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147.5.暗躍する者たち

ちょっと長めです。

それと視点がコロコロと変わりますのでご注意ください。


 side:晶


 琴音のゲーム開始宣言を受けて、私は十二本家にとって誘拐事件すら遊びになってしまうのかと戦慄してしまった。私なんて報告を聞いてかなり焦ったというのに。


「でも相手が同業者なら何とかなりそうよね」


「企業間戦争みたいなものだな」


 その程度に受け取ってしまう私達も随分と毒されていると思うけど、ライバル会社と顧客を取り合うのは企業として当然かな。今回の件で優劣が決まってしまうのだから負けられない戦いだけど。


「それでこれが相手の写真ね」


「おかしいな。明らかに一般人だよな」


 送られてきた写真を確認しているのだけど、会社が所有している証明写真じゃない。プライベートに関わる写真ばかりなのはどうしてなのか。服装にだって統一感がない。そしてある人物を見て、私と恭介の表情が抜け落ちた。


「これってあれよね」


「だよな。琴音逃亡戦に参加していた瑠々という作家だよな」


 ということわよ。嫌な予感しかしないけど、まさかよね。この送られてきた写真の連中はあれなのか。彼女の関係者であり、とんでもない常識外れの連中なの?


「いやいや、あんな存在がこんなに沢山いるはずがないわよね」


「だよな。あれが特殊なだけだよな」


 うん、精神衛生上そう考えておこう。私達にとって琴音逃亡戦は思い出したくない過去の出来事。それがそれほど経っていないのに再びやってくるなんて考えたくもない。


「んっ? 写真の最期に何か一文が書かれているわね」


「本当だな」


『補足事項:瑠々並の厄介者ばかりなので油断したら終わりますからね』


「「ふざけんなー!」」


 恐らくこの一文を見て、絶叫したのは私達だけじゃないはず。あの逃亡戦に参加した同僚たちの全てが声を荒げたのは間違いない。そして今回初参戦の連中に情報共有しているかもしれない。私だって同じ行動をするわよ。


「あんな化物が複数とか無理ゲーにもほどがあるわよ!」


「特別褒賞程度でやる気が上がると思うなよ!」


 別の意味でやる気は上がっているけどね。あの時の屈辱を晴らすリベンジマッチ。前回はやられてばっかりでいい所が一切なかった。なおかつ、前回は敵であった琴音がこちら側にいる。その違いは確かにあるはず。


「やるわよ、恭介。前回のリベンジマッチを!」


「付き合いはするが、お前ほどやる気が上がっていないからな」


 恐らく私達の中でも半々に分かれているだろうね。復讐を誓う面子と、諦め半分の連中。だけどそんなのお構いなしに琴音からの指示が飛んでくる。やはり私達に拒否権はないのか。やるしか、ない!



 side:???


 目的の場所へやってくると対象人物を発見できた。彼ならば必ずここにいるという確信があったから。外の光景が良く見えるカフェ。冬の寒空に晒されず、暖かな場所で傍観でき、琴音の最終到達地点が見える場所。


「琴ちゃんからの伝言は発信完了。あとは事態がどう動くかだね」


「残念ね。貴方の役目は全部終わったわよ」


 後ろから声を掛けると錆びついたブリキ人形みたいに振り返ってきた。これだけでも接触した意味があるわね。でもそれだけじゃ目的達成とはならない。彼の行動を妨害するのが役目。


「蘭。どうして君が」


「綾香を巻き込んでおいて、私が気付かない訳がないじゃない」


 確かに正月休みで別々に行動していた。ただ正月後の予定を確認するつもりで連絡したら随分と慌てているのだと感じられたのだ。うまく隠している様子だったけど、付き合いの長い私は騙されない。


「何かあると思って技術屋に尋ねてみたら大量の小道具を注文したらしいわね」


「そこから辿られたのか」


 一応の為の確認だったのだけど。大規模に動くのであれば何かしらの道具が必要になるはず。技術屋の彼はあくまでも中立だから報酬と引き換えにこちら側へ引き込むのは可能。単純にお金を積んだだけだけど。


「あとは情報収集を彼女に頼んだら色々と分かったわ」


「瑠々ならこっち側のはずだけど」


「彼女には劣るけど、こちら側にも頼りになる存在はいるわ」


 瑠々は作家という自身の能力とは関係ない道へ進んだけど、彼女は記者として能力を活かせる道に進んでいる。性格に癖があるのは変わらないけど、協力関係は築ける。


「まさかと思うけど、鎮圧班を結成させたの?」


「私が率先して動いたのよ。当たり前じゃない」


「その可能性は考えていなかったなぁ」


 私達が動くのは稀だから仕方ない。馬鹿達が大規模に動いた場合だけ、私達は手を組んで事態の鎮静化を図る。そこに一切の温情は与えない。馬鹿達が全員降伏するまで徹底的に叩き潰す。


