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164.文月からの刺客③

コミカライズ8話更新予定日です!

文月からの刺客はこれでラストです。


 結果を言えば、撮影班を置いてけぼりにするのは不可能だった。何でカメラ片手にこちらを映しているのにピッタリと後ろを付いてこれるのかさっぱり分からない。ここは初心者用のコースじゃないんだぞ。


「どんな教育を受ければ、あんな芸当ができるんだよ」


『一種のプロフェッショナルかと。大概頭がおかしいと思います。侍女なのに』


 それだよな。何で侍女にあんな芸当ができるんだよ。全く必要とされていないスキルだろ。それと偶に人数が増えていたりもしている。どうやらコースのそれぞれに他の人員を配置していたようだ。


「先読みでもしているのかよ」


『どちらかといえば、人海戦術を活用していると思います』


 このスキー場はコースだって豊富だぞ。頂上から下までどれだけ分岐していると思っているんだよ。十二本家というか、小鳥の執念が恐ろしい。


「限界まで速度を上げても全く引き離せる気がしない」


『こちらはスノーボード初心者なのですから仕方ないですよ。むしろ、初日でこれだけ滑れるのが一般的におかしいと思います』


 スキーなら経験があるからな。その延長で習熟が早いとは思わないか。いや、無理な考えだな。基本的に俺は琴音の身体に依存した強引なやり方をしている自覚はある。元の身体だったら何度転んでいるか分からないぞ。


「恭介さんも必死に食らいついてきているけど。余裕はなさそうだな」


『また恨み言が増えますね』


 貧乏くじを引いたと諦めてもらうしかない。下にいる晶さん達は何をしているだろうか。まさかリアルタイムで撮影している映像を送っているとは思えない。あの小鳥ならやりそうな気はするけど。


「中腹を突破。あとは一番下まで滑り降りるだけ!」


『一体私達は何をしているのでしょうね?』


「それは私が聞きたい!」


 何でプライベートの旅行で頂上からのタイムアタックみたいなことをやっているのか謎だ。しかもそれが撮影されているとか。これを別のことに利用されないといいのだけど。


「霜月家に流れでもしたら悲惨なことになりそうな気がしてきた」


『動画のプロフェッショナルと音響のプロフェッショナルが手を組んだらPVなんかも作れそうですね』


「嫌な想像をさせるな!」


『私だってそんな未来を想像したくはありません!』


 外堀埋められまくっているんだぞ。逃げられる隙間を探すのだって大変なんだ。これ以上補強されてたまるか。下手したら、強制的な手段に訴えてくるかもしれないと日々怯えているのだ。綾先輩ならまだ何とかなるが、シェリーが強すぎる。


『お兄さん、これって』


「露骨だから、まる分かりだな。エキストラ配置し過ぎだ!」


 人の配置によって、俺が滑るコースを限定的にしている。その狙いがどこにあるのかなんてすぐに想像できる。撮影班が露骨に推していたのは俺が跳ぶこと。それを実現させるために手段を選ばなくなりやがったか。


「これだから十二本家の人間は」


『人様の迷惑なんて全く考えませんね。困ったものです』


 見えてきたよ。小さなジャンプ台が。ジャンプ台といっても雪を盛って、適度に固めた程度のものだから撤去も簡単そうなもの。あれを避けて滑ったらブーイングものだよな。妥協案は考えているから、あとは撮影班の腕の見せ所だな。


「考えている暇もないけどな。減速、減速っと」


『最高速度で突っ込むかと思いました』


「どこまで飛んでしまうのか分からないだろ。私だって空中制御をできる自信なんてない」


 それに跳んだ先で一般客がいたら迷惑だ。滑っていたら突然に上空から人が降ってくるなんて事件どころの話じゃない。他人に迷惑を掛けてはいけない。偶にそれから外れている行動をしている自覚はあるけどさ。


「ショボいジャンプだって映える方法はある!」


『他力本願ですけどね』


 安全圏内まで速度を落として小さなジャンプ台で跳ぶ。まだ余裕はあるかと思って踏み切ってみたのだが、若干失敗したか。だって予想よりも高く飛んでしまったから。とりあえず格好だけでも整えて、あとは着地に全神経を集中させないと。


「ノーズは掴んだ! これだけでもバランス崩れやすいな!?」


『空中で動いているのですから当然です。格好は十分ですから着地態勢を整えてください』


 言われなくても分かっている。予想以上に高く飛んでしまったから、衝撃に備える。着地と同時に膝を活かして衝撃を押し殺す。それだけに集中しているとバランスを崩して転倒する可能性もある。何でこんなことをしているのかマジで謎だ。


「あっ、おぶっ!?」


 いらないことを考えたせいで集中力が切れたのか、転倒してしまう。幸い、速度も落ちていたし、危険な体勢で転んだわけではない。ただ、盛大に格好がつかない状況になってしまっただけ。


