159.未来への道筋
スキー場に到着したのは午後になってすぐ後のこと。ここまでは何のトラブルも無く進行している。それは晴美や宮古が立てた計画だからか。それとも、今回は本当に何事もなく終わってくれるのか。
「何か、凄く店員が気を遣っていたような気がする」
「琴音を事を知っているようだったわね」
事前に何処からか情報が回っていたのだろうか。随分と店員が低姿勢だったような気がする。それに貸し出されたものも、レンタルというよりも新品のような気がするのはなぜだ。旅行の行程は母さんにしか話していないはずなのに。
「琴音はボードを選んだんだ」
「香織も同じだろ。宮古と晴美がスキーを選択か」
ウェアは俺が白と黒のツートンカラー。香織は青と白。晴美が赤と白。宮古が銀と黒というそれぞれで基調としているものが違う。割とあっさり決めたのは瑞樹さんの所為だろう。迷うと長いのだ、あの人のコーデは。
「日焼け止めも塗ったよな?」
「琴音にそんな予備知識があったのに驚いたわよ」
これが初めての経験じゃないからな。日に焼けるというよりも、雪焼けを知っているだけ。ゴーグルの跡がくっきりと残ったのは誰だったかな。パンダみたいで暫く笑いながら弄っていたか。
「あとは準備運動が大切だな。特に香織や晴美は」
「運動している私達が?」
「ここで怪我して、夏の本番に影響があっても大変だろ」
俺や晴美は部活に所属していない。だけど、香織と晴美はそれぞれで部活に入っている。三年となり、最後の大会が控えているのに、出場することなく終わる青春は勿体ないと思う。馬鹿をやった青春は自業自得だと思い返して、溜息が出てしまった。
「それじゃあ、簡単な場所を目指しますか」
リフトに乗り、初心者が滑るコースを目指す。一番近い場所にあるからすぐに到着するはず。リフトは俺と香織。晴美と宮古がコンビとなっている。護衛の人達はその後ろから追いかけている形か。
「琴音はこういった経験があるの?」
「ボードはこれが初めてになるかな」
総司としてなら、冬のスポーツは色々と経験している。流石に雪山で遭難という経験はないけど。活動的な馬鹿達と一緒にいるとそれこそ家でのんびりしているという時間が殆どないくらいだ。一番の問題は家に乗り込んでくるのが厄介なんだよな。
「一回くらいは頂上付近に行ってみたいな」
「何かあるの?」
「景観が凄いんだよ。特にこういった晴天の日だと」
「へぇ、それは興味があるわね」
白く覆われた山に、遠くに見える湖なんかも見える。晴天といっても少しばかりの雪は降っている。でも、それが更に景観を引き立たせるんだよな。流石にぶっつけ本番で頂上は目指せないけど、ラストアタックくらいで行きたいな。
「琴音はさ。総司さんとしての過去に未練はないの?」
香織には修学旅行の間に、気付かれた上で正体を暴露していたな。信じてはいなかったけど、俺の知らない間に何かあったのだろうか。他の人達とはリフト間の距離もあるし、前を向いているので後ろにまで声が届かない。だから、聞かれる心配はないか。しかし、何でまたこのタイミングで聞いてきたんだろう。
「藪から棒にどうしたんだよ?」
「過去を語る琴音に、寂しさとか悲しみみたいな感情が窺えないからかな」
「未練ならあるさ。やりたいことだってあった。でもさ、奇跡みたいな二度目の人生を謳歌するのに過去を引き摺っていたら駄目だろ」
「過去を引きずり込んでいるものね」
「いや、あれは過去が追いかけてきたんだよ」
別に過去を振り払おうとは考えていなかった。むしろ、様子を見るくらいはやろうとしていたさ。その前に幼馴染とエンカウントするなんて思わないだろ。その後に過去を積極的に利用しようと思ったのは未練だったかもしれないけどさ。
「過去にはどうやったって戻れないんだ。それよりも琴音としての今が何よりも大事だろ。折角、琴音から貰ったもう一度の人生なんだから」
「琴音らしいというかなんというか。それじゃあ、将来は勇実さん達と一緒に何かをするつもりはないの?」
「精神的に死んで来いと言うか?」
「そこまで言うの?」
だって、あいつ等と行動を共にするということは歌手として生きることを意味しているんだぞ。琴音としてそんなの苦行でしかない。それにプラスしてあいつ等の面倒まで見ないといけないと考えると気が滅入ってくる。頑張れ、唯さん。
「目立ちたくはないんだよ。琴音としての性格に引っ張られている部分があるから、大衆の目に映るのは勘弁してほしい」
「今までの行いを振り返ってみなさい」