「なら僕が動いても問題ないというわけか」


「貴方を拘束するのが私の役目なのよ」


「抜け道を用意していないと思ったのかな?」


「力関係で勝てると思っているの?」


 悟相手に油断してはいけない。何を潜ませているのか分からないから。だからこそ様々な手を使って悟の行動を縛る必要がある。彼が参加してしまうと私達ですら苦戦を強いられてしまうから。だからこそ最終兵器は用意してあるのよ。


「初音さんと小夜子さんに協力を頼んだわ」


「それは卑怯だ!」


「ちなみにすぐ傍でお茶を飲んでもらっているわ」


「逃げ道がないか」


 ちなみに嘘である。悟が周りを確認してもそれらしい人物はいる。だけどそれなりの距離があれば騙し通せる自信がある。そのような人物を用意したし、変装もしてもらっている。正体を見破る目を悟は持っていないから。


「仕方ない。僕は降参しようか」


「大人しくしていなさい」


 指揮官を押さえてしまえば、あとは個々に動く馬鹿達だけ。ならば行動の予測は立てやすい。これは琴ちゃんも考えていること。自分の能力を活かす動きをするのだから、中身を知っている私達には有利に働く。


「指揮官を押さえたわ。全員、行動開始!」


 琴ちゃんには悪いけど、利用させてもらうわ。馬鹿達への溜まりに溜まった鬱憤の一部を今日晴らさせてもらうわよ!



 side:技術屋


 馬鹿が罠に掛かるのをずっと待っているのだが、凄い地味だな。物陰に隠れて奴がやってくるのをひたすらに待ち続けている。俺は身体的には奴らに敵わないのだからこの手しか使えない。


「やっと来たか」


 フェンスだろうが、壁だろうが身体能力を活かして飛び越してくる軽業師。物量に追われながらやってくるのは分かっていた。恐らく彼女がそのように指揮しているのだろう。俺達も利用されているような気がするのだが、杞憂だよな。


「この程度の壁で俺を止められるはずがないだろ!」


 自信満々に壁を飛び越える気なのだろうが、罠を仕掛けられていると分かっているこちらとしては笑いを堪えるのが大変だ。案の定、全力疾走で壁に突っ込み、足を掛けて飛び上がろうとしたのだが。


「ごがっ!?」


 壁を踏み抜いて、タイミングをずらされた奴は本物の壁に突っ込む羽目になった。理由は単純だ。壁の前にベニヤ板の偽物を用意していただけ。多分だが足を挫いた可能性はあるな。壁を一息で越えるのにタイミングは重要なはず。そして顔面も強打。


「こちら技術屋。軽業師の自爆を確認。他の現場へ移動を開始する」


 ベニヤ板を用意したのは俺だが、偽装を施したのは画家と呼ばれる男。技術面での協力体制を築いている俺達はこの方法で馬鹿達の鎮圧に貢献しているのだ。それを忘れている奴らを騙すのは簡単だな。


「技術集団を舐めるなよ」


 いつまでも裏方だけで終わる俺達だけじゃない。偶には前面に出てくるのを思いしらせてやる。



 side:くノ一


 蘭から情報収集を頼まれて、色々と探ったらまさかこんな大規模イベントを構築しているなんて信じられなかった。琴ちゃんの騒動に便乗する形だろうけど、それでも会社相手に勝負を挑もうなんて誰が考えるのやら。


「それが魔窟らしいけど」


 実は琴ちゃんの指揮を私達は盗み聞きしている。誰が何処へ追い詰められているのか把握するためには情報が必要。蘭が師匠さんの旦那さんに交渉して構築した情報網。事前準備なしでよくやるわ。


「ばれたらいけない存在なのは自覚しているんだけどねー」


 鎮圧班が動いているという情報が相手側に流れてしまっては意味がない。警戒心を抱かせず、不意打ちで行動不能にしていくのが私達の手段。悟も総司もいない状況だと私達に取れる手段は限られている。


「おっ、来た来た」


「腐った卵が直撃したのに全く怯まないとかどうなっているんだよ!」


 何かよく分からないことを叫びながら逃げてきているけど。相手も凄いのね。プロ意識よりも何かしらの使命感で動いているのかな。それとも失敗した場合のデメリットが大きいのか。


「どっちでもいいけどねー」


 準備していたバズーカ砲を構えて、逃走者が視界に入った瞬間に狙い撃つ。ポスっと気の抜けた音で射出されたのは大網。暴徒鎮圧用のものだから簡単に抜け出せるようなものじゃない。


「ニンニン。任務完了」


 さてと後は私が見つかる前に逃げないと。隠密行動が前提になっている今回の任務だと色々と厳しいものがある。馬鹿達に姿を見られたら即連絡網が回ってしまう。まだ妨害が琴ちゃんの手であると勘違いしてくれないと困る。


「逃げ足には自信があるんだよねー」


 すたこらサッサと現場を離れる。瑠々には劣るけど、私だって人目から逃れる術を持っているのだ。バズーカ砲を持っている時点で随分と目立つからそれは隠している。やっぱり大型武器は色々と不便である。


