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141.文月家での新年④

新年明けましておめでとうございます!

今年も何卒よろしくお願い致します!


 あんなに心休まらない入浴がこの世にあるのだと初めて知ってしまった。知りたくはなかったのに。小鳥が隣にいるだけで悪寒が止まらなかったのだ。浴槽に叩きつけられた凜は多少顔を赤くした程度で済んでいた。


「酷い目に遭った」


「あれは同情するけどな。小鳥が強すぎた」


「あんな小さな身体のどこに人を簡単に投げ飛ばせる力があるのか不思議ね」


「お見苦しい姿を見せました」


 あれは力ではなく、技術だと思う。凜は裸だったのだ。掴める部分がない状態で人を投げ飛ばすのは難しい。俺がおじさんから学んだ護身術でも相手は衣服を着た状態を想定しているものだった。


「一体小鳥は何を学んだんだ?」


「学べるのなら色々と」


 英才教育にしても度が過ぎている。小鳥が何の格闘技を学んでいるのかは俺も分からない。だけどそれが多岐にわたっているのは何となく察することが出来る。娘に何をさせているのやら。


「それで私達はどこへ向かっているんだ?」


 入浴を終えて、パジャマに着替え終わってようやく小鳥の興奮が少し収まった感じがする。本当に少しなのがあれなのだが。普通ならば小鳥の部屋へ向かっていると思うのだけど、まだ小鳥の目的を達していないのだけは確かだ。


「小鳥の部屋も見てみたいわね」


「私の部屋へ行ってもつまらないものですよ」


 何故だろう。一瞬、琴音の写真がいたるところに張られている想像をしてしまった。それではストーカーだな。嫌な記憶が蘇りそうになったから慌てて不躾な想像を振り払って、記憶に蓋をする。


「琴音の写真が張られていたりして」


「幾ら私でもそこまでしませんよ。相手が不快になるようなことは私だって嫌ですから」


 小鳥が嘘を言っているようには思えない。琴音に対して異常な親愛を向けてくるけど、基本的には素直ないい子で間違いない。だからこそ俺はまだ逃げようという考えを実行していないのだ。


「ここが今日の為に用意したレクリエーションルームです!」


 部屋の扉が開かれて、中身を覗いた瞬間。俺は回れ右して一足飛びに逃げ出そうとした。その前に使用人たちに取り押さえられてしまったのだが。一体どんな訓練を受けているんだよ、ここの使用人たちは。


「琴音の反応が予想外に早かったけど、それ以上に使用人たちが異常ね」


「文月家の精鋭ですから」


 俺がその使用人たちに覆いかぶさられているのに誰も何かを言わないのかよ。咄嗟に逃げようとした俺も悪いが、部屋の中が異様過ぎたのだ。準備したにしても量が多すぎるだろ。


「しかしこれだけの衣装をよく集めたわね。私はてっきり琴音をコスプレさせると思ったのだけど」


「意外と普通の服も多い」


「私の目的は琴音さんを着飾ってアルバムを作ることですから!」


「何のアルバムだよ!」


 脱出しようにも人数差が有り過ぎて上手くいかない。小鳥にとって素晴らしいアルバムならば、俺にとっては恥辱に塗れたアルバムになるのは間違いない。記録に残る黒歴史を作るくらいなら意地でも逃亡してやる。


「琴音、諦めなさい。どう考えても勝てるような状況じゃないから」


「勝つんじゃなくて逃げようとしているのだけど」


「逃げられれば琴音の勝ち。中に入れられたら小鳥ちゃんの勝ちね。状況は見えている筈よ」


 すでに霜月姉妹は中に入って、並べられている衣装を吟味している。その衣装を越えた先には小さなステージが用意されているけど、まさかそこに立って写真を取られるのか。真面目に晒し者じゃないか。


「琴音さんを中に入れてください」


「「「はい、お嬢様」」」


 幾ら抵抗しても使用人たちの拘束を解くことが出来ない。無駄な抵抗を続けているのだが、努力の甲斐もなく中へ入れられ無慈悲に扉は閉められてしまった。退路はなし、そして使用人たちも残っている。状況が詰んでいる。


「さぁ、琴音さん。お着換えの時間です!」


「やらないと駄目?」


「駄目です!」


 妥協案を考えよう。ここで起こったことは外部に流出しない。霜月姉妹に釘を刺しておけばだけど。もし流出させたとしても無闇にばらまく真似はしない。情報の大切さは何よりも知っているからな。


「よし、馬鹿になろう」


「そうよ。新年の最初くらい馬鹿になって楽しもうじゃない」


「昨日からずっと馬鹿ばっかしている」


 霜月家でのライブ。そして文月家での着替え撮影会。年を越してからまともな夜を過ごしていない気がする。明日の予定は決まっているのだが、絶対に何かが起こる気がする。勘ではなく、確信がある。


