156.置いてけぼりの幼馴染
活動報告や感想で温かなお言葉の数々、本当にありがとうございます!
不安と重圧でガタガタ震えておりましたが、おかげさまで生きています。
そして、本日はコミカライズ6話更新日!
冬休みも残り僅か。正月みたいなイベントが早々に起こるはずもなく、久しぶりにゆっくりとした日常を送っているのだが。遂にそれが壊れる来客が来てしまった。予想はしていたけど、意外と遅かった気がする。
「だから何で、休憩時間前に来るんだよ」
「仕方ないじゃん。私達だって一応は有名人なんだよ」
休憩前にやってきたのは勇実一行。いつぶりの再会になるだろうか。正月のイベントにも不参加だったのは気になっていたが、変わらず元気そうだな。こいつ等が所属している事務所も大変そうだけど。
「お正月は私達抜きで面白いことしちゃってさ。事務所総出で私達を軟禁しようとしてきたんだよ」
「見事に身動きを封じられたよな。どこから情報がリークされたんだろうな」
一からジーと見られているが、俺が口を割るはずがないだろ。一応の為に、唯さんへ密告しておいたのだ。俺がやらかすから、下手したらイグジストの奴らが参戦するかもしれないと。紅白初出場して早々に問題行動は事務所としても許せなかったか。
「私からは何とも」
「それで琴ちゃんの事務所契約はいつなのかな? 今回は私達も参戦するよ!」
「その話なら、もう終わったぞ」
俺の発言に全員が「えっ?」と呟いて、停止してしまった。誰がお前達に将来の相談をすると思っているんだよ。絶対に自分達の都合へ俺を巻き込もうとするのは分かり切っている。だったらさっさと終わらせるべきだと考えた。
「そんな話、聞いていないよ!」
「おかしいな。唯さんを実家に呼んで話を進めたんだけど」
まだ言っていなかったのか。おかしいとは思ったのだ。契約の現場にこいつ等が現れなかったのは。実家の使用人達にはおかしな連中が来るかもしれないと、注意するほど警戒していたんだぞ。杞憂に終わって良かったと思っていたけど。
「あとで唯ちゃんに問い詰めないと」
「止めてやれよ。お前らの所為で色々と大変なはずだから」
成長したといえばいいのか、染まったといえるのか、随分と遠慮がなくなったと思っている。十二本家の実家へやってきた時も、全く気後れしている様子は見られなかった。逆に一緒に居た社長さんのほうが緊張していたな。
「でも、これで琴ちゃんと一緒に演奏ができるね!」
「やらないからな」
「もしかして、断っちゃった?」
「いや、契約自体はした」
母さんがかなり乗り気になってしまっていたから断り辛いのもあったが、一番の問題はやっぱりシェリーの存在だ。十二本家としての影響力があるだけに、あそこから推薦されているとなるとあの馬鹿親父ですら、デビューに賛成しやがったのだ。
「まさか、霜月家として要請してくるとは思わなかったな」
「大変なことになっちゃっている?」
「権力を馬鹿なことに使っている典型だな。外堀を完璧に埋められて、逃げようがなかった」
逃亡できる隙間すら残されてはいなかった。両親を納得させる材料を用意されてしまったのも大きいな。それに協力してしまった俺も悪いのだが。あの霜月から送られてきた動画を馬鹿親父が見ていたとは思わなかった。
「それじゃあ、どうして私達と演奏をしないの?」
「顔出しを全面禁止にした。出演とか、ライブとかジャケットなんかでも私の素顔は一切晒さないのが契約内容に盛り込まれている」
俺なりのささやかな抵抗だ。人前で歌うのは、琴音としてかなり厳しい。だったら、一切の露出をしなければいいと。これには唯さんと社長さんも渋ったのだが、了承しない限り契約はしないとごねたら何とか了承してくれた。
「うぅー、琴ちゃんとライブを一緒にするのが夢だったのに」
「それは諦めろ。それと学園を卒業するまでは殆ど活動しないからな」
「徹底しているね。やっぱり根本は総君かな」
学園生活を仕事で浪費したくはない。アルバイトで消費している俺が言えたことではないけどさ。青春を謳歌してこそ、学生として意味があると思っている。謳歌しすぎて馬鹿が生まれる場合もあるけどな。目の前のこいつ等みたいに。
「アーティスト名通りにするのね。正体不明の歌手かぁ」
「その手しかないんだよ。十二本家の人間が歌手とか、そこがまず注目の的になるだろ。歌手としてスタートするのなら、そんな注目のされ方じゃなくて、ちゃんと歌手として見て欲しい」
