124.未来への計画
学園での一幕が終わり、香織と一緒に喫茶店へとやってきた。だけどお店の方へは顔だけ出して、香織の部屋へと向かう。これから話す内容は店長たちに聞かれると困る内容が含まれるからだ。
「それでイヴに何をするつもりなのよ」
「別に私がやらかすわけじゃないぞ」
「それが信用できないのは分かっているわよね?」
修学旅行の一件で俺の信用は地に落ちたようなものだからな。俺がやらかしたのはあれ位なのに、やっぱり規模が大きすぎたか。別にやれることをやっただけなのに。普通なら断るだろうが、やっぱり修学旅行は失敗しちゃいけないイベントだろ。
「私は監視を頼まれただけ。ちゃんとプロポーズできるかどうかの」
「何で琴音が関わっているのよ」
「そのどちらとも関わりがあるから。それと協力関係を結んでいるのもある。もちろん、私から頼んだことじゃないからな」
「相手は誰と誰?」
「絶対に他言無用だからな。学園長と佐伯先生」
「はい?」
うん。香織の動きが止まるのも分かる。俺も何も知らない状態だったら同じ反応を返すだろうな。あの二人に接点があるとも思えないし、そんな関係になっているとも予想できない。全くの予想外で思考が停止したんだろう。
「ちなみに失敗すると私が責任を負うらしい」
「色々と度肝抜かれる内容ね。噂だったら絶対に嘘だと思うわよ」
「そんな訳で香織には私のパートナー役となってもらいたい」
「偽装カップルの?」
そっちの方向へ向かってほしくない。大体、女同士でカップルを成立させるのは難しいだろ。あれか、俺に男装させるつもりなのだろうか。それならば全然問題ない。問題があるとすれば、男性に見えないことだろう。
「行く場所が高級フレンチのお店なんだよ。私一人だと違和感があるし、男性と行くと変な話が出回りそうだから」
「なるほどね。それでパートナーが必要なのね。でも私、そういうお店に着ていける服なんてないわよ」
「大丈夫。軍資金は学園長が出してくれる約束だから。お店も知り合いがリサーチ済み」
知り合いは瑞樹さんではない。あの人に頼んだら絶対に付いてくるし、着せ替えの対象になってしまう。知り合いというのは学園長の姉。あの人が紹介してくれる場所なら大丈夫だと思う。流石に弟の大事な日に変な服を着せないだろ。
「凄い優遇されているわね」
「巻き込まれているんだからこの位はな。いちいち金を出していたら真面目に資金が底を尽く」
「資産家とのお付き合いは大変ね。お金の面が大きすぎるわよ」
「そんなものだから。だけど相手が合わせてくれるから本来なら問題ない。小鳥がそんな感じだし」
「それは言えているわね」
そういえば小鳥と一緒に何処かへ行った覚えがないな。彼女の場合、ネックになるのが父親か。どうにかする手段は確立しているから一緒に行動することが出来る。あとの問題は小鳥が暴走しないかだな。無理だと思うけど。
「そういう事情なら付き合うけど。父さん達に何て言うの?」
「キューピット役に選ばれたから香織を借りていくと正直に話すしかないだろ。相手のことは話せないけど」
「それしかないわね。琴音、そろそろ腰を落ち着けたほうがいいわよ」
「無理。正月にやらかすつもりだから」
「こら。言った傍から無茶しようとしないの」
無茶はする。計画の事前準備の段階で色々な所に話を通さないといけない。もし了承してくれない場所があるのならば俺の独断で決行しないといけなくなる。その場合は敵が増える可能性もあるので注意しないといけない。
「これに関しては誰に止められても実行する」
最終目的は琴音の父親をぶん殴ること。その機会の数は少ない。俺の過激な発言により、母さんが気を使って俺と父親を引き合わせないようにしているのが原因なのだが。正月だけは回避できない事情がある。
「仕方ないわね。ただし、私には計画の詳細を話しなさい。心配にもなるんだから」
「いいけど。絶対に引くぞ」
香織なら信用しているから詳細を誰かに話すこともないだろう。話したとしてもそれは計画を実行した日か、連絡が取れなくなった人へ馬鹿をやらかしている最中に話す程度だろう。内容を話してどんな表情をするかはあれだけど。
「という感じで計画を立てている」
「うん。馬鹿を通り越して、大馬鹿ね。やった場合の被害が一番大きいの誰なのか分かっている?」
「私だな」
肉を切らせて骨を断つ。目的の為ならば手段を選ばない。被害を受けると言っても、金銭的なものや肉体的なものじゃない。精神的に疲労困憊になるのが目に見えるのだ。その鬱憤を全て父親にぶつければいい。
「しかも一日で終わらない計画なんて。規模広げ過ぎじゃない?」
「組んでみたらそうなったんだから仕方ないだろ。むしろこれを一日で終わらせるとか無謀じゃなくて不可能だ」
「それは言えているわね。無茶だけど、琴音が危ない目に遭うわけじゃないのは安心したわ。むしろ、負ける要素がないわね」
この計画通りに実行できればな。何事も変更点は出てくる。あとは俺の実家にも連絡しないとな。正月にそっちへ行くことが出来なくなったと。折角夏に約束したのだが、優先すべきは今回の計画だから仕方ない。
「それじゃ話を戻すけど。買い物はいつ行くの?」
「明日でいいんじゃないか? 修学旅行の振り替え休日で空いているかもしれないし」
「急だけどいいわね。集合場所は此処で」
「そういうこと。店長たちにはシフトの変更をお願いしないと」
