172.バレンタインデーのお礼参り②
コミカライズ番外編が更新されました。
これにてコミカライズは全話掲載完了です!
お付き合いいただき、本当にありがとうございました!
コミック2巻は2021年1月22日発売です!
いつまでも小鳥のところにお邪魔しているのも悪いので退散することにしたのだが、なぜ小鳥は残念そうにこちらを見つめているのだろう。悪いけど、他にも渡さないといけない人はいるのだ。
「それでは、お邪魔しました」
「いつ来てもいいんですよ!」
大丈夫。俺がお邪魔しなくても、小鳥が勝手にやってくるから。それにマスコットを温かく見守るこのクラスはちょっと居心地が悪いんだよな。何か俺が飼い主とか、保母さんみたいに見られている気がするから。
「さて、そういうわけで次に行きましょう」
「次は誰?」
「除外するのも悪いので、仕方なく長月さんにも渡しておきます」
「あー、確かに琴音がお世話になった印象がないわね」
逆にこちらが世話をしているのではなかろうかと思っている。でも、他の学園在籍の十二本家に渡しておいて、長月だけに渡さないのは印象が悪いだろう。一応は、関係の修復は済んでいるのだから。
「というわけで、はい」
「どういうわけかは分からないが、貰っておく」
お互いに勘違いにするような関係でもないので、特に何もない。強いていえば、クラスの連中が意外そうにこちらを見ていることくらいか。学園だと俺と長月の関係が修復していると思われていなかったんだな。
「勘違いしないでくださいね。義理の友チョコクッキーです」
「変なフリを止めろ。勘違いされて一番困るのはお前だろ」
「落ちるのなら道連れは必要でしょう」
「俺を巻き込むな」
嘘は一言も発していないのだがな。周りがどのように受け止めるのかは俺達じゃどうしようもない。でも、噂が流れたところで俺が配り歩いている姿を見られていれば、そんなもの簡単に覆せるだろ。
「実際は他の十二本家に渡しておいて、長月さんだけハブるのは印象的に悪いと思いまして」
「ということは、弟にも渡すつもりか?」
「その予定ですけど、何か不都合でも?」
「いや、ない。弟が変な画策をしていないといいのだが」
長月と違って、弟さんは何か腹黒っぽいからな。魔窟で鍛えられた嗅覚が若干危険な匂いを感じ取っている。それでも、俺と長月をくっ付けようとは思っていないだろう。その前に凛とかが対応してくれると思うし。
「何と言いますか、兄弟なのに性格はあまり似ていませんよね?」
「弟の場合、裏で手を回すのが好きだからな。好んで表に出ようとはしない」
「なるほど。兄の手伝いをするのが好きなのですね」
好意的に受け止めるとそう聞こえる。だけど、裏を返せば兄の失敗を修復するので忙しいか。霜月ほどではないだろう。あそこの場合、凜のリカバリー能力が高すぎて、真似の出来ないレベルに昇華しているからな。もしくは、こちらが気付かないうちに事態を治めているか。
「お返しとか気にしなくていいですよ。私が勝手にやったことですから」
「男として、やらないわけにはいかないだろ」
義理堅いことで。もらえるのであれば、断る理由はない。こういった性格だからこそ、他の生徒から頼りにされるんだろうな。断れなくて、手が回らない状態にならなければいいけど。霧ヶ峰さんが泣きついてくるから。
「何というか。関係で一番変化があったのって、あなた達二人よね」
「私は迷惑を掛けた自覚を持ったので、なるべく距離を置こうと思ったんですけど」
「おい、あの馬鹿騒ぎに巻き込んだのはそもそもお前が発端だろ」
「律儀に来るなんて思いませんでしたから」
普通に断ると思っていたのは本当だ。葉月先輩と共謀していたとはいえ、あんな誘い方で来るのも相当特殊だと思うぞ。俺なんて肉壁とか平然と言っていたからな。
「俺の場合は、如月と他の十二本家の付き合いを目の当たりにして印象が変わったからな。振り回されていたり、振り回したりで去年の印象と違い過ぎだ」
「私は今でもお堅い人だとは思っていますよ。あの二次会みたいにもっと弾けていいと思います」
「あれは心労が増えただけだ」
口ではそう言っているけど、あの時の長月は随分と素を曝け出していたはず。あの二次会は十二本家という枠を無視して、肩書のない子供として楽しめていたからな。黒歴史的な写真は大量に生まれてしまったが。
