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記念番外編-姉妹の愛は一方通行

本日1月22日『悪役令嬢、庶民に堕ちる』コミック2巻発売です!

書き下ろしのSSも収録されておりますので、どうかよろしくお願いします!

残念ながらコミカライズ企画はこれで完結です。

お付き合いいただき本当にありがとうございました!

本編は最後まで走り抜きます!

※最初の琴音と今の琴音が姉妹だったらのお話です。

本編途中で差し込んでしまい、申し訳ありません。


 最近というよりも、結構前から私には悩みがある。何が原因なのかは分からないが、発生したタイミングだけは知っている。それはガチギレした私が父親をボコボコにしてやった頃からだ。


「姉の愛が重い……」


「姉妹仲が良好なのはいいことじゃない」


「それにも限度というものがある!」


 家族を顧みない父親。父親に相手にされず不機嫌の極みを続ける姉。どうすることもできず、沈みがちな母親。そんな状況に私の我慢が限界を迎え、まずは父親に対して肉体言語で本音をぶちまけた。そして、姉にはちゃんとした言葉で説教をしたのだが。


「何であれで私に対する愛情が芽生えるんだよ」


「元から歪んでいたからじゃない?」


 それが正解だと私は思いたくないのだが。友人である香織は姉の本性を垣間見ているので結構、毒を吐く場面がある。学園では落ち着きのある頼れる姉といった感じなのに。私が絡むと一気に豹変するので二重人格説が出回るくらいになってしまった。


「上級生から聞けば、琴音先輩は去年は刺々しくて話しかけるのも怖かったらしいわよ」


「家でもそんな感じだったな。私が大暴れしてから一気に変わったけど」


 落ち着きのある大人の女性。確かにそれも琴姉の素である。だけど、愛の重い姉であるのも本性で間違いない。しかも、それを隠そうともしないのだから私の恥ずかしさが天井知らずなんだよ。


「それで、今度は何をやらかされたの?」


「勝手に私をアイドルのオーディションに応募していた」


「ソウにとってはガチできついわね……」


 ― ― ― ― ―


 家に帰るなり、母親から呼び出しを受けたのだが何かしら注意を受けるようなことは最近していなかったはずだと、ここ数日を振り返ってしまった。そして、母親の対面に座り、スッと出されたのがオーディション会場への案内だった。


「草花。こういうのは家族に相談してからやってほしかったわ」


「全く身に覚えがないのだが」


「別に反対しているわけじゃないのよ。貴女の将来が自由であるのは私が保証するもの。でも、高校生でアイドルはやっぱり家族に話してほしかったわ」


「だから、私はそんなものに応募した覚えすらないんだよ!」


 私がアイドルだと? 絶対になるわけがないだろ。気の迷いですら、そんな選択肢は出てこない。なのに、案内状には一次選考を合格して二次選考のための会場が記されている。心当たりがあるのは一人しかいない。


「琴姉しか、犯人が考えられない」


「確かにあの子ならやりかねないわね」


 やっと母さんも正気に戻ったか。私がアイドルなんてものを将来に据えるとは考えられないはず。案内状を見て、気が動転してしまったのだろう。それよりも、犯人はどこに行った。私と一緒に帰ってきたはずなのに。


「琴姉」


「呼びました?」


 毎回思うのだが、何で普通の声量で話す程度の呼び声でやってくるんだよ。どれだけ感度のいい耳をしているのか。しかも、私以外だと反応しない耳とか訳が分からない。以前なら父親の声に反応していたが、今だと父親が呼んでも一切反応しないんだよな。


「この件は一体何なんだよ?」


「もちろん。キラッキラに輝くアイドルのソウちゃんを見たいからに決まっています!」


「おい、少しは本音を隠せよ」


 他人に自慢したいとか、魅力を伝えたいとかじゃなくて、私欲全開だったのかよ。何より私自身が人前で歌えるわけないだろ。それは姉自身も分かっているのに。私を一番理解していると豪語していたのは誰だよ。


「でも、それだと草花を独り占めできないわよ?」


「はい、却下ですね」


 母さんの言葉で即座に案内状を破り捨てたぞ、この姉は。前後の行動が全く一致していないが、我が家では見慣れた光景だな。私関係で暴走する姉なんてほぼ毎日見ているからな。


