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120.押し付けられた役目

平成最後にギリギリセーフです。

人物紹介については少々お待ちください。



目が覚めた時、見慣れた部屋の中にいた。住み続けてまだ半年以上しか経っていないのに此処が自分の住まいなのだと思えるほど、慣れてしまっている。今の自分の居場所。過去とは異なる生活。


「やっぱり感づかれるか」


霜月の家だったら約束達成で正月に行かなくてもいいと思っていたのに。そう簡単には思い通りに進んでくれない。仮に霜月の家だったら大変な目に合っていただろうが、学園へ行くのだから時間は短かったはず。


「私も学園に行かないといけないけど」


現在の時刻は七時を回ったくらいか。いつもなら寝坊なのだが、徹夜して昨日の騒ぎを思い出せば、よく起きれたと思う。シェリーが俺の部屋へ入れたのは茜さんのおかげだろう。合鍵渡しているからな。


「そういえば茜さんが来ないな」


まだ眠っていると思っているのだろうか。今日の予定を伝えていないから。それなら今日くらいはゆっくりさせてもらおう。まずはシャワーでも浴びるか。昨日は色々と動いて汗をかいたのに寝落ちしてしまったからな。


「冷蔵庫の中に何があったかな?」


シャワーを浴びながら朝食の献立を考え、今日の予定を組んでいく。学園へ行くのは必須として、喫茶店にも寄らないと。店長たちが報道を見た場合、説明しておかないといけない。別に香織へ連絡を取っていても問題ないのだが、騒ぎの原因が俺だから。


「後は部屋の掃除と、足りない食材の買い足しと」


やること多いな。長らく留守にしていたから埃が溜まっている箇所があるはず。食材も日持ちしないものは修学旅行前に使ってしまったから足りない物がある。学園で授業を受ける訳じゃないから時間はある。


「事情聴取みたいなものだからな」


俺が修学旅行で何を仕出かしたのかを学園長へ説明するのが目的だ。それを教師から言い渡されている。そして俺の話を聞いて学園長が処分を決定する。停学の可能性位は覚悟しておかないと。それだけの事をやらかしている覚えがあるのだから。


「本気で考えが足りなかったな」


髪を乾かしつつ、反省を行う。別にやったことに対しての反省ではない。計画性に対するものになる。立ち回り方次第で今回の事はもっと穏便に済ます可能性があったのだ。ただし前提として俺の思考が正常だった場合が加味される。


「徹夜でやることじゃない。これに尽きるな」


深刻だったのが寝不足による思考低下と、大分精細さを欠いたことだ。大体、メディアへの対応だって普通に考えたら思いつくはずなのに頭から抜けている時点で駄目だろ。現状の解決しか思いついていないのが限界だったか。


「テレビどうなっているだろう」


試しに付けてみたら丁度良く特番が放送されていた。見出しは有名テーマパークで新イベント開始。そしてあの歌姫がサプライズゲストとして登場か。歌姫と組んだアンノーンとは誰なのか。一通り見たけど妥当な報道かな。香織と小鳥もバッチリと映っていたな。


「唯さんからメールなんて珍しいな」


偶に勇実達へ対する苦情が俺に届くのだが、対応策くらいしかアドバイス出来ないのに。しかし今回送られてきたものは予想の斜め上の内容だった。


『こういうお仕事は事務所を通してください』


「所属していません」


何で唯さんの所へ所属していることになっているのだ。イグジストに所属する気は一切ないと伝えているのに。まだ諦めてくれないのかよ。シェリーもそうだが、音楽関係に進む気はない。


『まさかシェリーの所へ移籍ですか!? 裏切りですか!?』


「それも違います。成り行きです」


駄目だ。冷静さがない。最近なのだが、唯さんは随分と勇実達に毒されていると思い始めている。年齢が近い所為でコミュニケーションが取り易いのが原因か。感化されると俺への被害が増えてしまう。最初の頃に戻ってくれないかな。


「さて、唯さんが知ったとなればあいつ等が黙っているはずがないよな」


俺が誰かと一緒に歌ったと知れば、勇実達が反応しないはずがない。そしてその相手がシェリーであれば猶更だ。一だって暴走する可能性を秘めている。唯さんが最初に連絡を寄こしてきたのは予想外だったけど。


