているから、変なタイミングではないだろう。仕事は優秀だからな。
「おかえり、琴音。道中は大丈夫だった?」
「ただいま、母さん。護衛の人達が送ってくれたから大丈夫だよ」
「っ!?」
母に挨拶を返したら、母と一緒に入ってきた咲子さんが盛大に驚いていた。そういや、咲子さんの前では敬語しか使ってなかったからな。それに母との距離感が縮まったことにも驚いているのだろう。
「久しぶりの家はどうかしら?」
「どうと言われてもな。特に思う所はない」
思い出があると言う訳でもないから。琴音にとっては父がいる場所という認識しかないし、俺にとっては初めて訪れる場所。自室に行けば自殺したことを実感するかもしれないが、今の所は本当に何もない。
「それであの子達は?」
「もう少ししたら来るわ。ほら、咲子も驚いていないで」
「あっ、すみません。奥様」
「そんなに変かな?」
小首を傾げて聞いてみたら、苦笑された。ギャップが凄いんだろうな。
「お嬢様には色々と驚かされてばかりですね。もちろん、いい意味でですが」
「なら良かったです」
「私にも敬語は不要です。侍女に敬語を使われると使われた方が困ります」
やっぱり駄目か。いや、予想はしていたけど流れで受け入れてくれるかなと思っただけなんだが。考えが甘かったか。
「お茶の準備が整いました。お二方も一緒です」
「本当に仕事は出来るよな」
「やはり知っていますよね、娘のことは」
「一緒に生活していたら嫌でも分かるさ。制限は設けていたから大丈夫だと思ったけど。あれから何か変化は?」
「特にありません。強いて言えばお嬢様の所に行く申請が多いだけですね」
別れ際に足に縋り付かれたりしたからかなり未練があったのだろう。俺というよりもお菓子の方に対してなのは間違いないが。というか俺と咲子さんの会話に母が疑問符を出しているような感じ。
母は知らんのか、美咲の本性を。
「「お帰りなさい、お姉様」」
流石双子、息ピッタリの挨拶だ。しかしお姉様と呼ばれるのはどうにも違和感が凄いな。確かに見た目が女性なのだが、中身がまだ男性だと思っているから違和感しか感じない。感動とかもないな。
それに弟が妹の後ろに隠れているのも原因なんだが。
「ただいま、琴葉、達葉」
「お姉様、本日はどのようなご用件で帰ってきたのですか?」
妹の琴葉の反応に母を見てみる。しかし妹もまるで家族に対する会話じゃないよな。俺も人のことを言えないが、確かに面と向かって言われると家族らしさが全然伝わってこない。
「母さん、二人に何も言っていないのか?」
「こういうのはやっぱりサプライズだと思ったのよ。ほら、二人とも。まずは座りなさい」
確かにサプライズなのは分かるんだが、事情を知らない二人は思いっきり警戒しているんだが。幾ら俺のことを嫌っていないと言っても、今の反応から見れば怖がっているのは分かる。そりゃ前の琴音はある意味でいつ爆発するか分からない爆弾だからな。
それに二人とも、俺の隣が空いているというのに母の両隣に座っている。何か寂しいな。
「取り敢えず二人とも。ちょっと早いけど誕生日おめでとう。それと今までごめんね」
家族と言ってもけじめはつけておかないといけない。だから素直に頭を下げたのだが、母や咲子さんからは睨まれ、双子は目を白黒させている。
「何で二人は睨んでいる?」
「家族に対してなら頭を下げる必要はないと思ったのよ」
「軽々しく頭を下げるのは如何なものでしょうか、お嬢様」
「私なりのけじめだから」
「あ、あの。お姉様」
「何?琴葉」
「お姉様は私達のことをどう思っているのですか?」
「家族だね。それ以外に何かあるかな」
双子との関係ではそれ以外にないだろう。まだ何よりも大切な存在だとは思うことが出来ないが、そういったものもこれから時間を掛けて築いていくと思っている。問題があるとすれば会う機会が少ないことだろう。
前途多難だ。
「では以前のように私達の存在を無視するようなことは?」
「しないよ。さっきの謝罪はそれについても含まれているんだが」
「お姉様がまともになられた!?」
あぁ、やっぱり双子にもこういう反応されるか。そりゃ性格がここまで変われば驚きもするが。というか俺もこういう反応に慣れたな。皆が同じ反応をするからさ。
というか、弟よ。お前は喋らんのか。
「お、お姉ちゃん?」
「やっと喋ってくれたか。それで何かな、達葉」
「お姉ちゃんは、本当に僕達のお姉ちゃんになってくれるの?」
琴音は姉として本当に何もしていなかった。存在自体を無視していたから、会話もない。ご飯を一緒に食べているはずなのに、食べ終わればすぐに部屋に戻る。そして双子も察して声を掛けてこない。
姉弟らしいことなんて何一つとしてなかった。
「本当にごめんね。これからは気軽に声を掛けてもいいから。私もちゃんとした姉になれるように努力する」
ちゃんとした姉というものがどういうものなのか俺も分からない。だけど家族として接することだけは忘れないようにする。それが琴音がしなかったことへの最低限の償いだろう。
「というか、お姉ちゃんか。今までそういう風に呼ばれなかったから何かこそばゆいな」
「駄目?」
「ドンと来い」
しかし弟よ。どうしてお前は男らしく見えないのだろう。顔立ちも可愛らしい方だし、服装を変えたら女子に間違えられないだろうか。何か前の俺を思い出すんだが。
そして妹よ。何故目をキラキラと輝かせている。
「お姉様が凄い逞しく見えます」
「この口調だからな」
「それに仕草もです。隣に座ってもいいですか?」
「僕も!」
「構わないけど」