「だからといって、私がアイドルみたいな恰好をするのも嫌だからな」


「なぜ気づいたのですか!?」


 姉の行動原理が分かりやすいからだよ。人前に出すのが嫌なら、自分だけがその姿を見ればいいとは誰だって思うことだ。その所為で偶に小鳥と喧嘩しているのは、毎回見なかったことにしているけど。巻き込まれたくないんだよ。


「この姉は。私が将来ここを出ていったら、どうなるのか」


「えっ。ソウちゃんは一生、私と一緒にここに住むのですよ」


「闇を感じさせる恐ろしい言葉を吐くな」


 父親に向けていた愛情以上のものを私に向けられているから、かなり困惑する場面が増えてしまった。その度に背筋に悪寒が走るんだよな。狂気に走らないだけマシではあるけど。何とかその一線を踏み越えないでほしい。


「こういう風景を見ていると二人が幼い頃を思い出すわね」


「小さな頃の記憶なんてあまり覚えていないな」


「私もですね。ソウちゃんの小さな頃を覚えていないなんて汚点以外の何物でもないのですが」


「あの頃は草花が姉のような感じだったわよ。草花の後ろを琴音が付いて回るような感じだったかしら」


 今でもそんな感じはあるけどな。私がやることに興味を持ち、一緒にやろうとするのは変わっていないと思う。楽しさを共有するのは悪いことじゃない。別に取り合って喧嘩をするわけでもないからな。


「私がお姉ちゃんです!」


「事実だが、妹にべったりなのはどうにかしてほしい」


「以前のお互いに距離を置いている頃よりも、今の関係の方がずっといいわね」


 姉が父親に愛情を向けていた頃は、私達はお互いに会話すらもなかった。廊下ですれ違っても、挨拶すら交わさない。家族としてどうなんだと思うが、どうせ話しかけても無視されるだろうと思っていたからな。そんな環境に慣れることができず、不満を全て父親にぶつけてから今の関係が出来上がったともいえる。


「過保護を止めてくれるのなら、邪険にはしないよ」


「だって、ソウちゃんがアルバイトするなんて言うから。私がずっと養ってあげるのに」


「駄目人間を製造しようとするな」


 社会勉強としてアルバイトすると家族に相談したら、姉が猛反対してきたんだよな。それに対して私も反論したから、初めて姉妹喧嘩なんてものが発生してしまった。初めての状況だったから、母も慌てるだけで何もできなかったな。


「十二本家の人間として、アルバイトは世間体を考えると問題があるのは理解しているわよね?」


「理解はしている。だけど、それが禁止の理由にはならないだろ。誰もやっていないから、私もやっては駄目とはならないはず」


「それはそうだけど。うーん、草花相手に口論は勝ち目が薄いわね」


「お母様、頑張ってください。このままでは私がソウちゃんと触れ合える時間が減ってしまいます」


 少しは本音を隠せよ。母の言う通り、十二本家の人間がアルバイトで稼ぐのは世間体としては上手くないだろう。でも、娯楽として捉えられればどうだろうか。私としてもお金が欲しいから働くわけではない。将来を考えて、今のうちにやれることをやろうとしているだけ。


「実家は琴姉が継いでくれるのだから、私までここに残る理由はないだろ?」


「琴音の精神的支柱だから一人暮らしだけは許可できないわよ」


「うん。それはもう諦めた。無関心だった馬鹿親父ですら、頭を下げてきたくらいだから」


 私がぶん殴ってから、少しは反省の色を見せたのだが、それでも家族との距離感が掴めずにいる馬鹿親父。そんな奴ですら、私の一人暮らし発言に本気で怯えていたような気がする。一体、何の想像をしたのやら。


「でも、私が一人暮らしするとしても学園を卒業してからだから、まだまだ先の話なのに」


「その話を決定にしてしまうと琴音が闇堕ちしそうだからよ」


「色々と妨害工作の用意をしないといけませんからね。非合法でも私は打てる手を全部使います」


 なるほど。馬鹿親父の悪い予感はこれか。非合法な手段とは一体何なのか気になるが、私が知る必要は全くないだろう。家族崩壊というよりも、世間から散々なことを言われそうな気がする。