「最後の最後で失敗だな」


「いえいえ、こちらとしては完璧なだけではなく、ちょっと抜けた面も撮れて大収穫でした」


 疲れの所為で膝が笑って立てない。頭に被った雪を払いながら見上げれば撮影班の一人が俺の近くまでやってきていた。ゴーグルをしているせいで口元しか見えないけど、その形からして撮影は一発OKだったようだ。


「これで満足ですか?」


「お嬢様に送る映像はこちらで編集したものとなりますのでご安心ください。最高の出来を保証いたします」


 いや、そんな保証は望んでいないのだけど。これでテンションの上がった小鳥がまた香織にいらない情報をあげないのを祈るしかない。そこまで拡散しないのがせめてもの救いだけど、本当にデビューした後を考えると末恐ろしいぞ。


「しかし、前回と今回を合わせまして本当に如月のお嬢様はお変わりになられたのだと実感させられました」


「悪い意味で有名人だったのは自覚しています」


「お嬢様が如月のお嬢様に熱中していると知った時は、遂に旦那様のストレスに耐えかねて悪女となるのかと思いました」


 文月の家庭環境は大丈夫なのかよ。あそこは暴走する父親と、それを力業で捻じ伏せる母親で結構なカオスだというのは知っている。それを間近で見ている小鳥の性格が破綻していないのが不思議でならない。いや、趣味趣向がちょっとおかしな方向になっているか。


「ですが、お嬢様が憧れる対象が如月のお嬢様で安心しました。これで一段とお嬢様は逞しく育ってくれるでしょう」


「小鳥はどこに向かっているのですか?」


 小鳥に何を求めているんだよ、この侍女集団は。あんな見た目をしているのに十二本家の中では戦闘能力高めなのも分からん。もしかして、父親対策で小鳥の戦闘力を上げるつもりか。母親と合わせたら過剰戦力だろ。


「それでは我々はこの後の作業のために撤収いたします。良き、ご旅行を」


「お疲れさまでした」


 こちらの話を聞いているようで、全く噛み合わない会話をしていたような気がする。どう考えても彼女たちの思考は小鳥第一優先のようだ。下手したら小鳥の為に、当主である父親にすら牙を向けかねないな。大丈夫なのかよ、あの家は。


「あー、疲れた」


 起こしていた上半身を雪の上に倒して、思いっきり伸びをする。ここまで体力を使ったのは修学旅行での逃亡劇以来か。あれよりも体力の消費は大きいような気がするけど。ふと顔に影が差したのでそちらに視線を向けると香織がいた。


「大丈夫?」


「疲れて動けないだけ。休みなしで頂上から滑り降りてくるもんじゃないな」


「随分とハードなことやったのね。あっちの人を見れば、大変だったのは分かるけどさ」


 香織の視線の先を見ると、へたり込んでいる恭介さんがいた。俺の速度に合わせて転ばずに付き合ってくれたのだから疲れているのは当然か。それに対して雪を被せている晶さんは鬼かな。


「宮古と晴美は?」


「もうちょっと上の方ね。私だけ先に降りてきたのよ。宮古が中々に苦戦しているから」


 初めてなら仕方ない。何事も恐怖心を無くすのが一番苦労するからな。スピードが出るのが怖い、転ぶのが怖い、人と接触しそうで怖いとか色々とある。そこら辺が吹っ切れるとやれることも増える。危険度も増してしまうけどな。そこは節度を守って楽しく遊ばないと。


「何で、琴音は私達と行動しようとすると付き合いが悪くなるのかしら」


「それは私が聞きたい。トラブルを招くような行動をしているつもりはないのに」


「無自覚なのが性質悪いわね」


 だって、トラブルの方からやってくるんだぞ。俺はそれに対処しているだけ。その結果が集団行動から外れたものになってしまう。友人たちには悪いとは思っている。ただし、そっちが巻き込まれる覚悟があるのならば、俺だって積極的に利用するぞ。


「香織だって、修学旅行みたいなことに巻き込まれたくはないだろ」


「あの規模では考えたくはないわね。あんなこと簡単に起きないわよ」


「相手が十二本家でもか」


「ないとも言い切れないわね」


 お互いに溜息を吐きながら、小鳥以外にも厄介な人物がいるのを思い出していた。俺が動けるようになった頃、ようやく宮古と晴美も追いついてきたので集団行動を再開する。これ以上、トラブルはいらないぞ。

そろそろ頭を本編に切り替えないと。

寄り道し過ぎて冬旅行編が大幅に増量となっていますからね。

六話くらいで終わる予定だったのに……。

三日連続投稿なのでネタが発生するはずもありませんよね。えぇ、はい、嘘です。

インパクトが薄い不注意の三段オチなので割愛します。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一読者の感想 「琴音。逃げ道は一分の隙もないぞ。諦めろ(?」
[良い点] >> これ以上、トラブルはいらないぞ。 立った!フラグが立った!(ハイジのクララ的なリズムで)
[良い点] PV作成成功! 着地失敗で雪にまみれるシーンまであって落ちまで最高! BGMは広瀬香美がなぜか似合いそう。 [気になる点] 琴音ジャンプが終わった後の撤収シーンの中に、仮説ジャンプ台を崩…
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