「あらあら、すっかりお姉ちゃん子になっちゃって」
母よ、笑っている場合じゃないぞ。俺も今思い出したが如月の血を考えるんだ。母の予想が思いっきり当たったのじゃないだろうか。
「母さん、これは」
「予想通りかしら。頑張ってね、お姉ちゃん」
俺に出来るのはせめて軽度の症状であることを祈るだけだ。それに俺は一緒に生活しないから何かしらの問題が起こるような事態も少ないだろう。来年、入学して来たらどうなるか分からないが。
「取り敢えず、ケーキに蝋燭でも立てるか」
軽く現実逃避しながら二人の誕生日を祝う。咲子さんと美咲も同席させてはいるが、金持ちのパーティよりは侘しいだろう。だけど此処にいる人達は誰もそんなことを気にしていない。
これが家族として過ごすことなんだろうか。
「お姉様の学園生活はどのようなものですか?私達も来年入学するので参考までに聞きたいのですが」
「それは私も興味あるわね」
「母さんは学園長から話を聞いているんじゃないのか?」
「問題を起こしているかどうか位しか聞いていないのよ。だから詳しい話はサッパリ」
ふむ、学園長経由で全部筒抜けかと思っていたんだが、そんな訳じゃないのか。といっても何を話せばいいのやら。ちなみに美咲は咲子さんに任せてある。野放しにするとケーキ全部食いそうだからな。
「クラスメイトには助けられているな。最初は全然話しかけても来なかったけど」
「和解するの早かったわね」
「あの問題が無ければもっと掛かっていたと思う」
母が凄い微妙な顔をしている。卯月との問題のおかげで娘の状況がいい方向に転がったと分かれば、複雑な気持ちにもなるだろう。俺だって微妙な気持ちになるからな。
「ま、まぁ、友達が出来たのはいいことね」
「あとは臨時役員だけど生徒会に入った」
「ぶっ!?」
母が紅茶を吹き掛けた。その気持ちは分かる。何で去年にあれだけの問題を起こしておいて生徒会に入れるんだと思うよな。俺だって何でこうなったのか全然分からん。原因は分かっているが。
「凄いですね、お姉様」
「お姉ちゃん、凄い」
「私はどうしてそうなったのか事情を知りたいのだけど」
「学園長に依頼されて、助っ人参加したら生徒会長に勧誘された。以上」
「全然分からないわよ」
いや、状況を簡潔に説明するとこうなるんだよ。大体俺だってどうしてこんな状況になっているのか把握できていないから。
「あとは文月家の人と一緒に食事をしたり、クラスメイトから差し入れを貰ったりと現在は楽しいな」
前みたいにクラスの中でさえ、人の目を気にする必要がないのが一番助かっている。最初は俺がいるだけでクラスの雰囲気が悪かったからな。ずっと気を遣うような状況は正直疲れる。
しかし差し入れを貰っているという言葉で事情を知らない双子以外から憐みの視線を向けられた。
「本当に増やさなくていいの?」
「いらない。現状困っていることは無いし、この間のがかなり余っているから」
壊されたものに関しては殆ど学園側で補償してくれたので、追加のお金は殆ど使わなくても良かった。美咲の分も入っていたとはいえ結構な金額が余ったんだよな。封筒の中に入っていた金額も金額だったし。
余った額は通帳にしっかりと貯蓄している。
「それにしても琴音。貴方、他の十二本家の人達と親しいの?」
「葉月は生徒会長だし、文月は何故か懐かれたし、皐月学園長はどうにかしてほしいと言った感じかな」
「そこで学園長が出てくる辺り、異常だと思うわよ」
それは俺だって思っているさ。何で学園の最高責任者と懇意にしているのかは謎だが、恋愛事の相談だとは誰も想像できないだろう。それに俺の知り合いって大人の人の比率も大きいんだよな。
「それにしても琴音」
「何?」
「何でそれだけの人脈を築けるのに最初からやらなかったの」
「父以外に興味がなかったからだろ」
母が頭を抱えるのも分かる。琴音自身のスペックは妙に高い。それは学力にも身体的なものもだ。生前の俺と比べても明らかに違うのだから自覚も出来る。それなのに一切役に立っていなかったのだから業は深いだろう。
見た目だっていいんだからな。
「お姉様はお父様のことを諦めたのですか?」
「むしろ夢から覚めた状態かな。今じゃ一切の興味がない。それこそ会いたくもないな」
「お姉ちゃん、正反対になった」
他人として見るならあれが父と呼べるものなのか。琴音と同じであれは祖母にしか興味がない。そんな人に立派な父親が務まるとは全く思えない。父というものを俺が語れるものじゃないんだが。
ただあれだけは絶対に違うと思える。
「二人にとって、あの人はどう見える?」
「私達にとっては父というカテゴリに含まれる人であるというだけですね」
「僕も同じ。父親じゃなくて、あくまで血が繋がっている人というだけかな」
つまり家族だとは思えていないという事だろう。よく家庭崩壊しないなと思うが、そこは母がうまく立ち回っていたのだろう。
「あの人がいなくなると平和になりそうな気がする」
「それが出来れば苦労はないわよ」
俺と母が二人揃って溜息を吐くのを、双子は何とも言えない顔で見ているだけ。実の父を排除するような会話をしているのだから、そりゃ反応に困るよな。
ただやりようはあるんだよな。祖父母を呼ぶという最終手段が。ただし使えば俺も無事じゃないような気がする。
双子チョロイのお話となりました。そして発症回。
というか20話まで書いてまだ5月というのが問題のような気がします。
全然月日が過ぎない……
かといって無理に飛びませんけど。次に書く話も決まっていますから。
次の投稿は2,3日位後になります。執筆速度によりますが。