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122.未来は未確定


授業が始まったのを確認してからこそこそと学園から脱出。結局、霜月の二人から正月の内容を聞き出すことは出来なかった。一体何が待ち受けているのか。不安はあるが、背に腹は代えられない。


「葉月先輩に頼む予定だったものは霜月家に変えようかな」


どちらにせよ、正月の計画を組んでいる段階で十二本家の協力は必要不可欠。やる内容を考えれば、十二本家ならばどこでも大丈夫なはず。難しい内容じゃないからな。これがないと護衛を撒くのが難しい。


「あそこなら面白そうで済みそうだから困る」


下手に葉月先輩へ借りを作るよりはマシな気がする。霜月家へ借りを作っても、それは正月で解決できる気もするし。やる内容は気になるけど。それは本当に当日を迎えないと分からない。


「寄るつもりではいたけど、何でこんなに混んでいるんだ?」


時間は昼を過ぎている。喫茶店が混むような時間ではないのに。中に入れば分かるのだが、客層が見たことのある人たちばかり。主に近所の人達や商店街にお店を構える人達。なら理由も何となく察することが出来る。


「店長。大繁盛ですね」


「あのニュースのおかげでな。事情を聞こうと朝からこんな状態だ。俺と沙織だってニュースを見て、度肝抜かれたぞ」


「香織の晴れ姿にですか?」


「あれは琴音の仕業か?」


「香織が率先してあんなことをするわけないじゃないですか。私も巻き込まれた部類でしたが。取り合えず、ヘルプに入ります」


本当はお客として来たつもりだったけど。こんな現状を見せられては黙っていられない。顔見知りのお客たちに手を振りつつ、店内の奥へ入った。そこで大忙しの沙織さんが動き回っている。


「やらかしたみたいね」


「それはもう盛大に。おかげで途中退場になってしまいました」


「事情は後で聞く。香織からは琴音から聞いた方が早いと言われたから」


「説明してほしかった」


今日だけで何度あの日を語らないといけないのか。でも沙織さん達にはテーマパークの一件だけでいいか。香織が関連しているのはそれくらいだし。それでもまずは客を捌かないと。エプロンを装着して、いざ出陣。


「えっ、何で琴音ちゃんがいるの?」


「それは何ででしょうね。ご注文は?」


詳細を伝えることは出来ないから曖昧に濁しておく。注文を受けて、配膳。尋ねられたことに対しては適当に答えておく。俺もニュースで合唱部と一緒にいる場面を撮られていたから話題に上ってしまう。


「やっと休憩時間ですか」


「自分の店だってあるのによく来るよな。琴音が来てくれて助かったが、何があって退場になった?」


「沙織さんも呼びましょう。あと何か食べたいので宜しくお願いします」


カロリーメイトだけでは足りないのだ。賄いを食べつつ、テーマパークで起こったことを説明していく。最初は驚いていた二人だったが、最後辺りには呆れられ、視線が明らかに冷たいものになっていた。


「馬鹿だろ」


「馬鹿よね」


「馬鹿やりました」


馬鹿の連打。自分でも分かっているがあの行為は馬鹿以外の何物でもない。テンションが上がった状態の俺なんてそんなもの。馬鹿やって楽しめればそれでいいと思ってしまう。それが今の琴音の立場と合わないとしてもだ。


「琴音はもっと大人しいイメージだったけど」


「そうか? 俺からしたら結構破天荒なイメージだな」


店内での俺の様子を知っている店長と、知らない沙織さんでは俺に対するイメージが違うな。しかし店内で暴れた様子なんてそれほど見せていないはずだけど。主に勇実達への対応を見られた所為だな。


「しかし琴音が歌をね。私としてはそっちの方も信じられないわね」


「俺も聞かせてもらったが琴音の声をよく知っている奴らはアンノーンの正体に気付くだろ」


「当時は何も考えていませんでしたからね。ただ何となく、楽しめればいいやと思っての行動でしたから」


だからこそ十二本家の連中に、勇実達に、店長たちにアンノーンが俺であるとばれている。マスコミにだっていつかは知られるはず。だけどそれがどうした。公表するような行動は、十二本家に喧嘩を売るのと同じなのだから。


「それでいつデビューするの?」


「しません。私はまだ将来について考えられるだけの余裕がありませんから」


「余裕? 十分にあるように見えるけど」


「少なくとも父親と決着をつけるまでは未来について考えるつもりはありません」


琴音の将来についてはその時が訪れるまでのお預け。それに俺がやるべきことを成したのなら、もしかしたら本当の琴音が戻ってくるかもしれない。そうなればお役目御免となり、今度消えるのは俺の番だ。それが本当の結末なのだから。


「琴音、変なこと考えているでしょう」


「それは俺も察した。良からぬことであるのは確かだな」


「何ですか、その勘の良さは」


今に対する名残惜しさは当然ある。一年にも満たない生活の中で築いた信頼を無くしたくはない。それを本来の琴音が上手く引き継いでくれるかは不安がある。大人しい琴音が俺みたいな行動を出来るとは思えないからな。


