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121.包囲は迅速に

令和一日目に間に合わず。


どうして俺が同行しなければいけないのか。告白の場面に同伴とか絶対にいい印象を持たれないぞ。学園長の姉はそこまで弟のことを信用していないのか。俺だって信用しようとは思っていない。


「理由を聞かせてもらえますか?」


『愚弟がまともにプロポーズ出来るとは思っていないわ』


「私も同意見です」


『だからこそ誰かしらに見守ってほしいの。貴女ならこれまでの経緯を考えれば妥当でしょう』


離れた場所からの監視か。だけど高そうなレストランとかで一人で食べているのも目立ちそう。パートナーとなる相手がいないと。だけどクリスマスの日に予定の空いている者がいるのか。むしろ男性と一緒とか想像もできない。


『もう二組で予約を取ったわ。拒否権がないの理解しているわよね?』


「当日にバックレた場合は?」


『責任を取って貴女が我が家に嫁ぎなさい』


絶対に嫌すぎる。冗談で言っているのは分かっているのだ。何処に現役の学生と学園長が婚約する可能性がある。実際に成立してしまったら問題どころの話ではない。学園の経営自体が危うくなるぞ。


『別に卒業した後でもいいわよ』


「冗談じゃないのですか?」


『大真面目な話。愚弟の事をちゃんと理解しているの貴女位よ』


理解しようとしたんじゃない。巻き込まれた上に強制的に知らないといけなくなったのだ。俺が一般人であったとしても学園長とお付き合いするのは願い下げ。だって面倒臭いから。出来れば引っ張ってくれる人がいいかもしれない。それに該当するのが勇実だったんだよな。


「それとなくフォローしますが。私よりも貴女の方が色々と便宜を図れるのでは?」


『無理矢理でもいいのなら何でもするわよ。家族の絆に罅が入りそうだからやらないけど』


何を考えているのだ。俺ですらそこまでの考えは浮かんでいない。直接手を出せないのだから、間接的に手を回して雰囲気づくりに協力する程度が関の山。最終手段はあるのだが、それだって俺が直接何かをするわけじゃない。


『お店の場所とかの詳細は愚弟に送っておくから当日は宜しくね』


「何で十二本家の人達はこんなに強引なのでしょうか」


『人の事は言えないと思うわよ。それじゃ次は結婚式で会いましょう』


通話が切れて、スマホを学園長に返す。疲れ切ったようにソファに座って、頭を抱えてしまった。後は当人同士の問題じゃないのかよ。何でそこに俺が介入しないといけない。失敗した場合の責任も重すぎる。


「姉は何と?」


「当日は私がフォローするように頼まれました。拒否権はなさそうです」


「そうか」


何でそこで嬉しそうな顔をするんだよ。お前が頑張らないといけないのだし、他者が介入するのは快く思わないものだろ。これで本当にプロポーズできるのか不安を覚えるぞ。むしろプロポーズ成功後も不安だ。


「学園長。頼みますから私の手を借りないでください」


「そこは、ほら。あれだろ」


断言してくれよ、そこは。何で消極的になるのかさっぱり分からない。もしかしたら有能な家族に囲まれて自分の事を過小評価していて自信がないのかもしれないが、十分有能な人材だからな。周りがヤバいだけだ。


「後は私のパートナーをどうするのかの問題があります」


「君の交友関係ならば簡単に解決できるだろ」


「男性を選ぶ理由もありませんね」


下手に男性と一緒に食事していた場面を見られた場合、変な憶測が飛んでしまう。その際の被害を考えると実行できるはずがない。母や双子の反応、小鳥や他の十二本家が大いに盛り上がってしまうからな。


「学園長。私はあくまで相談役であり、実行するのは貴方の役割なのを理解してください」


「それは分かっているのだが。仕事と違って、こういったことの経験がないのでな」


「やってみてから後悔してください。反省を生かし、次へ繋げるのは同じなのですから」


失敗の影響で佐伯先生との関係が終わる可能性もあるとは言わない。もっと委縮してしまって行動できなくなるから。学園長には押しが足りないのだ。そこさえ改善できたのならもう少し円満な関係を築けるかもしれない。


「修学旅行でお金使い過ぎて、浪費できないというのに」


「その位ならば私が出そう」


それなりのレストランに行くのであれば服装だって気を使わないといけない。いつもの恰好では浮いてしまうし、フォローする前にばれてしまう。今回の件で言えば学園長の所為であるのだから遠慮しない。


