表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
169/237

157.四人と一人の旅行

遅ればせながら、累計2000万PVに到達しておりました。

お読みいただき、本当にありがとうございます!


 急遽決まってしまった思い出作りの旅は、俺抜きで話を進めていたようだ。発案者は晴美と宮古。それに協力したのが香織。協力といっても、俺のバイトの都合をつける程度だったか。そんな話を新幹線の中でしている。


「いつからこんな計画を立てていたんだよ」


「琴ねんが修学旅行を私達と楽しもうとしなかった時からね」


「その、琴ねんというのはどうなんだよ」


「愛称でも付けてみようかなって。私達もそれなりの付き合いになったじゃない」


 クラスの中でもこの三人と付き合っていることが多いのは確かだな。別に愛称を付けられるのは問題ない。琴ちゃんとか略称で呼ばれているから。ただ、変わった呼び方をされると何だか照れてしまう。


「修学旅行が終わってからさ。琴ねんなら何で誘えば付き合ってくれるか、宮古と話し合ったのよ」


「それなら温泉とかどうかなと思ったの。だって、海の帰りで立ち寄った温泉での琴音が印象に残っていたから」


「一番の問題が琴音の金銭面だったのよね。そこは父さんに無理を言って、私が何とかしようとしたのよ。まさか、自力で工面してくるとは思わなかったわ」


 店長にどうやって頼むつもりだったんだよ。俺の給料を勝手に前借するわけはないから。何か他の方法で店長からお金を借りようとでもしたのだろうか。実家からのお年玉がなかったら、こんな旅行は無理だったのは確かだ。


「でも急すぎるんだよ。準備するこっちの身にもなってくれ」


 冬で寒いのは当たり前。それでも、雪が降り積もるような場所で過ごせるような防寒着は持っていなかった。いつものことながら、香織の協力により、それなりのものを用意したのだが。似合っているかどうかは自分でも分からない。


「冬休みも残り僅かだから仕方なかったのよ。宿だって、この日しか空いていなかったし」


「それについては晶さん達から苦情を言われたから知っている。宿の確保が滅茶苦茶大変だったと」


 丁度良くキャンセルがあって、そこに滑り込めたから何とかなったらしいけど。それがなかったら客間以外を借りる羽目になるところだったと。苦情を言われたのは仕方ないとしても、俺だって急だったのだ。


「シーズン中だったから、どこも混み合っていたみたいだよ。私が予約した時もかなりギリギリだったから」


「予約は宮古に任せたんだよね。本当なら琴ねんにも早めに知らせようと思ったんだけど、何か忙しそうだったからさ」


「クリスマスから正月までは琴音も忙しかったわね。主に馬鹿な計画を立てて、実行していたから」


「反省しております」


 今回ばかりは素直に頭を下げておく。だって、本当に馬鹿な真似をした自覚があるから。本当の琴音にあそこまで言われたら、俺だって考えを改めるさ。でも、後悔はしていない。だって、目的は達成できたのだから。


「琴音は正月に何をしていたの?」


「父親をぶん殴っていた」


「「えっ?」」


「琴音。色々と過程を飛ばし過ぎていて、理解できていないわよ」


 簡潔に言ったつもりなのに。ずっと目標としてきたものを達成できたのだから、こっちとしては一番誇らしいことなのだ。それが誰からも認められないものだったとしても、俺だけは堂々と認めないといけない。


「父親に迷惑を掛ける為に十二本家を訪問して、実家へ戻る最中にちょっとやらかして。そして最終的に父親をぶん殴って、目的を達成したんだよ」


「いや、それでも理解できないからね」


 ノリのいい晴海ですら、俺の行動は理解できないようだ。宮古なんて想像できなくて、目がぐるぐると回っているように見える。香織はある程度の事情を知っているから、苦笑い程度で済んでいるな。


「琴音の反抗期みたいなものよ。その程度で考えた方が色々と楽よ」


「琴ねんが反抗期ねぇ」


「私もちょっと信じられないかな。琴音は誰とでも接することができる印象があるから」


「私にだってこの人は無理だと思えることはあるぞ」


 代表例で琴音の父親だな。俺が殴った影響で性格に矯正の影響が出始めたようだ。契約の為に実家へ訪れた際に、実家の中の雰囲気が変わっているのに気づいた。以前までは緊張感があったのに、それが和らいだ様子が見受けられる。そのおかげか使用人たちの琴音への接し方も随分とまともになったな。


 契約の際には父親も同席したのだが、俺との間には母さんが挟まれていた。そして一切、俺と視線を合わせようとしない。わだかまりがあるというよりも、俺を怖がっている印象がある。


