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記念番外編:平穏で平凡な日常

コミカライズ連載開始を記念しての番外編です。

そしてcomicブースト様での連載が開始されました!

最新話は公開後一週間は無料で閲覧することが可能で、

毎月第一週火曜日が公開予定日となっております。

どうかよろしくお願いします!

そして番外編の主役は最初の如月琴音です。


 今日は月に一度の約束した日。一年前に勇気を振り絞って連絡を取り、定期的に会う約束を取り付けた。あの時は本当に心臓が破裂するかと思うくらい緊張したけど、あの人が私を覚えてくれていたのは嬉しかった。


「お嬢様。本日は気合が入った格好をしておりますね」


「大切な日ですから。お化粧だけは幾ら頑張っても成長しないのがあれですけど」


「そこは諦めてください。お化粧に関してお嬢様の才能は壊滅的です」


 自分でやってみたら本人なのか分からないだけ化けてしまった。悪い方向で。その状態を見た母親は悲鳴を上げて倒れかけたのを忘れていない。それ以降、私の化粧は美咲が担当することになってしまった。


「美咲にはいつも苦労を掛けますね」


「そのように思ってくださるのであればご褒美を」


「咲子さんに苦情を言われるので駄目です」


 甘味が何よりも好きな美咲だけど、母親である咲子さんから適量以上を与えないようにと釘を刺されている。その分、それを引き合いに出せば何でも言うことを聞いてくれるのが美咲のメリットかな。


「それにしてもお嬢様が旦那様以外の男性に興味を持たれているのはいまだに信じられません」


「父があれですから。いい加減、父だけを見ていてはいけないと気付きました」


 人生を楽しむのであれば、何か一つだけを見ていてはいけない。それをあの人は教えてくれた。色々なことに興味を持ち、体験してみて、学べるのであれば自身のものにする。


「お嬢様がまともな如月家の人間になってくださって私は嬉しいです」


「双子もまともだと思いますよ」


「いえ、あの方々は如月の業をきっちりと引き継いでおります」


 若干、私へ甘えて来るだけでいたって普通だと思うけど。確かにあの年齢で私と一緒にお風呂に入ってくるのはどうかと思う部分はある。弟は遠慮してくれるようになったのは助かる。中学生と高校生では幾ら姉弟でも問題があるから。


「それではそろそろ時間なので私は出発します」


「未来の旦那様をガッチリと捕まえてきてください」


「そんな人じゃありません!」


 幾ら否定しても家族や使用人たちは勘違いしてくる。恋愛感情が全くないとは言わないけど、それでもあの人と結婚する未来は見えない。その理由はあの人の隣にはもう相応しい人がいるから。


「私の入り込む余地なんてあるはずない」


 覚悟は決めていたはずなのに、胸の中のモヤモヤは消えてくれない。赤ん坊からの付き合いに対して、私とお兄さんの関係は一年程度。一緒に居て楽しい。それだけを私は求めていたはずなのに。


「切り替えよう。そうしよう」


 私の独り言に対して運転手は何も言わない。そして聞いたことを誰にも漏らさない。それは私が命令したわけじゃない。彼が自主的にやってくれている。感謝は言わないけど、心の中では本当にありがとうと思っている。


「お嬢様。到着しました」


「ありがとうございます。迎えはまた私から連絡します」


「承知しました」


 お兄さんと遊ぶのに時間制限を設けていない。あっさりと終わる場合もあるし、夜遅くまで遊び倒している場合だってある。終わりの時間は私達が満足するまで。日常での鬱憤を全部吐き出すまで終わらない。


「やっぱりまだ来ていませんか」


 約束の時間まで十五分前。お兄さんはいつも一時間前に来るか、遅刻してくるかのどちらか。前回が早かったから今回は遅刻するとは思ったけど案の定。私と会うだけでどうして意味のない攻防を繰り広げているのか。


「ご注文は?」


「アイスティーを一つお願いします」


 いつもの席に座って、いつもの注文をする。それなりに通っているので常連みたいになってしまった。最初はお兄さんとどこかいい場所はないかと探していたのだけど、ここの雰囲気をお互いに気に入って集合場所にしている。問題はあるのだけど。


「またあの人と?」


「そうです。どうやら今回は遅刻みたいですけど」


「時間にルーズよね」


 問題なのがここの喫茶店の娘がクラスの同級生である点。最初は気付かなかったけど、学園で出会って私が驚きの声を上げてしまった。どうやら誰にも言いふらしてはいないみたいだけど、こっちとしては気まずかったのを覚えている。