明日とイヴもシフトを入れてもらっていたのだが急な予定を組んでしまった。誰が悪いと言えば全て学園長が悪い。あの人が一人でも大丈夫だと思われれば家族だって心配しないだろ。信用ないにもほどがある。
「店長。イヴの日に私と香織、デートがあるのでシフト変更お願いします」
「な、んだと」
「だから言い方!」
愕然とする店長が面白い。俺にそんな相手がいることに驚いているのか、それとも香織に付き合っている男性がいると思い込んで信じられないのか、どっちだろうな。香織が憤慨しているが、俺だってワザとやっているだけ。
「お前達二人が付き合っているなんて」
「あっ、そっちで勘違いするんですね」
「父さん……」
冷めた目を向ける香織によって、ようやく俺がふざけていると分かったようだ。安堵するように息を吐くが父親としての株は下がったな。というかどうして俺と香織が付き合っているという想像が生まれるのだろうか。そんな雰囲気を出した覚えすらないのに。
「正直に言いますと、ある知人のプロポーズが成功するかどうか確認を頼まれたのでお休みを貰います。明日はその為の買い出しです」
「それも冗談か?」
「いえ、本当です」
今度は天井を見上げて何かを考え込んでいる。もしかして香織がプロポーズされると勘違いしているのだろうか。そんな訳ないだろ。香織はまだ高校生なのだから結婚を前提とした付き合い位が限界だ。
「何がどうなっているのか全く分からないな。どうして琴音がそんな事態になっているのかすら想像できない」
「それは無理なので諦めてください。私だって巻き込まれただけで、どうしてこうなったのかはさっぱりと分かりません」
「私だってさっき、話を聞いて信じられなかったくらいだしね。でも琴音だからで納得出来ちゃったけど」
それで納得しないでほしい。俺だってうまく説明できない。協力体制を築いたまではいいとして、何でプロポーズしたのかまで確認しないといけないのか。それはもう本人の問題なのだから俺が干渉すべきことじゃない。
「良く分からないが、取り合えず了承しておく。クリスマスの打ち上げには参加するんだよな?」
「それは必ず。折角のパーティーですから」
「琴音が変な人物を連れて来ないのを祈るわよ」
連れて来ないよ。過去の人物であろうが、十二本家の連中だろうが絶対に今回は関わらせない。責任が重すぎるのもあるが、あいつ等が関わりだしたら今回の件は失敗するのが目に見えるからだ。
「今回は身内のみで済ませるつもりです。修学旅行であれだけ騒いだので、大人しくしておきます」
「琴音がそう思っていても近づいてくる人たちがいるから何とも言えないわね」
それに関しては諦めてほしい。防ぎようがないから。こちらが幾ら拒否してもグイグイと迫ってくるのだから本当に困る。大人しそうに見えても、本性が肉食の様な奴らばかりなのも性質が悪い。
「それじゃその時にならないと分からないということで」
「プロポーズ成功したからといって、その人物がやって来ないわよね?」
「だから私の部屋でやるのは駄目なのです」
ぶっちゃけ、その確率が高いので部屋でのクリスマスパーティーは拒否している。学園長が来なくても、佐伯先生がやってくる可能性が高い。それに合わせて隣の夫婦だって来るだろ。明らかに学生のクリスマスではなくなってしまう。
そして次の日。約束通り、待ち合わせ場所へとやってきたのだが香織の隣に立っている人物を見た瞬間。逃げ出そうと思ってしまったのは仕方ないと思う。だって何故か今日は担当じゃない瑞樹さんが満面の笑みで手を振っているのだ。
「どうして?」
「有給休暇を消化中。それと晶と恭介から報復して来いと指示を受けたのよ」
「因果応報よ、琴音」
ガックリと肩を落としたのだが、香織だって瑞樹さんのターゲットにされるはず。あまり護衛の人達の話をしていなかったからそれぞれの個性を把握していないのが駄目だったか。何で俺の周りの人達は濃いんだよ。
「香織。昨日の発言を撤回する。今日は碌でもない日になるのが確定した」
「えっ、この人も問題あるの。琴音の護衛でしょう?」
「私の周りにはまともな人が少ないから」
「色々と言われ放題だけど、今日で帳消しにしてあげるわ」
抑え役の伍島さんもいない。そして何処かでこの様子を見守っている二人はしてやったりと笑っていることだろう。確かに修学旅行では迷惑を掛けた。だからといって護衛対象のプライベートに干渉するのは駄目だろ。
「後で主任に報告してやる」
「ドンと来い。今日の事を報告されても私は本望だわ」
「本当に駄目な人なのね」
何事にも後悔しない人が一番厄介だ。晶さん達もこんなことをやらかすのだから問題児として扱われるのだろう。それともこれも俺の影響か。何で皆で馬鹿をやらかす連鎖が生まれてしまうんだよ。
「それで何処に行くのかしら琴音ちゃん」
「何も聞いていないのですね。これから迎えがやってきますから、その人が案内してくれます」
「よーし、お楽しみの時間はすぐそこね」
サクッと白状しよう。本日は地獄の日となってしまったことを。着せ替え人形と写真撮影により、俺と香織は喫茶店に帰ってきた時には精根尽き果てていた。ホクホク顔の瑞樹さんが恨めしい。
「私は帰る。お疲れ様」
「うん。私ももう寝るわ。凄く疲れた」
テンション弾け飛んだ瑞樹さんに近づくのは金輪際お断りと言っておく。後は晶さん達にも釘を刺しておかないと。次はないぞと。
漸く、正月の大まかな構想が固まりました。
継ぎ足しに継ぎ足していたら結構なボリュームになりそうです。
ただ一言。馬鹿やらかします。
考えた筆者も大概馬鹿ですけどね。




