番外-放送事故は空騒ぎ:後編
質問形式にしようと思いましたが、無理でした。
何で魔窟関連の質問が多いのかなー? と思ったら主要人物が魔窟でしたね。
なので話の中に回答を散りばめてみました。
非常に不本意だったが、流れ出した曲を止める手段を俺は持っていない。別にこちら側へ流す必要なんてないのに、嫌がらせのように俺にも聞こえるようにしやがって。
「テーブルに箱が置かれているわね」
「厳密にはアンちゃんの頭だけどね」
恥ずかしさにテーブルに突っ伏している状態だからな。まさか、あれが二度も公共の電波に乗ってしまうとは。曲を売り出すにしてもあれは絶対に嫌だと駄々をこねるつもりだったんぞ。
「さて、気を取り直して質問コーナーに戻ろうかね。多すぎて選別するの面倒だから、適当に選ぶわ」
「いいのか、それで」
「時間は有限なのよ。それじゃ、これね。それぞれの出会いは? これは私も含まれているのかな?」
「なら、パターンAだな」
俺とパーソナリティの語部の初対面なんて今回だからな。だったら、総司の時の出会いを語った方が新鮮味もあるだろう。あとは俺の正体を隠すのにも役立ってくれるはず。アンノーンは年齢も不詳だからな。
「私とイサの出会いなんて高校の同級生だったという面白みのないものよね」
「私とソウの会話に変なアフレコ付けたのが喧嘩の原因だったかな?」
「それで仲が深まるのがあのクラスの謎だったな」
謎の恋人風のアフレコを付けられて、語部ともう一人を追い回したのだったか。鬼ごっこという体力勝負で俺と勇実に勝てる奴はクラスでも少ないのだから、一人は腕の関節を極めてやり、もう一人を強制エビ反りの刑に処してやった。
「教師一同が制御不能のクラスだからって魔物の巣窟とか、変な呼び方を始めたのはいつだったかな?」
「クラス半分に割っての大乱闘以降じゃなかったか? 学校全部使ってのサバイバル戦だったはず」
「未だにあれの発生原因が分からないのよね。キノコタケノコ戦争の延長だっけ?」
「些細なことだったのは確かだと思う。奇襲に騙し討ち有りの文字通り何でもありだったな。小道具の準備とかいつの間に用意していたんだと思ったぞ」
「クラス全員が停学処分受けたのは笑ったよね。その後のお仕置きは全員のトラウマになったけどさ」
語部も例に漏れず、師匠と義母によるお仕置きはトラウマとなっている。魔窟の連中全員の天敵となったのはこの時だったな。奈子ですら師匠には勝てないほど、あの人は強く。そして、義母による正論なのか何なのか分からない説教は時間が長すぎた。
「おかげでクラスの結束が強くなったのは確かよね。同じ苦しみを味わった仲だから」
「学校での評価が変わったのもあの時だったよね。私がいつも通り明るく挨拶するだけで逃げるのは失礼だと思うよ」
勇実も武力行使すればそこそこの部類に入るからな。そこは師匠の血が流れている関係でもあるのだろう。当時の俺達の呼び名は愚連隊だったか。のちに教師の呼び名が魔窟に省略されてから、そっちが採用された経緯がある。
「私達の昔話もここまで。何気にアンノーンが私達の内情に詳しいのがあれだけど」
「一応、言っておくけど。私達とアンノーンは年齢が違うから同級生というわけじゃないからねー」
謎が増えるばかりにしているけど、そっちの方がこっちも有難い。情報攪乱大いに結構。アンノーンが琴音であるという関連性はなるべく秘匿しておきたい。知り合い一同にはバレているけどさ。
「次の質問。日常の習慣は?」
「早朝のランニング」
「早朝にサンドバッグ叩き」
「歌手として声を大事にしなさいよ。何で肉体トレーニングに向かうのかさっぱり分からないわ。しかも早朝に」
「身体が資本だろ」
「健康一番だよ!」
「貴女達がどうして無駄に体力を持っていたのか分かったわ」
体力がないと何も始まらないと言ったのは誰だったのか。多分、師匠かおじさんだな。義母は文系の道をひた走るような人物だから肉体的なトレーニングについて詳しくない。
「えーと、次は。これは答えてくれるのかな。アンノーンのスリーサイズを教えて」
「張り倒すぞ」
「はい、残念でした。正体不明を自称しているのに、プロフィール欄が埋まるような真似はしないわよね」
「ちなみにナイスボディであるのは間違いないよ!」
「空気読め、この馬鹿!」
質問者がこの場にいないので代わりに勇実を張り倒しておいた。こっちがあれこれと考えているのに、それらを無駄にしてしまう勇実が悪いのだ。その光景を何とも言えない表情を見ている語部だが、引かないだけの耐性はついている。
「うん。いつもの光景ね。それじゃ、次。既婚者?」
「独身。これは私の事情だけど、結婚はしないと思う」
「どうして?」
「恋愛感情が良く分からない。多分、誰かに求婚されても断る。それと付き合いがその時点で途切れると思う。私が申し訳なく思って、距離を置くと思うから」
「プライベートを詮索する気はないけど、難儀な性格しているわね」
