123.未来への不安
GW最後の投稿になります。
昨日は色々と酷い目に遭った。全部自業自得なのは理解している。会う人全員からダメ出しと説教ばかり受けてしまったので若干拗ねてしまったパターンもある。主に最後の茜さんの説教とか。
「何で私がやらかせばこうなるのか」
他の面子なんてやらかしてもお咎めなしとかじゃないか。何で俺がやった場合はこれだけ言われ放題にならないといけないのか。理不尽である。これからは体調管理をしっかりして暴れようと心に決めた。
「さて、そろそろなはず」
修学旅行から帰ってくる時間。本来なら俺も他の面子と一緒に帰ってくるのだが、強制退場を食らっているので学園の一角で潜伏している最中。何でここまで隠れていないといけないのかは察してほしい。十二本家の連中にはすでに見つかっているのだが。
「毎回思うのだが、あいつ等の察知能力は何なんだよ」
あれだったら瑠々だって発見出来るんじゃないのか。今回のミッションは他の生徒達に見つからないよう、帰宅組と合流すること。その為に制服まで着ているのだ。でもこれで明日には話が回っていたら悲しいな。
「その為に香織以外には知らせていないのだけど」
俺一人が抜けていたとしても自分達のことで手一杯になっていれば意外と分からないもの。俺を探す理由だってない。退場の理由を知っているのだって数は少ない。香織が話した可能性もあるが、それだって宮古と晴美くらいだろう。
「時間通り。最終日に問題は起きなかったか」
あれだけのことが起こって、最終日に何かがある訳もないか。今日の行程だってほぼ移動で、途中で寄り道する程度だったかな。バスが順次学園の駐車場に入ってきて、生徒達が降り始めた頃合いを見計らって俺も合流する。
「お疲れ様です」
「ちゃんと来たみたいね。晴美達に説明するの大変だったのよ」
「香織。単刀直入に聞きます。クリスマスの予定は?」
「お店の手伝い。琴音だってそうでしょう」
クリスマスケーキを売り捌かないといけないからな。店長曰く、俺の影響で去年よりも予約が殺到しており、人手が必要とのこと。予約が増えたのは嬉しいのだが、俺の影響というのが釈然としない。母さん達の影響で色々な方面の人が来店したらしい。
「イヴも忙しいのは知っています。だけど私を救うと思って引き受けてください」
「何を?」
「イヴにデート」
「言い方! 理由を話しなさい」
「詳しい話は後程。香織が今すぐに受けてくれないと狩人がやってきます」
「誰よ?」
「十二本家の連中」
呆れて溜息を吐く香織だが、俺は切迫した状態であるのを理解してほしい。あの馬鹿共がやってきたら雰囲気が台無しになってしまう。失敗した場合の責任は全部俺が請け負うのだから、あいつ等を連れて行くわけにはいかない。
「ここで話を出した時点で何かを察するのがあの異常者です」
「確かに小鳥がこっちにやって来ようとしているわね」
察するのが早すぎる。合わせて長月も来ようとしているのは何でだよ。お前だけは絶対に連れて行けない。変な噂になるのが目に見えている、被害を受けるのは俺だし、長月だって無事じゃないだろ。
「分かったわよ。引き受けるけど、事情はちゃんと説明しなさいよ」
「助かります。詳しい話はお店で。ここで話すと大問題に発展してしまいますから」
「何を抱え込んでいるのよ、琴音は」
「巻き込まれたのです。ずっと以前から」
それも漸く終わりを迎えそうだ。結果はまだ分からない。学園長の度胸と、静流さんの思いによって結果は変わる。そこに俺が入り込む余地は、本来ないのだが助っ人として無理に組み込まれている。
「お二人は何の話をしているのですか?」
「クリスマスの予定を確認しているのです」
「パーティーですか? 琴音さんもまた参加してくれるのですか?」
「行きません」
何度も言っているが、俺は社交界に戻るつもりはない。クリスマスのパーティーだって俺宛に招待状は届いていない。なら無理に参加する意味はない。小鳥が寂しそうにしているが、こればかりは譲れない。
「ご令嬢も大変ね」
「なってみないと大変さは分かりません。イベント行事は友達と過ごせることが少ないですからね」
「体調不良でもない限りは参加しないといけません。辛い時もありますが、今だと慣れてしまいました。でもやっぱり友達と過ごしたいとは思います」
仮病を使って休むのも難しい。嘘を吐いて休んで、他の場所で見つかってしまっては信用問題に繋がってしまう。子供の頃から将来の事を考えて行動しないといけないのは、十二本家に生まれた宿命。そこから逃れるのは難しい。
「その点、琴音は色々と自由になっているわよね」
「私の場合は特例ですから。一時は追放みたいな感じでしたから。後は他の方々から疎まれていたのも、今を形作っています」
以前の琴音のおかげで今の俺の状況を形作っている。確かに最悪な状態だったのだが、それのおかげで自由を手に入れられているのは皮肉でしかない。自由を手に入れる為に悪となるか、不自由なままで今を受け入れるか。俺だったらそうなるのかな。
「琴音さんのクリスマスのご予定は何ですか?」
「バイト先の喫茶店でお仕事です。終わった後に打ち上げですよね?」
「その予定ね。クリスマス位は祝わないとね」