『琴音には悪いけど、私はあの父親を許せる気がしない』


『それはお兄さん個人の感情ですから、私が何かを言うのは筋違いです。私にとって、あの人はただの父親だと思っていますから大丈夫ですよ』


 琴音が自殺するきっかけを作ったのは紛れもなくあの父親だ。今更、性格が矯正されて、まともになったとしても遅い。人生を俺へと譲る覚悟を決めた琴音は、父親がまともになったとしても、絶対に信念を曲げることはない。


「なーんか、難しそうな顔をしているね。旅行は出発から楽しくしてなくちゃいけないんだよ、琴ねん」


「それはそうなんだけど。私が行く先だと何かしらのトラブルがあったりするからさ」


 俺の言葉に、近くにいる晶さん達の肩が跳ね上がったような気がする。でも、今回は大丈夫だと思っている。魔窟の連中に今回の旅行は誰にも伝えていない。瑠々も奈子によって、監禁されているから動けないはず。行く先にだって、関係者はいないと確認が取れている。


「トラブルも旅行の醍醐味じゃない」


「私はトラブルは勘弁してほしいのだけど」


「私もね。修学旅行の晒し者で堪えたわ。琴音のトラブルは予想の斜め上をいくから」


 原因を作ったのは俺じゃないのに。あれは小鳥が香織に頼み、陥落したのが敗因だ。それに俺はちゃんと忠告したのだ。巻き込まれても知らないと。その忠告を無視した香織が悪い。


「大丈夫だとは思うけどな」


「琴音には悪いけど。信頼度、低いからね」


「何でだよ?」


「正月での行動を教えてもらった身としては、琴音が何かをしそうだと思うじゃない」


 やらないぞ。自重すると心に決めたのだから。この三人でトラブルを引き寄せたとしても、対処するのは全部俺になってしまう。メリットもないのに、やる必要は皆無。それに監視している人達からの視線が痛いのもある。


「香織は琴ねんが正月に何をしていたのか、知っているの?」


「霜月先輩と小鳥から色々と教えてもらったわね。霜月先輩に関しては信じられない事実を知ってしまったけど」


 あの日は、香織が終始圧倒されていたな。素を出した綾先輩の押しの強さは凄まじいから。それに合わせるように小鳥もぐいぐいとあれこれ喋るのだから、香織が喋る隙間が殆どなかった気がする。


「まだ到着まで掛かるから、それを私達に教えてくれない?」


「話の種としては有りね。琴ねんのやらかしなんて面白そうじゃない」


 信じられない内容ばかりだから、信憑性に欠けると思う。それに水無月家や葉月家での出来事はなるべく語りたくない。前者は家庭内の事情に首を突っ込んでしまうし、後者は俺の真実を話さないといけなくなってしまうから。


「ふっふっふ、そうなると思ってちゃんと持ってきたわよ」


「まさか!?」


「じゃじゃーん! 琴音のマル秘情報が満載のタブレット端末!」


 香織が荷物の中から取り出したのは、あの日、綾先輩たちが持ってきたタブレット。どうしてそれを香織が持っているのかは分からないけど、それを晴海や宮古に見せるのはマズイ。俺の恥辱が広まってしまう。


「待て、香織。それを見せるのは色々とマズイ。綾先輩に許可だって貰っていないだろ」


「許可ならあるわよ。情報の転送は厳禁だけど、親しい友人に見せる程度ならいいってさ。あと、なるべく秘密にするよう言い含めておいてと」


 自分の素もばれるというのに、どうして許可を出したのか。卒業を間近に控えて、色々と暴露する覚悟でも出来たのかな。だったら、それに俺を巻き込まないで欲しい。取り敢えず、香織の蛮行を止めないと。


「頼む。本当に頼むから、それの公開だけは何とか」


「はっはっは、琴ねん。そこまで話を出されたら、私達が気になるじゃない」


「そうだよ。諦めて、私達にも娯楽を提供するべき!」


 娯楽と言いやがったぞ。もう、俺には止めらない流れだな。諦めて、寝るか。

ちょっとした日常のネタは誰にでもあるはず。

私はそれがちょっとだけ多いだけだと、自分に言い聞かせています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 157話まで見ました。 魔窟の人間って・・・。(遠い目)
[一言] 最近知って一気に読ませて頂きました! 当初の目的無事完遂出来て凄い爽快でした 読み進めてこのまま完結しそうな流れかと焦りましたがまだ続いてくれてクソ婆対決編が俄然楽しみでなりません 騒動関係…
[良い点] 昨日、この作品と出会い 一気に読んでしまった 早く続きが読みたい! [一言] 勢いで電子書籍も購入しちゃいました。 こちらも続き待ってますー!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