139.文月家での新年②
活動報告に許可を得たイラストを公開しております。
コミカライズの宣伝用かな。
ご興味がある方はどうぞ!
参拝を終えた俺達はお約束となるおみくじを引くこととなった。俺が引いたのは吉。当たり障りのない無難な結果か。恋愛運皆無とか初めて見たな。普通は難とか書かれないか。
「大吉でした!」
「私は中吉ね。仕事に兆し在り。やる気出てきたわよ」
「小吉。事故に注意。先行き不安しかない」
それぞれで一喜一憂している。凜の事故は来年の学園生活で何かしらの難事に当たるのだろうか。俺には関係ないな。一つ下の学年の問題ならば俺が出るべきじゃないだろ。陰ながら見守るのが正解だな。
「琴音は何かいいこと書いていないの?」
「色々と書いているけど、おみくじなんて結局はその人の捉え方だろ」
「それはそうだけど。今年最初の運試しじゃない」
それを言ってしまうと俺はこの中で一番運のない人物になってしまうのだが。心当たりはあるけど。一度死んでいるのだから運がいいわけない。大凶を引かなかっただけでも良しとするか。
「縁を繋ぐ機会に恵まれる。これは良い事なのかな?」
「去年も相当繋いでいると思うけどね。それこそ捉え方次第ね」
去年の縁が良かったのか悪かったのかを判断するならば、良かったに傾くか。最初の出会いで香織と関係を繋ぎ、学園では色々なイベントを通じて友人を作り出せた。十二本家との繋がりは予想外だったけど、今にして思えばそれなりの関係は築けているか。
「去年は琴音さんと出会えた。それだけで私には十分です」
「こんな逸材になるとは私にも分からなかったわね。最初の頃なんて別人を相手にしているようなものだったわ」
「後半は狂気に走っていた」
軽く凜の頭を叩いておいた。誰が狂気に走っているというのか。一年を振り返ってみれば前半はそれほど騒動を起こさず、大人しかった。だけど後半。主に十二本家の二次会から色々と騒動を起こした気はする。一切気にしていないけど。
「前半は葉月先輩に振り回されっぱなしだったな。後半は自分でもどうかと思う行動をしていた自覚はある」
「二次会は本当に楽しかったわね。場所の提供をしてくれた琴音には本当に感謝よ」
「綾姉の独立を阻止してくれて本当に助かりました。下手したら家事で私が呼ばれる可能性があったから」
妹をこき使い過ぎではないだろうか。素直に従う凜にも問題はあるな。拒否することだってできるはずなのに。弱みを握られている訳ではなく、ただ姉が好きだから手伝っている感じだと思う。
「小鳥の家に戻ってからどうする?」
霜月家みたいにライブが開かれる可能性はない。そして水無月のように厄介な人物が待機している訳でもない。いや、父親がいるのだがあれは母親が撃沈してくれるだろう。問題となるのは小鳥本人のみ。
「晩御飯ご馳走になって、お風呂に入って、その後の予定がないわね」
「大丈夫です。準備は完璧です」
「待て。準備する必要があるのは何でだよ?」
「秘密です!」
これはあれだな。俺が嫌がる可能性があるから、その時まで秘密にするパターンか。俺が拒否するのは何か。考えてみれば恥ずかしがるもの以外は特に思いつかないな。馬鹿やるのはいつもの事だし、歌唱を披露するのだって綾先輩と一緒なら問題じゃない。
「小鳥。私に何を着せようとしている?」
「ぴゅい~」
下手くそな口笛で誤魔化そうとしても無駄だ。俺が嫌がるものなんて少ないのだから、特定するのだって簡単だ。霜月姉妹ならノリで着てくれるだろうが、俺は別だ。男だった頃からそういう経験があって軽く拒否反応があるくらいだぞ。
「いいじゃない、琴音。正月なんだから記念に残そうじゃない」
「私も協力する。誰かと一緒なら羞恥心も半減するはず」
「どうして霜月姉妹はやりたそうにしているんだよ」
「「面白そうだからに決まっている!」」
俺の味方はどこにもいなかった。拒否し続けてもいずれは力業で強引に脱がせられ、そして着替えさせられるのだろう。だったら無駄な抵抗なんてしないで自分から着た方がマシだ。
「よく来たな! 帰れ!」
「貴方は黙っていなさい!」
戻ってきて早々に訳の分からない言葉を吐いた小鳥の父親は妻の殴打によって沈められた。何かいつもの風景過ぎて安心するのは何故だろう。そして俺の護衛達がどこかへ連れて行かれたのは何故だ。
「ようこそ、文月へ。馬鹿な夫と違って歓迎するわ」
「いつもご来店ありがとうございます。無理なお願いをして申し訳ありませんでした」
「琴音が営業スマイルになっているわね」
大口のお客さんだからな。特に宣伝活動をしていないあの喫茶店が賑わっているのはひとえに口コミによるもの。十二本家の奥様方が通っている喫茶店というだけで価値が生まれる。リピーターは沙織さんの手腕によるものだけどな。
「今度は私達を招待してくれると嬉しいわね」
「そ、それはまたの機会ということで」