「闇が深い」


「如月の業だと思って、私は諦めたわ」


「私は普通ですよ?」


「いや、絶対にそれは違う」


 どこの世界に非合法な手段を用いて、妹の一人暮らしを阻止しようとする普通の姉がいるんだよ。免疫がある家族だからこそ、普通に会話しているが一般人だったらドン引きしているからな。


「家族で普通なのって私と母さんくらいだよな」


「「えっ?」」


 何でそこで疑問の声が上がるんだよ。確かに少しくらいは逸脱した部分はあるだろうけど、この家族の中では私はまともなはずだ。それだけは確実なのに。


 ― ― ― ― ―


 そんな感じの家族での団欒があったと香織に話したのだが、凄い微妙そうな表情をしているのが気になる。何かあったかな。


「ソウが普通かどうかはこの際、置いておいて」


「いや、置くなよ。認めてくれよ」


「結局、アルバイトの件は了解を取れたの?」


「香織のところだと説明して、それほど難しい内容でもないし、将来で役立つからとプレゼンして何とか納得してもらった」


「何でアルバイトの了承を取るのにプレゼンが必要になるのか全く分からないわ」


 そこまで細かく説明しないと納得してくれなかったからだよ。両親二人の同意を貰い、三人がかりで姉の説得を試みたのは本当に大変で疲れた。何なら私も一緒に働きますと言ったときは真面目に止めてくれと私が懇願したくらいだ。


「だから今日、私の家に来るって約束していたのね」


「ちゃんと挨拶しておかないといけないだろ」


「そういうところは律儀よね。琴音先輩は?」


「一緒には来ない。何で挨拶するのに姉を同伴させないといけないんだよ」


「それは良かった。偶に私は琴音先輩から凄い敵意を感じるのよね」


「気のせいだろ」


 さて、それじゃ行こうかと二人で席を立った時にスマホに通知がやってきた。その内容は簡潔に一言だけ。だけど、無視するわけにもいかないかと溜息を吐きつつ、香織に謝っておく。


「悪い。ちょっと用事が出来た。すぐに済むから先に行っていてくれ」


「何があったの?」


「綾先輩から救難信号が送られてきた」


「あー、またなのね。さっさと済ませてきなさいよ」


 琴姉との会話はどこに地雷が埋まっているから分からないマインスイーパー状態。地雷マスを踏んだらどうなるのか。それは妹自慢の会話が全く止まらないことを意味している。綾先輩曰く、七割くらいで踏み抜くけど傾向が全く見えないわとのこと。


「安全地帯が三割の談笑とか、私なら絶対に参加したくないな」


 早く助けてー! と再度通知が送られてきたので結構限界なのだろう。私も覚悟を決めて、上級生の階層へと踏み出す。頑張れーと謎な応援を背に受けているのは本当に謎だ。


 そんな迷惑な行動をする姉ではあるけど、私は嫌っていない。だって、世界でただ一人だけの私の姉なのだから。嫌いになれるはずがない。好きかと聞かれたら、微妙だけどな。

如月家の姉妹愛とか確実に狂気へ走るのは分かっていたんですけどね。

姉が妹を手放せる日が来るのかは、誰にも分かりません。

コミカライズが終わり、残念な思いや悔しい気持ちもあります。

でも、人生の記念となり、三冊の本となったのは本当に嬉しいです。

本当にありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 琴音ちゃんが姉の形になったんですね。綾先輩すら圧されるとか強い。 相手がある程度応えてくれるから比較的平和な依存環境。この闇を双子も抱えてる可能性があると思うとなかなかw [一言] コミカ…
[一言] 何気なく前話みたら候補2か 全力で空回るというか、もはや回し車回しすぎて一緒に転がってるのすら楽しいハムスターのような有り様 前のifは小動物属性を持ちながらもカリスマが生きてたのに何故こん…
[一言] こっちの世界線では護衛に止められず思う存分フルボッコに出来たんですかね?大分お父様が従順になってらっしゃる(笑)
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