136.水無月家での新年②
重大発表があります。
この度、comicブースト様より悪役令嬢、庶民に堕ちるの
コミカライズが正式に決定しました!
コミカライズ作画、おひたし熱郎様。
キャラクター原案、切符様。
その他の詳細につきまして追々ご報告いたします。
まさか水無月に許嫁がいるとは思わなかった。あの口調だから女性関係は苦戦するだろうと思っていたのに、誰よりも先にいるのは不思議に思う。俺達が固まっている間に少女は水無月に近づくとその肩に手を置いた。
「優斗様。ご説明を願っても宜しいでしょうか?」
「せ、説明して納得してくれるか?」
「いえ、全くございません」
この子、水無月の家系ではないかと思うほど本音が駄々洩れだな。それにあれは肩に手を置いたじゃないな。逃がさないように肩を鷲掴みにしているぞ。水無月の苦痛の表情を見る限り、かなりの力が加わっているな。
「お三方様。ここで立ち話も疲れるでしょうから、お部屋へご案内いたします」
「クソ親父! お前は当主なんだから挨拶する必要があるだろ! さっさと出てこい!」
「すまんな、クソ息子! 妻に引き留められて動けん! それにそんな恐ろしい現場に出て行けるか!」
このカオスな現状は何なのだろう。他人の家なのに率先して案内する少女と、離れた距離で言い合いをする息子と父。息子に酷い言われ方をされているが、威厳を無くしたのは息子の許嫁を恐れている為じゃないかな。
「ささ、ご遠慮なさらずに。私と楽しくお話ししましょう」
遠慮するつもりは一切ないけど、絶対に楽しいおしゃべりにはなりそうにないな。始まるのは詰問だろう。別に俺達と水無月の間に恋愛感情なんて微塵もない。ただの先輩後輩の間柄でしかないのだ。
「さて、お聞きします。お三方との関係はどのようなものなのですか?」
「何で俺に聞くんだよ」
「まずは優斗様のお考えを教えてもらいたくて」
どうやら俺達の順番は後のようだ。熱めのお茶を出されたので身体を温めよう。ついでに置かれているお茶菓子で少しお腹を満たそうかな。何だか長くなりそうだからな。
「ただの先輩と同級生だ」
「本当でございますか?」
「嘘を言ってどうするんだよ」
「お一人はスタイルが良く、凛々しい女性。それなのにお菓子を食べているあの幸せそうな表情。あのギャップに世の男性方はコロリと落ちるものではありませんか」
「本性は周囲を巻き込んで大暴走をする厄介な人物だけどな」
本性を知られていなかったらコロリと落ちるものなのかな。自分のことを話されているけど、素知らぬ顔でお菓子を頬張っていく。やっぱり銘菓のものは一味違うな。上品な甘さ。そしてお茶に良く合う。
「隣の方は清楚で落ち着きのある女性ではありませんか。俗にいう大和撫子を体現している方ですよ」
「本性は騒ぎに率先して乗り込むテンション爆発のおかしな先輩だぞ」
危うくお茶を吹き出すところだった。もちろん彼女の言葉で。水無月の言葉は合っているから別に何とも思わない。それよりもなぜ綾先輩は擬態しているのか分からない。玄関では普通だったのに。
「何で擬態している?」
「その方が面白そうですから」
正月早々に他人をおちょくるために全力を出すのか。この後に本性を曝け出したら彼女はどんな表情をするだろう。それもまた綾先輩の楽しみになっているのかな。凜は呆れた表情を向けているのに。
「その隣の方は優斗様の同級生ですね。尽くすタイプの女性に惹かれませんか?」
「真実は姉の火消しに全力で取り組む苦労性の塊だぞ」
笑いを堪えるのが大変だ。彼女が見ているのは俺達の外面でしかない。内面を知っている水無月とは正反対の捉え方をしている。どんなに否定しても彼女が納得しないのはどうしてなのか。
「私達の関係なんて一緒の部屋でご飯を食べるようなものだよな」
「ゆ、う、と、様?」
「思いっきり火にガソリンを撒くなよ!」
こちら三人はその反応に大爆笑だよ。綾先輩の擬態が剥がれたな。胸倉を掴まれて揺さぶられている水無月の反応が面白い。こんな光景は滅多に見れないな。嘘は言っていないけど、大事な部分も言っていない。
「頼む。本当に頼むからまともになってくれ」
「「どっちが?」」
「如月先輩に決まっているだろ!」
それは声を大にして言うことだろうか。しかし綾先輩の信用度は本当にゼロだな。俺も暴走している自覚はある。昨日の一件が尾を引いているな。凜も昨日の疲れの所為なのか、ストッパーの役割を果たしていない。
「えーと、清瀬さんだったかな。別に私達は水無月と恋愛模様を繰り広げるような関係じゃないぞ」
「四股はないと?」
「そんな甲斐性が水無月にあるとも思えないけどな」
現状の関係性を見ても、水無月に浮気が出来るとは思えない。力関係はどう考えても彼女の方が上だ。当主ですら恐れる彼女の本性が気になるところだけど、浮気したら包丁握って迫ってきそうではあるな。