「学園長と一緒に買い物している姿を見られるのは危険だと思いますよ」


「他の者を手配する。その危険性については重々承知している」


学園長と生徒が一緒にプライベートを過ごしているなんて信用問題に関係するからな。実際にこうやって会って、プライベートの会話をしているだけでも危ない。その自覚はあるのだろうか。そしてタイミング悪く、チャイムが鳴ってしまう。


「お昼の時間ですか」


「そうだな」


「詳しい話はまた後日に。私はこれで失礼します」


急いで撤退しないと。さっさと逃げ出さないと馬鹿達が集まってきてしまう。隠れて学園長室までやってきてはいるのだが、あいつ等の事だ。絶対に俺がやってきたのを察知しているはず。


「待て、そちらは窓だぞ」


「問題ありません。靴は持ってきています」


「そういう問題ではない」


スリッパは借用しているのだ。後で返せば問題ない。それよりも早くここから逃げ出さないと。最近は逃亡してばかりだなと思うが、今回は相手が悪すぎる。捕まってしまえば面倒な事態に発展してしまう。主に綾先輩が。


「琴姉。残念だけどお見通しだよ」


「葉月先輩が相手だと分が悪いよな」


窓に手を掛けたところで外にいた一年組が待ち構えていた。何も言わずに反転して、本来のドアに駆け寄ろうとしたのだが俺が開ける前にドアが勝手に開く。そこから姿を現したのは一番見たくなかった二人組の姿。


「早すぎるだろ」


「チャイムが鳴った瞬間に行動開始したからね。それでも一年組が間に合わなかったら危なかったよ」


「琴音。楽しい会話をしましょうか」


お淑やかキャラの設定はどうした。教室からここまで全力疾走した場面を見られていたら、絶対に印象が変わってしまうぞ。大体、二人揃って肩で息している様子を見るに大分無理をしてやってきたのが分かる。


「お前達、ここで騒ぐな」


「それじゃ学園長。応接室を借りるよ」


「勝手にしろ」


先程までの不安感など微塵も見られない堂々としたものだが、巻き込まれないようにぶん投げただけだろ。学園長室の隣にある応接室を借りたのは俺の姿を他の学生に見せない為か。別の意味では拘束されたのだが。


「学園の中は修学旅行の話題で持ちきりだよ。誰が発案者なのかはまだ特定されていないけどさ」


「私なんて朝のテレビをママから見るなと言われて、学園に来るまで知らなかったのよ。酷いと思わない?」


「綾姉が知ったら朝から親子喧嘩が勃発するから仕方ないよ」


「それより話を聞くんじゃなかったのか。時間は限られているんだぞ」


何で残った十二本家の人間がここに集まっているのやら。それに学園長に話した内容をもう一度話さないといけないのは面倒だけど、それだと納得しないか。話して燃え上がる人物がいるのも事実で、それが不安である。


「ちゃっかり長月の弟までいるのか。そんなキャラだったのかよ」


「兄さんほど、僕は生真面目じゃないですよ」


「琴姉包囲作戦に参加しなかったくせに」


「僕は自慢じゃないけど体力はないからさ」


良い性格しているよ。ニコニコと笑顔を浮かべているが、腹の中は真っ黒な気がする。十二本家相手でも遠慮なく利用するのは葉月先輩と似ている。下級生で参謀になりえるのはこいつか。兄は論外だとしても、弟は要注意だな。


「はーい、それじゃ琴音の語らいタイムだよ。僕たちは昼食を食べながら聞くからさ。質疑応答は全部終わってからね。時間がないからさ」


「はいはい。どうせ今から逃げたところで他の生徒に見つかって騒がれるのがオチだ。観念する」


俺だけが昼食持参していないのに遠慮なく食いだしやがって。そこは準備しておきましたと気を利かせる場面じゃないのかよとは思ったものの。その時間すらなかったか。作戦を組み立てるのも急であり、決行も速攻。買っている時間なんてないよな。


「学園長。非常食をください」


「勝手に持っていくがいい」


勝手知ったる非常食の場所。学園長室に戻って戸棚を開き、カロリーメイトを拝借する。もちろんこれは学園長の私物。学園に備蓄している本当の非常食には手を出さない。それは本当の非常時に使われるべきものだから。


「それじゃ勝手に喋るからな」


「どうぞ、どうぞ」


学園長に話した内容と全く変わらないものを喋る。聞き手たちは黙って食べながら、耳を傾けているが綾先輩の表情が段々と険しいものへと変わり、凜の表情は心配そうなものへと変化している。いつ姉が爆発するのか不安になっているのか。


「ちくしょう。ママだけじゃなかったのか」


「綾姉。言葉が汚い」


本気で悔しんでいるな。それに葉月先輩も何やら考え込んでいる。下級生組は何をやっているんだ、この人はみたいな顔を向けてくるし。やらかしている自覚はあるから反論の余地もない。自業自得だな。