「何度もお願いしていますが、このことはどうか秘密で」


「こっちも何回も言っているけど言わないわよ。秘密を漏らす最低なお店にはしたくないもの」


 彼女がこの喫茶店を大事に思ってくれて助かっている。内装が気に入っているのはあるけど、出されるスイーツが私は大好きである。以前に二人で食べ過ぎて、目の前の香織さんに引かれたのを覚えている。


「でも総司さんは私達よりも年上よね。それも社会人」


「何か問題でも?」


「それがどうして十二本家の琴音と付き合いがあるのか全く分からないのよね」


 香織さんと友達になったのはお兄さんのおかげ。接点が全くなかった私達の共通点がこの喫茶店だから。お兄さんがいない時も偶に一人でゆっくりするために訪れていた。学園で香織と会話するようになったのは秘密にしてほしいと頼んでからかな。


「昔、お世話になったので」


「琴音がお世話になったね。私からしたら何も思いつかないわ。殆どの事を一人でできるじゃない」


 誰かに頼ろうとせず、まずは自分でやってみようとしたらやれてしまっている。だからクラスで馴染めず、一人でいることが多かった。それを解決してくれたのが香織さん。話すようになってからは彼女が積極的に私へと接してくれた。


「お店はいいのですか?」


「今は暇だからいいのよ。駄目なら父さんが苦情を言ってくるわ」


 今回のように暇があれば話し相手になってくれる。香織さんの繋がりで宮古さんや晴美さんとも友達になれた。積極性もなく、大人しい私からしたら快挙でしかない。


「前にも聞いたけど、琴音は総司さんみたいなのがタイプなの?」


「何度も答えていますがお兄さんとはそんな関係じゃありません」


 どうして色恋に結び付けようとしてくるのか。初恋が父親であるとも話せない。だから私の初恋はまだだと思っているのだけど。お兄さんのことは確かに好き。だけどこれが親愛なのか、恋愛なのか私にも分からないでいる。


「私からして密会している時点で怪しいと思うわよ」


「別に密会というわけでありません。ここが集合場所なだけで、他で遊んでいたりもします」


「よくそれで学園の噂にならないわね」


「私の印象が平時と違うのが原因だと思います」


 学園での私の印象は大人しく、率先して前へと出ない自己主張のない人間。だけどお兄さんと一緒にいる時はノリに合わせて弾けている感じだろうか。自分ではそんなつもりはないのだけど、他人から見た印象がこれらしい。


「確かに総司さんと一緒の琴音は印象が随分と違って見えるわね」


「ここではまだ大人しい方なのですけど」


「一体外で何をしているのよ」


 カラオケとかゲーセンとか、あとはボーリングやビリヤードと色々なものに手を出している。お互いに負けず嫌いなために感情むき出しで勝負しているから結構白熱してしまう。遠慮をしない関係を作れているのはお兄さんくらいかな。


「色々とですね」


「気にはなるけど、私が入り込むのも駄目よね」


 いいんじゃないかな。お兄さんも気にするような人じゃないから。偶に乱入者もいるくらいだし。その場合は色んな意味で大惨事になってしまうのだけど。


「他人の逢瀬を邪魔するのは気が引けるわ」


「だからそんな関係じゃありません」


 香織さんにはこれでいつもからかってくる。私やお兄さんはそんな風に見られているのだろうか。私の見た目も高校生には見られず、年上として見られているのも問題なのかな。だから夜遅くまで遊んでいても補導された経験もない。


「それにしても遅いわね」


「撒くのに時間が掛かっているのでしょう」


「何からよ」


「魔窟の人達から」


「何者よ」


「頭のおかしな人達です」


 本当にそう表現するしかない人達ばかりなのが困る。私も全員と出会ったわけではなく、一部分だけと接したのだがあれは疲れる。並大抵の精神力では容易に食われてしまうほど濃い人達なのだ。


「琴音の恋路は障害が多いわね」


「だから違います!」


 これはもしかしたらの物語。お兄さんが殺されず、私が変化しなかったらの世界。決して戻ることのできない、幸せで、少しだけ寂しい気持ちになる私の願望。

ちなみに新年早々のやらかし案件第一号です。

本当なら番外編はいつもの朝に投稿する予定でした。

予約投稿するの忘れて出勤してしまいました。

頭の中がまだ正月ボケです。

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