友人関係ならどこまでも続けることはできる。だけど、恋愛となると奥手というよりも、感情的に無理な部分が出てくる。それは琴音の影響であり、俺の事情もある。父を愛して捨てられた琴音と、母に愛情を与えられず捨てられた俺。まともな恋愛感情を宿せる気がしない。
「私達の友人たちも既婚率が低いのは性格的な問題だとは思うけど」
「あいつ等の行動に付き合える人物となるとかなり限定されるからな。それでも結婚しているの二割くらいか?」
「でも酷いよね。私達に黙って結婚式を行うのは。私達が何をしたっていうのかな?」
勇実の発言に俺と語部はそっと視線を逸らした。原因は担任だった先生の結婚式で盛大に祝い過ぎた為だろう。あそこまでの規模でやられてしまい、そして最後にとんでもない爆弾を投げ込まれたくはないと思うのは誰だって同じだ。
「無自覚って怖いわね」
「私達はまだ自覚している分、マシではあるよな」
「はぇ?」
本当にそういった部分を自覚していないから勇実は図太いんだよな。当時の担任なんか、あの後に胃潰瘍で入院したからな。笑って流した連中と、冷や汗を流した連中で半分に分かれたのは俺達らしいけど。
「時間的に次が最後かしら。えーと、何か特別な呼ばれ方をしていた時がありますか?」
「私はない」
「私は六感だね。ソウは色々と呼ばれていたけど代表的なので抑止力かな」
「私は裏口だったかしら。全部高校時代のものだったわね」
勇実の場合は勘が鋭く、そして勘だけで行動することが多かったから。語部は出口とかの裏口ではなく、裏側から変なアフレコを付けて惑わすためにそんな呼ばれ方をしていたな。
「変な渾名を付けられていたのは七割くらいだったか?」
「最終的には全員何かしらの名を貰っていたと思うわよ。おかげで後輩たちから奇人変人の集まりだと思われていたじゃない」
「もしくは中二病の集まりか。他称なのにな」
自分から変な名前を付けた奴は一人もいない。教師から、生徒から勝手に渾名を付けられて他の連中がその名を使いだしたのだ。奈子だって自分が女帝だと言ったことは一度もない。瑠々も同じだな。
「アンノーンの謎というより、私達の交友関係がメインになった気がする放送だったけど。アンノーンとしてはどうだったかしら?」
「雑談で終わった気分」
「私もそんな感じね。これが本来の放送だとは思わないで頂戴。絶対に怒られるから」
分かっているさ。提供するような情報は皆無だし、勇実の所為で方向性の定まらないものだったからな。唯さんが猿轡でも噛ませようかとジェスチャーしてきたときは流石に俺でも引いたぞ。
「イサはしっかりと怒られてきなさい。私はちゃんと釘を刺しておいたから大丈夫だとは思うわ」
「何て言ったんだよ?」
「絶対に制御できないと太鼓判を押しておいたわ」
だろうな。勇実の制御なんてできるのは師匠や義母くらいだ。好き勝手に動くからこそ、勇実らしいともいえる。こいつをゲストに呼んだのなら、引っ掻き回されるのを覚悟しておかないといけない。
「それでは本日の放送はここまで。何も伝えられずごめんなさい!」
謝罪している分、語部も成長しているのだと思ったよ。社会人としてやっぱり好き勝手に行動できないのをちゃんと理解している。隣のいる馬鹿とは大違いだ。そして、俺も挨拶して本当に放送は終わった。
「よっしゃー! 打ち上げに行くわよ! 近くに美味しいお好み焼きのお店があるからそこでいいわね?」
「私は賛成。勇実はどうする?」
「できればアンちゃんのお好み焼きが食べたかったなー。得意料理の一つだったからさ」
「その内な。魔窟の誰かを部屋に招くには色々と覚悟がいるからさ」
一人を呼べば、十人くらいは集まるのが奴らだからな。そんな人数を部屋に招きたくはない。押しかけられても面倒だからな。だからこそ、どこかの場所を借りるという手を打たないと。てっちゃんでいいような気はするけどさ。ただし、想定以上の人数が来そうで怖い。
「それではこれより、放送局離脱戦を開始する。各員の準備はいいか?」
「「OK!」」
「行動開始!」
まずは目先の問題だ。アンノーンの正体を。または写真の一枚でも撮りたいと思う連中はどこにだっているだろう。自分を過小評価せず、他の者たちが何を望んでいるのか考えていないと悲惨な目に合いそうだと分かっている。現状の手札を全部切ってでも正体不明のまま逃げ切ってやる!
後日。護衛から苦情を受けたよ。私達まで撒こうとするなと。興が乗ってやったのだが、経験豊かになってしまった護衛までは引き剥がせなかった。無念。
質問に答えたはずなのに魔窟の謎が増えたのは何故でしょう。
でもあの位の質問量がちょうど良かったのかもしれません。
あれ以上増えると、流石に一話で処理しきれなかったと思います。
突発的な思い付きに協力してくれましたツイッターの皆様、ありがとうございます!
※桐谷→語部に名称を変更。申し訳ありませんでした。