137.水無月家での新年③
悪役令嬢、庶民に堕ちるコミカライズ。
連載開始日2020年1月7日(火)に決定!
ある程度の詳細につきまして、活動報告にあげましたので
よろしければご覧ください。
延々と話が先に進まない状況。全く静まらない嫉妬心をどうすればいいか。このまま何もせずに去るという選択肢もあるのだが、水無月がそれを許してくれるか。問題を持ち込んだのはこちらだからな。
「今後を考えるなら何とかした方がいいよな」
「せめて会話が通じるようにする必要がある」
「私はこのままでもいいけどね。面白そうだから」
俺と凜は協力して事態を緩やかな方向へと舵取りしようとしているのに、綾先輩だけが面白そうという理由だけで場を乱しそうな気がする。やっぱりこの先輩は性格が歪んでいる。他人の苦労を面白がるなよ。
「誓約書でも書くか。水無月とは恋仲にならないと」
「絶対にありえないから気軽に書ける。そこが妥協点だと思う」
中身が男性の俺からしたら恋人になる想像すらできない。凜も相手を選ぶだろうけど、十二本家の長男は絶対に嫌だろう。長所をぶっ飛ばすほど、短所が目立ちすぎているから。
「そこは近づかないとは書いてくれないのでしょうか?」
「十二本家としての繋がりで言えば無理だな。学園も同じなのだから不意に出会うことだってあるだろ」
清瀬の提案を否定しておく。この子は本当に大丈夫なのだろうか。学園で水無月が女性と会話するだけでも嫉妬心を燃え上がらせそうな気がする。それを防ぐならばどうすればいいのか。
「水無月の周りから女性を排除するのは無理だな」
「男性で固めるのも変な噂を呼ぶ」
「それは見てみたいわ」
「変な想像させるなよ」
凄く嫌そうな表情をする水無月に対して、興味津々の綾先輩。対照的な二人を放置して凜と一緒に対策を考えるのだがこれといった妙案は浮かばない。そもそもこれは俺達が考える案件だろうか。
「水無月が努力すればいいだけだよな」
「私達は陰ながら見守ればいい」
「そこまで考えておいて結論はそれかよ」
「「頑張れ」」
だっていい案が全く浮かばないのだ。他人の恋愛事情に俺達が勝手に踏み込むのは失礼だろ。水無月が努力すれば被害は少なく済むし、二人の仲も深まるというものだ。水無月が清瀬をどのように思っているかはさておきな。
「結婚式には呼んでくれ。盛大に祝うから」
「私達も呼んでくれると嬉しい。パフォーマンスは任せて」
「思いっきり歌ってあげるから」
「お前ら、絶対に呼びたくない上位陣の自覚を持てよ」
これに葉月先輩も加われば鉄板だな。まともな結婚式になる気がしない。下手したら進行を乗っ取って好き放題やるだろうな。過去の魔窟の連中みたいに。大盛況で幕は下りたのに、後日クラス一同集められて教師達から事情聴取されたけどな。
「水無月が結婚する頃には私もデビューしていると思うわよ」
「祝いの席なら私も綾先輩とデュエットしてもいいな」
「綾姉とアンノーンのデュエットなんて滅多に見れない。これはお得」
「何で売り込みしているんだよ」
何でだろうな。会話の脈略が無くなっているのは気にしない。世間話なんてこんなものだ。水無月の実家へやってきたのだって目的はない。本当にただ新年の挨拶をしに来ただけだから。この展開は予想外だったけど。
「大体、如月先輩はデビューする気はないんだろ?」
「それは未来の私に聞いてほしい。周りの連中の推しが強すぎて拒み切れなくなっている」
「事務所にも所属する予定だしね」
「ママから逃げられるとは到底思えない」
十二本家の連中には正体がばれているからこんな愚痴も言える。周囲に他人がいる状態だとこんな話は出来ないからな。約一名、俺達の会話に全くついていけない子がいるけど、そんなのお構いなしに会話は続く。
「あの、十二本家の方でデビューとはどういうわけでしょうか?」
「清瀬なら大丈夫だぞ。俺と約束したなら死んでも口外しないから」
「それはそれで怖いな。最近巷を賑わせているだろう歌手のアンノーンが私」
「私も卒業後は歌手を目指して特訓する予定よ」
「私は違うから。大人しく実家を継ぐ」
「先輩二人が頭おかしいだろ。これに恋愛を期待するほうが間違っている」
自由にやり過ぎているのは分かっているさ。でも俺の場合は巻き込まれて、更に将来の道まで整備されるような事態になっているんだぞ。将来計画に歌手を入れる訳がない。そのはずだったのに。
「私は理想の男性が現れたら結婚するわよ。私の活動を精一杯応援してくれて、私生活をサポートしてくれる人がいればね」
「「いないな」」
「綾姉は理想が高すぎる」
「これのどこが理想高すぎなのよ。一般論じゃない」