「静かなのが気になる」


朝食を食べ終えて、制服に着替えるまで一切スマホが鳴らない。もしかしたらまだ起きておらず、報道を見ていないのかもしれない。知らないままで済んでくれないかな。俺の平穏の為に。絶対にそんなことにならないのは分かっているが希望位は持ちたいのだ。


「今は忘れておこう。そろそろ出かけないといけないからな」


何というか行動の一つ一つが女性として慣れている自覚が出始めてしまった。シャワーを浴びて自分の裸体を見るのも、髪を乾かすのも、洗濯で下着を見ても何も感じない。最初は恥ずかしかったはずなのに。


「そのうち、男性であったことも忘れそうだな」


半年以上経過した時点でこれであれば学園を卒業する頃には女性としての自分を受け入れているかもしれない。それは総司であった自分を見失うかもしれないので嫌なのだが、勇実達との付き合いが続く限り、総司としての自分は無くならないか。


「心配する必要はなかったか」


琴音と総司。二つの側面を持っているが、どちらかを捨てるという選択肢を俺は持っていないし、その可能性は否定したい。これまで歩んできた歴史も、これから歩む未来も残したいのだ。それが我儘であろうとも考えを変えようとは思っていない。


「やっぱりこの時間だと生徒は誰もいないな」


いつも歩く通学路を歩いているのだが生徒の姿は見当たらない。それも当然か。朝の時間帯から随分と遅いからな。指定された時間は朝ではなく、かなり中途半端な時間。学園長だって朝は自分の仕事があるから仕方ない。


「見つかれば絶対に何かしらの噂になるか。当たりだけど」


修学旅行に行っているはずの俺が学園へ歩いている姿を見られたら何かしらやらかして、強制送還されたのだと察するよな。俺だって同じ考えを持つから。どうせ学園に到着すれば誰かしらに見られるのだ。そして十二本家の連中とは遭遇したくないな。


「さて学園までもう少しだから隠密行動開始だな」


だったら見つからない様に行動すればいい。おじさんや瑠々のような気配遮断めいた謎技術を俺は持っていない。あくまでも人の目に映らないように行動するだけ。これが意外と難しい。絶対に何処かしこに人の目はあるから。


「無事かどうかは分からないけど、目的地に到着と。随分と久しぶりな気がする」


実際に学園長室へ訪れるのは社交界へ戻る羽目になった時以来か。気軽に来れるような場所ではないのだが、俺は何度足を運んだのだろう。回数を見れば、明らかに学園長とただならぬ関係があるように思えるのだが否定できない。


「この度は騒ぎを大きくしてしまいまして申し訳ありません」


「その前にノックをする気はないのか?」


今更のような気がする。学園長として相手をするというより、同じ十二本家を相手にしている気持ちでいるからな。恋愛相談を持ち掛けられて以来、学園長しての威厳は俺の中から消え去っている。


「現状はどのような感じでしょうか?」


「報道関係から取材の話がやってきている。その処理で朝から忙しいな」


「受けるつもりですか?」


「まさか。生徒個人が勝手にやらかしたことを馬鹿正直に説明できるはずがない」


その通りだな。学園が主体となって今回のイベントに協力したというのなら話は分かる。だけど生徒個人が勝手に話を進めて、学園へは事後承諾の様な形で許可を得たのだ。学園に対する問題が浮上してしまう。


「君がこんな事態を引き起こすなど想像もしていなかったぞ」


「基本的に大人しく過ごしていましたから。私が主体となった場合、どのような事態が引き起こされるのかこれで分かりましたよね?」


「正直なところ、君を侮っていた。どんな交友関係を持っているのだ」


「私にも秘密くらいあります。それでは説明を行いましょうか」


「何故君が主導権を握る」


さっさと終わらせたいからだよ。下手にここで時間を掛けてしまうと厄介な連中が包囲を固めてくるかもしれない。一応は隠れてやってきたつもりなのだが、あいつ等には謎の情報網があるからな。油断は出来ない。


「これが今回の顛末となります」


「他の連中も大概だが、君も同じだとは」


退院した後の経緯を説明したのだが呆れられてしまった。他の十二本家も問題行動は多かっただろうが、俺のこれだって酷いものだ。しかも規模としたら前代未聞だろう。誰がテーマパーク相手に交渉する馬鹿がいる。