打ち上げは俺の部屋ではなく、香織の家で行う。これは店長と沙織さんの提案。俺の家でやった場合はまたあのバカ騒ぎの再演になってしまう可能性があったから助かる。だから何も起こるはずがない。
「私も参加したいです」
「時間的に都合が合いませんよ。そちらのパーティーは例年通りなら夕刻からでしたよね」
それだとこちらの打ち上げと時間的な折り合いがつかない。だから参加は不許可。今回ばかりは黙って帰って、自宅で疲れを癒やす方向へ向かってもらう。毎回毎回バカ騒ぎは俺も疲れてしまう。
「何だ、今回は不参加なのか」
「長月さんは私に来てほしいのですか?」
「一回楽を覚えるとな」
やっぱり休憩所として認識しているのかよ。あの一件以来、琴音に対する態度が本当に軟化したよな。社交界での光景に、そして一番が二次会での出来事で大分認識が変わった。二次会に関しては惨事だったからな。
「しかし、如月は問題を起こさないと気が済まないのか?」
「別にそういう訳ではありません。何事もなければ一番いいに決まっています」
「どの口が言っているんだ」
本心なのに。何事もなくスケジュール通りに事が進むのが一番いいじゃないか。心配事もなく、苦労することもない。それが崩れた場合は誰かが大変な目に遭うのだ。今回だと俺か。さて、今回の行程で崩れ始めたのは何処か。
「それで今度は何をやらかすつもりだ?」
「何を根拠にそんなことを言っているのですか?」
「勘だ」
だからお前達のその勘は一体何なんだよ。長月にとっては面白い出来事でもない。逆に厄介なはずなのに、それでもやってくるのが謎だ。小鳥は知られると私が行くと言い出すだろうし。しかもパーティーの前日だから予定を空けられるのが問題だ。
「今回ばかりは関わらないでいただけると助かります」
「俺は最初からそのつもりだが。そっちで文月が寂しそうにしているぞ」
「琴音さんともっと一緒に遊びたかったのですけど」
「新年の挨拶くらいはさせてもらいます」
霜月家でどれだけ体力を削ぎ落とされるかにもよるけどな。何にせよ、文月家へ訪れるのは実家での件が片付いてから。正月の挨拶回り位はやっておかないと。何だかんだと友人関係を構築してしまったのだから。
「お泊まりしてくれますか!?」
「うーん、予定がまだ分からないので未定ということで」
「空けてください!」
「善処します」
何か流れ的に一泊しないといけないらしい。正月の予定がまた埋まってしまった。ただ何故だろう。小鳥なら大丈夫だと思う反面、身の危険を感じるのは。あれか、小鳥の家族に問題があるのか。
「それではまた」
それぞれの教室へと分かれていく。しかしカオスな正月になりそうな予感がするな。霜月家と文月家か。どちらの家にも行ったことはないのだが、不安しか感じない。何が起こるか分からない以上、ちゃんと準備はしておいた方がいいな。
「あんな約束して良かったの?」
「成り行き上仕方ないかと。断れると思いましたか?」
「あれは仕方ないわね。有無を言わせない迫力があったわ」
小鳥は見た目が小動物だが、時として肉食獣みたいな迫力がある。相反しているのだが、小鳥だって十二本家の人間だ。当たり前のように二面性を抱えているはず。本来の性質とは違うが、自身の子供が生まれるとあれが通常なのか。末恐ろしい。
「それよりも目先の問題をどうするか考えた方がいいわよ」
「というと?」
「教室に入れば分かるわよ」
はて。何かしらの問題を抱えていただろうか。先の事ばかり約束やら、考えを巡らせていたから何かを忘れているのかも。教室となる同級生。あれか、同級生を放り出して好き放題していたのが問題か。
「それじゃ私も自分の教室に行くから、ちゃんと謝っておくのよ」
「またお店で」
さて、俺も自分の教室へ入ろう。もちろん最初にかける言葉は決めてある。確認するまでもないのだが、香織から謝っておけと言われたのだ。だから聞いておかないといけないよな。
「皆さん、最高の修学旅行になりましたか?」
「大馬鹿者に感謝を!」
「「「いえぇーい!!」」」
本当にこのクラスはノリがいい。小鳥や長月と話していたおかげで教室に入ったのは俺が最後。やっぱりというべきか、全員テンションが高いな。二人だけ若干、不機嫌なのは仕方ない。
「馬鹿者に注目しているところ悪いが先生を忘れるなよ。簡単な連絡で今日は終わりだ」
家に帰るまでが旅行だと散々言われているからな。家までの行程で事故や事件に巻き込まれたのでは浮かばれない。寝るまで楽しく。そして切り替えて勉学に励もうじゃないか。それが難しいのだけど。
「全く、色々とやらかし過ぎよ。琴音は」
「私達との思い出なんて殆どなかったんだから。この埋め合わせはどうしようか、晴美」
「冬休みに何かしらの企画を立てるしかないわね」
何をするつもりだよ。夏休みの時の温泉地への宿泊なら大歓迎なのだが、予算の都合がある。今回の修学旅行にクリスマス。それに正月と立て続けに出費するのが決まっている。バイトで稼いだ貯蓄がごっそりと減ってしまうな。
「やらかすのも程々にしないと」
「「それは無理だと思う」」
宮古と晴美のダメ出しで修学旅行最終日を締めることになってしまった。自覚があるだけに苦笑いしか出なかった。
今日からお仕事です。
GWはひたすら映画を見ていた位しか記憶がありません。
熊が近辺に出たり、その辺りで母が携帯を落としたり、
それを私が探しに行ったりと割と平穏でした。