「これでスコア一。お年玉ゲット」


 私が蘭に協力しているのはイベント報酬が狙いでもある。馬鹿一人につき一万円が報酬として支払われる。そして一番多く撃退したものへMVPとして五万円が与えられるのだから、苦労人たちですら乗り気なのだ。


「何より奈子が参加していないのが大きいねー」


 あの女帝がこちら側に参加していたら独壇場だから。でも彼女は別件で動いており、私達とは関係なしに動いている。これで誰が一番になるのか分からない状況。私にもチャンスはある。


「武器はより取り見取り。蘭の本気度が良く分かるわー」


 各場所に隠されている保管場所へ空のバズーカ砲を返却して、新たな武器を調達する。短い期間にこれだけの準備が出来たのは裏方連中が本気を出したからだろう。改めて魔窟連中の能力はおかしいと実感するわ。


「私達の存在がばれるまで荒稼ぎするぞー」


 ついでに情報もね。スクープの匂いが微かに感じ取れるから色々と調べないと。特に琴ちゃんに関しては謎が多いから調べれば何かが出てくるはず。本人と出会うまで秘密にするのが魔窟での暗黙のルールになりつつある。どこかのお馬鹿が勝手に発信したりもするけどね。



 side:女帝


 見掛けた魔窟の連中を行動不能にしながらターゲットを追いかけているけど、中々追い付けない。私の立場は特殊だから琴音所有の護衛達に見つかるのもマズイ。


「悟もよく私の参加を認めたものだ」


 戦力を求めたのかもしれないが、私を引き入れたらどうなるのか分かっていたはず。私の目的は瑠々の確保。正月早々に行方をくらませた馬鹿を連れ戻すのが私の目的で、その最短が悟への協力だと思ったのだ。


「私の戯言を信じたのか」


 瑠々の身柄と引き換えに協力するといったが、裏切る気満々だったのだ。すでに蘭から協力要請を受けていたのだから馬鹿達に付き合う義理はない。むしろ率先して邪魔するつもりだ。地獄へ落ちろ、馬鹿どもめ。


「あー、もう、邪魔だ!」


 どうして私の前には魔窟の連中がよく現れるのか。これだったら蘭側で参加するのだった。それならお年玉がガッポリと稼げたというのに。むしろ、瑠々がそんな風に私を誘導しているのか。


「何のために?」


 とりあえず琴音へ連絡しておくか。回収が任せられるから楽でいいのだが、下手に見つかると護衛と一戦やらかさないといけないのが面倒。何組かはすでに撃退しているのだが、数が増えると厄介だ。


「女帝が裏切るなんて」


「当たり前のことをほざいているんじゃない!」


 考え事をしながら一人をラリアットを食らわせて逃走。私だけやっていることが違わないか?


「やっと捕捉したか」


 だが瑠々の前には見覚えのある二人がいた。確か晶と恭介だったか。琴音専属の護衛ならばさぞかし苦労していることだろう。そしてどうして瑠々が彼女らの前に姿を現したのか理解できない。


「リベンジマッチよ!」


 京都の一件を随分と根に持っているご様子で。あれは琴音に付き合っただけなのだが。それなりに楽しく騒がせてもらったのだから私としてはいい鬱憤晴らしになったな。彼女らにしても見たら災難だっただろう。


「瑠々。まさかと思うが、このために姿を現したのか?」


「喧嘩描写の参考資料。もちろん私も協力する」


「なら仕方ない。瑠々の糧になってもらおうか」


 私が前に出て、瑠々が一歩下がる。これが私達の戦闘スタイル。私が気を引くように相手へと突撃して、瑠々が背後から奇襲を仕掛ける。案の定、瑠々の動きに翻弄されて動きが乱れたところへ私の攻撃がヒット。


「やっぱり化物だったか」


「相手が悪かっただけよ」


 晶はすでに昏倒している。残った恭介も最後に一言残して倒れた。いや、強かったと思うぞ。多少時間が掛かってしまったから他の護衛者に包囲されてしまったのだから。さて、どうしたものか。


「離してくれない?」


「馬鹿言え。私達は一蓮托生だ」


 瑠々を小脇に抱えてどうするか考える。よし、捕まって琴音に連絡を取って、協力体制を築こう。あれなら私の協力はありがたいと思うはず。魔窟の馬鹿どもは根こそぎ殲滅だ。

真面目にどうしてこうなったのか筆者にも分かりません。

護衛者側の視点が見たいとあったので考えた結果がこれですからね。

裏側を書いたら、更に裏側を追加で書くなんておかしいです。

というか、このカオスな状況をどうするのか。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ここまでイグジストの面々が一切絡んで来ないのは…
[気になる点] 状況がカオス過ぎて、話の内容が理解できない。 話が落ち着くまで待ってから、まとめて読み直した方が良さそう……
[一言] 12日までにあと2話いけるかな(希望:笑)?
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