「琴音が言い淀むなんて珍しいわね」
仕方ないだろ。あの双子と小鳥が出会った際、一体どんな現象が起こるのか俺にだって分からないのだ。唯一分かっているのはそれで発生した現象を俺が処理しなければいけないことだけ。苦労するのが目に見える。
「十二本家を実家に招いても大丈夫なのか?」
「今更の話だと思うわよ。琴音が自由にやりすぎて他の家だって真似するかもしれないから」
交友の繋がりがある家ならすでにやっているかもな。学園同士の繋がりだけで俺達は知り合った。それ以外の出会いだってあったはず。良いものでも、悪いものでも出会いは縁へと繋がる。如月とはぶっつりと切れているけどな。
「私の所ならいつでもウェルカムよ」
「ママも喜ぶ。私への被害は抑えてくれると助かる」
「いや、無理だろ」
絶対に凜だって巻き込まれるのが確定する。むしろ逃げたら俺が追う。暴走特急二人を相手にするのならば、被害者も二人でないと相手にならない。俺一人だけが苦労するのは許さないぞ。
「如月家も琴音と同じなのかな?」
「私とは似ていないな。もちろん中身の話だけど」
生前の琴音なら似ていたかもしれない。家族大好きの家系だからな。俺も似ているかな。義母のことは好きだけど、度を越えたものじゃない。それに俺と似たような家族だったら、色々な意味で危険だと思う。
「基本的に真面目だと思うぞ。私や綾先輩とは正反対」
「凜みたいなものね。弄りがいはありそう」
「止めてやれ。私と同じような反応を期待するのは間違っているからな」
絶対に混乱するから。ノリに任せて突っ走るような真似はできない。あの子達は俺達の様な頭のおかしい連中との付き合いがない温室育ち。ちょっと間違った方向へ突き進みつつある常識人だ。
「そういえば、私の護衛はどうした?」
「犬小屋にご招待しました」
言っている意味が分からないのだが。何で晶さん達を犬小屋へ案内する必要があったのか。何かで小鳥と護衛が衝突した記憶はない。それとも犬小屋とは比喩表現かな。まともな感じは一切しないぞ。
「食事の準備が出来たみたいね。私も少しだけ携わったものだから感想を聞かせて頂戴」
「そういえば奥さんは料理する方でしたね」
「暇になることが多いから本当に趣味としてね。他の人達の仕事を取る訳にもいかないから」
奥さんが料理を率先してやってしまえば専属の料理人なんかもいらなくなってしまう。資産家なのだから金は回すものと考えているのかな。俺はいかにコストを抑えるか考えているから思考が正反対だな。やっぱり十二本家を継ぐのは向いていない。
「また凄い量を作りましたね」
「小鳥の友達がやってくると聞いたのだから張り切るわよ。他の人達もやる気を出し過ぎたのよね」
家の中でも小鳥の人気は凄いのか。基本的にいい子なのは俺も認めている。ただ俺と一緒に居ると八割くらいは暴走している記憶しかない。しかしこの量を俺達で食べきれるとは思えない。幾ら俺がそれなりに食べれるとしてもだ。
「残ったら使用人たちが食べるから気にしないで頂戴」
遠慮するつもりは一切ないからご安心を。出されたものは腹いっぱいまで食べるつもりだから。お正月らしからぬ品もあるけど、そんなものは関係ない。一つを取って口に入れたら、美味しすぎて幸せな気持ちになってしまう。
「はぁー、美味い」
「相変わらず幸せそうな顔で食べるわね。確かに美味しいけど、食べ過ぎると太るわね」
「正月太りは避けたい」
「私は幾ら食べても体形が変わりません」
一体いつから小鳥の体形が変わっていないのか気になるな。それにしても美味い。卵焼きなんて熟練の技を感じられるが、奥さんの微笑みを見る限り、これが作った品の一つなのだろう。凄いな。
「食べるのに一生懸命なのは分かるけど、琴音。この後をちゃんと理解している?」
「何ほ?」
「小鳥ちゃんがお風呂を楽しみにしていないわけがないじゃない」
口の中に残っていたものを飲み込んで考えてみても、その可能性はないと思う。一般的な家庭で大浴場を保有しているわけがないだろ。一人ずつ交代で入浴するのが普通だ。
「美味しさで思考能力低下しているわね。琴音の弱点でもあるか。小鳥ちゃん、浴場の改築は終わった?」
「皆さんで入れるだけの大きさには拡張しました!」
危うく口の中に入れていたものを吹き出しそうになった。忘れていた。小鳥は普通じゃなかった。この日の為だけに浴場を改装する馬鹿が何処にいるかと思ったら、ここにいたよ。
「琴音さん。一緒に入りましょう!」
「いや、それは、ちょっと遠慮したいかな」
「琴音。諦めなさい。小鳥ちゃんは絶対に譲らないわよ」
「琴姉。諦めが肝心」
よし、全てを一旦忘れて食事に集中しよう。悪いことはその時に考えればいい。
クリスマスプレゼントは風邪でした。
医者「インフルぽいですね」
筆者「ぽい!?」
症状が出て間もないので検査できず。
ここ数年のプレゼントでまともなのがないのは何故でしょう。