「やっぱり付いて行けば良かった」


「何をアホな妄言を吐いているんだよ、あんたは」


水無月のおかげで突っ込まなくていいな。葉月先輩が俺達の修学旅行へと同行できるはずがないだろ。何で上級生が同伴しないといけないんだよ。それに葉月先輩が一緒だった場合を想像してみたら俺のやらかしとの相乗効果が恐ろしいことになりそうだ。


「言っておくけど、成り行きの結果だからな」


「成り行きでそんな事態に発展するのは琴音だけだと思うよ。幾ら僕でももう少し穏便に事態を解決しようと思うさ。だって記念すべき修学旅行だよ」


「私も同意見。幾ら何でもママまで呼んで盛り上げようとは思わないわね。普通ならスタッフに丸投げか、関わり合いにならないようにするわ」


「お言葉の通りで」


上級生二人からのダメ出しである。干渉しすぎたのは自覚がある。下手に過去の同級生達が絡んでしまっていたので、その当時のノリで色々とやらかしてしまった。逃亡劇は俺が主犯だが、他に関しては巻き込まれた部類にはならないだろうか。


「でも皆の思い出には残ったはず」


「琴姉。下手したら傷跡になっていたかもしれない事案だと思うよ」


「成功したから良かったものの、失敗していたら合唱部が悲惨すぎるな」


「生ライブを見れなかった生徒達だって不満を持っていると思うね。フォローしたとしても」


下級生からのダメ出しである。しかし何で俺がこれだけ言われなければいけないのか。ただ素直に従って修学旅行で起こったことを説明しただけなのに。不貞腐れながらカロリーメイトを頬張って珈琲で流し込む。


「行き当たりばったりの結果だよ。僕みたいに計画的な行動をしないと」


「あの状況で計画なんて立てられるわけないだろ。臨機応変さを求められる状況だぞ。そりゃもっと穏便な方法だって今ならある程度考えつくけど」


「徹夜したのが問題よね。それでもママに認められる琴音が妬ましいわ。私も一緒に歌いたかったのに」


「綾姉は正体を隠すつもりが一切なさそうだから私が全力で阻止していたと思う」


流石は霜月家の最終防衛装置。だがあの母親と綾先輩が結託した場合は幾ら凛であろうとも抑え込むことが出来ないと思う。何となくだがそれに父親も乗っかって大変な騒ぎになりそうな気がする。あくまで妄想だが。


「僕たちの修学旅行でも似たような状況になるかな?」


「なる訳ないだろ。この先輩がおかしいだけで、俺達の場合は普通の修学旅行になってくれるさ」


「私達だしね。問題が起こってもスルーする自信がある」


ボロクソに言われているな。確かにこの下級生三人ならば平和な修学旅行になりそうな気はする。口が悪いだけでまともな水無月に、腹黒長月。揉め事処理担当の凜ならば。こうやって考えると後輩達も濃いな。上級生が圧倒的な濃厚さを保有しているだけで。


「琴音と同学年じゃなかったことを悔やむよ。絶対に面白おかしい場面に出会えていたはず」


「葉月に同意。これだけのイベントを持ち込める琴音は優秀ね。絶対に退屈しないわ」


「私は勘弁願いたい」


この二人と同学年でクラスまで一緒になってしまえば俺が持たない。擬態なんて剥がれて素で鎮圧に向かうのが容易に想像できる。まだ二人だけだが、過去の再来とか勘弁してほしい。


「おっと、そろそろ時間だね」


「サボって琴音ともっと喋っていたいけど、そんな訳にもいかないわね」


これだけ喋っていたのだから昼休憩の時間なんてあっという間に過ぎてしまう。終わりまであと三分といったところかな。これでやっと解放されると思うと気が抜けてしまうのだが、最後まで油断できないのが十二本家だ。


「しかし琴音が正月に我が家に来るとは。これは大変面白いことになるわね」


「ご愁傷様、琴姉。当日は一切のフォローをしないから宜しくお願いします。これで少しは楽が出来る」


「待て。正月に一体何が待っているんだよ。私に何をさせるつもりだ」


「「当日のお楽しみ」」


いい笑顔で返しやがって。霜月家がやることなんて俺が想像できるわけがないだろ。ただ訪問して談話して終わりって話じゃなさそうだ。凄い不安を感じるのだが、この二人は絶対に内容を話そうとはしなかった。

敗因、宇宙戦艦ヤマト一挙放送。

何故か母と二人で見ていました。

指が止まって全く作業が捗りませんね。

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