一般人ならな。活動を応援してくれるのはまだいい。でも私生活をサポートしてくれるのが難易度高いな。それは綾先輩の奇行に付き合ってくれる奇特な人物じゃないと無理だろ。それが理想が高いと言われる理由だ。
「琴姉は理想の男性像とかない?」
「全くない」
「面白みがないわね。少しは悩んでもいいじゃない」
「私にそういう話を期待するな。男性と結ばれる未来なんて一切想像できないから」
「もしかして百合? 私が狙われている? いやー、困るなー」
「百合でもない。恋愛感情がよく分からないんだよ」
この言い方なら如月家の内情を知っている人間だと察してくれるだろう。別に俺としては恋愛感情は分かっているつもりだ。でもそれが琴音だとしたら事情が変わってくる。肉親への愛情から解放されて、次にその気持ちをどこに向ければいいのか分からない。というのが俺の予想である。
「如月家なら仕方ないかもね。琴音がそっちの人間じゃなくて良かったわ」
「真面目に言っていたのかよ」
「私は琴姉を信頼していた」
「結婚するかどうかなんて本人次第だからな。俺はもう詰んでいるけど」
「それは私との婚姻に不服があるということでしょうか?」
「その目が怖いんだよ!」
感情の消えた目で見つめられるのは怖いよな。俺ですら恐怖を感じる。でも裏を返せばそこまで愛されているんだよな。これを羨ましいと思えるかはそれこそ本人次第だ。清瀬も美少女の部類に入るから他人からしたら爆発しろと思うかもしれない。
「さて、いい加減結論を述べるか。清瀬さんは少しばかり我慢を覚えること。縛り付けていても水無月だって困る場面はあるだろ」
「十二本家としての付き合いだってあるからね。水無月だって誰と付き合うべきか。それに女性の選び方だって知っている筈よ」
「水無月君を信頼すべき。甘えるのは家に帰ってからすればいい」
「やっとまともな意見が出た。凜の発言は遠慮したいが」
そこは妥協してやれよ。外で甘えられない分、どこかで補わないといけないのだから。別に外での出来事で折檻を受ける訳じゃないだろ。見る限り、水無月は清瀬を否定していない。嫌っている訳ではないのだから仲だって進展するだろ。
「琴音。そろそろ移動を考えたほうがいいわよ」
「別に時間を指定していなかったからいいだろ」
「時間経過で機嫌が悪くなっているのが目に見えるから駄目」
「何の話だ?」
「次に向かう家が小鳥のところなのよ。水無月ならこれだけで意味が通じるわよね?」
綾先輩の言葉で水無月の顔面が蒼白になったな。何か嫌な記憶でも思い出したのだろうか。水無月と小鳥の接点なんてあの二次会くらいしか思いつかないけど。
「よし、さっさと出ていけ。俺に被害が来る前に!」
「何をそんなに慌てる必要があるんだよ?」
「あの先輩は如月先輩が絡むと豹変するんだよ!」
それは知っているけど。本当に今日行くからとしか伝えていないのだ。ここでどれだけの時間を消費するのか計算していなかったから。夕方くらいかなと伝えているけど、今はまだ昼頃だぞ。
「清瀬以上に恐ろしいと思った人はあの先輩位だぞ」
「何でだろうな。私としてはここで時間を稼いだ方がいいと思っているんだが」
「俺に被害を持ち込むな!」
なぜか小鳥の所へ向かおうとする意欲が薄い。何かしら悪い予感があるのは確実なのだが、それが何なのかが分からない。泊まるという段階で色々と諦めているけどさ。何を用意しているのやら。
「あそこの家族も濃いんだよなぁ」
「琴音が遠い目をするなんて相当ね。いや、私も知っているけどさ」
「あそこも強烈。ここも相当だけど」
「我が家のことながら否定は出来ないな」
まともな家族の十二本家なんて知らないな。如月家だって俺が絡むと面倒臭い事態に発展する自信はある。凜なんて連れて行ったら呼び方で双子が発狂しそうだ。せめて学園入学までは出会ってほしくない。
「仕方ない。行くか。それじゃお二人さん。お幸せに」
「それなりに面白かったわよ」
「こっちに被害は持ち込まないで。本当にお願いだから」
「さっさと行け。人災ども」
予想外の遭遇はあったが、霜月家以上ではなかったな。やっぱりあそこが一番頭がおかしいと思う。だけど文月家で何が待っているのか不安で仕方ない。あの小鳥なら俺の嫌がることはしないと思うのだが。やっぱり不安だ。
前回真面目なあとがきだったので今回はいつも通りでお送りします。
食材に混入されていたカメムシを食べてしまいました。
凄まじいまでのえぐみと臭気でマーライオンと化しました。
あれは人間の食べるものじゃありません。
ついでにご報告です。ツイッター始めました。
緋月紫砲@hdk_shihou
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興味がある方は覗いてみてください。