「次回があれば、また参加しますか?」
「負けっぱなしは性に合わない。絶対に次は勝つ!」
「参加表明と受け取っておきます。次があればですけど」
あるんだろうなぁと確信を持っている。あれだけはっちゃけた葉月先輩や綾先輩があの一回だけで済ますとは思えない。それぞれの予定次第になるだろうが、またあの二次会は開かれるだろう。ちなみに一番勝利率が低かったのは長月である。
「犬猿の仲だったのに、プライベートでも遊ぶような仲だなんて。周りに聞かれている自覚はあるの?」
「別に聞かれて困る情報ではありませんから。二人っきりであれば、問題でしょうけど、他の十二本家と一緒だと公言していますから」
「大体、俺と如月の関係を知っているのであれば、邪推する方がどうかしている」
「今の世の中だと犬猿の仲が交際するとか、割とあるのよね」
香織も長月相手に平然と言っているよな。あれだな。綾先輩の本性を見て、吹っ切れたのだと思う。十二本家に対する価値観が崩壊したのだろう。俺が特殊だと最初は思っていたのに、他にもそんな人がいたのだから当然だよな。
「それでは私はそろそろ失礼します。まだ渡す人もいますから」
「一応、礼は言っておく。ありがとう」
俺が琴音となって、まさか長月から礼を言われるとは思わなかったな。あの関係から、よくここまで持ち直したものだと思う。この状態なら、俺が私になったとしても大丈夫だな。最後の砦になってくれるかもしれないし。
「同級生は平和に終わりましたね。下級生組も特に問題はないと思いますが」
「放課後の上級生組が波乱を呼びそうね」
何で告白とか全く関係ないのに覚悟を持って、バレンタインのチョコクッキーを渡しに行かないといけないのか。葉月先輩はこちらをからかってくるだろうと予想はできる。真面目に綾先輩が予想できない。
「それでは、一番渡さないといけないクラスに行ってきます」
「私は自分のクラスに行くわ。ちゃんとお礼を言ってくるのよ」
「当然です」
そのためにここまでの量を作ってきたのだ。最初こそ気まずかったが、そんな状態でも俺を受け入れてくれたあのクラスには本当にお礼をしないといけない。針の筵を覚悟していた俺としても、本当に受け入れてくれて感謝している。
「ハッピーバレンタイン!」
「琴音。クリスマスと混ざっていない?」
「それでは、遅めのサンタさんと思ってください」
テンション高く、教室に入ったら早速晴海からツッコまれてしまった。手渡しで配ると、誰に渡したのか把握できなくなるので机にチョコクッキーを置いていく。俺の言葉でそれが何なのか理解できているようで、女子からは感謝の言葉が。男子からは歓声、絶叫、号泣する馬鹿がいた。
「琴音は律儀だねー。サンキュー」
「お世話になったお礼ですから。あんな私を受け入れてくれたのは本当に感謝しています」
「琴音の頑張りがあったからだと思うよ。あんなに嫌がらせ受けて、それでもへこたれなかったのは凄いと思うし。私に対しても普通に接してくれたから」
宮古に対して二番目の琴音と一緒の態度を取っていたら、確実に孤立するのは分かっていた。あくまで、普通に徹しようとしていたのだが。どこから印象が変わったのかな。
「私は私なりに、現状に馴染もうとしただけなんですけどね」
「最初から我が道を行く感じだったっと思うのは私だけかい?」
「私も晴美に賛成。琴音は最初から何も変わっていないよ」
これでも女性として色々と変化していったと思うんだけどな。それとも行動自体が何も変わっていないのか。好きで厄介ごとに首を突っ込んでいたわけじゃないのに。原因は分かっている。おのれ、葉月先輩。掌で転がしおって。
「人の内面を引き出すのは流石かな」
やっぱり十二本家のスペックはおかしいな。それに比べて私なんてまだまだだ。同化した後が怖いとはちょこっとだけ思ってしまったのは、琴音に知られないようにしないと。
コミカライズの終わりに普通の話で締めていいのかと心残りが発生しそうなので。
コミック2巻発売日に全力でノリに突っ走ったお話でも書こうかなと思っています。
候補一、魔窟による過去回。魔窟と呼ばれる前のクラスが結成されたお話。
候補二、琴音と琴音が姉妹だった場合のif回。
候補一の場合、全力で馬鹿まっしぐら。候補二の場合、全力で空回る誰かがいる。
どちらにするかは、読者様にお任せしようかと。流石に二つは無理なのです!