「今日はこのニュースばかりだな」


考え込んで黙ってしまった俺に気を使ったのか、それとも暇を持て余したのか、備え付けのテレビを付けた。俺もそちらに視線を向けると確かに昨日の件が報道されている。


「アンノーンの考察もしているようね。そこのところ、どうかしら。ご本人さん」


「当たらずとも遠からずかな」


声質から年齢を特定したり、最初に壇上にいた俺と符合する点があるとか結構近づいている。だけどそれ以上の情報には違うものも混ざっている。憶測と願望が混ざってそれが真実を遠ざけているかもしれない。


「おっ、何か新しい情報が入ったみたいだな」


『只今入手した情報ですと、アンノーンに関してイグジストから緊急声明が届きました』


「あの連中が?」


「凄く嫌な予感がします」


『アンノーンの所有権はイグジストが有しており、優先交渉権は我々にあると報道各所へと送られたとのことです』


暴露しやがったな、あの馬鹿どもは。大体、所有権があって交渉権といっている矛盾を指摘されないのかよ。それよりもイグジストがシェリー相手に宣戦布告したという事実が大きく取り上げられている。


「時間が経てば忘れられると思っていたのに。これだと暫く沈静化しないじゃないか」


「琴音を誰かに取られたくないと思ってだろうな」


「だけどこれはやり過ぎです。マネージャーの方には何処にも所属しないと伝えたのに」


「それで満足する連中じゃないのは琴音だって知っているだろ」


確かに。あいつ等の事は俺が一番分かっている。俺が何処にも付かずに、まだフラフラしていて誰かに取られるかもしれない。それが嫌だからこそ、相手がシェリーであろうとも戦う気概を持ってしまった。


『続報です。シェリーより入電。ただ一言、負けないわよ』


「大人気だな、琴音」


「いい迷惑です」


頭が痛い問題を増やさないでほしい。シェリーまで悪乗りして戦いに乗ってしまったのだから、業界は大変な賑わいになってしまう。それで誰が満足するかといえば楽しめるシェリーだろうな。あいつ等がどうかは知らない。


「琴音争奪戦か。うちも参戦するか?」


「まともにやり合って勝てる気はしないわね。それでも脈ありはここかしら」


「音楽活動よりはこちらの方が好みではありますね」


人前で歌って騒いでよりは喫茶店で働いている方が性に合っていると思う。俺としてはやっぱり注目されるのに慣れない。元の性格ならばそんなことも気にせず、楽しめる方を優先しただろうな。だから俺の人生はもう終わっている。琴音に譲るにしても選択肢は色々と用意したい。


「香織はお店をどうするつもりなのですか?」


「琴音には何も言っていないのね。ちゃんと伝えておかないと誤解されると忠告したのに」


「香織は部活が終わり次第、ここを継ぐつもりでいる。だからそれまでは俺達も香織を自由にさせると決めているんだ」


「やっぱり色々と考えているのですね」


ここを継ぐためには色々と資格を取得する必要がある。それに香織一人だけでは喫茶店を経営することは出来ない。店長と沙織さん。二人で役割を分担していたから今がある。となれば香織にも、パートナーと呼べる存在が必要。


「香織が頼りにする存在が必要かな」


「それなら見つけていると思うわよ。あとは口説き落とせるかどうかね」


そんな人もいるのか。しかも沙織さん的にはOKなようだし。いつも香織と一緒に行動している訳でもないから相手がどんな人なのかさっぱり分からない。以前は拒否的な反応をしていた店長も何も言わないのは肯定的だということかな。


「私としては香織が幸せならいいですけど」


「自覚がないのならそれでいいけど。琴音の未来は本人が決めることね」


俺の事だったか。別にそこまで疎くはない。だけど香織から何かしらのアプローチを受けた覚えはない。気を使ってくれているのか、まだその時期ではないのかは分からない。受けるかどうかは未定だな。


「何にせよ、私はまだ何も選べません。父親をぶん殴るその日まで」


「真剣なのか、ふざけているのか分からないわね」


大いに真剣なんだけど。これが当面の目標であり、それを実行できる日は近い。あとは当日の作戦を詰めないとな。簡単なもので、難しいものなんて一切ない。シンプルだからこっちの実行は楽。だけど相手が変に考え込んでくれればラッキーだな。


「それじゃ私はそろそろ失礼します。やることは沢山ありますので」


やるべきことはあるのだが、本音で言えば学生たちがやってくる前に退散する必要がある。学園で身を隠していたのに、プライベートで見つかっては意味がない。買い出しどうしようかな。寄り道しすぎて時間配分が難しい。


「明日は迎えに行けよ」


「もちろんです。行かないと何を言われるか分かりませんから」


行っても何も告げずに去ってしまったから香織以外の連中からは何を言われるやら。それでも確かな思い出として今回の修学旅行は残ったはず。本来の目的とは全く違うけど、この結果に不満はない。


「さっさと買い出しに行って部屋の掃除をしないとな」


そして部屋に戻って、待っていたのは茜さんからの説教だった。何処からか俺が入院したことを知ったらしい。ついでにその後の出来事も。無茶して、大変すみませんでした。

平成最後の四月も色々とありましたね。

wi-Fiがお亡くなりになったり、

GW前にPS4がdiscを飲み込んで認識しなくなったり、

いつも通りの平成でした。

令和こそは最初位何もなければいいですね。

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