「生真面目だね。注目されるかどうかが最初の壁なのに。私達だって、そこは本当に苦労したんだよ」
「色々とやったよな。今ほど無茶をしていなかったと思うけどさ。没個性で終わる気はなかったけど、やっぱり総司がいるかどうかで、俺達の行動は変わったと実感したぞ」
「やっぱり総司がブレーキ役だよな。俺だって学生時代みたいな馬鹿な真似はできないと思っていたし。今は吹っ切れたな」
「私もだね。新八以上に大人しかった自覚はあったよ。どこまでやっていいのか不安もあったし。でもさ、初めて琴ちゃんと出会った時、この子なら全部任せられるんじゃないかなと思ったんだよね。そこから前みたいに何でもやっていいと確信みたいなものが得られたんだよ」
感覚的なものだとは思うけど、そこで俺と琴音が同一人物であると察していたのかもしれない。ただ、中身が本物であるとは確証が得られなかったのも確かだな。だけど、この話には無理な点がある。
「マネージャーに逃げられたという話を知らなかったら、美談になっていただろうな」
勇実と新八は揃って、俺から視線をそらしやがった。一は苦笑しているし、歳三に関しては相変わらず何を考えているのか分からない。簡単にばれるような嘘を吐くなよ。
「最初の頃は本当に大人しかったんだぞ。ただ、インパクトが薄いからもっと個性を出せと指示されて、結局はいつも通りになったんだよな」
「静かなお前達なんて、私からしたら想像できないな」
騒がしい印象しか残っていない。それは魔窟の殆どが該当するのだが。俺が殺されたという影響は、それなりにあったようで申し訳なく思うのだけど、あれは俺にも回避不能だった。同僚に殺されるなんて予測できるはずがない。
「私達に琴ちゃんが加わったら、あの頃みたいに賑やかになると思ったのになぁ」
「私はソロで活動する予定だから、お前達と関わることはないだろうな」
「それは私達が絶対に許さないからね! 絶対にコラボを実現させるよ!」
頼むから俺を一人にしてくれ。お前達に巻き込まれたら、注目を浴びるのは予測できてしまう。ただでさえ、シェリーという爆弾を抱えているというのに。あの人にはまだ、俺が契約したとは伝えていないのだ。
「シェリーには絶対に負けないよ!」
「対抗相手が大物過ぎて、流石の勇実でも相手が悪いと思うな」
俺の言葉に、同感とばかりに他の三人も頷く。大物アーティストであり、十二本家の一員。これだけでも敵う気がしないのに、本人の押しの強さもかなりのものだ。俺だって勝てる気がしないぞ。
「というか、そろそろ帰ってくれないか。私の休憩時間がどんどん減っていっているんだぞ」
「私達と話していて癒されるでしょ?」
「疲労が溜まるだけだ、バーカ」
「ひっどーい!」
結局、休憩時間ギリギリまで粘られてしまった。なんだかんだと、あいつ等に甘い俺の責任だな。休憩して休めるはずだったのに、本当に疲労しか溜まらなかった。自己責任で諦めるしかないか。
「やっほー、琴音。何か疲れているね」
「色々とあったんだよ、晴美」
休憩時間を終えて、奴らが帰ってから暫くして晴美と宮古が来店してきた。そういえば、冬休みに顔を合わせたのはこれが初か。自分の事で忙しかったのはあったけど、今の交友関係も大事にしないとな。
「琴音。ウィンタースポーツに興味はない?」
「スキーやスノーボードか?」
やってみてもいいとは思うけど、ここからスキー場は結構な距離がある。夏のように車で移動するのはちょっと無理があるか。そうなると交通費がそれなりに掛かるし、遠出するのであれば一泊位するか。
「琴音の為に温泉宿を予約したんだよ」
「宮古の言う通り。修学旅行で思い出を作れなかったんだから、冬休みで取り返すのよ!」
それを言われるとこちらは折れるしかない。実家からのお年玉で懐はかなり温かい。一泊二日の温泉旅行も悪くはないか。ある席からの視線が突き刺さってくるのだが。どうやって晶さん達を説得するか。そこが難題だな。
再編集と大幅加筆で本当に大丈夫なのかなと、真面目に不安な日々でした。
最近は真面目なあとがきばかりで、ネタも書いていないような気がします。
といっても、大した出来事はありません。
深夜に大きな蜂とバトルしようとしたり、座椅子が折れて頭を打ったり程度ですね。
それでは、コミックや書籍を購入して頂き、本当に感謝申し上げます。