「それで裁定は?」


「一週間の奉仕活動だろうな」


「その程度ですか?」


あまりにも軽すぎる処罰に聞き返してしまった。やらかした度合いで言えば最低でも停学。下手したら退学と言われても不思議じゃなかったのに。成功したから良かったものの、失敗した場合の責任は学園側にも発生するから。


「大々的に君を処罰できない。そんなことを公表してみろ。君がアンノーンであることが疑われてしまう」


その可能性もあるか。アンノーンが学生である可能性を持っている限り、俺を停学などにしてしまった場合、秘密が漏れる可能性を秘めている。もしかしたらシェリーが外部から連れてきた人物かもしれないが、可能性としては半々といったところか。


「それに奇跡的に成功してしまったのだから何故そのような人物を処罰したのかと言われかねない」


「成功しても失敗しても学園としては辛い所ですね」


「主犯が何を言っている」


俺が言えることじゃないな。やってしまったことを後悔はしない。責任位は持つが、回避できるものはとことん避けてやる。ただし俺の歌声を知っている連中には正体がばれている。唯さんがその証拠だな。


「それでは説明も終わったので私は失礼させてもらいます」


「待て。まだ話は終わっていない」


さっさと退散しようとしたのだが、やっぱり簡単には逃がしてくれないか。外にも敵はいるのだが、一番の問題は目の前の人だ。この人にとっては今の話よりも後の話の方が重要だろう。


「クリスマス企画ですか? 諦めたほうがいいと思いますよ」


「君は約束したはずだが」


「時期的に予約を取るのも難しい状態ですと手の出しようがありません」


一か月以上前から計画を練ったり、予約を開始したりするのならば話は分かる。だけどそれ未満だと計画を立てたところで狙った場所の予約が取れる可能性は低い。告白するのであればやっぱり雰囲気が大事だろう。


「候補は絞ったのですか?」


「いや。私はそういったことに疎いのでな」


「やっと自覚しましたか。それをもっと早く知ることが出来れば私の協力なんて必要なかったのですが」


恋愛方面にマイナスな感性を持っているからこそ話が進まないのだ。一々俺の確認を必要とするのはどうなんだよ。だけど今回ばかりは誰かに相談するのは仕方ない。学園長にとって大一番なのだから。


「ですが場所は本当にどうするつもりですか。私が勧めたところで取れなかったらどうにもなりませんよ」


「致し方ない。他の方面に頼むしかないだろう」


俺以外にも協力してくれる人がいるということか。だったら俺なんて必要ないと思うのだが。それに俺がお勧めする所だってネットで探して告白に向いている場所を探す程度。経験がないのだから仕方ない。


「何故か不安を覚えるのですが、頼む人は誰ですか?」


「近藤君くらいしか思いつかないな」


無理だろ。場所を選ぶ点で言えば、俺と大差ないと思うし。どうやって予約が殺到する場所を抑えることが出来る。やっぱり協力者の不足が目に見える。となればやれることと言えば、俺が知る人物に協力を求めるしかないか。


「学園長。以前にお会いしたお姉さんに協力を求めてください。あの人なら何とかしてくれると思います」


主に強権の方面で。それに既婚者ならば俺よりももっといいアドバイスをくれるかもしれないだろ。そう思ったのに何故か学園長が渋い顔をしている。仲が悪いのだろうか。以前見た限りではそんな風には見えなかったのに。


「それも一つの手なのだが。いいのか?」


「選択肢があるのに使わないのは愚策です」


「分かった。連絡を取ってみよう」


その間に俺は珈琲をお替りしよう。秘書の人とかいてもいいのに、学園長はそういった人を雇わないんだよな。おかげで何かするのも自分でやらないといけない。楽をしようと思っている訳じゃないぞ。


「如月。代わってくれと頼まれたのだが」


「私がですか?」


すでにお役目御免だと思っていたのに。勝手に家族で話が進めば俺としても負担が減る。後は当日が気になる程度だが、佐伯先生の反応を考えると破談になる確率は低そうだし。後は何か問題点があるだろうか。


「代わりました。如月です。私にご用件とは何でしょうか?」


「当日の監視役をお願いね」


「はい?」


どうやら厄介なことに巻き込まれるようだ。因果応報ともいう。

平成の終わりだからという理由だけで投稿しました。

令和の最初にも投稿したいのですが、そちらは間に合うかどうか分かりません。

感想については順次応対します。

令和となりましても、どうか宜しくお願い致します。

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