「それじゃそれぞれで琴音に着せたい衣装を選ぼうか」


「はっはっは、綾先輩。冗談はほどほどにしておこうか」


「大丈夫、大丈夫。すっごいきわどいの選んであげるから」


「それじゃ私はクール方向で」


「私は可愛らしい姿にしてみます!」


 安全牌が凜しかいない気がする。いや、全員が危険な気配はするのだがその中でも比較的悲惨な目に遭わなそうなのが凜というだけ。一番危険なのが綾先輩であるのは間違いない。どれだけ危ない恰好をさせるつもりだ。


「今日が終わったらこの衣装はどうするつもりなんだよ」


「小鳥ちゃんのスタイルだとどれも無理よね」


 俺と小鳥では身長差があるからな。どれを着たとしてもダボダボになってしまう。袖とかを切れば着れるかもしれないけど、全体のバランスが崩れてしまうから駄目か。小鳥の将来に期待しようにも本人も諦めているほど、成長していないからな。


「琴音さんにプレゼントしようかと思っていたのですけど」


「いらない」


「そう言うと思いました」


 これだけの数の衣装を収納できると思うか。貸倉庫でも借りないと無理だぞ。一応は住んでいる部屋に客間が一つあるけど、そこが確実に埋まってしまう。管理するのだって大変だぞ。もらったものを虫食いにするわけにもいかないのだから。


「琴音。これなんてどう?」


「誰が着るか!」


 かなりギリギリというかアウトな部類のメイド服を出してきやがった。というかこれは、学園祭で駄目出しされたあれではないか。何で小鳥が保有しているんだよ。これは葉月先輩が持っていたはずでは。


「いつか琴音さんに着てもらうために譲り受けました」


「代価は?」


「その写真を融通するようにと」


「絶対やめろよ!」


 何で恥ずかしい写真を男性の葉月先輩に渡さないといけないのか。脅迫用のネタに使われたら逆らえなくなってしまう。女子の間だけならまだおふざけで済むというのに。


「渡しませんよ。着た事実はないと言い張ればいいのです」


「小鳥ちゃんも悪だねぇー」


「琴音さんの貞操は私が守ります!」


 一番の危険人物が何を言っているんだよ。仮にこれへ着替えたら小鳥が暴走して突撃してきそうで怖い。誰かしらの道連れがない限り、絶対に着ないぞ。


「綾先輩が私と同じものを着るのであれば考えないでもない」


「いいわよ」


「あんたは恥をもうちょっと持てよ!」


 何で恥ずかしがらずに即答できるんだよ。このアウトな恰好は胸の谷間は見えて、スカートが短すぎて確実に下着が見えるようなものだぞ。俺なんて激しく動けば確実にポロリするような痴女のような恰好なのに。


「何なら皆で同じ格好するとかは?」


「私は綾姉みたいに恥を捨てていない」


「私のスタイルだと絶対に似合わないと思います」


「大丈夫よ、小鳥ちゃん。需要はあるはずだから。それに全員が着るのに琴音だけが断るなんてしないわよ」


 目的の為なら全員を巻き込むのか。確かに俺だけが着ないのでは空気を読まない人だと思われてしまう。馬鹿になると宣言した以上、俺だって着なければいけない気がしてしまう。全くの気のせいだけどな。


「全員での撮影会を開始するわよー!」


 やっぱり扇動役として綾先輩は上手いな。人をその気にさせる能力がある。頑なに拒否している俺には効果がないけど、凜と小鳥が乗り気になっている。やらないとやっぱり駄目かな。


「というわけで、琴音はこれに着替えるように」


「これ、上の下着も脱がないと無理だよな」


「下着が見えるからね」


 更衣室がどこにも用意されていない様子から、このままこの場で着替えるのか。羞恥に耐える訓練場か何かここは。早く就寝時間にならないかな。

何とか新年一日目に間に合ったー。

年を跨ぐ七分前に書き終わりましたよ。

今年もこんなギリギリになるかもしれませんが、

何卒よろしくお願いします!

年跨いで十分後に腕を吊りました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 明けましておめでとうございます。 小鳥が生徒中フィジカル最強っぽい? 昔は唯一まともだったのにお泊まり会で歯車が外れちゃって… 今となっては長月位なのかまともなのは 巡りめぐって琴音の自業…
[一言] あけましておめでとうございます。 引き続き、十二本家のスラップスティック新年会を楽しみにしています。
[一言] 冬の暖房(室内で18℃未満を目安に灯油ストーブ点火)が効きすぎると消火、冷えてきたらまた点火なのですが金属製マウスパッドやガラステーブルの熱伝導率が高くてしばらくすると冷えるだけでなく指が攣…
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