悪目立ちはしていたか。でも、殆どは俺が巻き込まれていたようなものだぞ。最初の頃は噂で注目され、次は葉月先輩に振り回されて。確かに正月の騒動は俺が原因だけどさ。でも、やらかしたのなんてそれだけだろ。
「あいつ等と一緒にいるのは確かに楽しいけど。それは総司としてであって、琴音として付き合うのは違うと思う。正体をばらす前から友人みたいなものだったけど」
「一緒の道を行く気はないと?」
「琴音としての将来とはやっぱり違うかな。実家を手伝うにしても、自立するにしても、魔窟の連中とは線引きをしたいと考えている」
線引きしたところで、あいつ等は普通に踏み込んでくるけどな。それに一般的な会社に就職できるとも思っていない。将来についてあやふやな部分があるけど、庶民としての考えでは就職が絶望的なのは理解している。
「大学に行くのは確定としても、やっぱりその後だよな」
「歌手はどうするのよ?」
「そっちはメインとして考えていない。あっ、白瀬とはそっち関係で付き合わないといけないのか」
一線を引こうと思ったら、特定の個人とは仕事で協力しないといけないのか。でも、白瀬なら口も堅そうだから大丈夫かな。これが瑠々だったら、率先して俺の情報を流すだろう。奴だけは警戒しておかないと。
「歌手はあくまでも霜月家からの要請で仕方なくやると思っている程度だ。本格的に活動する気は微塵もないぞ」
「十二本家同士で何をしているのよ」
「それが私が聞きたいくらいだよ」
娯楽に他人を巻き込んで、本気で楽しもうとしてやがるからな。シェリーは生粋の霜月家の人間じゃないのに、元からそのような人物だったのか。それとも、引っ張られてあんな感じになってしまったのか。厄介であるのは変わりはないけど。
「取り合えず、将来はまだフリーというわけね」
「そんな感じだな。大学生活していく中で選択肢を絞っていくつもりではある」
つまりは今まで通りだ。喫茶店でバイトするのは変わらないし、あの部屋から実家に戻るつもりもない。琴音の家族からは何かしら言われるだろうけど、俺は今の環境が気に入っている。それに社交界に戻るつもりだって一切ないのだ。
「私は専門学校へ進むつもりだから、今までみたいに一緒とはいかないわね」
「別に喫茶店でバイトするのは変わらないから、ずっと会わない訳でもないだろ」
俺がクビになったら分からないけどな。雇用期間だって決まっている訳でもないから。店長なら辞めて欲しいのなら事前に告知してくれるだろう。問題となるのは、次のバイト先をどうするかだな。
「琴音は高校卒業の経験があるのよね? 寂しくなかった?」
「あの連中だぞ。最後まで馬鹿やって高校生活を締めたんだから、寂しさすら感じなかったぞ」
俺達だって卒業式くらい、大人しく去っていこうとしたさ。だけど、教師一同が歓喜にむせび泣く姿を見たら悪戯心だって湧くだろ。ついでに言えば、他のクラスから最後に盛大な花火を打ち上げないのかと煽られたのもある。
「卒業後の同窓会だって馬鹿騒ぎの所為で出禁になった飲食店は数知れず。今じゃ知り合い以外は受け入れ拒否されている惨状だ」
「本気で頭の中身を心配するレベルね。そこに琴音も含まれているのは納得するけど」
故郷限定の話だけどな。隣町であるこちらにまでは被害を広げてはいない。酒が入ると抑え役の苦労人連中ですら、豹変する奴が出てしまうのが最大の問題である。最低限、店舗に対する破壊行為は出さないようにはしていたけど。それにも限界があった。
「ちなみに私は酒にはそれなりに強かった」
「泥酔している琴音を見てみたいとは思うわね」
誰がそんな醜態を見せるかよ。でも、成人したら茜さんと静流さんのコンビによって潰される可能性はあるか。特に静流さんなんて本当にザルだからな。それに付き合える茜さんも相当なのだろうと思ってはいる。
「さて、そろそろ到着か。最後に私から一つ聞いていいか?」
「何よ?」
「何か隠しているよな?」
「さて、何の事かしら」
口を割るつもりはないということか。だったら、暫くは様子見が賢明かな。まだ問題が何なのかを特定できていないから。
相変わらず短く終わるはずの旅行が長引きそうな気配をしています。
書きながら物語を組んでいる弊害ですね。
基本的にガバッている筆者ですみません。
※描写不足があったので、補足修正致しました。誠に申し訳ありませんでした。
※今話だけでは補完しきれないと判断したので、次話はサイドストーリーとさせていただきます。