「一緒にご飯を食べたのは学園にいる十二本家が集まっての打ち上げみたいなものだったから」
「仲がとてもよろしいのですね」
「馬鹿やった間柄だからかな。あの二次会はお互いの本性を曝け出していたものだから」
誰に遠慮する訳でもなく、そして他人を気にする必要が全くない空間。誰にでもそんな場所が必要だろう。だけどそれが俺の部屋であるのは否定したい。十二本家の溜まり場にされては被害が甚大だ。
「濃かったな。あれは」
「全員、色々と溜め込んでいたみたいだからな。ガス抜きには丁度良かったんじゃないか?」
抜けずにストレスを溜め込んだ人物もいたけどな。長月は楽しめていたのだろうか。明日訪ねる予定にしているからその時にでも聞いてみるかな。楽しめなかったのであれば、次回があれば呼ばない。
「私の知らない優斗様を知っているのですね」
「水無月。私から何を言っても彼女の嫉妬心が静まらないのだが」
「だから来ないでくれと言ったんだ」
その理由をやっと理解できた。女性が訪ねて来るだけで彼女は嫉妬の炎を燃え上がらせる。でも学園で見た覚えはないな。彼女なら水無月の傍からは絶対に離れないような気がするのに。もしかして別の高校に通っているのか。
「別の高校にでも通っているのか?」
「俺の一つ下だ」
俺と凜の表情が凍り付いたのは言うまでもない。絶対に今年入学してくるじゃないか。そして水無月関連での問題が増えるということ。処理をするのはもちろん水無月だろうが、巻き込まれるのは誰になるのか。それを考えるだけで俺と凜は胃が痛くなる。
「よろしく頼む」
「「ノーサンキュー」」
「そこを何とか頼む!」
「「絶対に受けない!」」
頭を下げられたとしても絶対に嫌だ。やっと問題児の上級生がいなくなるのに下級生が問題事を背負ってくるなんて思わなかったぞ。事前に知れて良かった。なるべく下級生がいる場所へ行かないようにしよう。
「いやー、今年の学園も面白いことになりそうね」
「他人事だろうが、妹の心配位してやれよ」
「だって関われないのなら意味ないじゃない」
「綾姉がいなくなってやっと平穏が来ると思ったのに」
俺もそう思っていたさ。何も起こらない普通の学園生活。それを俺と凜は望んでいたはずなのに。やっぱり問題事を持ってくるのは十二本家なのか。この分だとその他の下級生ですら何かしらありそうだな。
「優斗様に変な虫がつかないように私が監視します」
「水無月の学園生活は大変だな」
「これが同い年なら騙して他の高校へ行かせたのだが」
「水無月には無理だろ」
馬鹿正直に話してしまうのだから。俺の言葉に凜ですら頷いている始末。恐らく誰に聞いても同じ反応をするだろう。それは水無月だって分かっているはず。あくまでも先程の言葉は願望かな。
「しかし何で彼女が許嫁なんだ?」
「一目惚れされた。そして両親が許可を出した。それ以外に何かあるか?」
「ないな。私達の立場なら」
両親の決めたことに逆らえる立場ではない。それが普通なのだ。親が敷いたレールをどこまでも走っていくだけの人生。それを当たり前だと捉えているのだから俺が何かをいう資格なんてない。元々俺や綾先輩みたいな存在が異端なのだ。
「親の決めた人生に逆らっているの私や綾先輩くらいかな」
「私は元から自由にさせてもらっているわよ」
「おかげで私が苦労している」
「自由過ぎるあんたたちがおかしい。むしろ縛れる存在がいるのかよ」
「いるぞ。私には最恐の存在が」
師匠と義母がな。思い返してみると正月に向かうと夏ぐらいに言っていた気がする。行けなくなった文句は言われるだろうな。歌手としての活動について色々と聞かれそうだし、勇実と遭遇したら大変な事態になりそうだ。
「如月先輩が恐れる人物か。想像できないな」
「私にも思いつかないね。どんな人?」
「言葉では言い表せないな」
真面目に何と言えばいいのか分からない。物理と精神の両方でダメージを食らう相手だから。あの二人なら十二本家相手でも抑えられるんじゃないだろうか。魔窟の連中ですら恐れる存在だから。
「優斗様は本当にお三方と仲がよろしいですね」
「清瀬。落ち着け。お前の考えているようなことは一切ないから」
「ループだな。これは」
水無月と清瀬が一緒だと話が全く進まない。これが入学式から続くかと思うと気が重い。水無月と一緒の学年である凜は俺よりも精神的にきているだろうな。南無。
まさか本作がコミカライズされるなんて思ってもみませんでした。
人生何があるのか本当に分かりませんね。
現在忙しいのは今回の件とは別であるのをお知らせします。
連載開始日などの詳細は後日お伝えできればと思っております。
それと今回のコミカライズは読者様のおかげであります。
こんな素敵な機会をくださり、本当にありがとうございます!